無力化したトレーラーがまたぐ線路のすぐ横、手前で停車している3両トロッコがある。先頭の1両目、単純な左右のレバーを持つ私服は明らかに学生・・・実行委員だ。
「もう、いいですか?」
彼の両側に2名、後ろ2両に5人ずつがスシ詰めで折り込まれている。みな<患者>と化したスタッフらだ。ほとんどが熱中症。点滴棒が、のろしを上げたようにあちこち傾いている。
「い、行きますからね!」
ペダルを踏み、トロッコはゆっくり加速し始めた。ガタン、ガタンと腰を何度も突き上げられつつ、みな流れに任せる。一種の眠気を呼び起こした。
大平は最後尾で、周囲を注意深く見守っている。
「・・・・・・・・」
ところどころ、線路の左右に点在する私服たち。おそらくほとんどが学生だ。頑張れなどと声をかける。
実行委員長は必要もないのに体を傾けた。
「大きな木があります!伏せてくださーい!」
「(一同)うおおおっ」
しかし点滴棒は縮まるわけでもなく、バキンバキンと幹にモロに当たり続けた。
葉っぱや砂のようなものがヒラヒラと舞っていく。
大平はスタッフらを確認した。
「もう着きますから!病棟には迎えを手配しましたんで!落ちないように!」
研究棟の間を、ぬって走る。左右に壁。点滴棒はまっすぐ上に向けられており当たらず。日陰に妙な安ど感。
みな、思ったはずだ。自分が点滴してひと眠りして目覚めたら、すべて終わってますように・・・!そしてそれまで当り前だった日常を、日々感謝の気持ちで受け止めるように・・・。
大平は、少し驚いたように見上げた。
「でかい塔だな!委員長!」
「ああ!あれですか!」委員長は振り向かない形で返事した。
「噂の、解剖学パークか?」
「ええ!でもあそこには寄りません!」
ハンドルを思いっきり左に切って、みな左へと大きく傾いた。
「(一同)うわあああ!」
ガタゴト、やや減速。その間、大平はウエストポーチの物品確認。
「・・・・・」
鳴る携帯。番号を見る。無視。また鳴る。無視。違う番号。取る。
「はい。大平」
「?」横で三角座りの研修医。
「ああ・・・奴はまだ来ない」
「・・・・」見るものもなく、研修医は大平の会話を眺めていた。
「来たら、一斉に始めよう」切る。
ガタガタ、という音がまた支配する。大平は学生の目線に気づいた。
「・・・なんだ?聞いた?」大平はストローを加えた。
「いえ。でも・・・一斉にって。一斉になにが」
ピュ!とストローの中から何か射出。
「う!」上腕に当たり、研修医は傾眠に突入した。「ぐぅ・・・」
大平は周囲を見回した。みな寝ている。
「・・・・・・」
ストローを、また腰に戻す。
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