155

2009年8月10日 連載

 ごった返していた駐車場も静かになり、空っぽとなったトレーラーだけが端にたたずんでいる。

 その最後尾のドアから、背をかがめて入り込んでいくスーツ姿の男。今しがた、医療対策課を<自己退職>したばかり。

「オイオイ・・・もう終ってんじぇねえかよ・・・」

 トレーラーの車両はすべて、もぬけの殻。3両目に入ると、白衣のゴリラ医者が1人眠っている。

「ああ?あんた・・・」
「う・・・?」マーブルはうっすら目を開けた。
「真珠会の?」
「あ、ああ。お、終わったか?」
「医者がおい、寝てたんじゃあどうするよ?」

 マーブルは、絶望した体をまともに動かせていなかった。携帯も壊れており、命令も来ない。運転もできない。

 もと対策課は、ずんずんと前に進んだ。先頭車両の運転席、助手席も・・・誰もいない。ナビの端末、その前のキーボードを確認。

「どのテレビカメラも・・・真田の奴らはいないってことかぁ・・・」

 携帯を鳴らす。

「足津さんよぉ?」
<はい>

「どうやら、真田の医師らは全員倒したようだぜ?あとのまあ、事務長をやっても・・・しょうがないしな」

 ドカッと運転席に腰掛ける。そこらのビールを適当にあける。

「何?裏切り者だと?ターゲットがそれに変わったのか?やれやれ・・・」
<身体的なダメージで結構です>

 男は、さきほどホームセンターで購入した刃物を、そっとズボンのポッケからのぞかせた。

「脅して、殴るだけだぞ。捕まるわけにはいかんからな」
<カメラで確認次第、振り込みます>
「おい。待て」

ふてぶてしく、男は端末を操作。ナイフでキーボードを押す。

「俺のパスワードで、自社株を倍増・・よし!した!俺が株主様らの、ヒーローになるわけだもんな!」

 と、近くのモニター画面の1つの周囲が赤く光った。

「と、噂をすれば・・・」

 送られてきた画像の人間、とおぼしき男。ヨレヨレで歩くシローがコマ送り状態で、旧館の近くに現れた。

「なあんだ。弱そうなやつだ」

 足でドカン、とドアを蹴って降り立った。西日が強くなっており、株の取引もタイムリミットに近付く。

「いいんだよ。売れよ。お前ら・・でも俺は買い続ける・・・」

 ズボンからまたナイフを出した。1歩ずつ1歩ずつ、駐車場を斜めに横切る。

「でな。いいとこでまた売るんだよ。足津らの情報流せば一発だぁへへへ・・・」

 老朽化した6階ほどの建物。旧館と呼ばれるその建物のドアは斜めに開いている。内部の廊下が見通せる。

「ここだな・・・シローってっかな・・・ヘイ!シロー!」

 ヘイシロー!ヘイシロー!・・・と空虚ないくつもの講堂にエコーしていく。

「お前、裏切ったろシロー!」シローシロー・・と響く。
ふん!と部屋の中に押し入りがちに入り込む。

「ここもカラか・・・」

 凶器のようなものがない分、彼には楽だった。

「そこで聞いてんだろ?まあ聞いとけや・・・お前のことはさっき、メールで見たけどよ・・・」

 ナイフを、カカー・・・と壁を切り裂くように沿わせる。

「悲しい思いをしてんのは、何もお前だけじゃないぜ・・・?ええ?」

 ビール缶をポッケから取り出し、開けた。

「俺だってなあ!これまでどんだけ、つらかったか・・・!ちょっと飲んでいい?なあ飲んでいいんだろシロー!」

 かなり酔っているようだった。














  

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

最新のコメント

この日記について

日記内を検索