第一陣テント20床分は、瞬く間に満床となった。
第二陣テントが後方に設置されたが、人手が乏しい。ここにつくはずの講師陣らは、いまだ学生らの手当てに時間をとられている。
そしてとうとう、ベッドは2陣へと運ばれていくことになった。
島があちこち、車椅子でノナキーを探す。
「医局長!医局長!どうしたらいいんですかー!」
見回すと、正面入り口の近くにシナジーが寝かせている。
「品川事務長!きさま何をしたんだ!」
「ベッドがぶつかって・・・」
「報告しようと思ったんだが。関連病院から雀の涙ほどの救援が来るってよ!」
「そうですか!それにしては、まだみえませんね!」
「ほれ。そこ」
見上げると、滑り台の向こうから3人、また2人と・・・悠々と滑ってくる白衣たち。
手前のマットに、ぎこちなく着地。
「うわ~・・・もう疲れたわ。わし・・・」OBのような医者。
「おいおい・・・」シナジーは汗が出た。
「おれ、救急わからんよ~?」頼りなげなOB。
何とも頼りない医者らが来たもんだ。
「雀のフンにもならんかもね・・・」
そのとき、バイクがいきなり轟音をとどろかせた。
誰かと格闘しているのか。もう昼を超えている。
暑さが本格的になりだした。この病院だけでも、ベールで包めないか。でももっと熱いか。
タンカが運ばれてきた。乗っているのは・・白衣だ。
「熱中症だ!どけどけ!」
苦悶様の表情で、白衣の上部ボタンも取れている、中堅どころ医師。
「やれる。やれるって・・・」手だけのびる。
「(その他数人)やめとけ!休んどけって!」
正面玄関に入り、そこのエレベーターで。また静かになる。
近くの滑り台スロープ、次々と単発の医者が滑ってはやってくる。
シナジーは、ややうめき始めたノナキーの脈を触った。
「それにしても、まとまりが、ない・・・!」
たどり着いた医者らはほとんどが単独プレーで、各テントを適当に巡回している。各人がマイペースでも、ベッドはどんどん余っていく。
ノナキーは、ゆっくり上半身を壁にもたれさせた。
「うう・・・・・こ、こんなのが・・・」
尻に手をやると、注射針が。
シナジーは驚いた。
「刺さってたんですか?いつの間に・・・」
「これが刺さって、倒れたんだと思う・・・」
ノナキーは目を思いっきり見開いたつもりだが、視界が依然としてぼやける。
「スタッフは、スタッフの指揮は・・・」
<指揮>より<士気>が問題だった。次々とたまっていく患者をまとめようとする者がいない。
いきなり発狂した者も出たようだ。そこらをスキップしている若い女医。
「あー!もー!イヤー!」
技師がデータを持参する。
「これを」
「かせ」駆け付けた大平が札を数えるように見る。見る。見る。
ノナキーが薄目で腕を伸ばす。
「もも、持ち場を仕切る人間を・・」
「医局長・・もう休め」大平はかつての威厳を取り戻しているように見えた。
ノナキーは立とうとするが、立てない。
「くっ・・・たぶん、注射針に薬か何か入ってたんだ。たぶん・・・強烈な眠気がする」
「医局長!今は安静に!」
シナジーが抱える。大平も力ずくで寝かせた。
「ユウらが来る!あいつらが、ここを仕切る!」
「大平先生。あなたがやれば・・・」シナジーが呟いた。
「ああ・・・だが」
ドスン、と両ひざをついた。彼の背中にも、注射針が刺さってる。
「えっ!いつの間に!」近くの桜田が開放した。
「くそう・・」
「きゃああ!」
周囲はもう、パニックで作業自体が混とんとしていた。
「もはや、これまでか・・・・・」シナジーは横になった。
島がやってきた。
「医局長!自転車便は、すべて全滅!倒れた学生の山です!いったい何が・・・みんな大丈夫か?」
ノナキーの尻の方から、血が出ている。青アザも、拡がる。
「まさか、痔で?」
「いや・・・針の刺さったところが」
「・・・・それにしては大量すぎます。量が。倒れてた学生らもかなり出血を」
桜田が、泣きながら止血。大平の背中も押さえている。
ノナキーは、これから先のことを考えざるをえなくなった。
「降伏すれば、スタッフも患者も助かる・・・?助かるよな・・・」
体育館でもらった、鷲津の直通電話番号を・・・1個ずつ入力する。
「チクショウ・・・ちくしょう、ちくしょう。な、なあ品川さん。日本が降伏するときも、こんなのだったのかなあ・・」
朦朧としており、妙なことが口走るのだった。
「ええ・・・・?あれは?」
シナジーが正面玄関前で立ち上がった。
キラリ、と遠くのビルの間に赤い閃光が見えた。
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