真珠会スタッフがはびこる、一室。事務員が数人いる中、そこへ車椅子の男性が押されて入ってくる。
「もう状態もヒー!良くなったのでヒー!退院したいでヒー!」
「いや、まだです」
足津が後ろに立っていた。みな、同じ方向を向いている。カキン、というバットの音が響いた。
「費用を全額カバーしていただくまで、まだ何年もあります。医療制度にも左右されます」
「えーっ?」
「あなたの帰る家も、抵当に入ってて処分済です。家族も同意してます」
「ヒー・・・」
近くで、会長とおぼしき老人。
「いやあ。さすが足津理事。前もって予測を察知し、売りに転じるとは!」
「そんな気がしたのです。このカンがないと、株はやっていけません」
「第六感という奴ですか!」
足津は、リモコンを押した。すると、幅数メートルのシェードがゆっくり天井にまで上がっていき・・・日差しがモロ部屋に入ってきた。
彼らの前の前に拡がった光景は、広大な野球場だった。ホームベースを見下ろす特等席。おそらくこの階の下あたりで実況中継でもしているのだろう。
会長は、グラスをちょっと傾けた。
「まさか、ここが病院だとは誰も思わんでしょうなあ・・・しかし理事」
「はい?」
カキン!とまたヒットが飛ぶ。
「こちらも医者を、自己退職含めて2人失いました。1人は何とかなりましたがあと1人・・・」
足津はいったん座っていたが、立ち上がった。
「心配ありません!」
バサアアッ、とマントのような白衣が彼を包んだ。
野球場では、あらゆる利権のもとで行われている見世物に、みな酔いしれていた。日本の経済的な大打撃まで、あとわずか。間もなく、2002年も終わろうとしていた。
(完)
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