やっと開いたエレベーターの扉。ボタンを押して入ってきた末端が驚いた。
「あ!先生方!もも、申し訳・・」
「いや、いい」
マーブルはシローを引き連れ、外へ。蒸気で視界がぼやける。黒いトレーラーが横向けに震えている。排気ガスがブオンブオン、と退屈そうに噴き出す。彼らはそれをよけながら、最前列車両へ。
「シロー!松田のようにはなりたくないだろう?」
「松田先生・・・槇原先生。松田先生を一体誰が」
マーブルは押し黙り、タイヤをよじ登って助手席を開けた。
「俺じゃねえよ!」
「・・・・・・・」
シローも乗り込んだ。運転席には隊長が・・まだ来てない。向こうの怒号がそのようだ。最終の点検にかかってる。
後ろからかがんで来た藤堂ナースに、助手席は占領された。マーブルはケツを叩いた。
「よっ!女王様!」
「たっ・・・!ひょっとして死ぬ?」
いきなり腰から取り出したパッドの赤外線が、マーブルの額に浮かんだ。
「冗談冗談!」
「・・・・・」
「冗談だって!おい!」
しかし、彼女の表情がだんだん険しくなる。マーブルはいつものノリでないと悟った。
「やめ・・・やめてくれ。すまん。たのむ」
フッ、と赤い点が消えた。マーブルは数秒うつむいていたが顔を上げた。
「ぼ、ぼやっとするなシロー!2両目以降の、患者の状態確認といくぞ!」
マーブルはノート型の電子ノート板を2つ取り出し、1つをシローに渡した。
「患者の状態はここにな。ペンで入力」
「さっき、説明を受けました」
「ネットで繋がってるから。足津さんも見てる」
「はい・・・診てれば・・いんですよね。なら・・」
マーブルはいきなり胸ぐらをつかんだ。
「仕事は!選ぶな!」
「ひっ!」
シローは患者状態を確認に回った。マーブルは助手席の藤堂ナースの後姿を見ていた。
「大学病院の学長が調印したら、新玄関は俺のものな!」
「あっそ」
「人事権も与えてくれるんだよ!」
「はいよ」
藤堂の娘には、欲はまるで眼中になかった。
運転席、やっと隊長が乗り込んできた。
「あーっ。ペッ!」タンを吐く。
ドアが閉まる。
「制裁か・・・わしはそんなつもりじゃ、なかったんだがな」
「・・・・・」娘は無言。
「あの女医が、あそこまでなるとは計算外だったんだ」
「・・・・・」
「大学のスタッフが当分助けにこないなんて、わしは思ってもみなかった」
「・・・・・」
「そういう根性がないと、医者になれんらしいな・・・そういうもんか」
「・・・・・」
「おかげで、決心がついた!」
ライトがつけられ、明るい霧の向こうに筋が2つ差し込んだ。
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