カズは3時間もかけてこの診療所に来た。薄汚い、ちょっと地盤沈下した診療所。健診のアルバイト・・ではなく、午前~夕方待機。つまり、呼び出し内以外、そこにいるだけ。

 過疎化地帯だ。以前はかなり羽振りのいい町だったらしい。話好きの老人が部屋に招いた、その年寄りこそがそこの院長だった。私服であるせいか、そこらの高齢者と変わりない。

「あんた。よく来たの。循環器の医者?」
「決めてません。1年して、選ぼうと思っています」
「そうかそうか。息子を呼んで来よう。おい!」

 やけに張りのある声だ。まるで召使を呼ぶように。

「は~い!」救急のかけつけのように走ってきた青年。まだ30半ばくらいじゃないだろうか。

「あ。見たことある!」カズは本能的に思い出したようだ。
「そうなんだ。医局に写真があっただろ。盛大な結婚式の」
「そうです。それで見ました」
「あの写真、恥ずかしいな。はいどいてくれよー!」

 じいさんが昼寝にし行き、カズと青年は近くの小川の流れにたたずんだ。青年はどこか伊藤英明似だった。

「患者こないっしょ?シャレにならんっしょ?」妙に青年、テンションが高い。たしかこの先生はかなりの業績をあげ、留学もしていたと聞いた。大学へ戻って、すぐに結婚・・・

「ああ僕がね。結婚した経緯はね」逆タマだった。
「女医さんのお父さんが、さっきの・・」
「そうさっきの!じいさん!ウケるだろー!」

 ずっと笑顔なのは楽しい。しかしカラしい。

「嫁がさ。大学で出会ったんだけど。大学居るの嫌だって泣き叫んで。鬱になってしまってね」
 カズは、逃げ場みたいな場所をその小さな小川に託した。

「でね、でね。田舎に戻りたい。田舎に戻りたいって。ああそうか、嫁の父の診療所を継いだらいいって。いって思うだろ」
「はい。たしかにそれも正しい選択かと」
「だろ?であろ?であろ?」血走った眼。

「ところがー!(以下エコーで消えていく)ところがーところがー」
「?」
「じじい。じじいでいいんだよこの際。じじいがさ、な。なんて言ったと思う?」
「わかりません」
「俺はまだ院長でいるって。引退せえへんって。それってふざけてない?」
「いや。ふざけてはないでしょう」

 青年はちょっとよろめいた。カズは止めるのを忘れて△座りしたままだった。
「あ。大丈夫ですか」

「いけるいける。どこまで話たっけ」
「引退しなくて。それがふざけてるって」
「いやいやフザケテないフザケテない。オレ、マジよ。で、オレここ戻ってきて。副院長。ま、いーけど。そしたら来る患者。は?どこ?どこにおんの?」

 どうやら、ここが過疎地で患者がいないことを嘆いているらしい。

「原因は、なあ。気になれへん?気になれへん?」
「別に・・・」
「原因は!くっ・・・!」

 顔をしわくちゃにし、青年は両足をバタバタさせた。
「うちの関連病院が!おっきな病院作ってしもったんと!」
「近くにですか?」
「そう!ここのすぐ近く!うんわるぅ~!」

 彼は、力尽きたようにそこに項垂れた。
「はぁ。うんわるぅ~・・・」

「大学にまた戻るという選択肢もあるんじゃないでしょうか」カズは思いつくことだけを喋った。
「うんわるぅ~・・」
「あ、でも奥さんがいるか。ダメだ」
「わるぅ~・・・」

 青年は、どうやら・・・そこでそのまま眠ったようだ。

 カズは、思い出した。
「そうか。ここの病院は僕のあの患者さんを診てくれた病院だ」

 そのときの資料が・・・

「あるかもしれない!」

 ザザッ、と気づかぬ砂埃が、うなだれた青年の顔にかかっていた。チョボチョボ・・とあちこちに飛び込む小さな滝。ここは自然だけが思うように生きていた。


 朝。アルバイトしなくていいはずの研修医だが、実際は人手不足となると・・・

「じゃ、頼んだよ」と、古谷先生が渡す地図。
「遠いですね」
「すまない。僕ら末端に回るバイトは、おいしくないんだ」
「この病院って。医師会の?」
「肺癌の患者さんだよ。この前の」
「ああ・・」

 カズは表情が一気に暗くなった。あの怒られた光景が、未だに焼き付いて離れない。ゆとりの僕らは打たれ弱い。それは認める。でも、そんな教育方針は許されない。体罰でなく、理屈でまずきちんと示してほしい。こちらの言うことを、そんな怒らないで聞いてほしい。

 カズの父もそうだった。開業医だが・・・いつもカズを見下してばかりだ。カズの発する文章も途中で横槍、感心もしてくれない。いつも自分のことだけなんだ。自分のことだけでそれが正しいってアンタは言えるのか。それで育ったのがアンタのこの息子なんだからな。

 ハッ、とカズはいかつい顔をミラーに見出した。ハンドルを握る。PHSで医局秘書へ。
「カズ、出ます!」
 タイヤがキュルキュル、と過剰に回る。

 その姿を、大学病院の屋上から見下ろす古谷。

「ゆとりの子守は、大変ですよ」
「それがお前の役目だ。仕方ない」デンゼルがタバコ。
「いいんですか。医局長。呼吸器専門医が、タバコ吸って」
「わたしは呼吸器の申し子。呼吸器の患者をたくさん見届けてきた。非常に罪深い私は!その病気でもって自分の命をささげようー!」

 古谷はデンゼルを筆頭とした呼吸器科の一員だ。准教授もいるが、役に立たない。うちの呼吸器科は、以前より循環器と対立している。前者は保守、後者は好戦。前者は理性、後者は本能、水と油。

「紹介患者の振り分けがありますが、医局長」
「めんどくさいから。お前やってくれないか」
「医者は、患者様の神なんでしょう?」
「主治医なら、の話だ!」

 そうやってデンゼルは消えた。古谷は、雑用を任されるのには慣れていた。もちろんこの件は違うが。

 古谷は数枚のコピー用紙片手に、循環器グループの戸を叩いた。大勢が「ふーい!」と返事。

「いいかな?入るよ」
大きなテーブルに、トランプやマージャンの散乱。夜間の名残りか。6人くらいが、結膜炎のような貼れた両目を持ち上げる。

「40代でまだ若い女性だ。骨盤病変の後遺症で、肺塞栓を繰り返している」
「肺はおたくの専門だろ?」と島という太った医師。これが影の仕切り番長だ。

「以前詰まっていた血栓も除去され、下大静脈フィルターも入ってる。予防含め、治療の方針は確立している」
「なら、なんでここに?」

 ヒュー、と誰かが口笛。島がにやつく。

「右心系の負荷が不安定だ。息切れ、浮腫の状態もフォローがいる」
「若いんだろ。やだなオレ。もめたくねえし」

 おお~、とゴマすりの周囲。

「精神科もかかってる。ワーファリンを含め、内服の管理は重要だが」
「待て待て。なんだよこれ。胃洗浄とか何度も救急でやってる。ダメだ。保証できん、こんな患者は」
「待ってくれ。まだ話は」

 1人ずつ、医師らは引き揚げていく。
「マウスみよーっと」「遠心!とう!」

 島が見下した笑顔で見つめる。
「うちでは、診れません!」
「そちらで診た方が、患者さんのためには安全だと思うんだ」
「そりゃ、こっちだって管理はしたいさ。だがな。言うことを守ってくれる条件がないと、リスクが高いんだよ。ワーファリンって飲みすぎると恐ろしいんだぞ?」

「それは知ってる。その管理もそちらの工夫のアイデアで」
「見ないみなーい!おっかえりー!」

 背中を押されつつ、古谷は廊下へ出されかけた。
「待て!自分たちは関係ないって?じゃあその患者がどうなってもいいって言うのか!」
「はーいがんばってー」
「そんな態度だと、いまに患者の信用を失うぞ!」

 言うだけ言ったが、結局締め出された。が。

 ドーン!と再びドアが開けられた。デンゼル大塚だ。
「たのもう!入るよーん!」
「医局長?」古谷はへたりこんだまま、言葉を失った。

「なーんだよ。しっつけーな!」島は刈上げの頭を両手でアップし直した。

「じゃ、座らせてもらうぞー。おーこれはこれは縁起がいいなー。スペードのエースだ。さ」
「?」
「この中から引いてみな.どっちがジョーカーかな」カードを2枚提示。
「ふん。なら、これを!」

 ジョーカーだった。

「ほう。その顔だと、ジョーカーかな?神よ!我はジョーカー!規則正しきトランプ世界の変数なりー!」
「おいおい、やめろっての。あの患者の件なら済んだから!」

 デンゼルは部屋を見回した。
「お前とは長い付き合いだなー」
「そうすか?」デンゼルが年上なのを思い出し、言葉をただした。

「いや、ここで会ったのは3か月前だ。何ぶん、異動の多い職場でね」
「俺がここへ戻ってきて、3ヶ月ってことですけどね」
「あーあのお前のーそのーなー、評判だが」

 デンゼルは近くの雑誌を手にした。名簿だとは分からせず。

「その、お前が前にいた病院なんだっけー」
「俺っすか?2年、徳洲会にいましたけど」
「とくしゅう、とくしゅう、ふーん。いろいろあったのは俺も知ってる」

 島は、ちょっと不機嫌になった。
「な、なんですか。俺は単に、呼び戻されただけっすよ」
「そうだ。大学は嫌がる医者を吸い寄せるブラックホールみたいなもんだ」

 近くのリンゴを、シャリッと食べ始める。
「うーん。うまいな。で、部長の八木先生はどうだったあん?」

「部長ねえ・・」島は天井を向いた。
「この部長は俺の長い付き合いでな。実は、お前の事はいろいろ聞いたんだ」
「えっ?な、なにを・・」動揺している。

「何でもだ。毎日メールの仲だからな」
「・・・・・」

 デンゼルは名簿を利用しての適当な会話だが、島は引っかかった。この<八木>というのは呼吸器だ。やはり循環器とは仲良くなかったか。

「中には目を覆うこともあったが、まあここだけの話にしとく」
「お、恩に切りますよ」
「俺は万年助手になる運命だ。論文のテーマも准教授にとられてばかり。アチャー!」

 島は一瞬だがビクッとした。
「・・・で。僕は先生に何を・・・?」
「んー簡単なことだー。さっきの患者を。パク。診ててほしいんだ。お前の科でな」

 デンゼルは足を組み替えた。
「だが、お前のその適当なところは信用できん。さっきは態度も悪かったしな」
「す、すみま・・」
「点数つけとく。2次試験で頑張れよ。傾斜配点を祈ることだな」

 デンゼルは立ちあがった。
「腐っても鯛だ。内服管理、圧評価、しっかりやってくれよ。当科でも、半年に1回は診るからな」
「くっ・・・」
「こちらの守備範囲外の場合は、容赦なくたたき起こすからな。プッププー!ラッパの起床時間だー!循環器グループは一斉蜂起せよー!」

 デンゼルは廊下へ出た。聞いていた古谷は、お辞儀した。
「さすがです先生。心理作戦ですか。お得意の」
「いや、双子作戦だ!」
「なんだって?」

 ピラ、とデンゼルの手元から・・・もう1枚のジョーカーがヒラリと舞い降りた。


 さっきのカズのプレゼン患者だ。周囲を呼吸器グループ、さらに循環器が取り囲む。患者は四肢・体幹の筋肉が萎縮、寝たきりに近い。60代より、20以上老けて見えた。

「アルブミン、いくらだ?」野中部長の手を、盗っ人のようにさけつつ、数はカルテを開きなおした。

「CRPが4あります。閉塞性肺炎ではないでしょうし」
「なぜ言える?」デンゼルが腕組み。
「CTで映ってません」
「CT。ではな。だが他の臓器かも。はたまた胆のう炎とか」
「そんなサインは認めませんでした」
「おそらくかなりの絶食状態だ。そういう可能性もある」
「治療は、侵襲が大きいと思います」

 デンゼルは、目を丸くした。廊下へ。

「じゃあ、なんで入院となったんだ」
「えっ?それは」
「主治医。主治医はどこだ?」
「ぼ、僕ですけど」
「そーか主治医か!お前が!この患者にとってお前はなんだ?」
「で、ですから主治医」
「神だ!どうして神かって?ああ教えてやる!彼にとってすがれるのは、お前しかいないんだよ!」
「し、指導医がついてます」
「指導医か?じゃあ指導医が死ねって言ったら、お前は死ぬか?」
「は?」
「いいか主治医。患者はお前が最後の頼みだ。お前の言葉。お前の仕草。1つ1つが特別なもんだ。お前の羽の羽ばたきが、患者の寿命を左右するんだ!」

 ジュンが、こわばったまま見ている。カズと、おびえた目がぶつかり合う。

「僕の。何がいけないんですか?」
「治療に侵襲が大きい?あの状態だからか?だから戦わない?患者よ、がんと闘うな、か?」

 ドカン、と長方形のゴミ箱を数メートル蹴とばした。

「耐えがたきを耐え、か?」バン、と聴診器を叩きつける。
誰かが逃げたのか、誰かを呼びに行ったのか。1人ずつが走っていく。

「戦いを放棄された患者の気持ちは?」
「決めたのではなく、思っただけなのに!」カズは荒げた。

 デンゼルは人差し指を上げつつ、ゆっくり近づいた。

「そう感じた、からか・・・?」
「そ、そう感じました・・・言ったのは間違いです」

 デンゼルは、もうキスするんじゃないかというところまで近寄った。

「感じるな・・・考えろ!」

 泣きかけになったカズは、正視できなかった。ただただ、複雑模様の廊下のタイルを辿るだけだった。

「うっ、うっ・・・」
「ぼくも昔は」古谷先生だけが残ってくれてた。
「うっ・・」
「僕も昔は、ああやって怒鳴られたものさ」

 ハンカチで拭いてくれたが、それがいっそう涙を促す。

「デンゼル先生は、僕が命をあげてもいいと思った医者だ。彼が何を大事にしているか、分かるかい?」
「・・・・」
「医者と患者は他人だ。親子ではない。しかし、それ以上の結びつきがなくてはならない。なぜなら患者という<子>にとって、僕らは<親>ではない。<神>だから」
「か、神って。よく分かりません。全能ではないし」

「でも。彼らにとって僕らは全能なんだ。僕らはその期待に応えなくてはならない」
「そ、そんなカッコいい医者。僕にはなれません」

 ゆっくり歩いた2人は、待合の近くの大きなガラス、日光を浴びた。古谷はつぶやく。

「ヒーローという白衣を着た、ピエロさ。僕らは・・・」

 それとは裏腹に、カズはデンゼルの言葉が反復していた。

「感じるな・・・考えろ!」




 教授も准教授も学会で不在の中、30-40代が主力で行う総回診。カズは自分の持ち患者は万全に準備していた。さっきの野中部長と廊下で目が合った。

「なんだ?」鋭い目。
「いえ。何でもありません。ただ視界に入っただけで」
「しばくぞ。ゆとりが」

 遠くから研修医がもう1人近づいてきた。茶髪の長い女医だ。背が高いのはいいとして、彼女はじぶんのシャクれた顎が嫌だった。だから、なるべく笑わない。

「カズ先生。デンゼル、トイレに行ったままだね。回診急がなきゃ」
「急ぐって。そんないい加減はダメだよ」
「その通りだ」

 廊下を歩きながら、古谷先生。
「完全に情報を集めるのが本来のやり方だが、それだけに奔走しては時間を失う。ならば限られた情報をどう生かすかにもかかってる」

 この医者は、持論が得意だった。ただ、聞く側が・・・

「それなのに、循環器の医者たちは。ほら、見ただろう。まだ経験間もない君たちを怒鳴り、たえずイラついている。僕はあんな連中はゴメンだ」
「古谷先生は、以前循環器にいらしたそうで」
「他人の過去を、あさるな!」

 廊下の皆が、ぴたりと止まった。古谷先生はいきなりキレる、と評判だった。
「静かにしろや。ボケが」さっきの野中部長の声がどこからか。

 実はカズは、さきほどのプレゼンの患者の事が気になっていた。いや、薄情ながら病状ではない。自分はきちんと問診したし、集める情報も可能な限り集めた。いやだって入院したのはつい昨日だ。夕方5時を過ぎていたし、他の病院だって時間外だ。何より、あの患者さんは身寄りがないし・・・。

 大勢が大部屋に入る。総回診はどこでもそうだが、遅れて入ると窮屈この上ない。どうやら背の低い先生が真っ赤になって困った様子。中年の男性患者は腕組み。

「先生。甞めてんですか」野中部長だ。同じく循環器の先生が小さく縮こまる。年上の先生が、恥ずかしそうに。

「ねえ畑先生。なんか言ってくださいよ。1週間。あんた、何してたんですか」野中が、心電図の束を5つほど一気に放り投げ、床に散らばった。

「心電図のシの字も分かってねえ!行くぞ!」みな続く。
泣きかけの畑先生はいったん地方に飛ばされたが、問題ありで戻ってきていた。しかしここにも平和はなかった。

「あれじゃ、まずいよね」さきほどの研修医の女医、ジュンがカルテをパラパラめくった。
「循環器グループでしょ彼。所見、間違ってるし」
「・・・・」

 カズには、どうでもよかった。ただ、ああいう末路にはなりたくない。出来が悪いとかでなく、年下に苛められるほど惨めなものはない。サラリーマンの比ではない。相当なプライドでもって育った大きい大人が、いきなり制裁を受けるのだ。

 ところが。いきなりデンゼルが戻ってきている。彼は・・・泣きかけの畑先生をあやしている、ようだった。

「あーそうだ。昨日は俺も阪神が勝つかと思ったが」
「いひひひ。そうっすか」涙一滴目じりに残し、畑先生は笑顔に復活してる。

「どうだー今日、賭けてみるか俺が買ったら。ドミノピザおごれよただし!Lサイズでな!どうだ呼吸器グループは?興味ないか?」

 なんだ。勧誘しているのか・・・。

「呼吸器グループはいいぞ。答えを出せとか、そんな世界じゃない。この宇宙に答えがあるか?誰がそれを求めてる?だいいち。答えってなんだ?」

 宇宙規模で続きそうなので、研修医らは廊下へ出た。



 童顔のカズは、こうも多くの大人の前に晒されるのは久しぶりだった。

 いつだったか、キタのどこかにある医師会に連れられて行った。医師になった以上、OBらに今のうち覚えておいてもらえ、という名目だ。大半が老人だった。正直、老人ホームの医者版とさえ思ったほどだ。目の前でカズを凝視しているあのデンゼルが、そう大塚が、ヨハネ黙示録なんちゃらどうたらで、1人ずつ挨拶させられた。

 帰りの電車にぶらさがったまま聞いた、デンゼル医局長の一言が忘れられない。

「お前らは、こうして戦場に送られる。戦って犠牲になるのは、きまって若者だ」

 患者さんを救うために一貫して勉強してきた。それが最善の道だと教えられた。そのために自分が犠牲になれるなら、極めてやろうじゃないか。あんたとは、犠牲の意味が違う。

 イラチ循環器グループの咳ばらいが聞こえてきた。進行係の古谷先生が呟いた。
「さ。やろうか」呼吸器グループらしいジェントルな先生だ。
「はい。60歳男性。5年前に当院で肺癌の外科治療。その後受診せず。今回は血痰が原因で外来で気管支鏡を」

 両手で<T>を上下させるデンゼル。
「まーったまーった。受験戦争のようなテンションだな。治療の前に葬式か?その戦争はもう終わったぞ二等兵」
「二等兵?」爆笑する循環器組にムッとなる。
「そーだ二等兵だ。代名詞で呼ばれるとは名誉なことだぞ?もっと抑揚をつけて。変化を!みなを引き付けるように!」

「なにぶん。時間が迫ってるので」と古谷。
「あ、おう」とデンゼル。

「・・・右の上肺に再発」
 ズカズカと、おかまいなしに出てくる呼吸器科医たち。まとまりはないが、それぞれに個性がある。それぞれの哲学を持つ。で、1人ずつ戻ってくる。いっぽうの循環器医らは、興味もないそぶりで貧乏ゆすりしている。

「当院に来たきっかけは血痰ということだけど、紹介はどこから?」と古谷。
「医師会の病院です」と紹介状を。
「たった2行か。写真もデータもない。血痰だけでこちらにふってきたとは。妙だな」

 OBの偉い先生だと、とかく問い合わせもしにくい。さて大塚医局長は、椅子から片足を投げ出していた。
「既往は他には?」
「2年前に、心筋梗塞を起こしてます。けっこう広い範囲で」

 と言ったとたん、循環器組がくわっと姿勢を正した。
「どこだ病変は?」
「冠動脈の?ですか?」
「に決まってんだろ!」
 もっとも攻撃的な野中部長だった。

「なんだ、これしかないのか・・・」
他の循環器医師が、とぼしい資料をあちこち見せる。
「心筋梗塞をどこで診たかも分からんのか?」

「本人は虚血の後遺症があって、コミュニケーションが」
「植物状態か?」とデンゼル。
「そうではないです」
「そうである。そうでない。お前は2択クイズか?」
「いや」
「ピンポーン!カズ大先生が出したのはハンか?チョーか?」

 やっと静まり、カズは口を開いた。
「失語、それにウツもあります」
「どれだけ聞き出せるか、それも重要だ」とデンゼル。
「自分はきちんと聞きました」
「なぜそう言える?その昔。地球の石油が絶対あと30年だと俺たちは教えられたことがあった。それで今その時期も過ぎた。ガソリン車は相も変わらず走ってる。もう一度聞く。絶対と言えるか?」
「はあ・・・」

古谷は、諦めたようにしなだれていた。
「医局長・・・」
「いいか。この世に!絶対などない!」
「どこへ?」
「トイレだ」

 どよめく中、研修医らはプレゼンを1つずつ今のうちにと終わらせていった。


 大学病院での会話。

 研修医ら数人が、数々の貴族医師らの到着を待っている。待つこと3時間。カエルの如くあくびの合唱。いや、<予習>は十分やった。医療という仕事に<予習>なんて違和感を感じる読者もいるだろう。だが医者の起源をたどってみろ。人間のそれが猿であるように、医者だってもとは勤勉な受験ザルだ。今でいう<リア充>たちの喜楽をよそに、地下で猛勉強してきたんだ。ただ受験にもそれなりにーいや、試験という名のレースと言っていいだろうーそこには数々のカタルシスがあって、山場が当たったりライバルを出しぬいたりランキングが載ったり・・・それはそれで自分の居場所を高みに見出すのに十分だった。殊に勝者においては。親からは褒められ、何より頭脳の好奇心を終日愛撫し続けてきた。それなのニダ、いやそれなのに、だ。なんだこの拷問は。何の罰ゲームか。研修医のカズは思った。童顔に見られがちな彼は少しでも大人に見られたい、そんなコンプレックスがあった。「3時間前より待機せよ」ー上司らの冷淡な命令は、そんな忌まわしい過去を呼び起こすに十分だった。試験用紙には向き合っていたが、まさかこんなに自分と向き合う時間が多いとは・・・。

「では!」医局長のデンゼル大塚・・・肌の浅黒いノッポの彼は、つい先日まで茅ヶ崎でサーフボードを脇に抱えていた人物とは思わせなかった。その筋肉質を白衣で包み、それも丁寧に隠しこんであり、悔しいことに様になっている。それでもあれはまるで祝儀袋のようだ、とカズは苦笑してみせた。しかしその袋の中には、カズら研修医を満足させるものは入っていないことは分かっていた。そこから何が飛び出すか分からない。駅前でクジをスクラッチする、そのほうがよほど健康的な動悸が楽しめるだろう、とカズはまた苦笑した。

「おいそこ、何を笑ってる?」

 ギラついて見開いた白い目が、こちらをとらえていた。「あ、いえ」反射的にカズはたじろいだ。しかし聞こえてもない言葉が反射してきた。医局長が以前放ってくれた言葉だ。「山でクマを見たら、臆するなという。真偽のほどは分からんが・・・自分を弱く見せることは、つけ込ませる隙を与えるということだこれには・・・つけこませる人間にも責任がある。謙虚という言葉もあろう。しかし、謙虚という言葉を発した時点でそれは謙虚でなくなる」

 謙虚。研修医以外、それはつまり自分より上ばかりってことだ。病院偏差値では自分らが一番下。いや、今後上昇株だと分かっててもだ。もし偉くなってみろ。月に代わってお仕置きだ。だが今の僕らに・・・謙虚以外に、どんな商品価値があるってことだ・・・?彼は謙虚という実体が存在するのなら、それを箱に入れていっそ証券化してウォール街に売りさばこうかしら、そんな衝動に駆られた。

 のもつかの間。

「すみません」

 言葉の最大公約数はそれだけだった。

 「おめでとう。最初のプレゼンは君だ」

 発語すら最小限の節約運動のように、医局長はガムとともにポッ!と豪快に吐き捨てた。カズはさきほどの教訓通り、臆することなく前足を次々と強制執行させた。「守りたければ、攻めなければならない」という羽生善治の名言でさえ、医局長の言葉に思えて仕方なかった。「では・・・」前方にランダムな机椅子の元老院たち。謙虚どころか負けん気に満ち溢れる。金も名誉も手にすると(女、は人による)、男が次に選ぶのは<好戦>。そんな雰囲気が支配した。

 間髪なく、カズは口を開けた・・・。大塚医局長は、3歳児のような顔でキョトンとそれを見据えていた。

 ほっぺに当てた人差し指が、チクタクチクタク・・・!

模索の上・・・

2015年9月4日 連載
 構想3年、の新企画が開始。2つの世界をアットランダムに描く構成。なるべく1話完結型。偉人の言葉を流用しつつ、役立つものでありたい。

 Netflixという安価なサービスがあるようだが、時間の浪費にならないだろうか。いや、暇つぶしはそれなりに楽しい。クロスワード的な面白さはある。だが、<楽>が人生のメインであってはならない。

 文体は、トム・クランシーのものを多少は参考にしています!

 ちょっとついでに。カンファレンスで。

「患者さんは70歳、敗血症。グロブリンを投与」
「おいおいおい待てー若造」
「はい?」
「この不景気の中、国はさらなる税でもって国民を吸い尽くそうとしている。いわゆる血税だ。その?血税を?君らは遠慮なき医療でもって、容赦なくばらまく」
「抗生剤が効かなかったので」
「そーうそこだ。抗生剤が効かなかった。それが何を意味するか。ひとつ。抗生剤が本当に効かなかったあるいは?もうひとつ。はたして。その抗生剤の選択がぁ。そもそも正しかったのか」
「そ、相談しておくべきでした」
「遅おい。時間や病気は待ってくれないしかし。医者は過去にも時間を進めるべきだ私らがこうして未来を操るに従い過去にも時間を進め。分析するのだいかに、我らの方針という理想が、当初の目的から遠ざかっていたのかを」
「これからは、過去を評価しつつ話し合い、その上で方針を立てます」
「よかろ!1つの治療は複数の病態を変える。それらが蜘蛛の糸のように、無限の選択肢をもつ。君が1秒に1つ考えたって終わらん。では、患者の変化を気にするあたり、どうして睡眠できようか、どうして病棟を離れようか?」

 寝る時間が来たので、このへんで。
 いや、彼の吹替えを聞いていると・・・そんな雰囲気の医者ってカッコいいなあと思う時がある。

 以下、デンゼル・ワシントンでイメージを。

「大塚先生。挿管はこれが初めてで」
「難しいと思うからだ。そうだ確かに挿管は難しかろう。最初はだれも童貞だからな。おたくは処女かんー?」
「ふざけないでください」
「リラックスという前戯だ。さあやろうか御嬢さん」
「喉頭鏡、入れます」
「そうだ。下顎を持ち上げるするとどうだー王のお通りだー光を照らせー」
「うまく、いきません」
「そんなことはない主よ前方の神、エピグロまでお導きをー」
「エピグロ、見えません」
「でもあるはずだ。これは人間のカラダだ。神が作りたもうた」
「み、みえないです」
「弱気になるな弱気こそが病気を強気にさせる強気になった病気はえ?患者をむしばむお前はそれに手を貸すのか。光を求める者よ。求める者にこそ与えよ栄光の道を」
「あ、見えた!」
「それこそ勇者の軌道(気道)なり」
「は、はいった!はいりました!手伝っていただきどうも!」
「フン?俺は唱えてただけだ。指1本は使ったかな?」

 あとで気づき振り向く研修医。

「そうか!喉頭を上から押してくれたんだ!」

 一瞬、目を丸くするワシントン。人差し指を突き出すが、片手でかくす。それ、やりそうやりそう!


 ああそうか、フランス映画だったんだ。開始時にそれと分かり、一抹の不安が浮かんだ。どこか見た顔が・・・ヴァンサン・カッセルだ!じゃあ、ジャン・レノはどうした?よかった。出てない・・・

 野獣カッセル、このとき48歳くらい。レア・セドゥ29歳あたり。約20歳差のカップルは美男美女とはいえ、ちょっと無理を感じた。だって、ヴァンサン・カッセルだから。カッセルといえば、言わずもがな無軌道不良アクション、「ドーベルマン」。だがライオン丸?になって登場したのだ?

「夕食を食べ損ねたわ」。レア・セドゥが悲しむ。

 夕食=晩餐=ヴァンサン・カッセル!

 それにしても、フランス映画の娯楽大作はCGの多用が露骨すぎ、演出も大げさ。画面の情報が多すぎて、頭がストーリーにいかない。というか、ストーリーを引っ張ってない。観た後何も残らないのは、そのためか。

 ラストの締めは、どこか「トータル・リコール」。

 教えてくれ。これは嫁なのか?

 ジャン!(闇)

教科書

2015年9月3日 連載
 テレビのニュースであったが、今中高年者に<教科書>への人気が高いのだという。以前勉強したときに使ったあの教科書だ。あれを再び正面から見直してみよう、学んでみようというものだ。英語や数学はどうかな、と思うが・・・歴史・地理、物理、古文あたりは興味がある。

 いや、ひょっとしたら塾や家庭教師、夜間学校も作って授業そのものを演出でやればいい。私語をしたら注意など、割り切ったうえでのシステムなら面白そうだ。しかしそこで劣等生となると、なお悲しい。

 自分は単発講師でやってみたい企画がある。「勤務医だけど質問ある?ライブ版」だ。<いいね>ポイントで金品ゲット!それと、他の医師にお願いして「医師夫婦で歩く、開業借金デスロード」。それじゃまるで、かつみさゆりだ!ボヨヨンボヨヨーン!

 やはり出ると思っていた「インターセプター付き仕様」。これで走れたならなお良かったが・・・。

 それにしてもブルーレイの様々仕様。3D版があったりなかったり、特別ディスクがあったりなかったり。いわゆる<全部入り>が存在せず、マニアは複数バージョンを購入する必要に迫られる。

 総合病院でも、整形外科がなかったり脳外科がなかったり。循環器はあるがカテができなかったり。オペがまともにできる医者がいないのに大学から呼んだり。まあ背景には、医者が辞めたり条件がうんぬん、いろいろあるのさ。

 いきなり科がなくなったり、カテができなくなったり、いわゆる<チーム解散>というのが突然起こる。内閣総辞職みたいなのも。これはもちろん、意見を聞かない上層部への最後の怒り、と受け取っていい。過酷な勤務、非情な対応への激しい怒りだ。

 まさしく<怒りのデス・ロウドウ(死の労働)>だ!

 さきほど触れた「相棒」シリーズ。劇場版はいっそう、ひどい。様々な情報によれば、それは水谷豊のワンマンぶりにあるとか。いやけど、アイデア不足だろう。有能な人材が巣立っていった結果じゃないだろうか。それと、今は血を見せる演出などにかなり配慮が必要で、何か目立つと叩かれてしまう。

 しかし、主役を変えるともはや<相棒>ではない。イメチェンしても、刑事ものは続かない。「太陽にほえろ」「ハングマン(刑事ではないが)」もシリーズがしつこく作られたが、新しくなるほどひどいものだった。「スケバン刑事」に至っては、黒歴史だろう。

 


 海外ではとっくに3DS化もされている、アングリー・バードシリーズ。ラインナップも増えたが、今のところiPADでプレイするのが一番快適。i-tunesの音声、画面がangry birdなんて最高の組み合わせだ!

 で、やはりSTAR WARS版がかなり秀逸。マニア心をゆさぶる演出。正直この映画がそこまで面白かったのか?と思ってしまうが、これは数多くのマニアが作品世界を広げてくれた結果だろう。旧ガンダムだって、ニュータイプとかにもともと深い解釈はなかったらしい。

 ファンが広げる、製作者は期待を裏切らない。そこが相棒シリーズとの大きな差だ。

闇への好奇

2015年9月2日 映画

 アメリカのドラマがかなり当たり続きと聞く。以前のアメリカドラマは1回完結型が主流で、子供からお年寄りが楽しめる、<暴れん坊将軍>的なお約束があった。

 最近のは違う。途中からではまず分からない。しかも毎回意外性のある、いや悪く言えば不自然な展開が目につく。流動的なのだ。最初から想定してなかったストーリーが続いていく。

 どうやら<ツイン・ピークス>から変化してきたものと思われる。難解なストーリーに、ところがどっこい視聴者がついてきた。いや、ストーリーと言うより・・・殺人などのバイオレンス、一語で言えば<闇>だろう。

 闇というのは悪魔関係とか(何かが憑依した)動物パニックなどの世界だったが、人間の闇を描くようになったのだ。一見派手で明るいラブコメでも、常軌を逸した行動がウケている。あくまで脚本上でのものだが、闇が求める非日常、とも取れる。

 最近ではバイオレンスの描写が過激となり、セックス描写さえオープンになる。これからは映画でしか許されてなかったはずだが、規制が取れたのだろうか。作品によっては映画以上の過激さだ。

 これらの<難解><暴力><性>の氾濫そのものが、人の闇に対する好奇心を駆り立てている。闇は最後まで分からないもの。なので好奇心は止むことがない。


 夜中になっても、いるわいるわ自転車集団。大阪では淀川以南が圧倒的に多い。多くの若夫婦が淀川以北(十三・三国を除く)に住みたがるのも分かる。

 親子はまだマシだが、子供1人の単独も珍しくはない。信号は無視。見切り発進。鳴らされても無視。座ってスマホ。親がもう与えてるのか。コンビニ周辺に集中するが、店員も夜間はバイト中心だし注意・指導の立場でない。

 特に大阪では(子供に)注意した場合、いつバカ親がしゃしゃり出てくるか分からない。すぐそこで見張っている場合があったりする。酒酔いだと余計、始末に負えない。

 非常勤先の開業医でも、バカ親が増えた。医師のすすめる治療に、あえて子供の同意をマトモに訊こうとする親。診察のとき子供を支えることさえためらう親。一番困るのは・・診察終了ぎりぎりに診察券で滑り込む親。子供は、満を持して数十分後に登場する。

 親よ。子供の調子が悪いなら、せめて熱ぐらい測ってくるように。体重も言われたらすぐ答えられるくらいでないと。それと、憎むべきはあくまで病気と、その放置だ。医者や世の中では決してない。
 ヤクザの活動の場の主体は、株式市場だ。以前は女を使ったり暴力で脅したりが多かったが、人件費がかかるし利益も少ない。それよりもインサイダー的な取引、優秀な人材で市場を牛耳った方が良い。そんな単純な理由らしい。

 いや、今も古風なやり方は健在だ。病院や学校など施設の買収の際に行われている。東大阪だったかな、どっかの学校が手玉に取られていたが・・・奪うのは簡単だったようだ。理事職の連中を接待し、連日とにかく遊ばせるのだという。ここでのミソは家族持ちを狙う、ということ。女遊びの履歴があれば、もうそれだけでお手上げだ。家族にばれたくない、それで(脅してなくとも)十分な脅威となる。こうして、何億円もの施設がタダ同然でヤクザらの手に入る。

 信頼を置かれている実動部隊は、命と引き換えにミッションを達成する。よほど根性の座った者たちらしく、瞬時にトップギアをかけることができる。その信用たるや、ちょっとした小遣い(挨拶に行くとかの際)が100万単位というから驚く。ふだんは宝石商などをやっている。

 山口組はどうなるのだろう。でもこれは独立した組織ではないだけに、病巣切除はかなり困難を極めると思われる。資産が凍結されたことだし、銀行らからも用済み、ごちそうさん、新形態に移りましょ、ということだろうか。



旅立ちの時

2015年8月27日 映画
 
 WOWOWで観賞。

 シドニー・ルメットの、そのヌメッとした描写にようやく感じ入れるようになってきた。洋画なのに邦画的。海外なのに近所的。ホアキンではなくリバー。「旅立ちの時」、というそれだけで完璧なタイトル。VHSレンタルの時は見向きもしなかったのは何故。いやその、パッケージのヒロインの表情があまりに鬱だったからに他ならない(この画像とは異なります)。ビデオを借りるときは、非日常を求めるものだから。それが今、日常を求めているのはどういうわけか。

 とにかくリバー・フェニックスのこのぎこちない演技を見てしまうと、デカプリオが道化に見えてしまう。いや演技は置いといて、話の運び、テーマそのものにやられてしまった。あまりにも切ない決断。

 おそらく男女で受け取り方が全く異なる。女性はおそらくラブストーリーとして、男性は自分を伸ばす、生かすための成長物語として見るだろう。前者は短期的。後者は長期予後。で、男性は自分を重ねる。本当の解放とは、自由とは・・・?

 いや、そこではない。解放を認めてくれる人。今がそうだよ、とそんな赦しを与えてくれるもの。ポイントオブノーリターン、なんでもいい。それを求めて、その瞬間を信じて僕らは難解に挑み、そこに留まらずにはいられない。自分を変えたいというより、変えてくれる何かに出会いたいのだ。

 これから、フロ掃除。磨いて変えるぞ!
 

 
 中学生が2人犠牲となった忌まわしい事件、続報が続く。そのニュースの流れの中、犯人はフェイスブックに無関係っぽい描写の足跡を残している。これは意図的なのか、アリバイ作りなのか。いや、彼自身が、その世界そのものがそういう世界なのだろうか。

 自分はもうやめたLINEだが、本当に嫌気がさしたのは・・・知り合い含めた他人たちが、もはや別の人格としてそこでなりすまそうとしている、そんな雰囲気を感じたからだ。話題性はいいことだ。しかし、それでは自分を表現したことにならない。送信をした時点で、それはもう自分でない。だがそれを、あくまで自分の姿として受け取ってもらおうとする。すると自己満足のゴミタメか。

 では、僕がいま叩き込んでいる文章は何か。うまく表現できないが、自己満足では決してない。悪く言えば、あがきの場だ。少なくともまだ満足いく形になってないから、こうして文章を打つんだろう。だからまだ、本当は<送信段階>の文ではない。
 ブラック企業はいまも健在だ。その言葉に進化はないが、境界線が曖昧になっている。じゃあブラックでないのはどういうものか?誰もそれに答えられない。しかし、自分の過去を顧みると・・大学病院などの研修時代は、かなりブラックなことが多かったと思う。

 もちろん病院であるから必要悪もやむを得ない、と言えばそれまで。しかし、システムはかなりの犠牲の上に成り立っている。想像を絶する最下層の自己犠牲、それで破たんないシステムとして維持できるのか・・・?マイケル・クライトンでもこのテーマは難しかっただろう(すでに故人)。

以下、ラップ調で。

 早朝5時起床。負荷試験を患者、起床時、さっそく開始。医局と病棟、行き来をしつつ、指導医への準備、病棟記録。採血当番、注射当番、7時回診、早朝カンファ。ICUへも、遠い道のり、8時、先輩方への、各種伝達、報告相談、日夜会談、降りる階段、9時外来、検査業務も、つきっきりきり、予定の3倍、伝票ラベル、詰まる出力、各部署へ向かい、結果取り行け、まあだ出てない、PC上予約、緊急カテーテル、などの準備と、粋な同僚、検査急かして、俺も寝かして、12時超えても、余裕終わらず、病棟で重症、患者の評価に、愛の対応、そしてぎりぎり、検査オーダー、14時には、先輩方の、手技の介助で、面目躍如、講師は悪女、午後のカンファに、スライド準備、他科に相談、ビビり横断、ビビる黄疸、黄色い夕陽、長いムンテラ、その後説教、イエスも真っ青。病棟患者を、プアに考察、土下座覚悟で、時間切れ指示、不潔なお手手、食事をしつつ、先輩方へ、まとめ報告、当直医のため、エロ本準備、ティッシュ確認、17時くる、病棟回診、研修医同士の、相談に愚痴、学術書開き、ミミズ書き書き、また回診へ、来たよ副直、自慢話に、付き合わされてる、俺は飯まだ、いきなり呼ばれて、白衣で焼き鳥、残りが注射、当番でいい、急変患者の、呼び出しがあり、救急外来、入院介助で、どれも雑用、21時にゃ、肉の出前を、待つよハイテンション、詰所夜勤と、弾む陰口、23時、研修医同士、まるでネット喫茶、お前いつ寝る。24時では、消灯また点き、来たよ同僚、タイタニックのよに、演奏再会、深夜2時、呼ばれたICU、重症経過、眼精疲労、3時にはには、屋外患者、ため愚痴話、仮眠取るにも、しかし起こされ・・以下繰り返し。

 どう?疲れた?

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