午後の医局。外来が終わるのは昼すぎて当たり前。病院じゃ珍しくない。長年居るほど患者は増えて、新患も追加される。病棟の受け持ちも増える。それだけ役割が増えている・・・と思えば、窮屈でもない。キャパ超えて音を上げるなど、高給取りの資格はない。

 「今日の午前の検査は多かったな~・・ダンは滑り込みで入れてくるし」
「ダン、まだ外来っすか」と山崎。お互いがソファで向かい合っている。

「急変。お前の患者であったろ?」
「ええ。呼吸停止で。痰、詰めたんじゃないかって思うんですけど。88歳ですからね。もういいんじゃないかって。家族、ろくに来ないのに」
「家族、ほんと来ないご時世だなぁ・・・」

不景気の影響もあると思われる。仕事がそう簡単に休めない。

「で?」
「ダンが診てくれました」
「へー。礼、言わなきゃ。間宮は?」

山崎は手振りで<全然>。

「そっか・・・あれだけ、積極的にやれって言ってんのに」
「もとは救急やってたのにですよ?もうボケたんですか?それで・・・」

何か聞きたそうだ。
「それで、僕らと同じ給料だったら、許しませんよオレ!」

気まずいタイミングで、事務長がやってきた。

「おーおーおー。時間外として、その給料から引いとかんと、いかんな!」
「なんだと?」と僕。
「すみません・・・・」

品川は、明細を1枚ずつ配った。
「持ってけー・・・へへへ。持ってけー・・・ははは」
あちこちの机の上にも置いていく。

僕は立ち上がった。
「病棟、そろそろ行くか!いったん!」


(♪)
Realize 感じてる
移りゆく悲しみさえ
变わらない時の中で
記憶の海へといつか流れる

二度と戻らないと
あきらめていた人と
思いもよらぬことで
また会えることがある
きっと同じ場所に
いられることだけを
信じていたから
Realize わかってる
さだめなどありはしない
变わらない真実なら
未来はいつでも变えられるもの

(終)


コンコン、とドアノック。
「ほい!」
「失礼しまーす」

頭巾をかぶったオジサンが、ホクホクのラーメンを持ってきた。下の段に、焼き飯。

「ちょうど2000円になりまーす!」
「待って。と、千と、千尋と・・・!」
「ありがとうございましたー!」バタン。

山崎が4枚、ラップをはがす。
「っしゃあ、いただきまショッカー!」
「キー!」と2人で箸を拳上。

ズバズバズバ、ズバズバ・・・こんな勢いで食べていく。

「こんなに速いと、インスリン抵抗性上がりまくるな!」と僕。
「DMっすか?」
「職員健診は問題なかったよ」
「俺もっす」

ズバズバ・・・ズバズバ
焼き飯をレンゲでかき出す。

「点滴が入りにくい患者がいてな。今日もやってみるけど。無理だったら代わってくれる?」
「いいっすよ」
「器用だからな。お前・・・ほんと、内視鏡や管関係はうまいよな」
「それだけみたいな言い方、しないでくださいよー!ははは!」
「間宮にも、教えてやってくれよ!カメラ!」

病棟詰所では、ダンがナースらに囲まれている。

「うん・・・うん。分かる。みなさんが思うのも、ごもっともだ」
「これからはドクターにですね、以上の条件を飲んでいただいて」と高齢師長。
「でもいやはや。このリストは多いねー。要望が」

そのリストには、ナースからドクターへの要望が書いてある。要は、仕事を減らしたいわけだ。

「人手が少ない、救急が多い。そこで僕が院長に就任して、救急の看板を取り下げた」
「はい。それは存じてますが」
「だが」

ダンには決定札があった。

「理事を兼任している立場から言うと」
出た。印籠だ。

「救急を取り下げた分、何かで取り返さなくてはならない」
「ええ・・・」
「民間病院だからね。会社と同じようなもの。僕は社長で、君は美しい副社長だ」
「まっ・・・」少し照れた。女性は年をとっても・・いやいや。

「つまり1つの家族だ。僕が父、君が母。大勢の子供たちの面倒を見なくちゃいけない。親なら、子供のためなら何だってするよね」
「はい・・・」

周囲のナースらが、1人ずつ引き上げていく。

「稼ぎ頭は長男長女たちだ。私の横のジュリアも、私の愛しい娘のようなものだ」
横に、ハーフ系の麗しい女医が立っている。

「彼らによる指示によって、病院の利益が上がり君らの生活も守られる。だがその指示を反映させる者たちがいなくてはならない」

知らない間に、2人だけになっている。

「それが、君たちだ。それを守るのが君の役目だよ。お嬢さん」

師長は顔面の弛緩がよりゆるんだ。ジュリアも少し遅れて微笑んだ。
ダンも、険しい表情がなくなった。

「よし。今日はご褒美に、各病棟にピザを注文しよう。各病棟、Lサイズ5つずつ。合計で40個くらいかな。ジュリア!」
「はい!」ハーフ美女が少し飛び上がった。
「注文を!えーと・・・ピザの内容は。よく分からんのだよなぁ・・・じゃ、ジュリアにちなんで・・・」

「ハーフの、セットですよね!」と女神がほほ笑んだ。

廊下に出たところPHS。ダンは素早く出た。
「救急?いや、うちは救急は今は・・・・そうか」

ピッ、と切った。すぐさま僕へ。

「はい?団先生」
『救急が一方的に入るらしい。君のお友達だろう。たぶん』
「真珠会とは、因縁の仲ですが、友達とは」

ダンは話しつつ、廊下の行きかう人々に礼をふるまった。

「一生の伴侶もいずれは、因縁、そして怨念と呼ばれるものだよ。だがそれを結びつけたのは運命だ。受け入れた運命なら、それを見届けたまえ」

「はいはい。運命に従います」さっさと切った。病棟詰所、山のような指示を加速的に終わらす。
「リーダー。見て。これと・・・これは急ぎ。あとはゆっくり拾ってくれ」

ダッシュで廊下へ。
「トイレ!」

腹痛を催したからだ。




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