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2009年7月30日 連載

 ガイーン、とノナキーが両手を天井に向けて入ってきた。
「PCIするぞ!PCI!」

 2人の研修医は技師になんとか頼み、準備をこぎつけた。
「先生。僕ら2人はどうしても・・?」1人が呟く。
「お前らはここにいろ!あっちはなんとかなるだろ!」
「2人、要るって消化器の先生が・・」

ノナキーは透視画面に見入った。
「あっ?あ、そうか」
「聞いてないし・・・!」

1人は無断で救急室へ戻った。もう統制も取れてない。
ガラガラ、ガラガラとベッドが運ばれていく。

救急室となった部屋では、急変した患者の処置を行っている。

「おい!早く帰ってこないか!」中堅の消化器医。
「は、はぁ・・」
「はー。おい変われ!マッサージ!」
「・・・・」

うつろな目で、交代する心臓マッサージ。

「あの・・・消化器の部長先生は」
「なに?痔の出血が止まらんまま・・なんだろ!」
「応援、どうしても来ないんですか・・・」

患者はあと6人残る。ここの医者は彼ら含め3人。残り1人がデータ・画像をパソコンで照会中。

「おれIVH入れるから!」

マッサージ続けながら、研修医は見届けた。もちろんモニターも見る。
「(もう、こんなところは、出よう・・・もうよく分かった)」
「上のやつらは怖いんだよ。自分に責任が降りかかるのがな!」中堅がDC用意。

「(いざというときに、守ってもらえないってことが・・・)」
「おいどけ!」

DCで患者が浮く。またマッサージ再開。

「(よくわかったよ・・・・)」

循環器の研修医のもう1人がドアを乱暴に開けた。
「おい!野中先生が戻ってこいって!」
「マッサージしてるから!」
「僕は機械を操作してるから!ヘルプをって!」
「だから!この通りだから!」

中堅はしかし、この患者をあきらめた。
「・・・・俺、なんとかやるわ。行け」
「で、でも先生。体が・・・」

壁にもたれていた中堅は、つぶっていた目をギン!と開け放った。
「いいから。行け。しゃあない」
「もちますか・・・?」
「患者のことか?それとも・・俺か?」

ズン!と中堅は上半身を傾け、マッサージを再開した。顔色が悪い。

研修医は礼をして、立ち去った。IVH入れている医師は・・・目が死んでいるようだった。

カテーテル室では、ノナキーが患者の横で立っていた。
「血管3本のうち、2本に狭窄。そのうち1本に閉塞。これは解除した」
「では、そのまま病室へ」操作の研修医。
「お前が判断するな!で、どうなった病棟は!救急室の患者の行先は!」

彼は、まるで人が変ったようになっていた。

「し・・・知りません詳しくは」と後で入った研修医。
「何人残ってんだ!」
「ろ・・6人ほど」
「じゃあ楽勝だな」
「病名不明がまだ3名、CPAが1名」
「ステント挿入!拡張!」

また間ができる。ノナキーは頭をうなだれた。

「・・・・・・ミタライ・・・」

研修医は後ろでモニターを見ていた。
「野中先生!心室性不整脈!頻発です!DCが!」
「うっ・・・?」
「自分がしますから!」

インターベンション中断、除細動。脈は戻った。
研修医は汗をぬぐった。

「医局長!しっかりしてくださいよ!」
「あ、ああ・・・」

彼は、さっき聞いたのだ。ついさっき・・・報告を受けたのだ。こっそりひっそりと・・・一番<あってはならない>ことだった。

造影。ステントで1枝を拡張。心電図も改善傾向。
「角度変更。撮影する・・・」

手元の注射器、グイッと押し出される。画面上、シューと流れるように太→細血管が造影。
「よし・・・これで、終わる」

力が抜けたとたん、ツルっと足が滑った。横の研修医が守備交代した。

「野中せ・・・」
「・・・・・・」

ダダーン、と医局長は準備物ごと転倒した。薄めた血液もろとも。

「野中先生!野中先生!」
天井のまぶしい光の中、彼はゆっくり目を・・・伏せるように閉じた。







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