背中を引っ張られつつ大穴に入ると、サイコロのような部屋に入る。大穴が「1」の黒字にあたる。やや明るいが、正面は壁。
「ここで、監禁すんのか?」
「シッ!」また引っ張られる。
「よいしょっ・・」
「座るな!落ちる!」
「っと!」
確かに、床の中央部には先ほどの大穴程度の穴があり・・・下は暗黒で見えない。
「俺が今いるのは、心臓の右側か・・・」
向かいの壁、バアン、バアンと叩く音で揺れる。メキメキメキ・・・とバルサ板のような脆さで、こちらへ曲がってきた。
「そういうこと!たあ!」
やがて壁が2つに割れ、あとはバリバリと上下に分けられた。向こうの部屋が現れ、大平の狂ったような形相が飛び込んだ。
「あー!大動脈系から回ったからこれだー!ぺっぺっ!」
「・・・・・」
「おっ!ユウ!おいおいDC打つなよ!」
藤堂ナースが腰のパッドを見せた。大平はひとまず安心した。
「おっ・・やるねえ。な!ところでユウ!」
よほど困難な道中だったのか、彼はハイテンションだった。
「あと25分。ここでじっとしといてくれんかな?」
「するかいな。そんなん・・・」
大平は壁のスイッチを押した。
「よっと・・・これかな?」
押したとたん、床下からギギ・・ドクン、ドクンと大きな音が鳴り響いた。
「俺たちがいるのは、心臓のスケールモデルだ。前もって調べておいた」
「貴様ら・・・!」
「おいおい。穴に落ちたら心室に押しつぶされて、一巻の終わりだぞ?」
破れた壁の向こう、ユウは引っ張られ大平の両腕に・・後ろから巻かれた。
「ユウ。それ、右胸の針・・・俺の?」
「クソ!そうだよ!てめえ・・・」
「もう腕力もないみたいだな。でな!おい!」
いきなり小声になる。
「勘違いすんな俺は!あいつらの仲間じゃないから。基本的にはお前らの仲間だ。でもなシッ!聞けよ!」
「・・・・・」
「大学が主導権を渡せば、それで株主らに大金が転がり込むんだ!」
「かぶぬ・・」
「シッ!だからお前はここで休んでろ!お前だって大学は嫌いだったろ?」
「何をお前・・」
大平は平常心ではなかった。とりつかれたような目だ。
「聞いたところ、俺の女もやられた」
「それは事故・・」
「絶対に違う。大学の奴らのせいだ。俺を見捨てた事は許しても、彼女にまで」
「勘違い野郎が!」と力を入れるが、入らない。
大穴ぬすぐ向こう、藤堂ナースが赤外線ビームを放出。赤い光が、ユウら2人の周囲でうろつく。ドクン、ドクンと激しさを増す床下の振動。
大平は一瞬ためらったが、喋り続けた。
「ユウ。なぜお前ら民間の奴隷は怒らない?お前らが未だに団結しないせいで、上層部は好き勝手、地域の医療は崩壊した!」
「したか?」
「間もなくな!増えた女医を甘やかして医師数の絶対数減少を招き、残った者には自己責任という口実だ!」
「自己責任だと?それが不満なのか?」
ピュイイン・・・・と充電がみなぎる音。大平は戸惑った。
「おいナース藤堂!俺に今マーキングしただろ?標的を選び直せ!」
「・・・・・」彼女は無表情にパッドを向けている。
「俺をおい倒したら・・・大学スタッフへのとどめはどうする?」
「あたしがやるから、いい」
ユウは必死にもがいた。手を伸ばすが、スイッチにはほど遠い。
「医者やるとき!肝には銘じていただろ大平!」
「何を?くっ・・・」
「人間どこへ行ったって!試されるときが来る!」
「打つなよ!藤堂!」
「それを乗り越えるかどうかだよ!」
「藤堂!こいつも道連れだぞ!」
会話が成立しない中、ユウは右の壁を見た。
「はぁ、はぁ・・・大平。死ぬ前に教えてくれ」
「な、なんだ?」
「この塔の構造は、人体に忠実なんだよな?」
「工学部の学生が加わってるからな。おいおい、そんな話」
「ならよっしゃやあ!」エルボーで腹を蹴った。
「ぐわっ!」
ユウは大平を突き放した反動で思いっきりタックルし、柔い壁をバキッと突き破った。
「うおおおっ!」
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