とにかく鼻血が止まらない。バイアルを外すととめどなく流れる血。唾液はそのまま血。
「どうなってんだこれ。ノナキー。確かワーファリンが入ってたとか言ってたな・・・」
どういう因果なんだ・・・?
エレベーターが、鈍感に動き出す。
「俺もそれを飲んだとしたら、いつ飲んだっていうんだ。待てよ。もしあいつらが飲んでて、俺が飲んだとしたら・・・?いつ?」
ますます、分からん。
チン、とエレベーターが開いた。病棟のせわしい雑踏が聞こえてきた。だが雑踏という表現で良かった。ここには・・・・この廊下には。おびただしいほどの白衣が溢れている。
どうやら、助手クラスの医者たちだ。みな、立ち話をしている。ユウの血だらけの様子をみな・・一瞬はぎょっと見つめるが、すぐに目を逸らした。
一部、出入りの激しい病室がある。重症患者の診察か・・・?では、ここらの白衣はみなそれとの関わりか?
ゆっくり、近づいてみる。
その頃駐車場では、シナジーが拡声器を持っていた。
<学生さんでも構いません!構いませんから!>
学生らが途中で自転車を捨て、ベッドの集積に次々と向かってくる。
<猫の手でも貸してください!>
どうやら、点滴などを抱えての搬出だった。1台につき、5人以上の人手を要した。熱中症の症状で、1人また1人とベッドから手が離れていく。倒れた白衣を、また他の人間らが抱える。
ノナキーはパソコン上の電子カルテを操作、振り分けを行ってシナジーに伝達した。
「品川さん。まずこの5台を優先に」
「分かりました!言ってきます!」
「すみません。腰が立たなくて・・・」
向かったシナジーは、振り向いた。
「これまでは、ひどい事を言いまして!」
「いや・・・」
「本心ではないので!決して!」
ノナキーは、しかし未だわだかまりを持っていた。
ミタライのことを、まだユウに伝えていない。
この事態が落ち着いたら落ち着いたで、気が重いことはたくさんある。
ノナキーが乗る処置車の横、車いすの島が並んだ。
「医局長!テンション低いですね!」
「島・・・」
「目がうつろですよ?」
「代わりに、これ(電子カルテ)の統卒を行ってくれ」
「こんなおいしい役を。いんんですか?」
「ああ・・・いいから」
島はノートパソコンを手渡され、一覧にかかった。
作業の終わったトレーラーの助手席から、マーブルが見ていた。
「足津さん。奴らは電子カルテで群衆コントロールをしてるようです!阻止できませんか?」
その会話をハッカーがヘッドフォン通して聞いていた。
「理事。アクセスします。僕の出番だ」
何やらパスワードがクルクル回転する。1つずつ見つかる。
「これで、どうだ!」
エンターを押すと、島が持っていたパソコンの画面の字や図、写真が・・・一斉に画面上で踊り始めた。
「な!なにい?」
踊りまくった文字らの羅列はやがて糸玉のように巻きつけられ・・・・台風のように回り始めた。
ハッカーは椅子から転げ落ちそうになった。
「ヒャッハッハッハハ!ランコーゲランコーゲ!」
島は狂ったように、パソコンの周辺のコードを抜き始めた。
「くそっ!なぜ!いったい!どうして!」
とうとう、プスンという音と同時にパソコン画面が消えた。
「あっ」
あちこちで、ざわめきが起こった。血液データや画像が見れなくなった。図書館からの膨大な資料も、参考文献も。
みな、顔を見合わせた。
シナジーは苦戦する間もなく、割り切って学生らを指さす。
「暇な人ら!検査部からフィルム、紙データを持ってきて!データそのものを!」
学生らが走って行った。新玄関へ向かうが・・・・
「あれはまさか?最悪!」
シナジーは気づいた。
「電気女だ!」
黒いレザーの女が、あそこで待っている。学生らはもう走っている。
診療のペースを落としながらも、医師らは懸命に没頭した。だが疲れからか、不満の声も漏れる。
「助手の先生らはどうしたんだ」「教授も来ないままか」「俺たちを患者とともに見殺しか」
シナジーは学生らを行かせたことを後悔しつつ、叫んだ。
「戻ってきてええええ!」
同時だった。学生ら5人が、横筋1本の光とともに倒れたのは。
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