当然、真田病院には患者が溢れだした。休養中のスタッフはみな呼ばれたが、事情を聞いて喜び勇んだ。
「はいはいどうぞ!こちらへ!」「3番の方ー!」「入院希望2名ー!」「搬送、入ります!」
救急車も続々と、到着。救急はもうここ3日真田だけが受けている。
滑り台の上、大平と女医が並ぶ。
「大平!救急搬送診ます!」
「同じく!」と女医。
ズドーン!と2人同時に滑走。横でユウが傾いた。
「夫婦で医局は、肩身が狭いんだよ!ユウ2台目!搬送待ち!」
上目遣い、クリニックに出入りする役人・段ボール箱。
「何をしたかは知らんが・・・終わったようだな!松田!」
ズドーン!と寂しく滑走開始。
後ろ、田中が立っている。
「患者さんが・・患者さんたちが戻ってくれた!」
松田は呆然とし、クリニックの前の7段階段をゆっくりと降りた。
「・・・・・・・なぁ。なぁ」
建物は答えない。
「・・・なぁ。よしとくれよ。情けはないのかよ。なぁ。わっ」
よろめき、左腕をもろに転倒した。ローレックスの時計が鋭く裂けた。赤い血も出た。
「くぅ・・・!」
正面、真田病院の駐車場では白衣が複数人、走っては救急診療に向かう。その処置も落ち着いたようだ。みな、散開している。
大平は駆け足で、駐車場いっぱいまで出た。
「あれ・・・あれは!」
「え?」女医が追いついた。
「向かいの院長だ!自殺か?」
「じ、事務を呼びます!」
「頼む!」
女医は携帯をかけつつ、走って行った。
大平は見つめた。
「死のなよ・・院長!」
松田は激しい眩暈をもよおしていた。
往来の激しい道路を見ていると、チワワが安全地帯にいる。こっちを・・撮影している。
「テメェ・・・テメェ!」
ダッシュしようとはするが、おびただしいクラクションの嵐にあう。
「てえっ!ボケ!ボケが!」
赤信号になり、一瞬車が途絶えてきた。松田は走った。
「この野郎!俺を見てるか!お前らのせいで!」
ポケットのディバイダーの針を、ピキンと空に向けた。
「せめて、お前だけでも殺したる!」
そのとき、フッと何かが飛んできて松田の背中に当たった。
「たっ・・・。注射針?う・・・」
背中に手をやり、そう感じた。
「・・・・・・」
間もなく眠くなり、彼はそのまま交差点の真ん中で崩れ落ちた。
青信号で飛び出した車たちは、そのまま容赦なく突っ込んでいった。
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