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2009年7月16日 連載
ユウはズデン、とトレーラー内部の中心部廊下へ転落した。すぐさま体制を立て直す。壁に誰かが密着したような音。



「囲まれたか・・・!シローは大丈夫か?」



とたん、後ろから抱き締められた。

「うがっ!」

「なあユウ!困るんだよユウ!」マーブルらしくない、オカマっぽい声。

「いてええ!」

ギスギス、と骨が砕けるような衝撃。ヒーローのようにすり抜け技もない。



節操のない生存本能で、ズボンポケットに突っ込んだ手が、白衣ポッケをビリビリ破り始めた。そのまま後方へ、ディバイダーの針が串刺した。



「いでっ!いでっ!」

「マーブル!風上にもおけん!」

「いで!いで!」



マーブルはついにうずくまった。

「ちょっとタイム!タイム!た~・・たた」



何かを拾ったかと思うと、彼の顔に楕円形の日が射し込んだ。

「や!やれ!」

「なに?」



マーブルが投げたリモコンが、ハッチの外で受け止められた。



そこで察知した。ボタンで開いたハッチの向こうから、針束がまとめて3本ほど飛んできた。やみくもに回避、とにかく下に倒れた。



そのハッチが閉じたと思うと、すぐ真横・・いや、下の分が開き、また針が飛び込んだ。ほとんどは壁に当たっただけで、まるでダーツの練習に終わった。



数秒ごと、どこのハッチが開くか予想はつかない。



「バカヤロー!モグラ潰しじゃねえぞ!」



立ち上がり、後部車両から前方へ向かってダッシュした。

「うおおおお!」



わき目もふらずだが、後方に絶えず殺気を感じ続けた。何か、何かが必ず来る。

ダンダンダン!と両側の2段ベッド、交互にぶつかる。もう誰もいない。



ヒュッ・・・・ヒュッという針はともかく、誰かが追いついて来たのは感じた。鬼ごっこでつかまる直前のあきらめを感じた。



「うわっ!」

ピキイイン、と時間が止まった。筒のようなものが刺さる・・のではなく背中にうずもれた。



「ユウ。もう、あきらめろ」大平の声だ。

「やめ、やめ」

「止まれ!」

「ひっ!」

ビビって、その場に座り込んだ。大平のあてがったストローは当たったまま。ものすごい圧力だ。



大平が、まるで子供に話しかけるように同じ目線にきた。



「ユウ・・・俺を、悪者にはすんなよ?」

「てて・・・離せ。どかせ、それ!」

「お前らはきたな・・」



<汚い>と言おうとしたが、前方のオヤジ声が制した。



「帰って、見せしめにするか!」ギリ、ギリ・・・とかみしめるような足音。見上げると・・・

「隊長か・・・藤堂」

「待て待て。そんな、見るな。しょうがないんだ」

「何がだよ・・いてて!」

「わしが・・言おうか?」何やら、気を遣っている。



隊長は、事務的な口調に。



「あのな。さて、何から言うたらいいか。ユウ。わしらも最初は、ちょっと上のランクの生活を望んでただけやった。お前らもそうやろ?」

「てて・・・」

「ところがな。わしらの人事を預かる組織がやな。いろいろ命令してきたねん。最初は大したことないことやったけど・・・」



かつての善人ぶりを思わせるような口調だった。



「それが、いろいろ弱みを握られるようになってやな。マーブルも、ここの大平君も」

「よせ!」今度は大平が制した。



ユウの背中に、より大きな力がかかった。



「大平!きさま!」

「違うんだ。聞け!・・・・・俺が僻地医療で、どれだけ失望したかお前には分かるまい・・・自治体は俺に借金だけ背負わせた」

「・・・・・・・」

「インターネットで知り合った組織、その仲間は好意的なものだった。心を癒してくれた。そんなとき、チャンスが来た」

「てて・・・」

「そうだよ。奴ら金貸しの存在だ。自衛隊上がりの女には、いろいろ教えられたがな!」



藤堂ナースのことか・・・。だんだん分かってきた。


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