2010年6月20日 連載

 さしおさえられてたスポーツカーにまたのることができて、先せいはじょうきげん。

「きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!
 きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!
 きょうもしんちで大さわぎ。レッツ、ゴー!」

 でもお店をでるとき、りょうしゅうしょはかかせません。おうちのダンボールに入れて、あとはかいけいしまかせ。

「たのむよきみ。ちゃんときゅうりょうぶん、はたらいてね」。

 でも、ぼくだってひとのことをいえないよ。なんて、おもうはずない、おもうはずない。



2010年6月20日 連載

 先せいは、ついに決断しました。

「よし。にげよう」

 しかし、つぎの日にはトラックのにだいにのって、かえってきました。

 いんちょうしつで、かべにボールをぶつけながらかんがえました。

「そうだ。ぎんこうによろこんでもらうため、かれらのいうことをきこう」。

 先せいは、ぎんこうのすすめる病いんへしさつにまわりました。

「うわあ、まるでながやだ」。

 どっちがしょくいんで、どっちがかんじゃさんかわからない病いんでした。

 でも、これで首くくりはさけられました。




2010年6月5日 連載
 先せいは、いぬのおまわりさんのようにワンワンなきました。でも、しゃっきんはへりません。

「そうだ。みんなの、きゅうりょうをさげよう」。

 けんさのかずをふやしますが、みんなてつだってくれません。

「みんな、きげんがわるいのかな」。

 きがつくと、しょくいんのかずがみるみる、へっていました。

 ねむれない、よるがつづきました。いらいらして、にんてんどうばかり、やっていたからです。


2010年6月5日 連載

 やがてさいそくのてがみがくるようになり、べんごしさんもあらわれました。

「せんせい。はやくおかねをかえしてください」。
「おかねをもらったのは、ぼくだけじゃないよ」。

 しょるいに、ゆう先せいのハンコがおしてあります。

「これ、先せいがおかねをかりたしょうこです。あなたのしゃっきんなのです」

 こわそうなあのおじさんは、がいこくだそうです。

「どうして。にほんじんなのに」。

2010年6月5日 連載

 いつものおじさんが、しょるいをもっていんちょうしつにはいってきました。

「せんせい。おかねがそこをついてきました」

 ああ、こまった。ぎんこうも、いじわるして、おかねをかさないんだって。

「でもせんせい。あたらしいじぎょうをおこせば、ぎんこうはおかねをかしてくれます」

「うん。じゃあまかせたよ」

 ゆう先せいは、きまえよくハンコをつきました。なん人ものひとたちが、おれいをいいにやってきました。

「ああ、せんせい。まるであなたは、かみさまだ」。


2010年6月5日 連載

 しゅくしゃはとてもひろくて、あこがれの外しゃももらいました。まっかなおーぷんかーでした。

「はながたみつる、みたいだな。さもんほうさくから、しゅっせした」。

 あまりのうれしさに、ともだちにでんわしました。

「けいひもすきなだけつかえるし、おんなのこにももてるんだよ」

 それは<しんち>というところでのはなしでした。おんなのこたちは、おさつ1まいごとによろこびました。

 


2010年6月5日 連載

 いんちょうになったゆう先せいは、ろうかでかぜをきってあるきました。みんな、あたまをふかくさげてきます。

「やあ、おはよう。うさぎさんに、ばかさん」

 かばさんとまちがえても、うわのそら。

 じむしつでは、なん人ものじむいんさんが、いっしょうけんめいハンコをたたいています。そのはやさときたら、まるで高はしめいじん。

「あっ。ぼくの名まえのはんこだ。わぁい。もっとやれ。もっとやれ」。←?

 おじさんにこのとき、はじめてちゅういされました。

「ああ先せい、ここにはいるひつようは、ないですよ。すべてわたしたちが、やりますから」。

 

2010年6月5日 連載

 くろいベンツというくるまから、こわそうなおじさんがでてきました。

「せんせい、ありがとうございます」
「こちらこそ、よろしくおねがいします」

 きれいなびょういんの、ひろいそのへやは、いんちょうしつ。おじさんはいつもニコニコ。

「せんせいは、そこにいればいいですよ」

「えっ。なにもしなくて、いいの?」

2010年6月5日 連載

 きがつくと、少ねんすでにおいやすく40さい、ガクなりがたしでした。

「ああ。もうヒトにさしずされたくない」

 そんなとき、ざっしのうらびょうしに

「いんちょう、ぼしゅう」のらんが。

「やった。これでもう、おもいのままだ」。

⑤ 

2010年6月5日 連載

 けっきょくでてこなかったゆう先せいは、つぎのひ、上の先せいによびだされました。

「おいきみ、よばれたら、ちゃんとでてきなさい。技ジュツだけが医りょうじゃないんだよ」

 こんどはあたまをサカなでされ、かみがニワトリのようになりました。

「よし。このかみのように、せけんにさからってやる」。

 コケッコー!コケッコー!

 

2010年6月5日 連載

 よなかのナースすてーしょんに、かんじゃさんはかけこみました。

「ちょっと!こはいかに?」
「あれれ。ひどいじんましん」

 かんごふさんたちは、アメを口からふきだしました。そして、こうはんだんしました。

「せんせいを。せんせいをよべばいい」。

2010年6月5日 連載

 しかし、びょういんは技ジュツをきそう場しょではありません。かんじゃさんがまってます。

「しんだんがついたので、これからちりょうをします」
「えっ。ちょっとまってください」

 いきなりのせつめいに、かんじゃさんはビックリ。でもゆう先せいは、じぶんにプライドがありました。

「カンファレンスできまったので」。

 かんじゃさんは、いわれるままにクスリをしょほうされました。

2010年6月5日 連載

 はやくどくりつするためには、いちはやく技ジュツをみにつけなくてはいけません。ゆう先生は、いつもそっせんしてまなぼうとしました。

「あ、それ、ぼくにやらせてください」。
「おや、きみはせっきょく的だね。きっといいお医しゃさんになれるよ」

 上の先生は頭をなでなで・・まではしてません。

 いつしかゆう先生に、自しんがついてきました。

「なんだ。おぼえたら、あとはもう1人でできるじゃないか」。

2010年6月5日 連載

 けんしゅう医のゆう先生(俺の名前で?)は、仲間とともにおんなじ苦ろうをしながらもある夢をみていました。

 一りゅうのレストランで食べたい、がい車に乗りたい、いっけん家をたてたい、び女をものにしたい・・・。しかし、夢は常にブラウン管のなか。はまショーのうたでした。

 「よし、いつかビッグマネー、たたきつけてやる」。

 僕の周囲で<ユウ先生の例え話が面白い>と評判だった時期(5年前?)があったので、その話を面白おかしく要約しよう。非常にダーティーな話だが、こういった現実的な心理描写は絵本風に描くと効果的。
 病棟は理想的には常に満床であることが望ましいが、稼働率も大事なので数床空けておく必要がある。事務+ケースワーカー・連携室がうまいことやらないと、病院の経営が傾く。今のドクターらは「僕らは医療をやればいい」という意識が強く、また(ベッドのやりくりの)責任を負わされることは少ない。

 6月は比較的満床にしにくい(新規入院少ない)時期であり、転入の要請が出てくる。転出が優先されるのはやはり管理が難しく、また問題ありのケースが多い。病院によっては事務側が巧妙な手で入院させてくる。主治医はスルー状態のことも。事務側にとっては<いかに自分の手柄にするか>にかかっているので。

 一方の医師側は受け入れ(するかどうか)に際しても情報収集を欠かさず、それと最初の家族説明を入念にしておくこと。トラブルでの「ああ言ったこう言った」の焦点は、常に最初の説明時の内容が影響する。

「僕らは医療をやればいい」という意識だと、つまらんケース由来のつまらんストレス(勤務医にはよく分る)を抱えることになる。





夕暮れ。バカ井は、塾の教壇でひとり立ち尽くしていた。
生徒は1人もおらず、みな辞めた。と聞かされたのはつい先ほどのこと。

バブル時代でもあり、そこまでの苦情もなかった。

「この2年間・・・」

 バカ井が黙ったので言うが、この2年間つまり教養学部が今、風のように過ぎ去ろうとしている。
 アルバイトに明け暮れ、役にも立たない授業にほとんど出ず、ボランティアに精を出した。
そうだ。先日のあの1件は忘れられない。

バカ井は内線で友人に電話した。
「バカ井です。適当先輩ですか?」
「ただ今留守に・・・すまんすまん、冗談だ。お互い、無事専門課程に上がれたな」
「ええ。おめでとうございます!」
「留年して同い年になったんだから、もう先輩っていうのはやめろよな?」
「はい先輩!」
「(ガチャ)」
「あれっ?」

実はデリケートな先輩を、またもや傷つけた。

自家用車に乗るべく外に出たバカ井を待ち構えていたのは・・・

「よぉ先生」
「コナン坊!塾にどうして来てくれないんだ?」
「だってよぉ」私服で雰囲気が遊び風。
「?」
「高校卒業、しちゃったんだぜ。しかも飛び級で」
「え?」
「おたくの医学部さ。へっへ」
「それは・・・?おめでとう!」

しかしコナン坊は実は不満があった。

「まぁよ。本当は帝大に行きたかったんだけど。安全パイの地元を選んだわけさ。医学部でも3流・4流があるからね」
「うう、うるさいな!」
バカ井はこれからというときもあって、プライドが人一倍傷ついた。

「でも、あんたの姿を見てうらやましくなってさ」
「僕の・・・姿?」いろんなポーズを取るが、分からない。

「大人になっても、依然として大人に抵抗し続ける、その無邪気ささ」
「む、無邪気ってその何かいやだな。子供みたいで嫌だな」
「そうでもないぜぇ」
「でも大人って何なのかな。エロ本読んでいい許可証だけなのかな」

それを言われるとコナン坊はうろたえた。

「でもよ先生。いや先輩。いつかあんたが就職したら、こっちもお世話になるかもしれないからねぇ」
「て、適当先輩みたいに留年して、同級にならないようにしないとな。しないとな」
「そのうち、そこでも飛び級してやるぜぇ」

そんなの、ないない。

専門課程は、(当時)まず最初の1年の解剖から始まって、生理学・生化学、細菌学なども加わって生物らしくなってくる。
やがて臨床実習となり病院側からのスカウト作戦が始まる。

バカ井は疑問を感じていた。
「道徳の時間って、ないんだな。ないんだな」
「だからよぉ。気付かなかったのかよ。教養学部は、道徳の時間だったんだよ」
「そうか・・・それなのに僕は塾で生徒に講釈たれまくって。家に帰ったらエロ本で」
「でもよぉ・・・」

コナン坊は、街の雑踏を指差した。

「バブルってこの周囲が浮かれてる時代によ。バカ井さん、けっこういい経験したんだと思うぜ」
「け、結局損したんじゃないかな。損したのちがうかな」
「損なんかしてないよ。きっと将来、いいお医者さんになれるよ」

自信ないまま、バカ井は家路へと向かった。
最終回ということもあり、家ではみな集まっている。

シンゴが既に酔っていた。
「あのよ!みな進級できたお祝いによ!ここでもう集まったってわけよ!」
「・・・・・」
「俺たちのおかげで、じいさんが1人助かったんだよ?喜べよ!ま、それだけかなこの2年でよかったことって!あっはは!」

適当先輩もサトミも酔っている。適当先輩もさっきのことは水に流していた。
「バカ井。俺たちはこうして2年進級できた。それを祝ってこそ残りの4年が生きるんだ」
「に、2階級特進で・・・」
「ん?」
「2階級特進だけで。それだけ。あわわ。それだけなのかな?」
「何言ってんだ?」
「こ。このまま僕らは、大人と同じになってくのかな?けっきょくは」

兄がテーブルを拭き掃除しながら答える。
「なら。子供でいればいいんだ」
「えっ?」
「何も大人にならなくていいじゃないか。子供でいるほうが、初心を忘れずにすむだろう?」
「そうか・・・」

バカ井は、トントンと階段を昇っていった。

シンゴはさきほど書店で買ってきた本の束をテーブルに並べた。
「すげえだろ!解剖学!これ1冊3万ほどすんのよ?オールカラーだよ?」

適当は本を読んでいる。
「プラティスマ、プラティスマ。ラテン語で考えろっつーの!」
「ファイヤーフォックスかよ!それにしても自分だけ予習とはな!」

焦ったサトミもノートを読んでいる。
「骨学、もうまとめたわよ!」
「げっ!もう終わったのかよ?」シンゴは慌てた。
「触らせて!」彼女はいきなりシンゴの顔をつかんだ。
「おっとラッキー!キスミープリーズ!」

しかし・・・
「これが下顎神経で、これが・・・!」
「オイオイオレを標本にすんじゃねえよ!」
「ここがソケイ靭帯で」
「いひひ!彼氏じゃないのにいいのかよ?いひひ!」

適当はさらに内科の本をドサッと乗せた。
「オレな。今日でハリソン1冊ガブ読みしてやる!」

バカ井が、いっこうに降りてこない。
兄は少し翳った。

「あいつ・・・ひょっとして今のオレの言葉を気にして」
「うそ!」サトミが悲しんだ。
「子供でいろって・・・大人になるなって」
「それちょっとまずいじゃないの!首でも・・・」

適当は本から目を離した。
「首!やっぱりプラティスマ!だ!みんなどうした?」

みな見合わせ、一斉に階段を駆け上がった。
ダンダンダン!と家が揺れそうになるくらいに。

ふすまがガラッと開けられた。

「(皆)うわああっ!」

そこで寝ていたのは、ベイビーおくるみのカッコしたバカ井だった。
「バブ。バブ。バブ」

「(皆)・・・・・・」

「バブ。バブ。バブ」

彼の心は、遥か向こうの世界へ。
それはもう、2階級特進どころではなかった・・・。








 病院では、昼間の院長による総回診。

 転倒して血腫を見逃された、じいさんの主治医が淡々と説明。

「まーこの人は。もうええかって感じです」
「転倒して、血腫ができて・・・今日のCTでもいっそう拡大しとりまんな」
「ま。なんもせんですけどね。もう年ですから。ま、撮るもんは取っておきますけど!も!」

院長の体がかすかに揺れた。
「うっ・・・?」
うなだれ、壁にもたれこんだ。

みな、覗き込んだ。タオルをもった総婦長が肩を叩く。
「院長?ひょっとして・・・いや困った。次の院長引継ぎ、どうひまひょ」
「ならん!」院長ライクなダミ声。
「わっ!生きてる!」

みな散らばった。

うつむいたままの院長は、なにやら喋りだした。

「知ってるぞお前ら。匿名で聞いたが、じいさんを家に帰らせたこともな」
「ひっ!なぜそこまで?」主治医がビビッた。

「わしが週に1回しか回診して、そのあとパッパラパーなのは認める。だがな、そこを逆手に利用して都合の悪いことを打ち明けないのは許さん!」

「わわ・・・!でもあれは、がが、学生らが無理矢理連れて帰るって、それで」
「大うそつきが!もうバレとるわ!」

主治医は土下座した。
「すみません!この件はどうか!」
「もう来んでいい。あるいは・・・」
「ああ!あるいは何でございましょうか!」

少し、間。

近くのコーナーで、蝶ネクタイを引っ張るコナン坊。
「一ヶ月の給料カットを命じる。今月振り込まれた金額を、以下の口座に・・・番号は・・・」
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎなんじゃ、ないのかい?」

コナン坊は振り返った。
「どうするよ。あんたの口座だぜ」
「ええっ?それって、ど、どうなのかな。平和に使うならいいのかな」
「おいおい・・・」

院長はウトったまま。
「このじいさんは、まだ助かる!」
「ですが、家族は救命を希望しては」
「人類、みな兄弟!その中のわしが救えといっている!」
「ひっ・・・わわ、わかりました!」

主治医は早速、脳外科医をつれて来た。
「・・・てなわけで」
「ふんふん。では、しましょう!」

話が進み、ベッドはオペ室へと運ばれていった。

コナン坊はネクタイで最後の指令。
「つかれた。スタッフはわしを抱きかかえて、眠らせてくれ」
スイッチを切ったところ・・・

バカ井が勘違いして、コナン坊を持ち上げようとした。
「わあっ!何をするんだ!ヘンタイ!」
「えっ!だって!」

さすがに、見つかった。総婦長が笛を吹く。
「ピー!そこで何をしている!」

絶望していた主治医が、コナン坊・バカ井の視線を追った。何かを悟った。
「あっお前ら・・・!ひょっとして今のは!」

「分かるところが、マンガだよなー」コナン坊が牙をむいた。
「やっぱり作り話だ!医師の指示により、奴らをひっとらえろ!」

コナン坊はサッカーボールを足元においた。
「歯!くいしばれ!」

ドカーン!と蹴られたそのボールは一直線、主治医の急所にぶち当たった。
「ぐあああ!」
コナン坊は何か思いついた。

「モッコリ中心、いやモロッコ中心のマラケッシュ。てかぁ」

バカ井が手を叩いて喜んだ。
「やったやったあ!正義は勝つんだ!あはは!」
「何言ってんの、お兄ちゃん?」
「えっ?」

コナン坊は、つぶらな瞳に戻っていた。

「君がやっつけたじゃないか!」
「知らないよ。僕。何のことだか」

 瞬く間、守衛らに取り囲まれた。のはもちろんバカ井のほうだ。
 バカ井の将来がいきなり灰がかった。
「この・・・!」

しかし、コナン坊は遠くを指差した。
「おまわりさん。犯人はあっちへ逃げてったよ」
守衛らは、みなあっち方向へ走った。

バカ井は肩を落とした。
「はぁ。死ぬかと思ったよ」
「恩返しだよ。エロ本の罪かぶって・・やべっ!」
「えっ?なんだって?」

コナン坊はあちこち隠れようとした。
「まさか!とにかく!ついに!」
「おい待て!君は何者なんだ!」

コナン坊は観念した。

「じゃ、紹介といくか。我輩はコナン坊。名前はまだない」
「あるじゃないか!」

「どこで生まれたか、とんと見当がつかねぇ。ただ、美人のおねえさんに連れられて、ホテルに行ったことは覚えている」
「何かと、ごちゃまぜになってないかい?」

「動揺したオレは目がくらみ、薬を飲まされてしまった」
「で、気がつくと・・・今の君が?ってわけ?」

コナン坊が、いきなり震えだした。
「くっ・・・!」
「あれ?」
「つつ・・・」
「つつ・・・つつがむし?」

コナン坊は、大口を聞けて、叫んだ。

「つつもたせ(美人局)に、あってしまったんだー!」

「ノオーーーーウーーーーーー!」(スロー、劇画調)





 写真に写っていたのは、その長男と腕組みする若い女性だった。温泉ホテルの部屋であることは、その浴衣から明らかだ。

「胸が、見えかけている・・・」バカ井の視点は違った。
「バカおい、かせ」適当先輩が奪った。
「この日付。じいさんが倒れてた日だ」
「若すぎるだろこの女・・・・長男さん、これ愛人だろ?」

 パタッ・・と落ちたおみやげTシャツ。分散した頃には、怒った長男がステッキを振り上げていた。
「うわぁーっ!」

「ひっ!」適当先輩は反射的にかがむとともに、靴を脱いでかまえた。お互いの動きが止まった。

「なにするんだ先輩!」同時に、バカ井が輪ゴムでハエを射つ構え。サトミもつられて、カバンのハサミを取り出し投げる構えをバカ井めがける。
「彼氏に何するんの!」

 シンゴだけが、なぜかヨーヨー。

「あまんら、ゆるさんぜよってかハッハー!」

 みな、固まった。各々が、各々を狙う。手を引くにも引けない。適当先輩を制止するつもりのバカ井も、長男への怒りは強かった。
「適当先輩。ここで手を出したら、留年どころか」
「バカ野郎。お前も似たり寄ったりじゃねえかよ!」
「僕は許せない。じいさんをほったらかして、愛人と旅行だなんて・・・!」

 シンゴはヨーヨーで、いろんなところを見定めた。
「な。なんだよ。愛人と写真撮っただけじゃねぇのかよ。そうするってぇと・・・」

 シンゴはいろいろ想像した。
「やべぇよ。やべぇ。今日はパンパンのジーンズはいてきたんだよ」
「?」バカ井は疑問符だった。
「反応しちゃうとよ。アレの行き場がなくなるんだよ。いてぇんだよ!」
「きついジーンズはいて。想像するお前が悪いんだろうが!」

 みな、依然として標的を狙っている。長男は汗が1筋ずつ。
「わ、わしだって・・・・わしだって」
「?」適当先輩は手をゆるめそうに。
「つらかったんだ。逃げたかったんだ」

 いきなりドアが開いた。若い女性だ。
「やっほー!遊びにきたよー!マリコだよー!」
「おい入るな!」住人である適当は構えたまま叫んだ。
「今日は婦警スタイルできたよー!」

 遊び女が、たまたまやってきた。
「あたしも、まぜてー!」
「バカ野郎!帰れ!」
「クリスマス近いから赤いパンツだよ。ほら」

 何かが見えたのか、シンゴはもろに反応した。
「うぎゃあ!」
 ヨーヨーが、勢いよく飛んできた。それは遊び女の頭を一度ぶつかり、続いて長男のステッキに当たり・・・適当先輩へとヒットした。

「うわぁ!」
 先輩の靴がむやみに振り下ろされ、サトミの手に当たったそのハサミが・・・バカ井の尻に刺さった。
「ぎゃあ!」

 一斉に、全員が倒れた。だがバカ井は意識を保った。
「はぁ、はぁ。僕はやっぱり納得できません。長男さん・・・僕はあの人を、助けたい」

 バカ井は、尻に手をやりハサミを引っ張った。
「ぐわぁああ!」

 立ち上がったバカ井に、救いの小さな手。
「あぁ・・コナン坊!」

「その言葉を待ってたぜ」
「たた・・・病院へ行くんだ。ジャマしないでくれ」
「いつかの恩返し。させてもらうぜ」

 またスケボーが置かれた。
「つかまって!」
「うわーコナン坊!ここは!」

 スケボーはアパートの廊下から外へ舞い上がり、空中分解した。

「えーーーーーっ!」

 そこはまだ、アパートの5階だった。

















帰宅が遅くなったバカ井は、今日も暖かく兄に迎えられた。

「ああ腹へった。自宅が一番いいや」食事が勢いづく。
「その頭。包帯なんかしてどうした?」
「これは・・・」
「ケンカか?」
「う、うん。電柱で打ってね」

 兄はしかし、すでに調べずみだった。

「今日、女の子が来てな。塾の教え子だった子」
「なんだよ。聞いたのかよ?」
「洗いざらい、こっちは聞いたさ。もうお前は」

 バカ井は立ち上がる。
「もう分かってる!兄さんは、他人への余計なおせっかいは、もうやめろって。そう言いたいだけなんだろう?」
「病院のドクターらは、いずれはお前の上司となるお方だ!」

 兄の本音が出た。
「それにだ!」
「韓国語?」
「俺たちだって、いつ病気でお世話になるか分からない。そんな偉い人たちに迷惑かけて恥かかせて、お前は一体何がしたいんだ!」
「だっておかしいんだよ兄さん!間違って処置されて、誰も責任とろうとしないんだ!」
「間違いだってなぜ分かる?いまだ素人のお前らに、立ち向かえるわけないだろう!」

 兄は怒って、外へ。

 バカ井は居場所をなくし、適当のアパートへ。

「おかえり!あっ?」出てきたのは、薄着のサトミだった。
「なんだ。バカ井くんか・・」
「なんだとは何だよ。こっちは落ち込んでいるっていうのに」
 など言いながら、彼は部屋に入った。遅れて、適当先輩が入る。ビール缶をいくつか下げている。

「おっ!バカ井・・・いやいや。これはな。これからお前ら呼んで、宴会でもしようって」
「また嘘を・・・先輩。だいいち、なんで宴会なんですか?」
「それはその。オレの留年確定記念とか」
「人が死にそうなのに、なんで宴会なんですか!」

 雰囲気が暗くなった。みな、それぞれヤケを抱えていたにすぎない。頭に血腫ができて脳が圧迫されてるじいさんは、集中治療室で1人のまま。長男の希望で<何もしない>ことに。

 正義感の強いバカ医は、何かを何とかしたい気分で一杯だった。

「病院の過失のくせに、家族が何もしないって。やっぱりおかしいよ。道理に反するよ」
「もう、よせって」適当先輩がビールを開けた。
「・・・・・」
「家族だったら、悔やまない?生きててって望まない?」
「またそれか。あぁ始まった」
「コナン坊の言うとおりかな・・・金なのかな。いやだなそれって」

 シンゴが遅れて登場。
「いや~!それがよ!長男さんといっしょに飲んじゃってよ!」
 後ろから、じいさんの長男。
「やあ!お世話になった~!ン!」
「意気投合しちまってよ!そりゃ仕方ねぇだろこうなったら!人類皆兄弟だしな!」
「そうだそうだ!皆に、礼を言いたくてな!」

 バカ井は表情を変えなかった。
「お父さんの病状は、見てこられたんですか?」
「ああそれな。もう時間の問題って聞いてな。だが、悔やんでも時間がたつだけだ」
「・・・・・」
「今までのことは水に流して、君らとの絆を取り戻そうと思ってな」

 しかし、適当は立ち上がった。
「なんですかそれ。帰ってください」
「え?」
「なんですか人の家に。おいシンゴ。お前とも絶好だ」

 シンゴは酔いが回ったまま。
「おっかしな奴だなあ。長男さんがせっかくよぉ。おみやげまで持ってきてくれたのによ!」

 長男はおみやげらしきTシャツを袋から差し出した。その袋から1枚の写真が。

 バカ井は驚いて、拾い上げた。いや、拾い上げて驚いた。どうでもいいが。

「えーーーーーっ?」







 















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