じいさんは長男の家に戻り、林檎らも応接室に招かれた。

 怒りのいったんおさまった長男がしばらく沈黙している。誰も口を出そうとしない。瞑想にふける林檎ら。するとシンゴが・・

「あー」

 ダイバダッタ、いやアクビだった。

「ま。このまま時間がすぎてもしようがない」と長男。
「・・・・・申し訳ありません」バカ井も皆も、頭を下げ続けた。

「だがな。うちの父親が軽症だったとはいえ、独断で暴走した君らの責任も大きいぞ」
「はい!」
「しかも、お世話になっている施設のドクターの手まで潰しおって」

シンゴは上半身を起こした。
「で、ですが!」
「なんだ?」
「分かってください!こちらも・・・じいさ、いやあの方のことを心配してとった行為なんです。ふつうじゃなかったし」
「なにが?」
「いや何がって・・・あの先生の対応とか。軽いっていうか。それでいいのかお前っていうか」
「そんなことないだろう!君らより遥かに経験の多い先生だ!口を慎まないか口を!」

バカ井も我慢を越えた。
「それにですね。後ろでちょっと落ち込んでます、適当先輩なんですが」
「ふん?」
「実は試験があったんです。ところが今回のことで間に合わなくて」
「私の父親の責任というのか!」
「じゃなくて!どうして丸くする方向にいかないのかなあもう!」

 大人って、それそのものが嫌がらせな存在だ・・・!バカ井はそう思った。

帯を締め直し、長男は見下げた。
「それで試験に落ちただと?単にお粗末な、自分の責任じゃないか」
適当は起き上がろうとしたが、皆が押さえ込んだ。

みな、話の核から外れていた。

「はなせ!はなせったら!」振りほどく。
「負け犬はな。負けを認めんから負け続けるんだ!」と長男。
「オレが負け犬ですか」
「・・・・」
「認めたら、勝てるとでもいうんですか」
「・・・・」
「惨めなだけだ。そんな人生」

ダッ!と駆け出す適当。もう夜中の2時。

「・・・君らも、もう帰りたまえ。そして2度と来なくていい」と長男諦め顔。

 みな、1人ずつ帰っていく。バカ井は自営業の家に戻った。
 長男がやはり起きて待っていた。

「何してたんだ!」
「・・・・・」
「母ちゃんに、わけ説明しろ!わけを!」
「兄さんはいいよな。ここで同じことの繰り返しで」
「なに?自営業だから仕方ないだろが」
「僕らはね。契約や取引きの世界じゃない。人間を治すために、幸せにするために手助けするんだ」
「ああそうですか。お医者さん」テンション低めに。
「その気持ちをね兄さん。踏み潰す人間もいるんだよ」
「何があったなあ。何があったんだ!女か?女なんだな!」
「話しても分からないよ!」
「おい行くな!」
「行くよ!勝手だろ!」
「上には!」

ドンドン・・と2階へ駆け上がっていく。
「うわあああ!」

ふとんにそのままダイビングすると

ガツン。と星が散らばった。

「あいたたた・・・」
母親が頭を抱えて起きてきた。

「か、かあさんじゃないか!」

後ろで呆然とする兄。
「遅かったか・・・」

母親は頭をさすった。
「おうおう!息子に殺される殺される!」
「かあさん・・・」

人の痛みが今ひとつわかってないバカ井であった。

エーーーーーッ!リイイイィーーーーーッ!


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