(続き)

2013年1月6日 連載
「みんな・・みんな、何やってんだ!」
僕は、久しぶりの救急に動悸がしていた。

すでに3台の黒い救急車が、駐車場ど真ん中に居座っている。

「こんなときは、駆けつけてしかるべきだろ?」
誰も答えない。誰もいないからだ。

 ジャージの痩せこけたオッサンが、機械的にベッドを運んでくる。
「・・・お願いします」
「おい待て・・待ってくださいよ!紹介状とか情報は?」
「わしの仕事は、運転だけなんで」

 次々と、2台。超重症ではなさそうだ。入ってバイタルの確認だ。近くで帰ろうとする総務のオバさんらが見物。

「運ぶのおい!手伝え!」
「・・・・・いやいや医療は私らは」
去っていった。

「去る時だけ若ヅラしやがって!」結局、ロビー近くの診察部屋へ。

 最重症は50代とおぼしき男性で、浅黒く倦怠に満ちている。呼吸が速いが肺・心臓とは限らない。脈をみて酸素も大事だが、デキスターの血糖測定。
「点滴、入らんなこの人は。腕のいいナースが要るか」

 PHSで看護部長へ。

「救急が1人、いや3人来てる。え?俺が呼んだ?んじゃない!1人でもここへ・・・外来?夜診に入るし手一杯だろ?」

 切られた。

「血糖が振り切れてる・・・よほど高いのか。薄めて測るか」
2人目はどうやら、腹痛。
「イレウスっぽいなぁ・・・」

病気は2通り。原因があるか、それ自体が原因か。ダンが言ってた。でももう1つ配慮しろとか言ってたな・・・。そうだ。ダンの野郎。察知しつつも、帰りやがったか。

 3人目は呼吸不全だ明らかに。浅くて下顎呼吸っぽい。脈はあるが弱い。
「挿管チューブ・・」
 いつも背中にあったが。近くのカートの引き出しから。

「しゃ!アンビュー!点滴はとりあえず・・・入ったと!」
1人目の中心静脈を用意。
「首から・・・ごめんよ!」
1分。

2人目は放射線技師を使ってCTやレントゲンへ。点滴を作る。1・3人目も画像指示。採った採血を分け・・・検査室へTEL。すぐ来る。

とたん、3人目の呼吸器とチューブの接続が外れる。
「うわっ!だがおかしいな・・・」
呼吸器がついたのに、酸素が増えない。

その3人目の動脈血データが戻った。
「これだけ反応がないのは、肺の塞栓とか・・・いやいやまず!」
超音波で確認。

「えらく心臓が押されてるな・・・タンポナーデだ」
ベッドをやや挙上、長い針が突き刺された。チューブ留置へ。

「流出はあるが・・・変わらんか。教科書通りにはいかんな」
1人目は、過血糖でインスリンを開始した。
「待つしかないな」

腹痛はイレウスだ。原因はともかく・・・鼻からチューブ。

「えーッ!これ全部あんたがやったのー?」ジュリアが目を丸くしてやってきた。
「手伝えおい!手伝えよ!」

「なんで心タンポなわけ?」
「知るか!」
「医者呼ぼうよ!」
「お前だって、医者だろが!」
「えーと、既往歴は・・」
「大学のプレゼンじゃねえぞ!そこのデータのみが情報だ!」

 遅れて、間宮が到着。
「わあ」
 3人、みな管が数本入っている。
「あたしの出番、ないみたいだね・・・」

 ちょっとうなだれていた僕は、まだテンションは高かった。

「遅いんだよ!お前ら!」
 間宮が、過剰なくらいビクついた。

「わざとかと思ったぞ!こういう事態になれば、事務長から連絡がすぐ入ったはずだ!」

 やっさんも来ているが・・はいはい、といった感じ。

「トシ坊がまだいたときは、まだこんなのじゃなかったぞ!おい間宮!聞いてんのか!」
「わわっ・・・うん」

 彼女はいつか、幼少時の記憶が蘇っていた。何かの激しい光景の前に立ち尽くし・・・ただただクマの人形を抱きしめていた。

「くそっ・・・!明日、おれダンに言うからな!」
ジュリアが、またムキな顔になる。

 呆れた表情の品川事務長が、やっと呟いた。
「も。いいですか?主治医は・・・」
「3人とも、おれ」
「あとは?」
「はぁ?あとだと?」

 品川は、外を指差した。みな振り向くと・・・・

 ブオオン!と6台の黒い救急車が乗り上げてきた。やっさんは、後ずさり消えた。

 僕は、まだ電池はきれなかった。

「お前ら!逃げんなよ・・・!」

 間宮のメガネの真下に、1滴の涙が静かに・・・・砕けた。

救急車の運転手が耳に手。音声が入る。塩沢だ。
『搬出したら、速やかに退散せよ。第3陣のこともある』



 間宮は、次第に震えだした。
「できない。できない。絶対。できない・・・ありえない・・・」

え?ああ、そうだった。

 なあ、間宮・・・自分を助けるヒーローなんていない。自分を助けるのは自分だけだ。なら、自分はヒーローってことだよな。

 自分も捨てたもんじゃないってことさ・・・。



(♪)


遅い電車の ドアにもたれて

逃げる街の灯り見つめてた

がんばりすぎよ 仕事仲間の

心配顔 平気と笑って

毎日降りる駅を出て

ヒールの音がついてくる

ただなんでもないあの曲り角で

急に涙がこぼれた

Single Girl わたし 淋しかったんだ

自分でも気づかなかった

Single Girl わたし 泣きたかったんだ

正直にあなたの胸で

逢わないでいたら終わるって

信じてもないくせに




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