さしおさえられてたスポーツカーにまたのることができて、先せいはじょうきげん。
「きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!
きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!
きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!」
でもお店をでるとき、りょうしゅうしょはかかせません。おうちのダンボールに入れて、あとはかいけいしまかせ。
「たのむよきみ。ちゃんときゅうりょうぶん、はたらいてね」。
でも、ぼくだってひとのことをいえないよ。なんて、おもうはずない、おもうはずない。
先せいは、ついに決断しました。
「よし。にげよう」
しかし、つぎの日にはトラックのにだいにのって、かえってきました。
いんちょうしつで、かべにボールをぶつけながらかんがえました。
「そうだ。ぎんこうによろこんでもらうため、かれらのいうことをきこう」。
先せいは、ぎんこうのすすめる病いんへしさつにまわりました。
「うわあ、まるでながやだ」。
どっちがしょくいんで、どっちがかんじゃさんかわからない病いんでした。
でも、これで首くくりはさけられました。
先せいは、いぬのおまわりさんのようにワンワンなきました。でも、しゃっきんはへりません。
「そうだ。みんなの、きゅうりょうをさげよう」。
けんさのかずをふやしますが、みんなてつだってくれません。
「みんな、きげんがわるいのかな」。
きがつくと、しょくいんのかずがみるみる、へっていました。
ねむれない、よるがつづきました。いらいらして、にんてんどうばかり、やっていたからです。
「そうだ。みんなの、きゅうりょうをさげよう」。
けんさのかずをふやしますが、みんなてつだってくれません。
「みんな、きげんがわるいのかな」。
きがつくと、しょくいんのかずがみるみる、へっていました。
ねむれない、よるがつづきました。いらいらして、にんてんどうばかり、やっていたからです。
やがてさいそくのてがみがくるようになり、べんごしさんもあらわれました。
「せんせい。はやくおかねをかえしてください」。
「おかねをもらったのは、ぼくだけじゃないよ」。
しょるいに、ゆう先せいのハンコがおしてあります。
「これ、先せいがおかねをかりたしょうこです。あなたのしゃっきんなのです」
こわそうなあのおじさんは、がいこくだそうです。
「どうして。にほんじんなのに」。
いつものおじさんが、しょるいをもっていんちょうしつにはいってきました。
「せんせい。おかねがそこをついてきました」
ああ、こまった。ぎんこうも、いじわるして、おかねをかさないんだって。
「でもせんせい。あたらしいじぎょうをおこせば、ぎんこうはおかねをかしてくれます」
「うん。じゃあまかせたよ」
ゆう先せいは、きまえよくハンコをつきました。なん人ものひとたちが、おれいをいいにやってきました。
「ああ、せんせい。まるであなたは、かみさまだ」。
しゅくしゃはとてもひろくて、あこがれの外しゃももらいました。まっかなおーぷんかーでした。
「はながたみつる、みたいだな。さもんほうさくから、しゅっせした」。
あまりのうれしさに、ともだちにでんわしました。
「けいひもすきなだけつかえるし、おんなのこにももてるんだよ」
それは<しんち>というところでのはなしでした。おんなのこたちは、おさつ1まいごとによろこびました。
いんちょうになったゆう先せいは、ろうかでかぜをきってあるきました。みんな、あたまをふかくさげてきます。
「やあ、おはよう。うさぎさんに、ばかさん」
かばさんとまちがえても、うわのそら。
じむしつでは、なん人ものじむいんさんが、いっしょうけんめいハンコをたたいています。そのはやさときたら、まるで高はしめいじん。
「あっ。ぼくの名まえのはんこだ。わぁい。もっとやれ。もっとやれ」。←?
おじさんにこのとき、はじめてちゅういされました。
「ああ先せい、ここにはいるひつようは、ないですよ。すべてわたしたちが、やりますから」。
くろいベンツというくるまから、こわそうなおじさんがでてきました。
「せんせい、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
きれいなびょういんの、ひろいそのへやは、いんちょうしつ。おじさんはいつもニコニコ。
「せんせいは、そこにいればいいですよ」
「えっ。なにもしなくて、いいの?」
きがつくと、少ねんすでにおいやすく40さい、ガクなりがたしでした。
「ああ。もうヒトにさしずされたくない」
そんなとき、ざっしのうらびょうしに
「いんちょう、ぼしゅう」のらんが。
「やった。これでもう、おもいのままだ」。
けっきょくでてこなかったゆう先せいは、つぎのひ、上の先せいによびだされました。
「おいきみ、よばれたら、ちゃんとでてきなさい。技ジュツだけが医りょうじゃないんだよ」
こんどはあたまをサカなでされ、かみがニワトリのようになりました。
「よし。このかみのように、せけんにさからってやる」。
コケッコー!コケッコー!
よなかのナースすてーしょんに、かんじゃさんはかけこみました。
「ちょっと!こはいかに?」
「あれれ。ひどいじんましん」
かんごふさんたちは、アメを口からふきだしました。そして、こうはんだんしました。
「せんせいを。せんせいをよべばいい」。
しかし、びょういんは技ジュツをきそう場しょではありません。かんじゃさんがまってます。
「しんだんがついたので、これからちりょうをします」
「えっ。ちょっとまってください」
いきなりのせつめいに、かんじゃさんはビックリ。でもゆう先せいは、じぶんにプライドがありました。
「カンファレンスできまったので」。
かんじゃさんは、いわれるままにクスリをしょほうされました。
はやくどくりつするためには、いちはやく技ジュツをみにつけなくてはいけません。ゆう先生は、いつもそっせんしてまなぼうとしました。
「あ、それ、ぼくにやらせてください」。
「おや、きみはせっきょく的だね。きっといいお医しゃさんになれるよ」
上の先生は頭をなでなで・・まではしてません。
いつしかゆう先生に、自しんがついてきました。
「なんだ。おぼえたら、あとはもう1人でできるじゃないか」。
けんしゅう医のゆう先生(俺の名前で?)は、仲間とともにおんなじ苦ろうをしながらもある夢をみていました。
一りゅうのレストランで食べたい、がい車に乗りたい、いっけん家をたてたい、び女をものにしたい・・・。しかし、夢は常にブラウン管のなか。はまショーのうたでした。
「よし、いつかビッグマネー、たたきつけてやる」。
とある成りあがり医師のおはなし 絵本風
2010年6月5日 連載僕の周囲で<ユウ先生の例え話が面白い>と評判だった時期(5年前?)があったので、その話を面白おかしく要約しよう。非常にダーティーな話だが、こういった現実的な心理描写は絵本風に描くと効果的。
例えは悪いが、買い手市場(いややっぱちがうな)。
2010年6月5日 連載 病棟は理想的には常に満床であることが望ましいが、稼働率も大事なので数床空けておく必要がある。事務+ケースワーカー・連携室がうまいことやらないと、病院の経営が傾く。今のドクターらは「僕らは医療をやればいい」という意識が強く、また(ベッドのやりくりの)責任を負わされることは少ない。
6月は比較的満床にしにくい(新規入院少ない)時期であり、転入の要請が出てくる。転出が優先されるのはやはり管理が難しく、また問題ありのケースが多い。病院によっては事務側が巧妙な手で入院させてくる。主治医はスルー状態のことも。事務側にとっては<いかに自分の手柄にするか>にかかっているので。
一方の医師側は受け入れ(するかどうか)に際しても情報収集を欠かさず、それと最初の家族説明を入念にしておくこと。トラブルでの「ああ言ったこう言った」の焦点は、常に最初の説明時の内容が影響する。
「僕らは医療をやればいい」という意識だと、つまらんケース由来のつまらんストレス(勤務医にはよく分る)を抱えることになる。
6月は比較的満床にしにくい(新規入院少ない)時期であり、転入の要請が出てくる。転出が優先されるのはやはり管理が難しく、また問題ありのケースが多い。病院によっては事務側が巧妙な手で入院させてくる。主治医はスルー状態のことも。事務側にとっては<いかに自分の手柄にするか>にかかっているので。
一方の医師側は受け入れ(するかどうか)に際しても情報収集を欠かさず、それと最初の家族説明を入念にしておくこと。トラブルでの「ああ言ったこう言った」の焦点は、常に最初の説明時の内容が影響する。
「僕らは医療をやればいい」という意識だと、つまらんケース由来のつまらんストレス(勤務医にはよく分る)を抱えることになる。
22(終). 心、ここにあらずですか?
2010年5月20日 連載夕暮れ。バカ井は、塾の教壇でひとり立ち尽くしていた。
生徒は1人もおらず、みな辞めた。と聞かされたのはつい先ほどのこと。
バブル時代でもあり、そこまでの苦情もなかった。
「この2年間・・・」
バカ井が黙ったので言うが、この2年間つまり教養学部が今、風のように過ぎ去ろうとしている。
アルバイトに明け暮れ、役にも立たない授業にほとんど出ず、ボランティアに精を出した。
そうだ。先日のあの1件は忘れられない。
バカ井は内線で友人に電話した。
「バカ井です。適当先輩ですか?」
「ただ今留守に・・・すまんすまん、冗談だ。お互い、無事専門課程に上がれたな」
「ええ。おめでとうございます!」
「留年して同い年になったんだから、もう先輩っていうのはやめろよな?」
「はい先輩!」
「(ガチャ)」
「あれっ?」
実はデリケートな先輩を、またもや傷つけた。
自家用車に乗るべく外に出たバカ井を待ち構えていたのは・・・
「よぉ先生」
「コナン坊!塾にどうして来てくれないんだ?」
「だってよぉ」私服で雰囲気が遊び風。
「?」
「高校卒業、しちゃったんだぜ。しかも飛び級で」
「え?」
「おたくの医学部さ。へっへ」
「それは・・・?おめでとう!」
しかしコナン坊は実は不満があった。
「まぁよ。本当は帝大に行きたかったんだけど。安全パイの地元を選んだわけさ。医学部でも3流・4流があるからね」
「うう、うるさいな!」
バカ井はこれからというときもあって、プライドが人一倍傷ついた。
「でも、あんたの姿を見てうらやましくなってさ」
「僕の・・・姿?」いろんなポーズを取るが、分からない。
「大人になっても、依然として大人に抵抗し続ける、その無邪気ささ」
「む、無邪気ってその何かいやだな。子供みたいで嫌だな」
「そうでもないぜぇ」
「でも大人って何なのかな。エロ本読んでいい許可証だけなのかな」
それを言われるとコナン坊はうろたえた。
「でもよ先生。いや先輩。いつかあんたが就職したら、こっちもお世話になるかもしれないからねぇ」
「て、適当先輩みたいに留年して、同級にならないようにしないとな。しないとな」
「そのうち、そこでも飛び級してやるぜぇ」
そんなの、ないない。
専門課程は、(当時)まず最初の1年の解剖から始まって、生理学・生化学、細菌学なども加わって生物らしくなってくる。
やがて臨床実習となり病院側からのスカウト作戦が始まる。
バカ井は疑問を感じていた。
「道徳の時間って、ないんだな。ないんだな」
「だからよぉ。気付かなかったのかよ。教養学部は、道徳の時間だったんだよ」
「そうか・・・それなのに僕は塾で生徒に講釈たれまくって。家に帰ったらエロ本で」
「でもよぉ・・・」
コナン坊は、街の雑踏を指差した。
「バブルってこの周囲が浮かれてる時代によ。バカ井さん、けっこういい経験したんだと思うぜ」
「け、結局損したんじゃないかな。損したのちがうかな」
「損なんかしてないよ。きっと将来、いいお医者さんになれるよ」
自信ないまま、バカ井は家路へと向かった。
最終回ということもあり、家ではみな集まっている。
シンゴが既に酔っていた。
「あのよ!みな進級できたお祝いによ!ここでもう集まったってわけよ!」
「・・・・・」
「俺たちのおかげで、じいさんが1人助かったんだよ?喜べよ!ま、それだけかなこの2年でよかったことって!あっはは!」
適当先輩もサトミも酔っている。適当先輩もさっきのことは水に流していた。
「バカ井。俺たちはこうして2年進級できた。それを祝ってこそ残りの4年が生きるんだ」
「に、2階級特進で・・・」
「ん?」
「2階級特進だけで。それだけ。あわわ。それだけなのかな?」
「何言ってんだ?」
「こ。このまま僕らは、大人と同じになってくのかな?けっきょくは」
兄がテーブルを拭き掃除しながら答える。
「なら。子供でいればいいんだ」
「えっ?」
「何も大人にならなくていいじゃないか。子供でいるほうが、初心を忘れずにすむだろう?」
「そうか・・・」
バカ井は、トントンと階段を昇っていった。
シンゴはさきほど書店で買ってきた本の束をテーブルに並べた。
「すげえだろ!解剖学!これ1冊3万ほどすんのよ?オールカラーだよ?」
適当は本を読んでいる。
「プラティスマ、プラティスマ。ラテン語で考えろっつーの!」
「ファイヤーフォックスかよ!それにしても自分だけ予習とはな!」
焦ったサトミもノートを読んでいる。
「骨学、もうまとめたわよ!」
「げっ!もう終わったのかよ?」シンゴは慌てた。
「触らせて!」彼女はいきなりシンゴの顔をつかんだ。
「おっとラッキー!キスミープリーズ!」
しかし・・・
「これが下顎神経で、これが・・・!」
「オイオイオレを標本にすんじゃねえよ!」
「ここがソケイ靭帯で」
「いひひ!彼氏じゃないのにいいのかよ?いひひ!」
適当はさらに内科の本をドサッと乗せた。
「オレな。今日でハリソン1冊ガブ読みしてやる!」
バカ井が、いっこうに降りてこない。
兄は少し翳った。
「あいつ・・・ひょっとして今のオレの言葉を気にして」
「うそ!」サトミが悲しんだ。
「子供でいろって・・・大人になるなって」
「それちょっとまずいじゃないの!首でも・・・」
適当は本から目を離した。
「首!やっぱりプラティスマ!だ!みんなどうした?」
みな見合わせ、一斉に階段を駆け上がった。
ダンダンダン!と家が揺れそうになるくらいに。
ふすまがガラッと開けられた。
「(皆)うわああっ!」
そこで寝ていたのは、ベイビーおくるみのカッコしたバカ井だった。
「バブ。バブ。バブ」
「(皆)・・・・・・」
「バブ。バブ。バブ」
彼の心は、遥か向こうの世界へ。
それはもう、2階級特進どころではなかった・・・。
21. もたせ(られ)たこと、ありますか?
2010年5月14日 連載病院では、昼間の院長による総回診。
転倒して血腫を見逃された、じいさんの主治医が淡々と説明。
「まーこの人は。もうええかって感じです」
「転倒して、血腫ができて・・・今日のCTでもいっそう拡大しとりまんな」
「ま。なんもせんですけどね。もう年ですから。ま、撮るもんは取っておきますけど!も!」
院長の体がかすかに揺れた。
「うっ・・・?」
うなだれ、壁にもたれこんだ。
みな、覗き込んだ。タオルをもった総婦長が肩を叩く。
「院長?ひょっとして・・・いや困った。次の院長引継ぎ、どうひまひょ」
「ならん!」院長ライクなダミ声。
「わっ!生きてる!」
みな散らばった。
うつむいたままの院長は、なにやら喋りだした。
「知ってるぞお前ら。匿名で聞いたが、じいさんを家に帰らせたこともな」
「ひっ!なぜそこまで?」主治医がビビッた。
「わしが週に1回しか回診して、そのあとパッパラパーなのは認める。だがな、そこを逆手に利用して都合の悪いことを打ち明けないのは許さん!」
「わわ・・・!でもあれは、がが、学生らが無理矢理連れて帰るって、それで」
「大うそつきが!もうバレとるわ!」
主治医は土下座した。
「すみません!この件はどうか!」
「もう来んでいい。あるいは・・・」
「ああ!あるいは何でございましょうか!」
少し、間。
近くのコーナーで、蝶ネクタイを引っ張るコナン坊。
「一ヶ月の給料カットを命じる。今月振り込まれた金額を、以下の口座に・・・番号は・・・」
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎなんじゃ、ないのかい?」
コナン坊は振り返った。
「どうするよ。あんたの口座だぜ」
「ええっ?それって、ど、どうなのかな。平和に使うならいいのかな」
「おいおい・・・」
院長はウトったまま。
「このじいさんは、まだ助かる!」
「ですが、家族は救命を希望しては」
「人類、みな兄弟!その中のわしが救えといっている!」
「ひっ・・・わわ、わかりました!」
主治医は早速、脳外科医をつれて来た。
「・・・てなわけで」
「ふんふん。では、しましょう!」
話が進み、ベッドはオペ室へと運ばれていった。
コナン坊はネクタイで最後の指令。
「つかれた。スタッフはわしを抱きかかえて、眠らせてくれ」
スイッチを切ったところ・・・
バカ井が勘違いして、コナン坊を持ち上げようとした。
「わあっ!何をするんだ!ヘンタイ!」
「えっ!だって!」
さすがに、見つかった。総婦長が笛を吹く。
「ピー!そこで何をしている!」
絶望していた主治医が、コナン坊・バカ井の視線を追った。何かを悟った。
「あっお前ら・・・!ひょっとして今のは!」
「分かるところが、マンガだよなー」コナン坊が牙をむいた。
「やっぱり作り話だ!医師の指示により、奴らをひっとらえろ!」
コナン坊はサッカーボールを足元においた。
「歯!くいしばれ!」
ドカーン!と蹴られたそのボールは一直線、主治医の急所にぶち当たった。
「ぐあああ!」
コナン坊は何か思いついた。
「モッコリ中心、いやモロッコ中心のマラケッシュ。てかぁ」
バカ井が手を叩いて喜んだ。
「やったやったあ!正義は勝つんだ!あはは!」
「何言ってんの、お兄ちゃん?」
「えっ?」
コナン坊は、つぶらな瞳に戻っていた。
「君がやっつけたじゃないか!」
「知らないよ。僕。何のことだか」
瞬く間、守衛らに取り囲まれた。のはもちろんバカ井のほうだ。
バカ井の将来がいきなり灰がかった。
「この・・・!」
しかし、コナン坊は遠くを指差した。
「おまわりさん。犯人はあっちへ逃げてったよ」
守衛らは、みなあっち方向へ走った。
バカ井は肩を落とした。
「はぁ。死ぬかと思ったよ」
「恩返しだよ。エロ本の罪かぶって・・やべっ!」
「えっ?なんだって?」
コナン坊はあちこち隠れようとした。
「まさか!とにかく!ついに!」
「おい待て!君は何者なんだ!」
コナン坊は観念した。
「じゃ、紹介といくか。我輩はコナン坊。名前はまだない」
「あるじゃないか!」
「どこで生まれたか、とんと見当がつかねぇ。ただ、美人のおねえさんに連れられて、ホテルに行ったことは覚えている」
「何かと、ごちゃまぜになってないかい?」
「動揺したオレは目がくらみ、薬を飲まされてしまった」
「で、気がつくと・・・今の君が?ってわけ?」
コナン坊が、いきなり震えだした。
「くっ・・・!」
「あれ?」
「つつ・・・」
「つつ・・・つつがむし?」
コナン坊は、大口を聞けて、叫んだ。
「つつもたせ(美人局)に、あってしまったんだー!」
「ノオーーーーウーーーーーー!」(スロー、劇画調)
⑳ トゥルーロマンスですか?
2010年5月12日 連載写真に写っていたのは、その長男と腕組みする若い女性だった。温泉ホテルの部屋であることは、その浴衣から明らかだ。
「胸が、見えかけている・・・」バカ井の視点は違った。
「バカおい、かせ」適当先輩が奪った。
「この日付。じいさんが倒れてた日だ」
「若すぎるだろこの女・・・・長男さん、これ愛人だろ?」
パタッ・・と落ちたおみやげTシャツ。分散した頃には、怒った長男がステッキを振り上げていた。
「うわぁーっ!」
「ひっ!」適当先輩は反射的にかがむとともに、靴を脱いでかまえた。お互いの動きが止まった。
「なにするんだ先輩!」同時に、バカ井が輪ゴムでハエを射つ構え。サトミもつられて、カバンのハサミを取り出し投げる構えをバカ井めがける。
「彼氏に何するんの!」
シンゴだけが、なぜかヨーヨー。
「あまんら、ゆるさんぜよってかハッハー!」
みな、固まった。各々が、各々を狙う。手を引くにも引けない。適当先輩を制止するつもりのバカ井も、長男への怒りは強かった。
「適当先輩。ここで手を出したら、留年どころか」
「バカ野郎。お前も似たり寄ったりじゃねえかよ!」
「僕は許せない。じいさんをほったらかして、愛人と旅行だなんて・・・!」
シンゴはヨーヨーで、いろんなところを見定めた。
「な。なんだよ。愛人と写真撮っただけじゃねぇのかよ。そうするってぇと・・・」
シンゴはいろいろ想像した。
「やべぇよ。やべぇ。今日はパンパンのジーンズはいてきたんだよ」
「?」バカ井は疑問符だった。
「反応しちゃうとよ。アレの行き場がなくなるんだよ。いてぇんだよ!」
「きついジーンズはいて。想像するお前が悪いんだろうが!」
みな、依然として標的を狙っている。長男は汗が1筋ずつ。
「わ、わしだって・・・・わしだって」
「?」適当先輩は手をゆるめそうに。
「つらかったんだ。逃げたかったんだ」
いきなりドアが開いた。若い女性だ。
「やっほー!遊びにきたよー!マリコだよー!」
「おい入るな!」住人である適当は構えたまま叫んだ。
「今日は婦警スタイルできたよー!」
遊び女が、たまたまやってきた。
「あたしも、まぜてー!」
「バカ野郎!帰れ!」
「クリスマス近いから赤いパンツだよ。ほら」
何かが見えたのか、シンゴはもろに反応した。
「うぎゃあ!」
ヨーヨーが、勢いよく飛んできた。それは遊び女の頭を一度ぶつかり、続いて長男のステッキに当たり・・・適当先輩へとヒットした。
「うわぁ!」
先輩の靴がむやみに振り下ろされ、サトミの手に当たったそのハサミが・・・バカ井の尻に刺さった。
「ぎゃあ!」
一斉に、全員が倒れた。だがバカ井は意識を保った。
「はぁ、はぁ。僕はやっぱり納得できません。長男さん・・・僕はあの人を、助けたい」
バカ井は、尻に手をやりハサミを引っ張った。
「ぐわぁああ!」
立ち上がったバカ井に、救いの小さな手。
「あぁ・・コナン坊!」
「その言葉を待ってたぜ」
「たた・・・病院へ行くんだ。ジャマしないでくれ」
「いつかの恩返し。させてもらうぜ」
またスケボーが置かれた。
「つかまって!」
「うわーコナン坊!ここは!」
スケボーはアパートの廊下から外へ舞い上がり、空中分解した。
「えーーーーーっ!」
そこはまだ、アパートの5階だった。
⑲ どさくさ紛れ、してませんか?
2010年5月12日 連載帰宅が遅くなったバカ井は、今日も暖かく兄に迎えられた。
「ああ腹へった。自宅が一番いいや」食事が勢いづく。
「その頭。包帯なんかしてどうした?」
「これは・・・」
「ケンカか?」
「う、うん。電柱で打ってね」
兄はしかし、すでに調べずみだった。
「今日、女の子が来てな。塾の教え子だった子」
「なんだよ。聞いたのかよ?」
「洗いざらい、こっちは聞いたさ。もうお前は」
バカ井は立ち上がる。
「もう分かってる!兄さんは、他人への余計なおせっかいは、もうやめろって。そう言いたいだけなんだろう?」
「病院のドクターらは、いずれはお前の上司となるお方だ!」
兄の本音が出た。
「それにだ!」
「韓国語?」
「俺たちだって、いつ病気でお世話になるか分からない。そんな偉い人たちに迷惑かけて恥かかせて、お前は一体何がしたいんだ!」
「だっておかしいんだよ兄さん!間違って処置されて、誰も責任とろうとしないんだ!」
「間違いだってなぜ分かる?いまだ素人のお前らに、立ち向かえるわけないだろう!」
兄は怒って、外へ。
バカ井は居場所をなくし、適当のアパートへ。
「おかえり!あっ?」出てきたのは、薄着のサトミだった。
「なんだ。バカ井くんか・・」
「なんだとは何だよ。こっちは落ち込んでいるっていうのに」
など言いながら、彼は部屋に入った。遅れて、適当先輩が入る。ビール缶をいくつか下げている。
「おっ!バカ井・・・いやいや。これはな。これからお前ら呼んで、宴会でもしようって」
「また嘘を・・・先輩。だいいち、なんで宴会なんですか?」
「それはその。オレの留年確定記念とか」
「人が死にそうなのに、なんで宴会なんですか!」
雰囲気が暗くなった。みな、それぞれヤケを抱えていたにすぎない。頭に血腫ができて脳が圧迫されてるじいさんは、集中治療室で1人のまま。長男の希望で<何もしない>ことに。
正義感の強いバカ医は、何かを何とかしたい気分で一杯だった。
「病院の過失のくせに、家族が何もしないって。やっぱりおかしいよ。道理に反するよ」
「もう、よせって」適当先輩がビールを開けた。
「・・・・・」
「家族だったら、悔やまない?生きててって望まない?」
「またそれか。あぁ始まった」
「コナン坊の言うとおりかな・・・金なのかな。いやだなそれって」
シンゴが遅れて登場。
「いや~!それがよ!長男さんといっしょに飲んじゃってよ!」
後ろから、じいさんの長男。
「やあ!お世話になった~!ン!」
「意気投合しちまってよ!そりゃ仕方ねぇだろこうなったら!人類皆兄弟だしな!」
「そうだそうだ!皆に、礼を言いたくてな!」
バカ井は表情を変えなかった。
「お父さんの病状は、見てこられたんですか?」
「ああそれな。もう時間の問題って聞いてな。だが、悔やんでも時間がたつだけだ」
「・・・・・」
「今までのことは水に流して、君らとの絆を取り戻そうと思ってな」
しかし、適当は立ち上がった。
「なんですかそれ。帰ってください」
「え?」
「なんですか人の家に。おいシンゴ。お前とも絶好だ」
シンゴは酔いが回ったまま。
「おっかしな奴だなあ。長男さんがせっかくよぉ。おみやげまで持ってきてくれたのによ!」
長男はおみやげらしきTシャツを袋から差し出した。その袋から1枚の写真が。
バカ井は驚いて、拾い上げた。いや、拾い上げて驚いた。どうでもいいが。
「えーーーーーっ?」