ガイーン、とノナキーが両手を天井に向けて入ってきた。
「PCIするぞ!PCI!」
2人の研修医は技師になんとか頼み、準備をこぎつけた。
「先生。僕ら2人はどうしても・・?」1人が呟く。
「お前らはここにいろ!あっちはなんとかなるだろ!」
「2人、要るって消化器の先生が・・」
ノナキーは透視画面に見入った。
「あっ?あ、そうか」
「聞いてないし・・・!」
1人は無断で救急室へ戻った。もう統制も取れてない。
ガラガラ、ガラガラとベッドが運ばれていく。
救急室となった部屋では、急変した患者の処置を行っている。
「おい!早く帰ってこないか!」中堅の消化器医。
「は、はぁ・・」
「はー。おい変われ!マッサージ!」
「・・・・」
うつろな目で、交代する心臓マッサージ。
「あの・・・消化器の部長先生は」
「なに?痔の出血が止まらんまま・・なんだろ!」
「応援、どうしても来ないんですか・・・」
患者はあと6人残る。ここの医者は彼ら含め3人。残り1人がデータ・画像をパソコンで照会中。
「おれIVH入れるから!」
マッサージ続けながら、研修医は見届けた。もちろんモニターも見る。
「(もう、こんなところは、出よう・・・もうよく分かった)」
「上のやつらは怖いんだよ。自分に責任が降りかかるのがな!」中堅がDC用意。
「(いざというときに、守ってもらえないってことが・・・)」
「おいどけ!」
DCで患者が浮く。またマッサージ再開。
「(よくわかったよ・・・・)」
循環器の研修医のもう1人がドアを乱暴に開けた。
「おい!野中先生が戻ってこいって!」
「マッサージしてるから!」
「僕は機械を操作してるから!ヘルプをって!」
「だから!この通りだから!」
中堅はしかし、この患者をあきらめた。
「・・・・俺、なんとかやるわ。行け」
「で、でも先生。体が・・・」
壁にもたれていた中堅は、つぶっていた目をギン!と開け放った。
「いいから。行け。しゃあない」
「もちますか・・・?」
「患者のことか?それとも・・俺か?」
ズン!と中堅は上半身を傾け、マッサージを再開した。顔色が悪い。
研修医は礼をして、立ち去った。IVH入れている医師は・・・目が死んでいるようだった。
カテーテル室では、ノナキーが患者の横で立っていた。
「血管3本のうち、2本に狭窄。そのうち1本に閉塞。これは解除した」
「では、そのまま病室へ」操作の研修医。
「お前が判断するな!で、どうなった病棟は!救急室の患者の行先は!」
彼は、まるで人が変ったようになっていた。
「し・・・知りません詳しくは」と後で入った研修医。
「何人残ってんだ!」
「ろ・・6人ほど」
「じゃあ楽勝だな」
「病名不明がまだ3名、CPAが1名」
「ステント挿入!拡張!」
また間ができる。ノナキーは頭をうなだれた。
「・・・・・・ミタライ・・・」
研修医は後ろでモニターを見ていた。
「野中先生!心室性不整脈!頻発です!DCが!」
「うっ・・・?」
「自分がしますから!」
インターベンション中断、除細動。脈は戻った。
研修医は汗をぬぐった。
「医局長!しっかりしてくださいよ!」
「あ、ああ・・・」
彼は、さっき聞いたのだ。ついさっき・・・報告を受けたのだ。こっそりひっそりと・・・一番<あってはならない>ことだった。
造影。ステントで1枝を拡張。心電図も改善傾向。
「角度変更。撮影する・・・」
手元の注射器、グイッと押し出される。画面上、シューと流れるように太→細血管が造影。
「よし・・・これで、終わる」
力が抜けたとたん、ツルっと足が滑った。横の研修医が守備交代した。
「野中せ・・・」
「・・・・・・」
ダダーン、と医局長は準備物ごと転倒した。薄めた血液もろとも。
「野中先生!野中先生!」
天井のまぶしい光の中、彼はゆっくり目を・・・伏せるように閉じた。
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