藤堂ナースすらギョッとさせるような、シローの叫び声。よけた勢いで、DCベルトが腰からドサッ落ち、どこかへバウンドした。
・・だがもういい。彼女にはもう、目標とするものはない。
ヒュウ!と大量の風により、室内から外へ一掃されていくハウスダスト。1つずつ開けられた窓から、大きな西日と大量の風が入って、また出ていった。
藤堂ナースが、碁盤目の通路のど真ん中に現れた。片手はカルテの束を握っている。
「・・・・・・」
その真後ろ、無息でシローは睨んでいた。パッドが2つ転がっている。使い方は説明を聞いて知っている。
「(くそ・・・届かない・・・!)」
目の前、黒いレザーを着た女は棒立ちしたまま、まるで魂を抜かれたかのように突っ立っていた。
「・・・・・・・」
パラ、パラと行き来するページ。どうやら、何かの核心部分を繰り返しては閲覧しているようだ。
シローは手を伸ばした。が、パッドには届かない。ゴトッと女の足が浮いたとたん・・いや、それは1歩ずつ歩き始めた。
携帯を取り出し・・
「おやじ?今どこ?」
彼女が振り向き、シローは観念した。
「(やられる!)」
だが彼女は目もくれず・・・そのまま歩いて行った。
「帰ろうよ。うん。みんな倒した。そっちは?」
シローの喘息発作は、何とかほぼ治まった。頻拍だが仕方ない。
「・・・・・あの女。帰るのか?だいいち、帰れるのか?」
自分も含めて、の話だが。
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