間後ろを青白く太い閃光がズビビッ!と素通り、そのまま大平の胸を貫通した。
「ぐぬぬぬぬ!」
ナースの持っているパッドの端のダイヤル数字が<MAX>となっている。
大平は顔を上下にガクンガクンと震わせ始め、両耳から煙を発した。
静寂の中、ドクン、ドクンという振動のみ。
藤堂はやっと我に帰り・・・スチャ、と腰にしまった。
「ちっ・・・あわよくば共倒れをと」
座って煙まみれの大平に近寄り、足でポンと蹴った。彼はそのまま転がり、蟻地獄のごとく床の穴へと吸い込まれていった。
藤堂は引き続き、ユウの突き破った壁の向こう・・いやその下方を見下ろした。暗闇で見えない。
「へえ・・・まさか心臓の裏に逃げ場とはね。盲点だった」
左パッドをいきなり取り出し、無造作にスイッチを押し始めた。
バリバリ!バリバリ!
下方の闇に、あちこち果てしなく突き刺さる。
彼女の興奮は、徐々におさまってきた。
「フウ・・・」
彼女はいったん目を閉じ、携帯をパカッと開けた。
何やら入力。
< 足津様へ 大平を予定通り処理 >
どういうわけか・・・そんな内容だ。
< ユウによる大学への支援を阻止の上、私事にあたらせて頂きます >
携帯をたたんだ。上下に裂けた板を、バリバリとさらに上下にはがす。
スー・・と深呼吸。プールに飛び込む格好で・・・
「てや!」
サッ、と暗闇に飛び込んだ。数秒、風を縦に切る。
「・・・なに?」
ポヨーン、と数メートルバウンドした際に気づいた。視界に入ったものが、彼女にとって非常に危険なものだったからだ。
「な、なにい?」
胃の中を模した部屋の出口・・・坂の上、トンネルからこっちを見ているユウ・・いや、見ていない。必死でゴシゴシ、円を描いている。円を書いている?
「やめ・・やめな!」
藤堂ナースはパッドをまた取り出し、ポヨーンとまたリバウンドした空中でイナズマを発した。当たりをつけていないため、青白い光はランダムにあちこち火花を立てる。
「やめっていうのに!バカ医者!」
バウンドが小さくなってきた。横になった態勢で、落ち着くのを待つ。しかしユウは円をトンネルに沿って・・・ほぼ1周、描き終えていた。
ユウはディバイダーを持った手を放し、思わずうなった。
「はああ!いてえ!いてえよ!」
描かれた円の部分、ミシミシと線が揺れ始め・・・そのトンネルがユウの手前で切り離された。
藤堂は起き上がったが、時すでに遅かった。
「ちょっと待て!」
「うるせえ!」
グググ・・・と、彼女の乗っかった<胃>は大きく傾いた。足がぬるっと滑る。倒れても手が取っかからない。
「ひぃ!ひぃ!」
ユウは、やがて垂直に傾く<胃>を見下ろした。
「・・・胃切除してやった。はあ」
「キャアァァァァ!」
とうとう、彼女が暗闇へと落ちていく声が聞こえた。
やっと静寂が・・と思ったが、<心臓>の音がガガグン、ガガグンと駆け足調に鳴っているのに気づいた。
「ギャロップか・・・心臓もお疲れのようで」
坂になった<十二指腸>を登りきる。呼吸がいっそう苦しくなっている。脱気をまたする必要が出てきた。
「あ~。どこまで続くんだろ。う!」
上半身が、いきなり急斜面へと落ち込んだ。
「しまった!うわあああ!」
全身が<腸管>に入り、そのまま滑り台のごとく滑り始めた。
「ぎゃああああ!」
目の前、スターゲイト状態でブウン、ブウンと円の連続。<小腸>はそれだけ長かった。
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