トロッコは細い路地に入り、バイクの音は遠ざかった。ありがたい日陰に、短い間だが癒される。また息苦しくなり、注射器を何度も使用する。ただ、針の刺入部があまりにも痛い。
「ふー・・・落ち着け。ふー・・・」
シナジーのさっきの報告が頭をよぎる。
<ザッキー先生は意識がぼやけてますが、大丈夫とのことです>
「ああ・・・」
<桜田先生は重体で、野中先生もこれから緊急内視鏡を>
みんな、もう機能できなくなりそうだな・・・。
学生が、恐怖におびえている。
「先生たち。もうやめてください!ひっ」
「ど、ドレナージしてもらおうと思う。だから病棟へ」
「とにかく、病棟へ行くことは僕には!」
「おい!」
学生はハンドルを切り替え、路線がどこかに外れた。
「おい・・・どこへ!」
路線が、だんだん病院から離れていく。
ユウは久しぶりにその光景を見た。
「あれは・・・アナトミー・パークじゃないか!」
以前見ていた段ボールの仕切りなどはとっくに外され、外装もきちんとされている。
両脚を伸ばして座っている大型人間の模型が、そこにあった。右足の延長上に、彼らがいる。
「両側、狭いですよ!手を出さないように!」前を向いたままの学生。
「・・・・・・そうだな。逃げておくことも乙だな!」
ガタン、ゴトン・・・・ゆっくり停車していく。学生はやっと振り向いた。
「・・・・・大人が。何してるんです」
「さあ。何してるんだろな?俺にも分からん」
針の入口部に注射器をブラブラさせつつ、ユウは起き上がった。
「暗いが・・・骨盤当たりか?」
「上の階段を登れば、肝臓です。そこで隠れてください」
「肝臓、ね・・・」
学生はそう言いつつ、狭い側路より一目散に逃げ出した。
「あ!おい!俺、ケータイ・・・」
どうやら、落としたようだ。
「ないんだよ!だからおい!」
すると、外で自転車か何かが転倒する音。そして静寂。
「もう、追いついてきやがったのか・・・?」
左手で持つ赤外線パッド。点灯させたまま、右手パッドに意識を集中した。だが、外に出る勇気はない。救援をここで待つか・・いやいや。
「とりあえず、肝臓へ行こう」
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