「みんな・・みんな、何やってんだ!」
僕は、久しぶりの救急に動悸がしていた。
すでに3台の黒い救急車が、駐車場ど真ん中に居座っている。
「こんなときは、駆けつけてしかるべきだろ?」
誰も答えない。誰もいないからだ。
ジャージの痩せこけたオッサンが、機械的にベッドを運んでくる。
「・・・お願いします」
「おい待て・・待ってくださいよ!紹介状とか情報は?」
「わしの仕事は、運転だけなんで」
次々と、2台。超重症ではなさそうだ。入ってバイタルの確認だ。近くで帰ろうとする総務のオバさんらが見物。
「運ぶのおい!手伝え!」
「・・・・・いやいや医療は私らは」
去っていった。
「去る時だけ若ヅラしやがって!」結局、ロビー近くの診察部屋へ。
最重症は50代とおぼしき男性で、浅黒く倦怠に満ちている。呼吸が速いが肺・心臓とは限らない。脈をみて酸素も大事だが、デキスターの血糖測定。
「点滴、入らんなこの人は。腕のいいナースが要るか」
PHSで看護部長へ。
「救急が1人、いや3人来てる。え?俺が呼んだ?んじゃない!1人でもここへ・・・外来?夜診に入るし手一杯だろ?」
切られた。
「血糖が振り切れてる・・・よほど高いのか。薄めて測るか」
2人目はどうやら、腹痛。
「イレウスっぽいなぁ・・・」
病気は2通り。原因があるか、それ自体が原因か。ダンが言ってた。でももう1つ配慮しろとか言ってたな・・・。そうだ。ダンの野郎。察知しつつも、帰りやがったか。
3人目は呼吸不全だ明らかに。浅くて下顎呼吸っぽい。脈はあるが弱い。
「挿管チューブ・・」
いつも背中にあったが。近くのカートの引き出しから。
「しゃ!アンビュー!点滴はとりあえず・・・入ったと!」
1人目の中心静脈を用意。
「首から・・・ごめんよ!」
1分。
2人目は放射線技師を使ってCTやレントゲンへ。点滴を作る。1・3人目も画像指示。採った採血を分け・・・検査室へTEL。すぐ来る。
とたん、3人目の呼吸器とチューブの接続が外れる。
「うわっ!だがおかしいな・・・」
呼吸器がついたのに、酸素が増えない。
その3人目の動脈血データが戻った。
「これだけ反応がないのは、肺の塞栓とか・・・いやいやまず!」
超音波で確認。
「えらく心臓が押されてるな・・・タンポナーデだ」
ベッドをやや挙上、長い針が突き刺された。チューブ留置へ。
「流出はあるが・・・変わらんか。教科書通りにはいかんな」
1人目は、過血糖でインスリンを開始した。
「待つしかないな」
腹痛はイレウスだ。原因はともかく・・・鼻からチューブ。
「えーッ!これ全部あんたがやったのー?」ジュリアが目を丸くしてやってきた。
「手伝えおい!手伝えよ!」
「なんで心タンポなわけ?」
「知るか!」
「医者呼ぼうよ!」
「お前だって、医者だろが!」
「えーと、既往歴は・・」
「大学のプレゼンじゃねえぞ!そこのデータのみが情報だ!」
遅れて、間宮が到着。
「わあ」
3人、みな管が数本入っている。
「あたしの出番、ないみたいだね・・・」
ちょっとうなだれていた僕は、まだテンションは高かった。
「遅いんだよ!お前ら!」
間宮が、過剰なくらいビクついた。
「わざとかと思ったぞ!こういう事態になれば、事務長から連絡がすぐ入ったはずだ!」
やっさんも来ているが・・はいはい、といった感じ。
「トシ坊がまだいたときは、まだこんなのじゃなかったぞ!おい間宮!聞いてんのか!」
「わわっ・・・うん」
彼女はいつか、幼少時の記憶が蘇っていた。何かの激しい光景の前に立ち尽くし・・・ただただクマの人形を抱きしめていた。
「くそっ・・・!明日、おれダンに言うからな!」
ジュリアが、またムキな顔になる。
呆れた表情の品川事務長が、やっと呟いた。
「も。いいですか?主治医は・・・」
「3人とも、おれ」
「あとは?」
「はぁ?あとだと?」
品川は、外を指差した。みな振り向くと・・・・
ブオオン!と6台の黒い救急車が乗り上げてきた。やっさんは、後ずさり消えた。
僕は、まだ電池はきれなかった。
「お前ら!逃げんなよ・・・!」
間宮のメガネの真下に、1滴の涙が静かに・・・・砕けた。
救急車の運転手が耳に手。音声が入る。塩沢だ。
『搬出したら、速やかに退散せよ。第3陣のこともある』
間宮は、次第に震えだした。
「できない。できない。絶対。できない・・・ありえない・・・」
え?ああ、そうだった。
なあ、間宮・・・自分を助けるヒーローなんていない。自分を助けるのは自分だけだ。なら、自分はヒーローってことだよな。
自分も捨てたもんじゃないってことさ・・・。
(♪)
遅い電車の ドアにもたれて
逃げる街の灯り見つめてた
がんばりすぎよ 仕事仲間の
心配顔 平気と笑って
毎日降りる駅を出て
ヒールの音がついてくる
ただなんでもないあの曲り角で
急に涙がこぼれた
Single Girl わたし 淋しかったんだ
自分でも気づかなかった
Single Girl わたし 泣きたかったんだ
正直にあなたの胸で
逢わないでいたら終わるって
信じてもないくせに
僕は、久しぶりの救急に動悸がしていた。
すでに3台の黒い救急車が、駐車場ど真ん中に居座っている。
「こんなときは、駆けつけてしかるべきだろ?」
誰も答えない。誰もいないからだ。
ジャージの痩せこけたオッサンが、機械的にベッドを運んでくる。
「・・・お願いします」
「おい待て・・待ってくださいよ!紹介状とか情報は?」
「わしの仕事は、運転だけなんで」
次々と、2台。超重症ではなさそうだ。入ってバイタルの確認だ。近くで帰ろうとする総務のオバさんらが見物。
「運ぶのおい!手伝え!」
「・・・・・いやいや医療は私らは」
去っていった。
「去る時だけ若ヅラしやがって!」結局、ロビー近くの診察部屋へ。
最重症は50代とおぼしき男性で、浅黒く倦怠に満ちている。呼吸が速いが肺・心臓とは限らない。脈をみて酸素も大事だが、デキスターの血糖測定。
「点滴、入らんなこの人は。腕のいいナースが要るか」
PHSで看護部長へ。
「救急が1人、いや3人来てる。え?俺が呼んだ?んじゃない!1人でもここへ・・・外来?夜診に入るし手一杯だろ?」
切られた。
「血糖が振り切れてる・・・よほど高いのか。薄めて測るか」
2人目はどうやら、腹痛。
「イレウスっぽいなぁ・・・」
病気は2通り。原因があるか、それ自体が原因か。ダンが言ってた。でももう1つ配慮しろとか言ってたな・・・。そうだ。ダンの野郎。察知しつつも、帰りやがったか。
3人目は呼吸不全だ明らかに。浅くて下顎呼吸っぽい。脈はあるが弱い。
「挿管チューブ・・」
いつも背中にあったが。近くのカートの引き出しから。
「しゃ!アンビュー!点滴はとりあえず・・・入ったと!」
1人目の中心静脈を用意。
「首から・・・ごめんよ!」
1分。
2人目は放射線技師を使ってCTやレントゲンへ。点滴を作る。1・3人目も画像指示。採った採血を分け・・・検査室へTEL。すぐ来る。
とたん、3人目の呼吸器とチューブの接続が外れる。
「うわっ!だがおかしいな・・・」
呼吸器がついたのに、酸素が増えない。
その3人目の動脈血データが戻った。
「これだけ反応がないのは、肺の塞栓とか・・・いやいやまず!」
超音波で確認。
「えらく心臓が押されてるな・・・タンポナーデだ」
ベッドをやや挙上、長い針が突き刺された。チューブ留置へ。
「流出はあるが・・・変わらんか。教科書通りにはいかんな」
1人目は、過血糖でインスリンを開始した。
「待つしかないな」
腹痛はイレウスだ。原因はともかく・・・鼻からチューブ。
「えーッ!これ全部あんたがやったのー?」ジュリアが目を丸くしてやってきた。
「手伝えおい!手伝えよ!」
「なんで心タンポなわけ?」
「知るか!」
「医者呼ぼうよ!」
「お前だって、医者だろが!」
「えーと、既往歴は・・」
「大学のプレゼンじゃねえぞ!そこのデータのみが情報だ!」
遅れて、間宮が到着。
「わあ」
3人、みな管が数本入っている。
「あたしの出番、ないみたいだね・・・」
ちょっとうなだれていた僕は、まだテンションは高かった。
「遅いんだよ!お前ら!」
間宮が、過剰なくらいビクついた。
「わざとかと思ったぞ!こういう事態になれば、事務長から連絡がすぐ入ったはずだ!」
やっさんも来ているが・・はいはい、といった感じ。
「トシ坊がまだいたときは、まだこんなのじゃなかったぞ!おい間宮!聞いてんのか!」
「わわっ・・・うん」
彼女はいつか、幼少時の記憶が蘇っていた。何かの激しい光景の前に立ち尽くし・・・ただただクマの人形を抱きしめていた。
「くそっ・・・!明日、おれダンに言うからな!」
ジュリアが、またムキな顔になる。
呆れた表情の品川事務長が、やっと呟いた。
「も。いいですか?主治医は・・・」
「3人とも、おれ」
「あとは?」
「はぁ?あとだと?」
品川は、外を指差した。みな振り向くと・・・・
ブオオン!と6台の黒い救急車が乗り上げてきた。やっさんは、後ずさり消えた。
僕は、まだ電池はきれなかった。
「お前ら!逃げんなよ・・・!」
間宮のメガネの真下に、1滴の涙が静かに・・・・砕けた。
救急車の運転手が耳に手。音声が入る。塩沢だ。
『搬出したら、速やかに退散せよ。第3陣のこともある』
間宮は、次第に震えだした。
「できない。できない。絶対。できない・・・ありえない・・・」
え?ああ、そうだった。
なあ、間宮・・・自分を助けるヒーローなんていない。自分を助けるのは自分だけだ。なら、自分はヒーローってことだよな。
自分も捨てたもんじゃないってことさ・・・。
(♪)
遅い電車の ドアにもたれて
逃げる街の灯り見つめてた
がんばりすぎよ 仕事仲間の
心配顔 平気と笑って
毎日降りる駅を出て
ヒールの音がついてくる
ただなんでもないあの曲り角で
急に涙がこぼれた
Single Girl わたし 淋しかったんだ
自分でも気づかなかった
Single Girl わたし 泣きたかったんだ
正直にあなたの胸で
逢わないでいたら終わるって
信じてもないくせに
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