いくつもの内視鏡がつりさげられ、その奥の闇にいる。所見を書いている。その間、ナースによる準備中。内視鏡や放射線を手伝うナースには、特別な手当てが・・・こっそり出ていた。だからこそ出来る人間が、より出来る。
「先生。次の方準備できました」
「はいよ」立ち上がり近くの超音波を見るが・・・
「なんだよ。やっさん、まだ来てないのかよ?」
「先生。患者様がお待ちですので」中年ナースは慇懃というくらい患者の執事だった。
「このスプレー・・・つまってないか?シュッシュッ」
「先生それはあちらで。患者様にかかりますので」
「この患者さんは、ピロリは調べるのか・・・?主治医、書いてないな。あ。おれだ」
「先生。患者様に聞こえますので」
観察開始。胃カメラは、鼻からの希望が多くなってきた。ただそれが、より楽だとは限らないんだが。
「・・・ちょっと食べてるだろ。これ。なぁ?」
「先生。患者様に聞こえますので」
「いやいや、その・・・」
「先生。患者様がお気になさりますので」
はいはい・・・しかし、やっさんはまだ来てない。いつもだが、遅刻の常習医師だ。50代で、体力がどうとかぬかしているが、足を引っ張られるのは耐えられない。
いや、普段はなんとかなる。人手の足りない事態だと・・・そうだ。院長のダンもだ。彼は午後いきなり帰ることから「早引きダン」「消失ダン」とか呼ばれていた。
胃の内部を観察。
「ほんと、俺も潰瘍あるんじゃないかな・・・」
「先生。患者様が」
「はいはい!聞こえていらっしゃいますな!以上!」
1本釣りのように、引き抜いた。だが、よく寝ている。鎮静剤がよく効いておる。
一方、横のエコー室にはカルテがたまっている。しかし・・・
「先生。患者様がこんなにお待ちです」とさっきのナース。
「うげっ。そっちへテレポートか?」
「入っていただきます」
「所見を書かなきゃ・・・!」
「患者様がお脱ぎの間に、なるべく速くお願いします」
「ああ」
PHSが鳴る。
「はい?急変?フリーがいるだろ?間宮が・・・明け?それがどうした?」
検査に入る。
その頃、医局からバン!と間宮が飛び出した。
「大変だ。大変だ!」
落ちかけた聴診器を、瞬時で拾う。
途中、外来休憩のダンがすれ違う。
「何か?手伝おうか?」
「あ、いけます!」小走りにやっと。
詰所では、1人のナースが心マッサージ。
「先生!巡回したら、もう息が止まってて・・・」
「どこまで?」
「は?」
「どこまでする人?」
「フルコースです。ご家族は、あらゆる処置を希望です」
間宮はの慌ては止まらなかった。アンビューを渡され、何度も換気、が80代女性は冷たいままだ。
「誰の患者?」
「山崎先生です」
「病名は?」
「ちょっと・・・見てきます」
「まってよ!どこ行くの!」
いや、そのナースは実は・・・
すぐ近くで電話。
「山崎先生!やっぱり来て!」
マッサージの横で、間宮はふと感づいた。
「やっぱり、って・・・何?」
やっぱり、って・・・やっぱりコイツダメだって・・・こと?
現れたのは、ダンだった。
「挿管チューブを・・・ははは。私の背中にあればなぁ」
と、彼は僕を皮肉った。
「間宮くん。変わろう」
「自分が・・・」
「やるよ。誰がやるかは、問題じゃない。さ」
間宮は退いた。
「あ・・お願いします」
「・・・・よし。揉んで。ナース。家族をここへ」
間宮は廊下まで後ずさり、ぽかんとしたまま後ろ壁を探した。ふと、冷たい壁に当たる。
「・・・・・・・・」
何を考えていたかは不明だが。正直周囲の者にとっては、彼女の以前の輝かしい経歴を聞いたら・・・今の彼女をむしろ疑うだろう。
ダンが出てきた。
「なぁに。少しずつ覚えておけばいいんだよ。誰かは近くにいる。何もかも、1人でやろうとしないことだ。彼氏の教えかい?」
「え?彼氏じゃありません!」
「ユウは、この病院で1人で切り盛りしていた頃もあったからね。軍人みたいなのを養成したいのも、分かる気もする。がね~・・・ははは」
彼の気持ちもわかってくれ、ということなのだろうか・・・。彼女はもちろん違和感を感じている。なにせ同僚だった医師から、今は指導をされている立場にあるためだ。30代で、いまさら患者に張りつけと言われても、ついていけない。とも言いにくい。
ダンが診た患者のことも考えるのに疲れ、医局へ戻った。
「ふう!」ドカン、とソファに沈んだ。
「お」近くにやっさんが、コーヒーを飲んで立っている。
「おはようございます」
「明けか。お疲れさん」
「今日は検査係ですか?」
「ユウがまたあのバカ、怒ってるらしいな・・・」
この老犬には、どこかバブルの余裕があった。
「ま、やらしとけ、やらしとけ・・・」
じいさんは、未だ行く姿勢がない。
「間宮くん。もう帰りなさい」
「え。でも」
「当直の明けだから、いいんだよ。あとはわしらが、やっとく」
「・・では、院長を通して」
「ダンは旧友だから。言っておく」
「すみません・・・」
あっさり間宮が引き上げようとしたとき、やっさんはカップを置いた。
「ユウは、また救急を取り始めるとか・・・?」
「えっ?・・・・いや何も、聞いてませんが」
「・・・・・・・・・」
間宮は外に出て、ロッカーをガツンと開けた。ロッカーの中は、今の自分の心のように息苦しい。
「・・・・・・・いきりやがって」
はっとなり、見回した。誰もいない。地獄耳もいない。
するとすぐ割り切った表情で、ファッションで彼女は着こなした。白衣は籠に入っていた。
ピリリ!とまた誰かのPHSが。いや自分のかもしれない。
彼女は小さく医局のドアに礼をした。一歩、一歩、非常階段。いろいろすれ違うも、他人とされて気づかれてない。
駐車場。かつてここで、救急患者がどれだけ運ばれたか。バトルがあったか。真田病院はついこの前、救急を取り下げたばかりだ。
つかの間の、平和だった。
<白夜行>ふうに言うと・・・
なあ、間宮。
そのあとの事はすべて。
俺のせいだと言うのか・・・。
(♪)
遅い電車の ドアにもたれて
逃げる街の灯り見つめてた
がんばりすぎよ 仕事仲間の
心配顔 平気と笑って
毎日降りる駅を出て
ヒールの音がついてくる
ただなんでもないあの曲り角で
急に涙がこぼれた
Single Girl わたし 淋しかったんだ
自分でも気づかなかった
Single Girl わたし 泣きたかったんだ
正直にあなたの胸で
逢わないでいたら終わるって
信じてもないくせに
「先生。次の方準備できました」
「はいよ」立ち上がり近くの超音波を見るが・・・
「なんだよ。やっさん、まだ来てないのかよ?」
「先生。患者様がお待ちですので」中年ナースは慇懃というくらい患者の執事だった。
「このスプレー・・・つまってないか?シュッシュッ」
「先生それはあちらで。患者様にかかりますので」
「この患者さんは、ピロリは調べるのか・・・?主治医、書いてないな。あ。おれだ」
「先生。患者様に聞こえますので」
観察開始。胃カメラは、鼻からの希望が多くなってきた。ただそれが、より楽だとは限らないんだが。
「・・・ちょっと食べてるだろ。これ。なぁ?」
「先生。患者様に聞こえますので」
「いやいや、その・・・」
「先生。患者様がお気になさりますので」
はいはい・・・しかし、やっさんはまだ来てない。いつもだが、遅刻の常習医師だ。50代で、体力がどうとかぬかしているが、足を引っ張られるのは耐えられない。
いや、普段はなんとかなる。人手の足りない事態だと・・・そうだ。院長のダンもだ。彼は午後いきなり帰ることから「早引きダン」「消失ダン」とか呼ばれていた。
胃の内部を観察。
「ほんと、俺も潰瘍あるんじゃないかな・・・」
「先生。患者様が」
「はいはい!聞こえていらっしゃいますな!以上!」
1本釣りのように、引き抜いた。だが、よく寝ている。鎮静剤がよく効いておる。
一方、横のエコー室にはカルテがたまっている。しかし・・・
「先生。患者様がこんなにお待ちです」とさっきのナース。
「うげっ。そっちへテレポートか?」
「入っていただきます」
「所見を書かなきゃ・・・!」
「患者様がお脱ぎの間に、なるべく速くお願いします」
「ああ」
PHSが鳴る。
「はい?急変?フリーがいるだろ?間宮が・・・明け?それがどうした?」
検査に入る。
その頃、医局からバン!と間宮が飛び出した。
「大変だ。大変だ!」
落ちかけた聴診器を、瞬時で拾う。
途中、外来休憩のダンがすれ違う。
「何か?手伝おうか?」
「あ、いけます!」小走りにやっと。
詰所では、1人のナースが心マッサージ。
「先生!巡回したら、もう息が止まってて・・・」
「どこまで?」
「は?」
「どこまでする人?」
「フルコースです。ご家族は、あらゆる処置を希望です」
間宮はの慌ては止まらなかった。アンビューを渡され、何度も換気、が80代女性は冷たいままだ。
「誰の患者?」
「山崎先生です」
「病名は?」
「ちょっと・・・見てきます」
「まってよ!どこ行くの!」
いや、そのナースは実は・・・
すぐ近くで電話。
「山崎先生!やっぱり来て!」
マッサージの横で、間宮はふと感づいた。
「やっぱり、って・・・何?」
やっぱり、って・・・やっぱりコイツダメだって・・・こと?
現れたのは、ダンだった。
「挿管チューブを・・・ははは。私の背中にあればなぁ」
と、彼は僕を皮肉った。
「間宮くん。変わろう」
「自分が・・・」
「やるよ。誰がやるかは、問題じゃない。さ」
間宮は退いた。
「あ・・お願いします」
「・・・・よし。揉んで。ナース。家族をここへ」
間宮は廊下まで後ずさり、ぽかんとしたまま後ろ壁を探した。ふと、冷たい壁に当たる。
「・・・・・・・・」
何を考えていたかは不明だが。正直周囲の者にとっては、彼女の以前の輝かしい経歴を聞いたら・・・今の彼女をむしろ疑うだろう。
ダンが出てきた。
「なぁに。少しずつ覚えておけばいいんだよ。誰かは近くにいる。何もかも、1人でやろうとしないことだ。彼氏の教えかい?」
「え?彼氏じゃありません!」
「ユウは、この病院で1人で切り盛りしていた頃もあったからね。軍人みたいなのを養成したいのも、分かる気もする。がね~・・・ははは」
彼の気持ちもわかってくれ、ということなのだろうか・・・。彼女はもちろん違和感を感じている。なにせ同僚だった医師から、今は指導をされている立場にあるためだ。30代で、いまさら患者に張りつけと言われても、ついていけない。とも言いにくい。
ダンが診た患者のことも考えるのに疲れ、医局へ戻った。
「ふう!」ドカン、とソファに沈んだ。
「お」近くにやっさんが、コーヒーを飲んで立っている。
「おはようございます」
「明けか。お疲れさん」
「今日は検査係ですか?」
「ユウがまたあのバカ、怒ってるらしいな・・・」
この老犬には、どこかバブルの余裕があった。
「ま、やらしとけ、やらしとけ・・・」
じいさんは、未だ行く姿勢がない。
「間宮くん。もう帰りなさい」
「え。でも」
「当直の明けだから、いいんだよ。あとはわしらが、やっとく」
「・・では、院長を通して」
「ダンは旧友だから。言っておく」
「すみません・・・」
あっさり間宮が引き上げようとしたとき、やっさんはカップを置いた。
「ユウは、また救急を取り始めるとか・・・?」
「えっ?・・・・いや何も、聞いてませんが」
「・・・・・・・・・」
間宮は外に出て、ロッカーをガツンと開けた。ロッカーの中は、今の自分の心のように息苦しい。
「・・・・・・・いきりやがって」
はっとなり、見回した。誰もいない。地獄耳もいない。
するとすぐ割り切った表情で、ファッションで彼女は着こなした。白衣は籠に入っていた。
ピリリ!とまた誰かのPHSが。いや自分のかもしれない。
彼女は小さく医局のドアに礼をした。一歩、一歩、非常階段。いろいろすれ違うも、他人とされて気づかれてない。
駐車場。かつてここで、救急患者がどれだけ運ばれたか。バトルがあったか。真田病院はついこの前、救急を取り下げたばかりだ。
つかの間の、平和だった。
<白夜行>ふうに言うと・・・
なあ、間宮。
そのあとの事はすべて。
俺のせいだと言うのか・・・。
(♪)
遅い電車の ドアにもたれて
逃げる街の灯り見つめてた
がんばりすぎよ 仕事仲間の
心配顔 平気と笑って
毎日降りる駅を出て
ヒールの音がついてくる
ただなんでもないあの曲り角で
急に涙がこぼれた
Single Girl わたし 淋しかったんだ
自分でも気づかなかった
Single Girl わたし 泣きたかったんだ
正直にあなたの胸で
逢わないでいたら終わるって
信じてもないくせに
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