コベンジャーズ 第7話 猫の目
2013年1月21日 連載 真珠会の院長室。8畳はある。院長の塩沢は、パソコンで病床の減少を確認しつつ、もう1つの巨大モニターに見入った。どうやら病床のコントロールが不十分なようだ。機嫌が悪い。眉間にシワ。
「・・・・・・・・・」
巨大モニターに向かって話しかける。その塩沢の声はパソコン通して送られている。
「在院日数を過ぎたような患者は、とりあえず21名。そこが精いっぱいだ」
『お、恩に着るぞ!』モニターのデブ顔がアップで汗ばんでいる。
「渋滞が緩和したとはいえ、真田のスタッフの処理能力は歴然だ。今日はもう、これくらいにしたらどうか」全く冷静な声。
『いや~そうはいかん。奴らが疲弊したところで乗り込むのが俺の計画だ!』
「まだまだのようだが・・・」
真田病院の玄関。12名とも、もうカタがついたようだ。1人はカテーテルへと向かったというスパイからの情報もある。
「私なら患者層を練りに練り、対象患者をしぼるのだが・・・季節柄、良くなかったのでは」
といまさら指摘。
『で。でもだな。お前は知ってるだろう。当院の経営状況を』
「それは理事というオーナーの知るところ。経営側でないものは、ただひたすら労を尽くせばよい」
『まあいい。21台はそのまま直接行かせる。その背後より、俺らも向かう』
「家族のため・・・」
『うぬ?』
「家族のためか。貴官のその焦りは・・・」
『ローンの免除という特典を約束した。何が、何でも・・・』
この山形という男は決して仕事のできない医者ではなかった。しかし経営を知らず、開業した病院が負債を抱え倒産。銀行の信用をかろうじて支えたのが、キャバで知り合ったムラサキだった。
『ムラサキ様あっての、オレなんだよ』
「さようか。なら・・・」
プッ、と画面を消した。
「消えるがよい」
(♪)
Realize 感じてる
移りゆく悲しみさえ
变わらない時の中で
記憶の海へといつか流れる
(閉まるエレベーター。階段を下りるユウに、EVで降りる女医2人)
二度と戻らないと
あきらめていた人と
思いもよらぬことで
また会えることがある
(疾走するユウに、両側から追いつく女医2人)
きっと同じ場所に
いられることだけを
信じていたから
(1・2・3・4ステップ)
Realize わかってるかってる(ジャンプ)
さだめなどありはしないはしない(足から飛行機雲)
变わらないわらない真実なら(たなびく白衣の両翼)
未来はいつでも变えられるもの(大勢)
(終)
真田病院。
残り4人の搬入も結局自分が手伝った。幸い、慣れた症例の範囲内だった。指示を出し病棟へ。
自分は清潔ガウンに着替え終わった。横のやっさんも、ぎこちなく帯を後ろから締められる。
「今度はこの帯か。でもユウ。おれはカテーテルとか経験が」と初老医師。
「穿刺!」無視し、右の上腕動脈。肘のところ。プチッと出血。ススッとワイヤー、パパッとカテ。透視で、カテ先は冠動脈入口へ。
「俺は何をしたらいんだ!」右でやっさん。
「るさい」
「なに!」露出した目のみ円い。
「角度調整!RAO・・やらんかおい!」やっさんの左手をはたく。
「角度のレバー・・こうか?」
「バカ!逆だろ!ああそこ!止まれ!」
「教えてもらわんことには!」
「もういい。どけ!」
モニターと手元、画面を交互に確認。
「造影!」左端上から右下へ延びる冠動脈。
「造影!」
「造影!」
事務員がやってきた。
「2人、急変があると」
「拡張する。ノブナガステント(仮名)、用意して!やっさん!行ってきて!」
やっさんは顔を引きつらせながら、服を脱ぎ捨てようとした。
「俺に命令なんか、するな!」
「しっ!患者様に唾がかかりますので。ステント留置!ST見とけよ!」今のは自分への言葉。いつでも胸部殴打できるよう、手の準備。
おやっさんがゆっくり出る。
「やっさん!走れ!しゃ!造影!」
「あー?」
「もう一カ所!径、測定!」
放射線技師が冠動脈の病変部位をズームし、狭窄部を測定。
「50%程度でしょうか?」
「過少より過大だな。拡張する!しゃ!」ステント拡張。
「造影!よし拡がった!別角度!」現れた不整脈にめがけ、静脈注射。
終了し、止血。
「胸は今もどう?」
「あ、ああ・・・」患者はようやく語りかけてきた。「もう帰れる?」
「だ、ダメだよ!数日はいてもらわんと」
「あんた、ユウキって言うんだろ・・・」
礼を言うべきだろう。
「そ、そうですが」
「む、むこうの院長さんが、そこで診てもらえって」
「紹介状がないんだよなぁ・・・」
「僕の後輩だから、手紙要らんって」
なんだと!知らん医者のくせに!
気づいたが、搬入された患者はみな1割負担だった。生活保護は混じっていなかった。大阪ではかなり確率が高いのだが。
「院長さんに、わしら何度か待ってもらったんだが」
「は?何を?」
もう止血できているようだ。ベルトを巻く。
「返済を待っちくれーって。でも、もう待てんのと」
「返済・・・入院費用?」
「いんや。いろんなリース、いうのを組んでくれたら許すってことだったんだが。そのリースとやらが前倒しになって」
いったい、何のローンを組まされたのか。貸しはがし、という被害にあったようだな。
車いすで、一緒に病棟へ。やっさん、ナースらは病棟の対応に追われているはずだ。近づくにつれ、その慌てぶりがわかる。
「・・・・・?」
ふと、暗い外の窓が気になった。
「今、そこ・・・」呟いた。
「は?」
「こっち見ていた。誰か」
「うん。ま、そりゃ見るだろな」
感謝の念も忘れたように、患者は退屈そうだった。
「あの計算高そうな目・・・」
若い女性だったが、猫のようで不気味だった。デジャブと逆のような感覚だ。
その女性は、近くの電柱に隠れて携帯で話している。およそ病院とは無縁の、派手なドレスだった。ネイルの赤も光っていた。
「明日から?マジで?」
『派遣との契約でそうなっている。今日は帰りたまえ』塩沢院長。
「うっそ。働いてる医者、いるじゃん。あいつ、びくともしてないよ?今日、潰す予定じゃないの?いーの?」
電話は切れた。乱れた長髪が携帯画面に少し乗っかった。
「チッ。でも料金はもらうよ」
手帳に細かく記入。
「・・・・・・・・・」
巨大モニターに向かって話しかける。その塩沢の声はパソコン通して送られている。
「在院日数を過ぎたような患者は、とりあえず21名。そこが精いっぱいだ」
『お、恩に着るぞ!』モニターのデブ顔がアップで汗ばんでいる。
「渋滞が緩和したとはいえ、真田のスタッフの処理能力は歴然だ。今日はもう、これくらいにしたらどうか」全く冷静な声。
『いや~そうはいかん。奴らが疲弊したところで乗り込むのが俺の計画だ!』
「まだまだのようだが・・・」
真田病院の玄関。12名とも、もうカタがついたようだ。1人はカテーテルへと向かったというスパイからの情報もある。
「私なら患者層を練りに練り、対象患者をしぼるのだが・・・季節柄、良くなかったのでは」
といまさら指摘。
『で。でもだな。お前は知ってるだろう。当院の経営状況を』
「それは理事というオーナーの知るところ。経営側でないものは、ただひたすら労を尽くせばよい」
『まあいい。21台はそのまま直接行かせる。その背後より、俺らも向かう』
「家族のため・・・」
『うぬ?』
「家族のためか。貴官のその焦りは・・・」
『ローンの免除という特典を約束した。何が、何でも・・・』
この山形という男は決して仕事のできない医者ではなかった。しかし経営を知らず、開業した病院が負債を抱え倒産。銀行の信用をかろうじて支えたのが、キャバで知り合ったムラサキだった。
『ムラサキ様あっての、オレなんだよ』
「さようか。なら・・・」
プッ、と画面を消した。
「消えるがよい」
(♪)
Realize 感じてる
移りゆく悲しみさえ
变わらない時の中で
記憶の海へといつか流れる
(閉まるエレベーター。階段を下りるユウに、EVで降りる女医2人)
二度と戻らないと
あきらめていた人と
思いもよらぬことで
また会えることがある
(疾走するユウに、両側から追いつく女医2人)
きっと同じ場所に
いられることだけを
信じていたから
(1・2・3・4ステップ)
Realize わかってるかってる(ジャンプ)
さだめなどありはしないはしない(足から飛行機雲)
变わらないわらない真実なら(たなびく白衣の両翼)
未来はいつでも变えられるもの(大勢)
(終)
真田病院。
残り4人の搬入も結局自分が手伝った。幸い、慣れた症例の範囲内だった。指示を出し病棟へ。
自分は清潔ガウンに着替え終わった。横のやっさんも、ぎこちなく帯を後ろから締められる。
「今度はこの帯か。でもユウ。おれはカテーテルとか経験が」と初老医師。
「穿刺!」無視し、右の上腕動脈。肘のところ。プチッと出血。ススッとワイヤー、パパッとカテ。透視で、カテ先は冠動脈入口へ。
「俺は何をしたらいんだ!」右でやっさん。
「るさい」
「なに!」露出した目のみ円い。
「角度調整!RAO・・やらんかおい!」やっさんの左手をはたく。
「角度のレバー・・こうか?」
「バカ!逆だろ!ああそこ!止まれ!」
「教えてもらわんことには!」
「もういい。どけ!」
モニターと手元、画面を交互に確認。
「造影!」左端上から右下へ延びる冠動脈。
「造影!」
「造影!」
事務員がやってきた。
「2人、急変があると」
「拡張する。ノブナガステント(仮名)、用意して!やっさん!行ってきて!」
やっさんは顔を引きつらせながら、服を脱ぎ捨てようとした。
「俺に命令なんか、するな!」
「しっ!患者様に唾がかかりますので。ステント留置!ST見とけよ!」今のは自分への言葉。いつでも胸部殴打できるよう、手の準備。
おやっさんがゆっくり出る。
「やっさん!走れ!しゃ!造影!」
「あー?」
「もう一カ所!径、測定!」
放射線技師が冠動脈の病変部位をズームし、狭窄部を測定。
「50%程度でしょうか?」
「過少より過大だな。拡張する!しゃ!」ステント拡張。
「造影!よし拡がった!別角度!」現れた不整脈にめがけ、静脈注射。
終了し、止血。
「胸は今もどう?」
「あ、ああ・・・」患者はようやく語りかけてきた。「もう帰れる?」
「だ、ダメだよ!数日はいてもらわんと」
「あんた、ユウキって言うんだろ・・・」
礼を言うべきだろう。
「そ、そうですが」
「む、むこうの院長さんが、そこで診てもらえって」
「紹介状がないんだよなぁ・・・」
「僕の後輩だから、手紙要らんって」
なんだと!知らん医者のくせに!
気づいたが、搬入された患者はみな1割負担だった。生活保護は混じっていなかった。大阪ではかなり確率が高いのだが。
「院長さんに、わしら何度か待ってもらったんだが」
「は?何を?」
もう止血できているようだ。ベルトを巻く。
「返済を待っちくれーって。でも、もう待てんのと」
「返済・・・入院費用?」
「いんや。いろんなリース、いうのを組んでくれたら許すってことだったんだが。そのリースとやらが前倒しになって」
いったい、何のローンを組まされたのか。貸しはがし、という被害にあったようだな。
車いすで、一緒に病棟へ。やっさん、ナースらは病棟の対応に追われているはずだ。近づくにつれ、その慌てぶりがわかる。
「・・・・・?」
ふと、暗い外の窓が気になった。
「今、そこ・・・」呟いた。
「は?」
「こっち見ていた。誰か」
「うん。ま、そりゃ見るだろな」
感謝の念も忘れたように、患者は退屈そうだった。
「あの計算高そうな目・・・」
若い女性だったが、猫のようで不気味だった。デジャブと逆のような感覚だ。
その女性は、近くの電柱に隠れて携帯で話している。およそ病院とは無縁の、派手なドレスだった。ネイルの赤も光っていた。
「明日から?マジで?」
『派遣との契約でそうなっている。今日は帰りたまえ』塩沢院長。
「うっそ。働いてる医者、いるじゃん。あいつ、びくともしてないよ?今日、潰す予定じゃないの?いーの?」
電話は切れた。乱れた長髪が携帯画面に少し乗っかった。
「チッ。でも料金はもらうよ」
手帳に細かく記入。
コメント