じいさんを迎えた後、自宅へ戻るワゴン車。後部座席より車椅子を運ぶ。適当先輩は、玄関の前で報告。

「ただいま、戻ってまいりました!」
「ああ。ご苦労」金持ちそうな中年の長男。

みな、応接室でお茶を出される。
長男、やけに気に入った様子。

「いやあ。みな実に頼もしい」
「そんなことないです。当然の義務を果たしただけです」と適当。
「高齢者が増えている。しかしそれを支える家族も要る。君たち医療従事者の役割は、これからも益々大きくなるわけだな」

シンゴが照れた。
「いんやあ。まだ学生で何も学んじゃいません。ただ教養学部ってのが妙に暇で、だったらお先に医療に片足突っ込んどこうって。へへへ」
「こいつ不安なんですよ」適当がからかう。
「いいじゃないの別に!」
「あまりに暇すぎて、ひょっとしてこのまま医者になれないんじゃないかって」
「い、医者じゃなかったらなんだっていうんですか?」
「浮浪者!」

バカ井が眉をしかめた。
「やめてください!人の家で!」

長男は寛大だった。
「あっはは・・・!まあいいまあいい。これからも、君らにこの仕事を託したいんだが」バカ井がとっさに喜ぶ。
「送り迎えをこれからも・・・よろしいですか?」ダダン、とみんな土下座。

「(一同)よろしくおねがいいたします!」

家を出て、みなポケットから一斉にお年玉袋のようなものを開ける。
サトミが立ち止まった。
「やだ・・・どうする?」

札が3枚。各自。シンゴは思わず落とし、必死で拾った。
「やべえよ。千円札ならともかくとして」
「万札・・・」適当が豪邸を振り返った。
「ま!裕福そうな家だし。もらっといてやろうか!うん!」

バカ井は、兄の説教話を思い出した。
「心が満たされないって人は・・・」
「はぁ?」適当が反応。
「いえ。金で満たされてる人って先輩。心は意外と」
「金で人生満たされりゃあ。心だって満たされるだろうよ」
「なんかあの家。僕はあまり幸福っていう雰囲気を感じないんです」
「なんでだよ。じいさんがあれだけ優遇されてんだ。うまくいってるに違いないだろうが。ひがむな」

サトミも札を戻しつつ冷笑した。
「医者が疑っていいのは、病気のことだけじゃないの?」

バカ井だけ立ち止まり、数歩後ろに。適当が振り向く。
「おい。お前だけ置いてくぞ」

「そ、そうなのかな。幸せって、そういうものなのかな」
「なに?」
「金があって。施設があって。家族は人任せで。一見うまくいってるけど。じいさん、ほんとは家族のもとにいたいんじゃないかな」
「家族にも事情があんだろうが」
「でも。でも。家で面倒見れる方法ってあると思うけど。僕はやだな。幸せって便利なことじゃないと思うんだけど」

シンゴは札をふりかざした。
「まあいいことよ!金持ちの気持ちに甘えさせていただき、貧しい医学生は本日豪遊させていただくっていうことよ!」

バカ井は両手を振り上げた。
「お金で人生を左右されるのかよ!ああっ!」
勢いで、札が飛んだ。

どこまでも追いかけていくバカ井を見送る林檎たち。シンゴはため息。

「まったくよお。左右どころか縦横無尽だよな」

エエエーーーーッ!リイイイィイーーーー!

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