(続き)

2012年12月25日 連載
 いくつもの内視鏡がつりさげられ、その奥の闇にいる。所見を書いている。その間、ナースによる準備中。内視鏡や放射線を手伝うナースには、特別な手当てが・・・こっそり出ていた。だからこそ出来る人間が、より出来る。

「先生。次の方準備できました」
「はいよ」立ち上がり近くの超音波を見るが・・・

「なんだよ。やっさん、まだ来てないのかよ?」
「先生。患者様がお待ちですので」中年ナースは慇懃というくらい患者の執事だった。

「このスプレー・・・つまってないか?シュッシュッ」
「先生それはあちらで。患者様にかかりますので」

「この患者さんは、ピロリは調べるのか・・・?主治医、書いてないな。あ。おれだ」
「先生。患者様に聞こえますので」

観察開始。胃カメラは、鼻からの希望が多くなってきた。ただそれが、より楽だとは限らないんだが。

「・・・ちょっと食べてるだろ。これ。なぁ?」
「先生。患者様に聞こえますので」
「いやいや、その・・・」
「先生。患者様がお気になさりますので」

はいはい・・・しかし、やっさんはまだ来てない。いつもだが、遅刻の常習医師だ。50代で、体力がどうとかぬかしているが、足を引っ張られるのは耐えられない。

いや、普段はなんとかなる。人手の足りない事態だと・・・そうだ。院長のダンもだ。彼は午後いきなり帰ることから「早引きダン」「消失ダン」とか呼ばれていた。

胃の内部を観察。

「ほんと、俺も潰瘍あるんじゃないかな・・・」
「先生。患者様が」
「はいはい!聞こえていらっしゃいますな!以上!」

1本釣りのように、引き抜いた。だが、よく寝ている。鎮静剤がよく効いておる。
一方、横のエコー室にはカルテがたまっている。しかし・・・

「先生。患者様がこんなにお待ちです」とさっきのナース。
「うげっ。そっちへテレポートか?」
「入っていただきます」
「所見を書かなきゃ・・・!」
「患者様がお脱ぎの間に、なるべく速くお願いします」
「ああ」

PHSが鳴る。
「はい?急変?フリーがいるだろ?間宮が・・・明け?それがどうした?」
検査に入る。

その頃、医局からバン!と間宮が飛び出した。
「大変だ。大変だ!」
落ちかけた聴診器を、瞬時で拾う。

途中、外来休憩のダンがすれ違う。
「何か?手伝おうか?」
「あ、いけます!」小走りにやっと。

詰所では、1人のナースが心マッサージ。
「先生!巡回したら、もう息が止まってて・・・」
「どこまで?」
「は?」
「どこまでする人?」
「フルコースです。ご家族は、あらゆる処置を希望です」

間宮はの慌ては止まらなかった。アンビューを渡され、何度も換気、が80代女性は冷たいままだ。

「誰の患者?」
「山崎先生です」
「病名は?」
「ちょっと・・・見てきます」
「まってよ!どこ行くの!」

いや、そのナースは実は・・・
すぐ近くで電話。
「山崎先生!やっぱり来て!」

マッサージの横で、間宮はふと感づいた。
「やっぱり、って・・・何?」

やっぱり、って・・・やっぱりコイツダメだって・・・こと?

現れたのは、ダンだった。
「挿管チューブを・・・ははは。私の背中にあればなぁ」
と、彼は僕を皮肉った。

「間宮くん。変わろう」
「自分が・・・」
「やるよ。誰がやるかは、問題じゃない。さ」

間宮は退いた。
「あ・・お願いします」
「・・・・よし。揉んで。ナース。家族をここへ」

間宮は廊下まで後ずさり、ぽかんとしたまま後ろ壁を探した。ふと、冷たい壁に当たる。
「・・・・・・・・」

何を考えていたかは不明だが。正直周囲の者にとっては、彼女の以前の輝かしい経歴を聞いたら・・・今の彼女をむしろ疑うだろう。

ダンが出てきた。
「なぁに。少しずつ覚えておけばいいんだよ。誰かは近くにいる。何もかも、1人でやろうとしないことだ。彼氏の教えかい?」

「え?彼氏じゃありません!」
「ユウは、この病院で1人で切り盛りしていた頃もあったからね。軍人みたいなのを養成したいのも、分かる気もする。がね~・・・ははは」

彼の気持ちもわかってくれ、ということなのだろうか・・・。彼女はもちろん違和感を感じている。なにせ同僚だった医師から、今は指導をされている立場にあるためだ。30代で、いまさら患者に張りつけと言われても、ついていけない。とも言いにくい。

ダンが診た患者のことも考えるのに疲れ、医局へ戻った。

「ふう!」ドカン、とソファに沈んだ。

「お」近くにやっさんが、コーヒーを飲んで立っている。
「おはようございます」
「明けか。お疲れさん」
「今日は検査係ですか?」
「ユウがまたあのバカ、怒ってるらしいな・・・」

この老犬には、どこかバブルの余裕があった。

「ま、やらしとけ、やらしとけ・・・」
じいさんは、未だ行く姿勢がない。

「間宮くん。もう帰りなさい」
「え。でも」
「当直の明けだから、いいんだよ。あとはわしらが、やっとく」
「・・では、院長を通して」
「ダンは旧友だから。言っておく」
「すみません・・・」

あっさり間宮が引き上げようとしたとき、やっさんはカップを置いた。
「ユウは、また救急を取り始めるとか・・・?」

「えっ?・・・・いや何も、聞いてませんが」
「・・・・・・・・・」

間宮は外に出て、ロッカーをガツンと開けた。ロッカーの中は、今の自分の心のように息苦しい。

「・・・・・・・いきりやがって」
はっとなり、見回した。誰もいない。地獄耳もいない。

するとすぐ割り切った表情で、ファッションで彼女は着こなした。白衣は籠に入っていた。
ピリリ!とまた誰かのPHSが。いや自分のかもしれない。

彼女は小さく医局のドアに礼をした。一歩、一歩、非常階段。いろいろすれ違うも、他人とされて気づかれてない。

駐車場。かつてここで、救急患者がどれだけ運ばれたか。バトルがあったか。真田病院はついこの前、救急を取り下げたばかりだ。

つかの間の、平和だった。

<白夜行>ふうに言うと・・・

なあ、間宮。

そのあとの事はすべて。

俺のせいだと言うのか・・・。

(♪)


遅い電車の ドアにもたれて

逃げる街の灯り見つめてた

がんばりすぎよ 仕事仲間の

心配顔 平気と笑って

毎日降りる駅を出て

ヒールの音がついてくる

ただなんでもないあの曲り角で

急に涙がこぼれた

Single Girl わたし 淋しかったんだ

自分でも気づかなかった

Single Girl わたし 泣きたかったんだ

正直にあなたの胸で

逢わないでいたら終わるって

信じてもないくせに



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