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2009年7月8日 連載

 やっと開いたエレベーターの扉。ボタンを押して入ってきた末端が驚いた。
「あ!先生方!もも、申し訳・・」

「いや、いい」
 マーブルはシローを引き連れ、外へ。蒸気で視界がぼやける。黒いトレーラーが横向けに震えている。排気ガスがブオンブオン、と退屈そうに噴き出す。彼らはそれをよけながら、最前列車両へ。

「シロー!松田のようにはなりたくないだろう?」
「松田先生・・・槇原先生。松田先生を一体誰が」

マーブルは押し黙り、タイヤをよじ登って助手席を開けた。

「俺じゃねえよ!」

「・・・・・・・」
 シローも乗り込んだ。運転席には隊長が・・まだ来てない。向こうの怒号がそのようだ。最終の点検にかかってる。

 後ろからかがんで来た藤堂ナースに、助手席は占領された。マーブルはケツを叩いた。

「よっ!女王様!」
「たっ・・・!ひょっとして死ぬ?」

 いきなり腰から取り出したパッドの赤外線が、マーブルの額に浮かんだ。

「冗談冗談!」
「・・・・・」
「冗談だって!おい!」

しかし、彼女の表情がだんだん険しくなる。マーブルはいつものノリでないと悟った。

「やめ・・・やめてくれ。すまん。たのむ」

 フッ、と赤い点が消えた。マーブルは数秒うつむいていたが顔を上げた。

「ぼ、ぼやっとするなシロー!2両目以降の、患者の状態確認といくぞ!」

 マーブルはノート型の電子ノート板を2つ取り出し、1つをシローに渡した。
「患者の状態はここにな。ペンで入力」
「さっき、説明を受けました」
「ネットで繋がってるから。足津さんも見てる」
「はい・・・診てれば・・いんですよね。なら・・」

 マーブルはいきなり胸ぐらをつかんだ。

「仕事は!選ぶな!」
「ひっ!」

 シローは患者状態を確認に回った。マーブルは助手席の藤堂ナースの後姿を見ていた。

「大学病院の学長が調印したら、新玄関は俺のものな!」
「あっそ」
「人事権も与えてくれるんだよ!」
「はいよ」

藤堂の娘には、欲はまるで眼中になかった。

運転席、やっと隊長が乗り込んできた。

「あーっ。ペッ!」タンを吐く。
ドアが閉まる。

「制裁か・・・わしはそんなつもりじゃ、なかったんだがな」
「・・・・・」娘は無言。
「あの女医が、あそこまでなるとは計算外だったんだ」
「・・・・・」
「大学のスタッフが当分助けにこないなんて、わしは思ってもみなかった」
「・・・・・」
「そういう根性がないと、医者になれんらしいな・・・そういうもんか」
「・・・・・」
「おかげで、決心がついた!」

 ライトがつけられ、明るい霧の向こうに筋が2つ差し込んだ。







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