(続き)

2013年2月1日 連載
 真珠会病院の、事務室。の外の敷地。末端の集まった昼休みがひそやかに営まれていた。ほとんどは20-30代の若造で、ほとんどがニート風のだらしない連中だった。ネクタイこそしてはいるが、彼らの目指すところは<楽して神>になることだった。

「俺の会社名、知ってる?」
「お前何。オレはマーベラス」
「うそカッチョええ。おれなんかピープルズ」

 彼らは、それぞれが子会社。みな病院のグループ施設などの子会社としての名義をもらっている。子会社としての実体はなく、マンションの一室にパソコンが2台程度あるだけ。でもそれで一応<子会社>が成り立つ。

 その4~5人は、ポケットから最近使った領収書をたくさん取り出す。

「昨日は、気持ちえがった~」
「これさ。例のナースとのツーショット」
「おお?ゲットォ?みたいな?」

 彼らの恩恵は、それによって使用可能になる<経費>そのものだった。領収書さえかき集め申請すれば、現金が戻ってくる。それが小遣いとなりまた経費として申請する。こういう構造は、当たり前にある。そのツケはかなり大きいわけだが。

 ちょうど3階上から、オーナーが顔を乗り出して見ていた。ムラサキは話の続きに戻った。

「で、真田病院はなになに。(PC見て)なんだ。ふつーに経営してるじゃないの」
「は・・・」

 院長の冷淡な塩沢が白衣で敬礼したまま立っている。

「そっかー山形。何も死なんでも」
「彼の様子は、いささか変でして」
「だろ?俺も、あいつは前からどーかなって、思ってたんだ。発想が新しくないんだな!斬新さに欠けるっちゅーか!以前のマネ嫌いなんだよね。マネーは好きだけど!あーあ!刺激!ないかな!」

 自分のグーをさらにグーでたたく。

「ところで院長。次の出番はお前なわけだけど」
「個人情報の抜き取り準備も完了いたしました。準備は万端」
「なにそれ?FAX?」
「いえこれは。私用でして」

  院長は、持っていた<私用>を机の下にまわし、ギュウウと握りしめクシャクシャに。さきほど真田から来たFAXだ。ムラサキ理事の膵臓所見について書いてある。僕の書いた報告書だ。

 ムラサキは何台も持っている携帯のうち1台を持ち上げた。
「病床、埋まったか?それにしてもおい。患者乗せずに搬出とは、いささかジョークにとんだ手腕だね?え?あーもしもし!」
「箱を提供しただけのことで・・」
「もしもし、ちょっと待って。あのな!院長!その箱1台、いくらすると思ってんの?今度はコストかけずにやるんだな!」

 院長は寒空を見上げた。
「冬将軍・・・それが、実行の時!」

 ムラサキはバタン、と出て行った。院長はほっと溜息をついた。とりあえず、真正面から叱咤されることは免れた。サラリーマンは、身分的には小学校時代に逆戻りする。評価の反映が<怒られるかどうか>に重点が置かれるからだ。

 それと、責任者は末端を大事にせよとは世間は言うが、責任者が投げ出したら?という疑問を呈する者はいない。考えたくないからだ。

 理事というのは借金して、そのまま責任を取り続ける役割だ。その姿勢を揺るがすような・・・つまり自分の経営に疑問を持ってはいけない。あわよくば直線的にやってもらわないと困る。もし彼が投げ出せば、たちまち大勢の職員が路頭に迷う。

 借金が英雄行為・・・と思わせるほどのプロパガンダが必要だ。なので周囲や銀行はたえず金銭的に溢れさせ、女もあてがう。欲という欲を、溺れさせ麻痺させるのが周囲の仕事。

 カチャ・・・とホスト風の男が現れた。彼は最近まで芸能プロダクションに所属していたが、見切りをつけられた。

「用っすか?」ドカッと机越しに座り、足組み。
「父上とは復縁されたのか?」
「しらねー。オレ、あいつのコネ要らんから」
「それでは生きていけないのでは?6000万の借金を」
「でー?なんでこのオレ、呼びつけたわけ?あ、これ食べていー?」

 患者からもらったリンゴを鷲づかみ、ガリガリ食べる。よほど何も食べてないんだろう。ワイシャツ開いた首の下、骨がむき出しになっている。

「借金を減らしたいなら、実行してもらいたい」
「いーよ。どの女?」
「いや。今度はここだ」

 ノートPCに真田病院の写真。PCを反転し見せる。

「病院?おれ何も免許ないけど?車もバックられたしー!」
「何もしなくていい。ただ・・・」
「?」

 近づいた院長の顔が陰った。

「ただ、入院しておけば」

 真田病院では、僕らは夕方のカンファレンス中。入院した患者の病態を整理し方向を決めている。僕は多少どころかかなり落ち込んでいて、まるでハミ子のようだった。気のせいかこいつらが、妙にハイテンションに思える。

 <転向>が決まったやっさんも滑舌。他人事ジュリアもザマミロ顔。山崎も前向き。ただ、間宮は・・・チラッと横。画像とカルテと行き来するその視線は。どこか、放心みたいに見えないこともない。実はさっき、彼女に伝えた。

「やっぱオレ、向こう(新病院)ダメだって」

 返事、なかったもんな。でもまた思うけど、そんなに俺が向こう行って欲しいのかよ。それともお前。やっぱり山崎のことが・・・でも山崎はたしか・・・

<ねーさん。ここに向いてないですよ!>

 奴らは分からん・・・。ま、おったわな。学生の時にも。

http://boomoney.blog17.fc2.com/blog-entry-68.html

 
どうしてあなたは年下なのと

窓にもたれて静かに訊いた

半分裸のあなたは笑って

水夫のように私を抱いた



遠い国から波が来る


部屋が果てない海になる



今夜二人が乗る舟は

夜明けに沈む砂の舟

一夜で千夜を生きるから

命惜しむと愛せない

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