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2009年7月6日 連載
 
当然、真田病院には患者が溢れだした。休養中のスタッフはみな呼ばれたが、事情を聞いて喜び勇んだ。

「はいはいどうぞ!こちらへ!」「3番の方ー!」「入院希望2名ー!」「搬送、入ります!」
 救急車も続々と、到着。救急はもうここ3日真田だけが受けている。

 滑り台の上、大平と女医が並ぶ。

「大平!救急搬送診ます!」
「同じく!」と女医。

 ズドーン!と2人同時に滑走。横でユウが傾いた。

「夫婦で医局は、肩身が狭いんだよ!ユウ2台目!搬送待ち!」

 上目遣い、クリニックに出入りする役人・段ボール箱。

「何をしたかは知らんが・・・終わったようだな!松田!」

 ズドーン!と寂しく滑走開始。

 後ろ、田中が立っている。

「患者さんが・・患者さんたちが戻ってくれた!」



 松田は呆然とし、クリニックの前の7段階段をゆっくりと降りた。
「・・・・・・・なぁ。なぁ」

 建物は答えない。
「・・・なぁ。よしとくれよ。情けはないのかよ。なぁ。わっ」

 よろめき、左腕をもろに転倒した。ローレックスの時計が鋭く裂けた。赤い血も出た。
「くぅ・・・!」

 正面、真田病院の駐車場では白衣が複数人、走っては救急診療に向かう。その処置も落ち着いたようだ。みな、散開している。

 大平は駆け足で、駐車場いっぱいまで出た。

「あれ・・・あれは!」
「え?」女医が追いついた。
「向かいの院長だ!自殺か?」
「じ、事務を呼びます!」
「頼む!」

女医は携帯をかけつつ、走って行った。

大平は見つめた。
「死のなよ・・院長!」

松田は激しい眩暈をもよおしていた。

 往来の激しい道路を見ていると、チワワが安全地帯にいる。こっちを・・撮影している。
「テメェ・・・テメェ!」

 ダッシュしようとはするが、おびただしいクラクションの嵐にあう。
「てえっ!ボケ!ボケが!」

赤信号になり、一瞬車が途絶えてきた。松田は走った。
「この野郎!俺を見てるか!お前らのせいで!」

ポケットのディバイダーの針を、ピキンと空に向けた。
「せめて、お前だけでも殺したる!」

そのとき、フッと何かが飛んできて松田の背中に当たった。

「たっ・・・。注射針?う・・・」
背中に手をやり、そう感じた。

「・・・・・・」

 間もなく眠くなり、彼はそのまま交差点の真ん中で崩れ落ちた。
青信号で飛び出した車たちは、そのまま容赦なく突っ込んでいった。


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