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2009年7月2日 連載
<単位を認めない!>

入ってきた警備老人2人に、おばさんと彼は取り押さえられた。
「いててて!ちっとは加減を!」

黒い6両コンテナトレーラー、それに救急車が多数続く。
運転手の藤堂は、無線を天井からまた下げた。

「・・・・間もなく、正面玄関に入りまーす!」

手前の交差点で信号待ち。病院、正面玄関が見える。駐車場に外来予約の車だかり。

「警告にもかかわらず、正面駐車場が車で満杯状態。どうぞ」
<こちら足津。株主の同意一致により、駐車場の車はそのまま蹴散らしてくださって結構。弁護士が対処します>

「了解。クラクション鳴らしつつ、時速10kmでシンコーします!ようそろう!」

コンテナの中、白衣のゴリラ、マーブル医師が点検中。

「バイタルよし!搬送開始時と著変なし!」
マーブルはカーブで、ベッドにもたれかかった。

「っと・・・ホーントにごめんなぁ。みんな!」

治療はきちんとしてきたつもりだ。それで罪の意識から逃れようとした。

「せんせ!せんせ!ヒー!」
「あ?なんだ?」2段ベッドの上段を見上げた。
「そしたらあっし、ユウキ先生らに会えるんで?」
「ああ!会えるとも会えるとも!また真田に戻れるぞ!」
「解放や!やったぁ!」

マーブルは少し戸惑った。

「別に、あんたらを拉致したわけじゃない。あんたを運んだ救急車の縁で、たまたまうちが一時的に預かっただけだ!」

苦しい説明だった。マーブルはまたカーブに揺られ、フラフラしながら運転・助手席の間に入った。

「藤堂さん。あの危ない娘はホントにいないんだろうな?」
「さぁ、何を考えているのか・・・」

藤堂はギヤを握った。
「蹴飛ばす!」

前面、2台の軽自動車が両側に吹き飛んだ。ホイール、窓ガラスが空中に分解した。
マーブルは度肝を抜かれた。
「飛んでるよ・・・!」

「どけどけ!どけい!」
藤堂は興奮し、ハンドルを意味もなく小刻みに動かしていた。

今度はセダンが何度も前面でバウンド。スキップしながら道を開けた。
繊細なガラスが飛散していく。水撒きのように周囲が輝いた。

「おらおらおら!へたれが!誰もおれを止められんのかぁ!」

正面玄関、誰も出てこない。

ノナキーは滑り台前で、1歩踏み出せずにいた。
「ああああ・・・あああ」
長椅子に座ったまま。

テーブルの画面が映る。シナジーの落ち着いた表情。

「品川さん!どうしたら!」
「降りてください!」
「あああ!足が震えて!それに俺1人じゃ!」
「・・・あなたがどういう人間か、分かったような気がします」
「仕方ないだろう?俺にそんな力があるわけない!」
「でしょうね。だがプライドまでは捨てられませんか」
「・・・」

すると正面玄関の奥・・いや、その建物の両側から取り囲むように歓声が聞こえてきた。

うわぁあああああ!と、津波のように溢れてきたのは・・・

トレーラー助手席、マーブルは眼をみはった。

「なんだ!あの人数は!」

「(一同)うわあああああああ!」
狂ったように押し掛けてくる白衣集団だった。

マーブルにどっと汗が流れた。

「だ。大学にこれだけのスタッフが?」
「やはり準備できてたのか!」
「予想と違うじゃねえか!」

藤堂は建物の直前でUターンし、停車した。コンテナが蛇のようにうねり、最後尾が倒れそうになりかけた。

藤堂は無線を取った。
「あ、足津さん!予想を反する人数です!これでは話が!」
マーブルは画面に見入った。

「株主の問い合わせ多数!どど、どうします!これじゃ圧倒できません!」

足津は初めて予想外の現場に出くわした。

「これでは勝ち目がありません。引上げを」
「か、患者をせっかく連れてきてますから。てて、転院させましょう!」と画面からマーブル。
「あなたは発言しないでください」
「うぐ!」

藤堂は、表情をまっすぐにした。
「・・・・・・・」

どどどど・・!と白衣集団が奥から奥から沸いてくる。

「くそ!了解!我が生涯で、最大の無念なり!」

 喘息の患者はなんとなく様子が分かり、涙目になった。
マーブルが駆け寄る。

「すまんな。またの機会になる。だが俺のせいではないんだからな」
「・・・・・・」

トレーラーはそのまま弧を描き、帰還の体制に入った。

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