薄暗い地下の駐車場。車を降りて、シローはやっと目隠しを取られた。
「ふぅ・・・怖かった」
「すみません」すまなさそうに謝る運転手。
シローは1人でエレベーターから最上階の7階へ。ビルなんだろうが、外を見れる窓がない。
チン、と開くと真っ直ぐな廊下。
「し、シローです。入ります!」
「どうぞ」秘書の声で入る。
背もたれのまま向こうを向いている足津。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「ではさっそく、本題に入ります。契約はこれでよろしいでしょうか?」
<週休1日、当直は週1回、ノルマ達成により給料変動あり。基本給は・・・>
「(さ、真田の2倍・・・!い、いや。それが一番ではない。でもこれだとローンも返せて、ワイフのお布施も払えて、子供の面倒も大丈夫だ・・・)」
シローの頭が次第に真っ白になっていく。どんな苦労でもお釣りが来そうな気がする。
「仕方がない。仕方がないんだ・・・!」
足津は頷いた。
「いいですね?ではサインを。どうも。これでシロー先生は彼と同様、ここの正職員となります」
「彼?」
シローの前、ゴリラが礼をした。
「マーブ・・・槇原先生!」
「シロー先生!いらっしゃ~い!」
マーブルはハイだった。再度の出動に意気込みをかけていた。
病棟と事務が一体化したと思われるこのビル。ホントに不思議と窓がない。その代り室内照明は鮮やかで、ずっと昼間のようだ。
各部署を案内されながら、シローは問いかけた。
「自分は、ここで普通に診療をさせてもらえばいいんですね?」
「往診業務の人手が欲しいんだ」
「いいですよ」
マーブルは数歩後ろで立ち止まった。
「シローは株主にならんのか?」
「え?」
「医者の給料もらって、そのままの人生でいいか?」
「株はちょっと・・・」
「仕事もしてリスクも冒し、しかしそれ以上の達成を味わう。それが人生の醍醐味だと俺は思ってる」
「僕の人生の目標は・・家族といることだけです」
「ぷっ!はは・・・笑わすなよ。今のグッド」小さく親指を立てる。
足津は事務室で、携帯で電話した。
「我がファンド関連会社の株が下がってきておりますので。株主に一斉連絡を。近いうちの出動の意思をお伝え願いたい」
もう1回、別のところへ電話。
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