キュキュキュ・・・ブルンブルンブルン・・・ガー・・・

噴煙をまき散らし、遠くへ去っていく乗用車・救急車群。

反対向いて吹くラッパ軍曹。

http://www.youtube.com/watch?v=RbM53JjJrIo

ドンドンパンドドンパパンパパパーパパパー・・パパパー・・・


ユウ And I 愛だけじゃないのさ
I’ve Got It ユウ And I
君から欲しいのは

(千里へ向けて走る車列)

淋しさも哀しさも
気持の弱さも (背中から抜き出す管)Just Dream of ユウ(ペンライト)
隠していたいけがれもすべて(ブンブン回る打鍵器)
受けとめる Wow(不整脈に対し横眼、DC)

忘れないで ユウ And I
優しさだけを 愛したわけじゃない(自転車サドル主観ショット)
遠い夢を ユウ And I
君に(美女)見てる Tonight(トラック後部より吐き出されるサイレン車)
 

パララー・・パララ・・・


 ダン理事・兼任すること院長が判を押したようにやってきた。裏口に車を停めること朝7時。当直の医大の先生の都合で早めの出勤だ。給料が固定なら、帰りは少しゆとりを、というのが彼らの本音だ。お客様である分、常勤はそれに従わざるを得ない。

「おはよう!」とダン。正面の事務当直がテレビより振り向く。
「ああ。これは理事長先生。ゲートの前が、なんか凄いことになってて」
「ゲートを?」
「ええ。夜中にユウキ先生がね。もう受け入れしないから、ゲート閉めろって。そしたら朝・・・」

2階事務室から、駐車場とその奥のゲートを見下ろせる。ゲートは開いているが、車の残骸があちこちにある。レッカーでかなり移動され、原型をとどめているのは2台のみ。


「交通事故か・・・」
「ええ。ま、死人は出なかったようですが」
「ゲートが閉まってて、ま、良かったのかな?」

ダンはいつものように自販機のボタンを押し、下からコーヒーを2つ取り出した。1つは事務当直へ。


「お疲れ。明日も頼むよ。あ、当直医は?」
「今しがた、帰ったところです」
「最近は、引き継ぎしないねー・・・」

当直日誌には記載がある。当直医の引き継ぎも、こんなのが増えていた。

医局に入り、テレビスイッチ。リモコンを放る。まだ誰も・・・いや、寝ている。


「そのイビキは・・・」
「うん?ああっ?おう!」ヨダレを拭きつつ、やっさんは半分起き上がった。
「待てよ。当直医は医大が」
「あ、ああ。そうなんだけどよ」
「泊まったのかい?」
「あ、ああ。昨日は大変でな」

「ああ。それは深夜にナースからの電話で聞いている」

ダンは少し厳格な表情になった。20人もの患者をこのあと振り分けるなど仕事が山積みだ。


「やっさん。患者はみな落ち着いてるのかな?」
「なんとか、死なせずにすんだ。重症は数名いるが」
「よく、やったね。自ら泊まり込むとは」
「い、いやあ・・・はは」

だがダンは悟っている。この男が、そんな献身をするわけがない。


「ユウ君も、さぞかし大変だったんだろうね。彼の功績が一番大きいんじゃないかな」

「い、いや!でもなあいつ!」
「ふーん?」新聞を読みつつ聞く。
「オレはな。切れそうになったぞ。あいつの態度が!」
「態度?あれはいつもの・・・」
「俺への態度だ。あいつの言葉づかいといったら・・・人を見下したような言い方。俺に命令までしたんだぞ!」

ダンは冷蔵庫を開けた。
「あ~、当直医にアイス、食べられちゃったね」

「聞いてんのか?ダン!」
「聞いてるよ。あ、アリが死んでいる」

「あいつが受け入れたせいで、病棟もカンカンだ!たぶん辞表を持ってくるナースが何人もいる」

「はは。ナースらが辞表を持ってくるのは、次の転売先が分かってからだよ。ドクターとは違う」



 カチャ・・とすでに白衣のジュリアが入ってきた。
「おはようございます」あたりを見回す。
「おはようジュリア。昨日はご苦労さん」

一瞬彼女は少女マンガのような黒目になったが、すぐ平常に戻った。
「ゆ、ユウキがね。あ、いないか。よかった。ユウキがね。患者をどんどん受けて」
「みたいだね。でもジュリアも頑張ったんだろ?」
「う、うん。あ、はい」
「さぞかし、僕の悪口とか言ってたんだろうなあ。はは」

「あいつね、先生。ダン先生がいなかったら、ダンはどこだ!どこだって!」
「あっはっははは!」

 ダンはものともしなかった。後ろに間宮が根暗く立っている。


「後ろにいるのは分かってるよ。マミヤどの」
「おはようございます。あたし・・こんな忙しかったって全然」
「ユウ君や他のドクターがやってくれたさ。自分を責めることはない」

間宮はでも立ち尽くしていた。自分は確かに逃げたようなもんだけど・・・。電話よこすとか、必要だとアピールしてくれたら反応あるかもしれないのに・・・。そう思った。どこか、プライドが傷ついた。


「わっす!」山崎がパンをくわえ登場。今日も爽やかだ。
「おはよう。ご苦労さん」ダンは大きなホワイトボードの前へ。

「8時半か。ユウ君はまだのようだが・・・。ちょっとここで話しておこう。実は昨日!」

ボードに2つ、建物のような絵。ジュリアは事前通告なのか平然。

「いろんな業者と取り決めがあった。予定より早く実現する。トライアングルコーディネーション」
「なんでふその・・ダハい名前?」山崎パンがサンマルク、いや目を丸くした。

「この絵は、これから開業する2つの病院さ。正式にうちのものになった病院だ。スタッフも充実している。A病院は300床、B病院も300床」
「へえ、うち金もうかってんですね~」と山崎。

「はは。依頼があってね。ぜひうちも、ということで」
「でもスタッフが充実してても・・・ふつうスタッフ、挿げ替えませんか?」
「いいこと聞くね!実はそれなんだが・・・」

 AとBの頂点に白い長方形。

「院長がここに必要だ。当院からの出向になる」
「でも先生」とジュリア。「うちの医局にはそんな余裕は」
「当医局の欠員は、大学から穴埋めする」
「慣れた先生なら良いのですが」
「なあに、みんなでサポートすればいいだろう。ユウ君もいるしね。まだ来ないな彼は。おかしいな・・・」

やっさんは早く部屋に戻りたかった。あまり眠れてない。
「で?誰が行くことになったんだ?」
「希望者はいるかい?」


 誰も手は挙げない。


「そうか。だろうね。見学してから、という余裕もないんだ。では私がこの場で決める」

 みな、心がざわついた。

「A病院。療養病棟が充実したこの病院は、医師のその後のことも考えてだね」
「俺か?」と、初老のやっさん。
「頼む。同期ながら、これは命令だ。次、B病院。急性期病棟が多い。医師は医大の出向が大半だ。若くて社交性のある者がいい・・・・山崎くん!」

なぜか、はっと驚いたのは隅にいる間宮だった。やがて元の表情へ。

「オレっすか?マジですか?」
「私は、マジ以外言わない。マジっくダンというあだ名もあってね」
「ねえさん!ねえさんがいいよ!」

指された間宮は少しムスッとなった。
「いやです!」

「ねえさん、修業にはいいんじゃないの?」
間宮はスタスタ・・・と山崎に近づいた。そして。

パン!と山崎はぶたれた。
「たあっ!」
「それってバカだから?あたしバカだからってこと?」
「ちち、違いますやん!」

みな唖然とした。気の強いジュリアもだ。

「ユウの奴隷だってねえ。あんた言いふらしてるんでしょ。知ってんの!」
「ゆゆ、言ってないよ!」
「くっ・・・」

涙を抑えきれず、彼女はダッシュした。ジュリアが追いかけるが・・・
「マミヤさん!どうしたのよぎゃあ!」

 反転したドアが、鼻を打ち付けたようだ。

ダンはホワイトボードの前で腕組み。
「あの2人は<併用注意>かな。<禁忌>では困るんだが」

やっさんは、自分の新しい進路に期待を寄せていた。
「コスト面は、きっちり考えてくれてるんだろうな」
「今よりいい。土日は休み」

「へっへ。年金暮らしではやっていけんからな。せっかく海外に10年いてだぞ。日本の年金が<未納だから>という理由で少ないってのは納得いかん」

「せっかく国に尽くしたご身分なのにね」
「ま、まあいい。これでやっと・・・」


楽ができる。そう思ってしまった、というべきか。

 病院の屋上で、間宮はエンエンと泣いていた。ただもう、どうしようもなく。このあと仕事が山ほどあるのに。とりあえずよその病院に行くことはなくなったのに。それにだ。なぜこんなに悲しいのか・・・。

「ねえさん!ねえさん!」深刻な顔で、干してあるふとんの奥から聞こえた山崎の声。
「来ないでよ!ヒック」
「ねえさん聞いてくれなあ!ねえさん!」

 間宮の手がぱっと上に掴まれた。暖かい体温で。

「ねえさんは、何も分かってない!卑怯だ!」

 そのまま、山崎は間の華奢な体を・・・抱きしめ、いや覆いかぶさったといっていい。これはどこかの民放ドラマなのか・・・?という場面が、男女だれでも遭遇する。人は年老いて、目から火が出るほどの妄想と化す。誰にも言えないことが。でも言いたいことが。

「ねえさん!ねえさん!」

 どちらかというと男アレルギーの間宮は、通常なら突き放すような女だった。キャンディキャンディが愛読書。しかし・・・彼の抱きしめる力は、彼女のクマ人形よりもはるかに強く、抵抗できないものだった。力が抜ける、もうどうでもよくなる・・・。

なあ、間宮・・・お前にとってのアンソニーは・・・

 ホプキンス?




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