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2009年7月9日 連載
 <こちら足津>

いきなり全館放送だ。

<皆さんの個人情報をせっかく頂いたのですが、あいにく当ファンドの都合により、病院分割・連携の話は白紙に戻させていただきます>

「なんですと?」新玄関前、シナジーは青ざめた。

<これより、患者さまの急速転院を行います>

雰囲気的にヤバいと思った群衆が、病院側へと逃げ始めた。
一部は、声を張り上げている。
「個人情報を、どうする気だー!」

声は届かず。

「あああ!きますよ!」シナジーは地面に伏せた。
「来るって!何が!」ノナキーは知っていながら答えを求めた。

トレーラーの6両コンテナの左側、ガシュ、切り離されたような音。何十ものカタパルトが開いた。それらは1つずつ地面へと近づき・・・

「あれですよ!またあれだ!」シナジーが狼狽した。
「あれって何です!あれって!だから!」ノナキーもこだわった。

 スタン・・・とベッドが1つ降り立った。ドライアイスのような煙で不明瞭。エンジン音もなくそれは炎天下の中・・・

「近づいてきたぞー!」誰かが怒鳴った。

ノナキーはゆっくり歩み寄った。
「あれは・・・」
ベッドと患者だった。
「ベッドだ。やっぱりそうなのか!誰も押してないのに、こっちへ来る!」

予想より速度が速く、つかもうとしたノナキーの手をすり抜けた。
「あっ!」

 ベッドはスキーのように滑走、集会帰りの人ごみの中へ。軽くぶつかり停止した。みな、珍しそうにのぞきこむ。

「のぞくな!急いでバイタルを!どんな患者様かもわからん!」ノナキーが叫んだ。やっと我に戻るスタッフら。

 引き続き、ドシュドシュとベッドが放出されていくのが見てとれる。
シナジーはパニックにならぬよう冷静でいようとはした。

「ちょっと白衣の奴!じゃない方々!まずはベッド受け止め!処置車用意!病棟への連絡も!・・でも全部、僕の仕事か」

 近くの上層スタッフ数人は反応した。だが胸部・腹部医局の人間のみで、その他は後ずさりか自然消滅に徹した。

 進み出た3人が、とりあえずベッドを足で受け止める。しかし道具もなく、なすすべがない。シナジーは重症でないか確認。ついでベッドを見回した。

「推進装置らしきものもない。なのに独りでに。どういうことだ?」

引き続き、シナジーは叫んだ。

「処置に要する道具は、私が手配します!あ!そうだ!」
「何か!」ノナキーは脈など確認中。
「確か、近くに<健診体験コーナー>が!」
「学祭の?」
「ええ!」
「行きます!」

シナジーは適当な自転車に飛び乗った。

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