バカ井が息切れしながら車に乗り込んだ。

「はぁはぁ。降りろ!じゃなかった。このじいさんは、大学病院のOBの先生が、診てくれます」
「OB・・・君の部活動の?」と医師。痛い手首を押さえる。
「ええ。OB会で知り合った先生です。今しがた電話したところです」
「診てくれるのか?」
「怒ってますよ。どんな医者なんだって。親の顔が見たいってね!」
「フン」
「それは嘘ですけど・・・手、大丈夫ですか?」
「取ってつけたように。そんな医療を、君は今後するのだろう。外科的な方面には進まないほうがいい」

ブウ~と、車はカーブを曲がる。

総合病院の救急受付に、太目の医師が1人立っている。
「・・・・きたな!そうとう重症と聞いた!レスピレーターはいいか?」
「はい!」背後に医師が5人。
「バカ井くんという学生の話では、転倒して反応が全くないそうだ」

失語のことを伝えるつもりが、そう伝わっていた。

いきなり車椅子が登場してきた。
「うっ?なにっ?」

 ガラガラ・・・と、その医師の横を通り過ぎた。サトミが救急室のど真ん中に止めた。
「お医者さんでしょ?さっさと診なさいよ!仕事でしょ!」
「してない奴が何を?」迎えた医師がつぶやいた。
「お願いしますよ!」バカ井も走ってきた。
「お、ああ・・・」
「みなさん、しっかりしてくださいよ!気合、入れましょうよ!」

OB医師は、やっと我に戻った。
「あれ?お前」
「やあ!」応えたのは施設のイケメン医師だった。

「どしたんだその手は?」
「彼らに・・・」
「なぬ。こっちのほうが重症だ!」

 じいさんの頭部CTを撮影中。技師らの間に混じっている林檎たち。
 バカ井はのめりこむ。

「うわー!すごい!これで何でも分かるんですか?」
「スペースが広いな。慢硬(慢性硬膜下血腫)術後の既往があるのか。君、知ってる?」と技師。
「えっ?なんですって」
「慢硬だよ!マンコウ!」
「知ってても。経験がないから。知ってないようなもんだし」

 適当先輩はその頃、別の棟を目指していた。留年がかかった試験に間に合うためだ。

「間に合え!はっ!はっ!間に合え!」

しかし、時間は無常にも予定を過ぎようとしていた。






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