新玄関の前、小さな噴水。その直前にトレーラーはさしかかっていた。
隊長は、その1行を見て観念した。
<夫の希望により、蘇生処置を行わず>
時間が止まった。
「わしは。後悔しなかった日などない・・あの女医が死んだことも」
「うわあああああ!」
娘は興奮したのか、ハンドル操作を誤ったのか・・・正気になったとき、すでに噴水を乗り上げていた。車体は竜のように、あちこち折れ曲がった。
ユウは動く歩道を渡り終え、滑走台の手前に来た。
「俺もどうしていいか分からん!けどこのままじゃ、気が済まない!」
「先生!やめろおおおお!」シナジーが後ろから。
ダン!と滑走台の1歩前でジャンプしたと同時に・・・
バアアアン!と新玄関のガラス張りが激しい高音ととともに粉砕された。全てのガラスがいろんな形を伴って・・・重力を無視したように降り注いできた。
「な?」
ユウはすでに、滑走台に着地したちょうどその時。数コンマ秒遅れで、何かクジラのようなものが台の下半分、数メートル分にタックルしてきた。
「ち・・!」
体が浮き、滑走台の下半分にのめりこんだのがトラックの先頭車両ということに気付いたのは・・・さらにその数コンマ秒後。
「わああ!」
慌てて尻もちをつき、両手をついた。ブレーキをかけた格好だが、足がバタバタして固定しない。ツルツルと下へ落ちていく。衝撃は続き、外れかけたフロントガラスとハンドルが直下に見えた。
「ここまで来る?」
ひしゃげた先頭車両は、ねじれた笑顔のように斜め情報へと昇ってくるように思えた。ユウは振り向き、手を斜面に打ち立てた。滑走台の最上縁には・・・
「届かない!」
「さあ!」シナジーが、寝そべって手を差し出した。
「品川!」
ユウの後ろ、大きな爆発音と爆風が轟いた。何が何に引火してそうなったのか考える暇もない。とにかくユウの両足が、もう無くなった覚悟までするしかなかった。
「ひいい!」
「先生!離すな!手を!離すな!」シナジーは目を閉じふんばった。
ドコオオオ!と炎の熱さが現実感として伝わった。ユウは足が・・いや、感覚はある。確認のため振り向いた。足はある。その下方・・・
「あれは!」
運転席ハンドルから上半身をこちらにのめり込む人間・・なのだろう、炎に包まれた黒い影。だが表情は見えた。
「つかまるか?俺の足に!」ユウは小さく呟いた。
「・・・・・・」
その表情は、むしろほほ笑んだような。いや笑ったのか。次第に先頭車両は力なくしたように、その場に沈んでいった。
ズドドド・・・と爆弾の煙のように余韻を残していった。
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