真っ白な2人部屋。カーテンで、2人の医者のベッドが分け隔てられている。
ぼんやりとしていた天井が、やっとハッキリしてきた。ポコッ、ポコッという音とモニター音。
ユウは目が覚めた。
「・・・・あ?ああ、そっか。それで俺は・・・」
最後に気を失ったのは・・・・
「オンギャー!って倒れて、なんか焦げくさくて・・・」
誰かが助けてくれてた。誰なのか覚えてない。だがそのおかげで、ここに運ばれたんだろう・・まあ、そういうことだろう。
カーテンの向こう、手で泳ぐような、探るようなしぐさ。もう1人のベッドだ。
「ユウ・・・」
間違いない。この声は・・・
「のな・・・ノナキーか・・・その声は」
「ああ・・・」
「(2人同時)いてててて!」
お互い、顔は見えない。
「はぁはぁ。野中。大丈夫か?」
「生きてる。生きてるんだよクッソー!」
「な・・なに?」
どうやら、野中は泣いている。
「チキショウ、チキショウ。結局、何にもやり遂げれなかったじゃねえかよ・・・何にもだよ!」
「どうしよう。ノナキー・・おれどうしよう。人、殺したかもしれん。それが悪人でも、実際はやばいよな」
「だいたい無理な話だよ!無理だってんだよ!上の奴らが全部押し付けたんだ!」
お互い、聞いてない。ユウは聞きに徹した。
「お前にだって、いつ話していいか分からなかった。医局一同、全力は尽くしたつもりなんだ!しかし・・・これは話して許されることでもない!」
何を話しているんだ・・・?
「彼女をああ!殺したのはああ!俺でいい俺で!なんなら殺せ!だから死んでたらよかった俺!」
ユウは、不穏の症状と思いナースコールを何度も押した。
<・・はい>
「暴れてるぞ!来てくれ!」
<・・・(プッ)>
「うあああ!うおおおお!」
これが、エリート街道を突き進んでいたもと同僚の姿か・・・。見たくはなかったが、これを転落と位置付けたくもない。
ユウには、いろいろ分かってきた。
この10年ほどこの仕事をしてきて、最初はまあ学生の延長だった。患者にはりつき、真理を探究するなどすべてが自由。しかしそれはあくまで強固な地盤があってこそのものだった。
それがいつからか・・・責任問題への重圧がのしかかった。一生懸命すればするほど、抱えきれないほどの重圧が押し付けられ、気がつけば全く違う次元の<何か>に利用されている。
誰かのために一生懸命になるほど、仇で返されていくのは何故だ・・・?
「うひいいい!ひいいい!」
「医局長!おさえて!」医局員が数人、おさえにかかる。
ひょっとして、僻地にしろ何にしても・・・一掃されていく運命にあったのではないか?その運命を知らんふり背負ってたのではないか?
「なら、逃げた者が勝ちってことか・・・!」
ユウは、両側のチューブをクランプし、中途で外した。ガーゼで覆い、胸に当てテープ。気胸自体はかなりおさまっているのは確かだ。
ユウはだいたいの予測をし、暴れるノナキーに叫んだ。
「おい!野中!しっかりしろ!ほんとは聞こえてんだろ!」
「ううううう!」
「芝居だろ野中!そろそろ白状しろ!」
カーテンが引っ張られ、見知らぬ助手が叫んだ。
「この真田の医者が!お前らがしっかりしなかったから!」
「るせえよ」
「ミタライは、もうICUを出たんだ!済んだことをもう言うな!」
「出た・・・?ICUを?」
どういう意味かもわからず、ユウはスリッパを履いて病室を飛び出した。
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