呆れた品川は、なぜか売店へと向かった。病衣を着た患者であふれている。
適当にパンを取り、太ったレジのおばさんに語りかける。
「おねえさん」
「ふが!おねえさんやって。ブヒブヒ」
「全館放送する部屋ってどこかな?」
「ひひ。ええ男やねえ・・・」
「つれてってくれますか?」
「2人きりでかい?ひひひ!」
おばさんはレジをもう1人に任せ、放送室へと歩いた。
「カギ、もらってきたで!」
「どうもすみません。さすが公務員ですね」
ガチャガチャ。と開ける四畳半の部屋。畳は時代を物語る。昭和同然の内装だった。
時代遅れの大きなマイク。
おばさんは出て行かず、中から入口を閉めた。
「へへへ・・・」2重ロックまでする。
「?」
「へへへ・・・」おばさんは、後ろからシナジーに抱きついた。はずみでスイッチが入った。
「わわっ!」股間をつかまれた。
「おうこれ!さすが若いわ!」
耳を澄ますと、外・中の音がエコーしている。
廊下をはじめ全館に、彼らの声が響き渡った。
<さわるだけ!さわるだけやええやろ!>
<何をするんだ!>
<そんなの。ナニに決まってるだろうに!>
<どけ!>
<ぎゃあ!>
シナジーはボタンを押しまくり、学生棟までの広範囲放送へと切り替えた。
救急車のサイレンがいよいよ大きくなってきた。
その救急車の群、中間をトレーラーが突っ走る。運転手の藤堂は隠しカメラの画面を確認。
新玄関の前は、シーンとしているもよう。
「こちら側の脅しが効き過ぎたか。どうやら、大学は心の準備止まりだな」
「ああ」助手席、マーブルもにやけていた。
「株。どうだ」
「上昇傾向。うひうひだ」
「そうか・・・」幸福を背負った顔。
「隊長。娘を暴走させるなよ。あれで俺たち株主の信用が落ちたら困るからな」
藤堂は天井からマイクを下げ、足津に報告。
「足津理事。やはり大学は準備してないようです」
「・・・・・」
「今回は患者数は少ないですが。ま、この数でもいけるでしょう」
「到着後、改めて連絡を」
「イエッサー!」
藤堂ははしゃぐように鼓動が鳴りだした。
学生棟、アナウンスが鳴りっぱなし。おかげで授業は中断。
「・・・・・大学病院の、全スタッフ!全スタッフに告げます!緊急事態!」
登校中の学生らが足を止めた。
「た、ただいまだ、大学学長からの連絡で。大至急、病院玄関前に集合されたし!」
「何をするんだ?」学生らが空を見上げた。「あの響くサイレンは、何・・?」
<救急隊のデモ訓練など!特別講義!学長からの指示です!(小声)何言ってんだ・・・>
医局でちょうど着替えをしている医員、実習の学生たち。
「学長から・・・?何かのデモかな?」
<大至急!大至急!来なかったものは!>
学生らは特に耳を澄ました。
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