(続き)

2013年2月11日 連載
初老のやっさん医師も、山崎同様に興奮が冷めやらない。同じく、療養型病院の施設長室で余韻に浸っていた。彼の年齢なら(60前後)そろそろ収入的には足元を見られる頃。彼はギリギリセーフのデビュー、と思っている。

 いやもうこの頃になれば大学の同期らも利権をかなり握っていて、困ったら鶴の声で何とかしてくれる。若い連中に、そう安易に椅子には座らせない。生きているほど年功序列。サラリーマンの神話が崩れかけていた当時、医師らはウイルスのように変異して逃れようとしていた。

「まあ、俺のこれまでの苦労がやっと報われたわけよ!」と悪代官のように。
「さようで」ときたのは、暖房効きすぎで大汗の若年MR。接待で彼らは仲がよかった。デスクとソファで、落ち着きあう。

「ま、そもそも真田がどうなろうと。俺の知ったこっちゃんないんだがね?」
「先生が真田を去られたら、あそこはもうポシャったも・・・」

 笑わすセリフだ。負け犬には聴衆が必要だ。たとえそれが1人でも。

「ダンがな。ま、あいつの人生はホントは正直、今後も大波乱だからな」
「と、いいますと?」

 やっさんは(元?)親友の秘密を、こんな末端に話すメリットはなかった。

「ん。まあ、いろいろ。それよりユウだ。あいつにはさんざん振り回されたぜ」
「ははあ、ああいう医者に人気が集まるのもどうかと思いますね」
「大学のやつらにな。はは、あいつら奴隷はな。上の奴らを敬わず、型破りだけ崇拝しとる!時代が狂っとる!」

 やっさんは先代の貼っていたポスター、文具などすべてゴミ箱へ入れていく。歴史という歴史をすべて元年にするために。

「今度の調印式のスピーチ。いい文章できたか?」
「はっ。このように」コピー用紙を数枚わたす。
「うーん。ま、どうでもいいけど」
「うっ」MRは顔が多少引きつった。

 やっさんは、自分が作成した巨大ポスターを貼りだした。
「ジャーン!」
「おお先生!それは!」

 見事な設計図だ。院長室の近くを・・・いろんな機器が配備されている。

「療養型病院だからってな。馬鹿にするなよ。ま、業者からの薦めでもあるんだが。いいだろこれ。MRIだろ。PETだろ。調印式が終わったら、すぐにここへ運ぶってよ!」
「ものすごいバックアップですなぁ?」
「これからは大阪市内、いや近畿、日本を手中に収めるだろうよ!真田会は!」

 若く長身のMRはため息をついて、やっとそのA病院を出た。深夜だ。
「ふーっ。じじいは、よほど話し相手がないらしいぜ」
しかし、ためらいもなく約束先のにTEL.。

「夜分遅く申し訳ありません。はい。今しがた。調印は、はあ。この様子では間違いないものと思います。彼ら2人の心はもうここありき、です。真田へのアタックは近々でもいけるかと。ところでぶっちゃけ。私への個人口座の振込みは・・・約束の」
 どうやら利用されてるMRの、地べたのノートパソコンの、ネットバンキング画面は・・・。

「0時過ぎてますが、まだ入金が・・・ない。ないですよ?2万いやいや、10万でしょう?なんで?ちょ、ちょお。明日までに私は10万が。いいわけが?ないだ、いやないでしょうが!」

 涙目になった若造が思わず蹴ったノートパソコンは、ギタンと地面を叩き割った。いやその逆だ。どうやらどこぞの悪魔と取引して、裏切られた様子らしい。

「返済に間に合わなかったら。あんたそれ、知ってんでしょう?マグロ漁船って勘弁ですよ!俺、闇金につつ、捕まっちまう!」

 どうやら浪費した金が莫大のようだ。雇い主はそれも知ってたのか。

「じゃあ俺、何するか知りませんよ?そこの実情言いますよ?なあ払えよ。リスク冒して、様子を見てきたんだぞ!確かに払えよ!は、ら、え!」
 目が血走り、汗が噴き出る。やっさんがいた病院の明かりもすでに消えていた。近く、新しい光がまぶしく光った。

「うっ?おいおい」
ハイビームは消え、無関心にMRの横を急速に通り抜けた。僕の車はA病院の真横を駆け抜けていった。下見に来たが、思わず見入ってしまっていた。

「これがA病院か。ダン、こんな病院をよく買収できたもんだな。でもやっさん・・・あいつにはもったいないよ!」

キキキ!とカーブを曲がり、MRははるか後方で立ち尽くす。

「ユウキか!あれが!あいつか!そうだあいつさえ、いなければ!」
とりあえずノブタグループに駆け込んで、損したら<復讐>することに決めた。

 なぁ、間宮・・・。

 年を取るにつれて、こうも落伍していく人間のなんと多いことか。でも中には、背負いさえすれば持ちこたえる人生だってあるようだ。悪魔に魂を売ることで。それがもたらす麻痺効果には、どんな鎮静剤だって叶わないだろう。

 この国がどうなろうと、俺は・・・自らそんな真似だけはしたくない。

 

http://boomoney.blog17.fc2.com/blog-entry-68.html

 
どうしてあなたは年下なのと

窓にもたれて静かに訊いた

半分裸のあなたは笑って

水夫のように私を抱いた



遠い国から波が来る


部屋が果てない海になる



今夜二人が乗る舟は

夜明けに沈む砂の舟

一夜で千夜を生きるから

命惜しむと愛せない




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