師長が根に持ち、仕返しをしてくる。

「ヤン先生。いつも苦情の患者さんが、先生に話を聞きたいと」

「異常がないのに、退院してくれないんだよ。保険が狙いさ」

「はぁ。ここにいらしてますが」

 見るからに風体の悪い患者。

「おいヤン先生。これだけ検査をして分からないのに。だるさは変わらん」

「大学病院に紹介するか、通院で」

「バカ野郎!だるさのせいで自由が利かん俺の、この患者の権利を!」

「この前も、外泊してたじゃないですか。それも無断で」

「俺が・・仮病だとでも言うのか?あそこの助手先生はな!納得するまでここにいていいってな!」

「金でも渡したか・・いや何でもない」

「入院は延長だ!」

「わかった。ではこうしよう。1つお願いがあるんだが・・・」

「何だ?」

「あなたの所属する保険会社に面会しなくてはならない。それが条件だ」

「保険屋に?」

「ああそうだ。保険会社には、長期の入院になるその訳を説明しなくちゃいけない」

「そんな決まりが?」

「あるさ。だって主治医だからね」

「うぐ・・」

「主治医であるからにはまず本当のことを話さないとね。外泊歴や・・・」
すっと、白衣から携帯電話。

「すべての言動をね」

「なに?これまでの会話を・・・?」

「その上で、あちらが面倒見てくれるか協議しよう」

「わわ、わかった・・・!くそ!」

 
ヤン医師は立ち上がった。
「あなたにも患者の権利があるように、こちらにも医師としての権利がある。お互い人としての礼儀を忘れんことだ」

 患者は帰っていく。師長が怒る。
「あ~らあの人。明日から働かなきゃいけないなんて。先生も厳しすぎること」

「働くこともまた、人の権利だ。人はいきなり砂漠へ放り出される。世の中そう甘くはないさ。で、そこでどう選択するかどうかが、その人間の価値でもある。そこからは、医師のテリトリーではない」

 携帯をしまう。
「あいにく、録音の録音のしかたは知らんのでね」

 カッコ過ぎるよ!ヤン先生!

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