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2009年7月9日 連載
オレンジ色のジュースを飲み干し、シナジーは今さら気づいた。

「おえっ!これ検尿コップじゃないですか!」
「ですね」と桜田。
「あなたたち、慣れてるんですね・・・」

大平はシナジーに向かって言った。
「あなた、そんなことも知らないんですか?」
「へへ」

不思議と、大平の声が不気味なような・・・。

足津はいろいろと説明してきた。

「大学のスタッフの皆さんに、私から特典です。あくまでも、真珠会にアルバイト経験をするという前提ですが・・1回の外来業務でもかまいません」

 どうやら、何か便乗するような話だ。シナジーは興味がなく、コップを床に置いた。
「も、救急も何も来ないと分かったら、もうこんなところにいる必要もないですね」

 後ろの観客を気にせず、間をぬっていく。大平、桜田も続く。時々知り合いなのか、「大平さん!」「オーヒラ!」など囁き声が聞かれる。適当に手を振る。

誰かが広げている新聞紙に、クリニックの閉鎖が書かれてある。

「シロー先生。誤った選択を・・・」シナジーは眼を一瞬だが閉じた。

ステージの足津は時計をちらっと確認。
「・・・つまり当院に登録された方は、今後アルバイトを優先的に回します。好きな時を選んでアルバイトができるわけです」

「(一同)うおおおお!」

 興味のない学生らは、戻っていく。大学祭を潰され、テンションが低めのようだ。
 
 みなに配られたアンケート用紙のようなものに、医療スタッフは次々と書き込んだ。
 氏名、電話番号、あるいはクレジットカード番号まで・・・

 藤堂ナースらが、次々と回収していく。空が雲に隠れたせいで一瞬暗くなり、みな反射的に帰る準備にとりかかろうとした。妙な連帯感が生まれていた。何かいいことがありそうな。誰にでも優しくできそうな・・・。

 シナジーは体育館の外でスリッパをダンボールに戻し、靴を履いた。

「あ、やっとメール来ました」
「ユウか?」大平がのぞきこんだ。
「渋滞につかまってたようで」
「何やってんだ・・・」
「もうちょっとで着くと」

シナジーはメールを打ち始めた。
<もう、来なくていいです>

送信。

「うわ~。ムンムンする暑さだわ・・・」桜田は上のボタンをはずそうとしたが、とっくに外されていた白衣だった

「きゃ!いやっ!」

思わず腕でガードし、シナジーの視線が疑われた。

「は・・・?」

 いつもの真田スタッフの雰囲気に戻りつつある。


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