ごった返していた駐車場も静かになり、空っぽとなったトレーラーだけが端にたたずんでいる。
その最後尾のドアから、背をかがめて入り込んでいくスーツ姿の男。今しがた、医療対策課を<自己退職>したばかり。
「オイオイ・・・もう終ってんじぇねえかよ・・・」
トレーラーの車両はすべて、もぬけの殻。3両目に入ると、白衣のゴリラ医者が1人眠っている。
「ああ?あんた・・・」
「う・・・?」マーブルはうっすら目を開けた。
「真珠会の?」
「あ、ああ。お、終わったか?」
「医者がおい、寝てたんじゃあどうするよ?」
マーブルは、絶望した体をまともに動かせていなかった。携帯も壊れており、命令も来ない。運転もできない。
もと対策課は、ずんずんと前に進んだ。先頭車両の運転席、助手席も・・・誰もいない。ナビの端末、その前のキーボードを確認。
「どのテレビカメラも・・・真田の奴らはいないってことかぁ・・・」
携帯を鳴らす。
「足津さんよぉ?」
<はい>
「どうやら、真田の医師らは全員倒したようだぜ?あとのまあ、事務長をやっても・・・しょうがないしな」
ドカッと運転席に腰掛ける。そこらのビールを適当にあける。
「何?裏切り者だと?ターゲットがそれに変わったのか?やれやれ・・・」
<身体的なダメージで結構です>
男は、さきほどホームセンターで購入した刃物を、そっとズボンのポッケからのぞかせた。
「脅して、殴るだけだぞ。捕まるわけにはいかんからな」
<カメラで確認次第、振り込みます>
「おい。待て」
ふてぶてしく、男は端末を操作。ナイフでキーボードを押す。
「俺のパスワードで、自社株を倍増・・よし!した!俺が株主様らの、ヒーローになるわけだもんな!」
と、近くのモニター画面の1つの周囲が赤く光った。
「と、噂をすれば・・・」
送られてきた画像の人間、とおぼしき男。ヨレヨレで歩くシローがコマ送り状態で、旧館の近くに現れた。
「なあんだ。弱そうなやつだ」
足でドカン、とドアを蹴って降り立った。西日が強くなっており、株の取引もタイムリミットに近付く。
「いいんだよ。売れよ。お前ら・・でも俺は買い続ける・・・」
ズボンからまたナイフを出した。1歩ずつ1歩ずつ、駐車場を斜めに横切る。
「でな。いいとこでまた売るんだよ。足津らの情報流せば一発だぁへへへ・・・」
老朽化した6階ほどの建物。旧館と呼ばれるその建物のドアは斜めに開いている。内部の廊下が見通せる。
「ここだな・・・シローってっかな・・・ヘイ!シロー!」
ヘイシロー!ヘイシロー!・・・と空虚ないくつもの講堂にエコーしていく。
「お前、裏切ったろシロー!」シローシロー・・と響く。
ふん!と部屋の中に押し入りがちに入り込む。
「ここもカラか・・・」
凶器のようなものがない分、彼には楽だった。
「そこで聞いてんだろ?まあ聞いとけや・・・お前のことはさっき、メールで見たけどよ・・・」
ナイフを、カカー・・・と壁を切り裂くように沿わせる。
「悲しい思いをしてんのは、何もお前だけじゃないぜ・・・?ええ?」
ビール缶をポッケから取り出し、開けた。
「俺だってなあ!これまでどんだけ、つらかったか・・・!ちょっと飲んでいい?なあ飲んでいいんだろシロー!」
かなり酔っているようだった。
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