そのころ、大学病院では・・・
新玄関前。
警察の捜索は、いつもの大阪らしく何も見いだせず撤退。島を背後から襲った<注射針事件>も未解決のまま。
その新玄関前、長いが幅の十分な道路が数十メートルあり・・・そこから前面に解放された大駐車場。患者用の駐車場も修復が完了し、ガードマンが数人ほど配置されることになった。
その駐車場の外側面で、シナジーは段ボール箱をあちこちに蹴っていた。
「なにが大学祭ですか!こんなもの!」
「やめてください!」実行委員ら学生が止めに入る。
「彼らがもし今日来たら、どうするんです?」
「僕らだって、手伝いますから!とにかくやめて!」
駐車場の周辺、大学祭に向けた準備が進行し、障害物が目立っている。シナジーは、空いている駐車場とはいえ学生らが利用しているのが気に入らなかった。
「何なんですか!この線路は!あ。でも待てよ・・・」
病院見学ツアーのための、トロッコ線路だ。
「これは・・貨物列車か何かですか?」
近くの学祭委員が答えた。
「いえ。これはレールの上を3両の段ボール製トロッコが滑走するものです」
「各部署との、行き気に使えるかな・・・」
「はあ。地図はあれですが」
「・・・・・」
近くの掲示板、大学病院の地図。
「病棟の一部や、輸血部などの棟と行き気ができる」
「あの、学長を通していただかないと」学生は興奮しかけたが、すぐにおさまった。
握られた手を開くと、シワシワの万札が数枚。いや10枚近くはある。
「これは・・」
「とっといてください」シナジーは知らんふりした。
「はあ・・・まあ。でで、でも学祭は今日からなんで・・・」
「もしもの時、にですよ。あなた何年生?」
「4年」
シナジーは一瞬、近づいた。
「就職のときは、コネ差し上げますから」
「おお、お願いします」
シナジーは、白い巨塔を振り返った。
大学の士気は、相変わらず低下していた。新たに結成された胸部・消化器グループも今の時点では全くまとまりがない。というより、スタッフは皆自分自身のことで精いっぱいだった。
朝から夕方まで仕事が終わって、それで当たり前。予測不可能な事態に備えても、毎日それに時間を割く余裕はない。
まるでこの国の縮図のようだ。末端は末端だけに、余裕がない。その容量に仮想メモリはない。
会議の緊張感があったとしても、何日もたつとそれらは忘れられていく。
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