⑰ アドリブ、できますか?
2010年4月30日 連載中産階級っぽいが高級新築の2階建て。勉強部屋をいつもより下から見上げているコナン坊。いや、視界には勉強机でなく、高齢者といってお世辞ないオバサンが睨みを利かしていた。
「僕まで・・・?はぁ」
バカ井は納得いかぬまま、教え子とともに正座させられていた。オバサンはたんたんと説教する。
「そんなの。社会人になってから読むもんじゃ。ったくこんな本読みくさって・・・」
パラパラ、と過激な描写がのぞく。
「おーいやおーいや!なんでもう男は・・・」
コナン坊、一生の不覚であった。いつもは親が帰る前に塾から戻っていた。塾での放課後に、つい夢中になりすぎた。
「・・・・・?」コナン坊が気付くと、バカ井は居眠りしている。
「兄ちゃんよ。塾で何を教えとんねや」オバサンは八つ当たりする。
「グー・・・」
「寝とんかい?」
顎を持ちかけたところ・・・
「寝てません!失礼な!」とドラ声。
「ぐわっ!」おばさんは飛びのいた。
ドラ声はバカ井の童顔からかけはなれたものだった。
「お母さん。エロ本エロ本と世間は言いまずが」
「はい?」
「実は我々の大学での教材として!あ利用するごどもあるのでず」
「はぁ?ところでおたく、学部どこでんの?」
「失礼な!これでも医学部のフン!はしくれです!ときた!」
もちろん、コナン坊の変声器によるものだ。
オバサンの表情が反転180度した。
「はれまあ!いつもお世話になりますへぇへぇ!」
コナン坊は、そんな母が悲しかった。
「オイオイ・・・なんだよその態度の変わりようは」
「これ!何ニヤニヤしとる!」
「げっ」
「そんな表情で、女の裸見てんのか!」
「(へへ・・・ついでにヨダレ垂らせってか)」
「お母さん!で、続きですが」ドラ声。コナン坊、多忙。
「はいはい」
「わたくし、将来産婦人科を目指しておりまして。ただ今は教養学部という、医学の勉強にこれから携わる身」
「ほうほう」
「息子さんの学力は完璧です。彼が医学部を目指しているのをお聞きして感嘆し、私の勉強教材の一部をお貸しした次第であります」
オバサン、しげしげと本をめくる。
「そー考えたらほんま、よーできた体やわい」
「そうなのです。病気を学ぶためには、どうしても健康な体から学ばんといけません。そのためにはどうしても、若い娘の体が必要なのです」
「なるほど・・・」
「だからといって、本物に手を出すのはそれこそ犯罪」
「塾女やったら、寂しいんが1人ここにおんのに」
「(やめろってんだよ・・・!)」
バカ井はずっと眠っている。
「なら、モデルの質も良く症例も豊富な本が手っ取り早く、また入手がしやすいのです」
「そうか。そう言えばいいものを」
「それを息子さんは、今日お伝えする予定だったのです」
「わしがヒト先前に見つけたもんで、もめてしまったわげか」
オバサン、あんたはどこの方言だ。
バカ井は目覚めだした。
「う、う~ん・・・」
「先生。ねぇ先生」コナン坊が揺り起こす。
「うう・・」
「持ってきた本は、持ってかえってくれなきゃ先生」
「え?」
コナン坊は、バカ井の抱えた袋にエロ本を次々と詰めていった。
「じゃあ先生。もう帰りなよ」
「え?ああ」
オバサンはずっかりバカ井を気に入り、玄関まで見送った。
「先生。これからも息子をよろしくおねげぇします」
「じゃあねー!バタン!」
玄関の電気がフッと消えた。
「・・・・・・そっか。説教。終わったんだな」
くるっと振り返ると街灯のみ。近くの電柱の横に少女が立っている。
「・・・先生」
「君!カイバラ君!塾やめて以来だね!」
「情報あげる。先生が介護してたおじいさんがね」
「あぁ」
「実は・・・」
ヒソヒソ、と視聴者には聞こえず。
バカ井は青ざめ、カバンごとのけぞった。
「エエエーーーーーッ?」
ドサドサドサドサ・・・・・・・(エロ本が次々落ちる音)
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