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2009年7月13日 連載


ビルの間、5車線道路の真ん中3車線、救急車が2台。ちょっと違いのあるサイレンの音でシナジーは分かった。

「彼らだ!」

 シナジーは暑さを忘れ、新玄関の前を飛び出した。真っ直ぐに走り、駐車場へ。ベッドはかなり蓄積し、スタッフらが1台ずつ適当に運んで行く始末。

 ベッドの間をかきわけ、シナジーは手を挙げた。
「おおおおい!」


 ユウの乗るドクターカーの中間部、ユウが屈んで靴ひもを結んでいた。
「もう終わったのかなあ・・・」
「電話、つながりませんね。おかしいな・・・」運転手の田中はよそ見の形で携帯を何度も押した。

「ダメだ。やっぱり・・・でも、着きましたね」
「喉が渇いたから、着いたらひとまず何か飲もう!」

背中にチューブを3本。ウエストポーチに注射・アンプルなど。
「ま、これだけあればいいだろ!」
「捕まりますよ。そんな恰好で」
「これが俺らのスタイルなんだよ!」

 これらの場面が、すでに電波で送られているその先・・・

 真珠会病院、ハッカーがパソコンを見えない速度で操作。

「バカめ。仕掛けた盗聴器に気付かないとはな!何度も同じ手に引っかかるのをバカという!」

(拍手)

 足津は冷静。ハッカーが彼の方を向いた。

「理事。渋滞は、あれくらいでよかったんですか?」
「いいですよ。これくらいが適当です」

 画面、大学構内の様子が数々のカメラで分かる。昼間だけに、人の流れがよく分かる。

「おーおー!医者どもがどんどん倒れまくって!もっと雷落としたれ!藤堂!」

 電撃で倒れた学生らが、モニターに所々映っている。搬入にかかるタンカが運ばれていくが、<患者>の数が多すぎる。

「理事。株主の反応は至って良好!このまま取引終了ってとこでしょう!」
「いや・・・」
「まさか、売却の準備なんてことは?」

足津はピッ、と指を差した。

「万が一の準備は、しておいてください」

ハッカーは画面に集中した。
「妨害電波、切ります」

とたん、ユウの電話がかかってきた。

「はい?」
<何してたんですか!>
「ああ、もう着くから。渋滞があってほんで」
<こっちはバラバラなんですよ!>
「ああ。大学はそういうとこだから」

電話を切り、大学の入口へ。煙がいくつか昇っている・・・?

「田中くん。大学祭の催しものかな?」
「大きなトラックですね~」

右側に、大きなトレーラーが横づけしてある。
ユウは窓越しに覗き込んだ。

「へえ。うちにあるやつと一緒だ。コンテナの横に大きな窓があるし」
「今、開きましたよ?」

目を凝らすと、ベッドがヒューン!と視界に飛び込んできた。ユウは叫んだ。

「こっちに当たる!避けろ!避け!」
「見えたけど!」田中はハンドルを限りなく左に回した。

ベッドはそのまま、ドクターカーの後ろをかすめた。後続のもう1台の前もかすめた感じだ。

「どこかで見た風景だ・・・」ユウは、すぐに悟った。数々のテントは催しものではなく、医師らが出入りする状況から事態を把握した。

「やばいんじゃないか!これ!」

横のドアをスライドした。
「あの速いベッド!捕まらない!」いろんな白衣が飛びつくが、そのまま壁へと向かう。どうやら、射出先を極端に誤ったようだ。

「田中!並走してくれ!」
「追いつくかな!どけどけ!」ビビる白衣らを半分轢きそうになりつつも、田中はハンドルをゲームのように回転させた。

ユウは反動でモロに物品の中に倒れた。
「ぐわっ!」
そしてまた反対側。片手でつかまった天井バーのおかげで、落ちずにすんだ。

「あー!死ぬ!俺!絶対に死ぬ!」

左側に、ベッドが進んでいる。患者だろう・・・が、手を伸ばしている。
「・・・・!」
「田中!追い越せ!」

追い越したがすぐ壁が迫り、号令なく飛び降りた。カッコイイものではなく両足がガクンと曲がり、とっさのチョップがベッド前面に当たった。

「いてええええええ!」
人生最大の痛みだった。だがベッドは角度を変えて止まった。しかし急停車だ。

「てて・・・だ、大丈夫か?だった?てて・・・」

左手が、まだジーンとうずく。

患者の肩に手をかざすと・・・・

「やあ。俺を覚えているか?」大男が、牙をむき出した。
「はあ?」
「助からないかとヒヤヒヤしたぞ!」

目の前に火花が散ったかと思うと、頭が地面でボールのようにバウンドした。舌を噛んだかのような感覚だ。

「わぺっ・・・」
「貴様~!活躍してもらっては困るんだ!」長い棒を振りかざし、豪傑のようにブンブン振りまわす。

「トシ坊のケツに突っ込んだのは、さてはお前か・・・」
「どこにお見舞いして欲しい?」
「・・・・・」

ユウは、腰の両ポケットに手を入れた。
「・・・・やあ!DCベルトだ!」
「うおおっ?」反射的に、<豪傑>はのけぞり、回った棒が頭を直撃した。

声もなく、うずくまる。
「・・・・!」
「バカヤロー!ビビんなよ!」ユウは右側を通り過ぎた。

あちらで手を振るシナジー。

「先生先生!」と呼ぶその声のもと、ユウやザッキーが走っていく。大平が桜田女医に支えられて、何とかたどり着いた。

ユウは大平の白衣の背中の血液を見た。
「おい!けっこう血が出てるぞ!」
「注射針が・・・」桜田が、さきほど抜いた針を掌で見せる。

ふつうの注射針が3本。キャップはあとでかぶせたようだ。

ノナキーが、処置台をつんだ自転車でやってきた。フラフラだ。
「ユウ!ユウ!」
涙を流している。

「俺はどうしたら・・ユウ!ユウ!」
「どしたんだ。お前ら・・・」

コキ、コキと前輪があちこち向きながら、ノナキーは片足で止まった。

「クマリンだ!ユウ!クマリンだ!」
「何言ってるんだ。お前・・・」
「クマリンが入ってたんだ!クマ!」
「熊がどうしたってんだよ!うわあっ!」

みんなの集まる円の中心部に、雷が落ちた。むろん、人工的なものだ。

ザッキーがムキになった。
「今のバイク、見ました?あの女だ!チクショー!」
「あんな奴らかまうな!」ユウは叫んだ。
「あちこち倒れてますよ?人が!」
「ベッドの患者らを、極力中へ搬入しよう!」

シナジーが拡声器を力なく渡した。

「私が叫んでも、事務員ってことでナメられるんです」
「どこを?」
「先生。お願いします!」

ユウは渡された。得意のアドリブを使えということだ。

「俺が、この混乱ぶりを・・・?」

統制なき診療が、あちこちで部分的に行われている。

「どうやって・・・?」

考える暇はなかった。

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