「息子さんは!お母さん!息子さんは!」
僕はオバサンに食ってかかり、引き戸を開けようとした。

「ちょっと待ちいや!待ちいや!あ」
オバサンは僕の足元に注目した。
「今、しきい踏んだんとちゃうか?」

うずくまっていた男性がユラ〜と立ち上がった。
「そっちやない!片割れが駐車場におんねや!」
「片割れ?」
「杯、交わした兄弟や。どうしようもない近所のオッサンやけどな。ま。血はつながってないがな」

駐車場・・・家の手前の駐車場のようだ。
数歩進むと、そこはコイン駐車場。1時間400円。
車はちらほら停まっている程度。

 暗がりに目が慣れて分かったが、料金計算のとこに黒スーツ着たオッサンがいる。無精ヒゲでチャイニーズっぽい。

「あの人が・・?」
「ボケ。あれが<兄さん>の方や!」
「じゃ、<弟>は?」
「お!夕飯の匂いしてきた。すき焼きや!じゃ!」
「あ!」

 男は走って帰って行った。確かに、いい匂いがする。またしても腹が減ってきた。

 とにかくこの任務を終わらせたい。僕は黒スーツに近づいた。

「あの・・・」
「・・・・・」男は、料金のボタンを何度もカチャカチャ押している。もちろん何も出てこない。

「すみません。弟さんは」
「?」

 確かにオッサンと呼ぶにふさわしい、不精ヒゲのおっさんだ。眼鏡をかけており、マフィアっぽい。

「おうおう〜」酒臭い。
「弟さん。弟さんは」
「あんな。おまえ、ええとこ来たな」
「は?」
「わしのマイカーな。マイカー。駐車場ないから時々、ここに停めてんねん」
「はあ・・」
「完全に乗り上げたらシャッター、上がって出られんやろ?だからそこは乗り上げせんようにすんねん」
「乗り上げない?」
「せや。ちょっと車、前に突き出るけどな。でもなでもな。あやまって乗り越えてもたねん」
「・・・・・」
「金、払わんと出られんやろ?で、ここで金探してんねん」
「ここは、むしろ金を払うところで・・わっぷ!」

 オッサンは強い力で僕を引きよせ、思いっきり臭い息を吹きかけた。

「ちょ、ちょっと!」
「相棒やん。今日からの相棒や!ここでわしら、金持ちや!」
「ちち、ちが!」
「だってここ、おい。<料金所>って書いとるやないか!」
「くく・・・そうですね」

 離そうとするが、力が強すぎて離れない。

「ヒック。でな。弟にお願いしたらな。金、用意してくるから待っとれって」
「金を用意・・?」
「あいつの得意技や。ちょっと近所のモンおどしてくんねん」
「なな・・・!」

 すると、近くスレスレを1台のトラックがゆっくり通りかかった。思わず飛びのいた。緑色の、旧式そうな大型トラックだ。

 そのまま近くの空きスペースに停めるため、トラックはゆっくり車体を斜めに向けていた。
 その正面、その「顔」。

「うっわ・・・これっておい?」
まさかと思いつつ、しかし患者のことが第一だった。

「わ。わし轢かれた。な!今。轢かれたよな!」オッサンがしつこい。
「い、いや。轢かれてはないでしょう?」
「おまえ、証人な。生き証人。裁判のとき頼むで!」

 黒い煙を最後に上げて停車した、そのトラックから出てきたのは・・・まだ20歳くらいであろう、あどけない青年たち4人だった。作業服と派手な私服が混じったような格好だ。頭にはそれぞれバンダナをしている。どこやら一昔の革命家のようだった。

 しかし目つきがどことなく鋭い。そのうちの背の低めの童顔が、オッサンを見ていた。リーダー格と思われる彼は、何やらうすら笑いをしている。

「オッサン。なにしとんねや?」
「ヒック。お前、わしの脚、轢いたひいた!」
「西成(警察)に突き出したろか?」
「(他の3人)へへへ・・・!」

 オッサンは説明し始めた。
「あのな。わしのな。車がなあ、ほれ。出られんようになってもうたんや!」
 酒の臭気がどんどんきつくなる。

チビの青年は、ゆっくり至近距離まで近づいた。
「病院の救急車な。お前。見てないか?」
「救急車やない!わいのあの車!」
「お前は?」僕は指さされた。白衣を着てないので、目立ってない。

「いえいえ」プルプル何度も首を振った。

「おっかしいな・・・ホンマやろな?おいオッサン。弟分は大丈夫やろな?まさか病院に連れていかれてないわな?」
「弟はホレ。金、調達に行った!」

はずみで、僕はやっと解放された。

「アニキ!アニキ!金!カネ!」
 一見、健康優良児っぽい中年男性が走ってきた。でも頭はパンチだ。

 黒いスーツと組み合わせると、まるでホストか散髪屋<男は、あ・た・ま>の写真だ。

 周囲が緊迫し始めた。
「アニキ。こいつらがなんか、したんか?」
鋭い目つきで、弟は周囲を見渡した。好戦的な構えだ。

 僕は違うと言いたかったが・・・。

「アニキ。こいつか?こいつが何か、したんか?」
<弟>は、僕の方に近寄ってきた。僕はプルプル首を横に振った。
「その手に掲げとるリュック、見せいや」
バッ、とリュックを取られた。DCが入っている。

「あ、それ!」としか言えず。
「とらんがな。とらんがな。借りるだけや。おっ?これは」

 打腱器を取り上げ、もの珍しそうに見る。
「これで。なにすんや?」
「いや、これは・・」
「人殺しか?」
「ま、まさか!」
「じゃあ、なんなんや!」

放置してある椅子に、とりあえず座ってもらった。

「これはですね・・・こうやって」
<弟>の右脚を中に浮かせ、それで膝の下を叩いた。

「あっ。今、ピョンとなったで!も1回せえ!」
「はい!うりゃ!」
「たた!」強すぎて、下腿が前方にピクピク投げ出された。
「す、すんません!」
「おもろい兄ちゃんやな。あんた。ええ武器や。俺は丸腰でええで!」

<兄>がフラフラしつつ、口をはさむ。
「そいつは証人や。犯人ちゃうで。わいの足ひいたんは、この4人や」
「なんやて?」

 幸い僕は暴力を受けなかったが・・・彼の視線は困った4人に向けられた。
<弟>は4人の青年を指差した。

「お前らか。お前らホントに医者、(トラックで)跳ねたんやな。わっはは!」

暫くの沈黙のあと、4人のうちのチビが<弟>に近寄った。

「だいたい。お前のオカンが、医者呼んだんが始まりや!」
「おら医者、行かんってのに!」
「医者がな!ここまで<往診>に来るっちゅう話にされとったんや。あんだけ来んかった病院がやで?しかも今日になってな!」
「倒れたっていうてもな。一瞬やで一瞬!いけまんがな!」

 会話の途中、まるで眠気のように傾きつつある。僕と時々眼が合う。表情は初期のジュード・ロウのように狂気を帯びていた。

「お前が病院行ったらな。わしら困んねん!」
「言わんがな!」
「病院で手術とか何かあったら、麻酔とかでつい喋ってまうんやろ?」

 実にありえなかったが、こちらは口を挟む余裕などなかった。

どうやら、わけありのファミリーか何かのようだな・・・!

「救急車なんか、どれ。来んやないか。もう帰れ。お前ら!」<弟分>はアゴで促した。
「いや。来るで。最後の一件がここやって聞いた」

どうやって聞いたかは知らないが、まずい状況だ。

「サトル(←チビ)。おまえ最近、えらそうなんちゃうんか?」
「そんなことないやろ」
「さっきから黙っといたらええ気に」
「やってみいや!そしたらやってみいや!」青二才は大口を開けた。

<弟>は両拳を合わせ、パキパキ指を鳴らした。
「なあ。ホントのパンチ見せたろか」

 頭のこと(髪)のはずがない。ここにはジョークなどなかった。この殺伐とした町は、ダウンタウンのメインストリートに違いない、など勝手にあれこれ想像した。

 <弟>がチビのエリをつかみ、ゆっくり引き寄せた瞬間、パンと鈍い音が聞こえた。チビはまともに殴られ、そのまま後方に吹っ飛んだ。人形のようだ。

 すぐさま弟は、長い脚で真横にブン、ブンと蹴りを入れていった。慣れている。残り3人のうちの1人の腹に、まともに命中していく。後ずさっても後ずさっても、蹴りは激しさを増していった。あと2人は反射的にか数歩退がった。

<兄>はボケっとたたずんでいる。そして<弟>は僕を指差し・・・

「お前も、やったろか!」

指さされ僕は凝固したが、とたん彼の電源が切れた。
「うっ」
「あっ」

 彼はそのまま、力なく地面に肩から倒れた。まさしく電源が切れたようだ。
 軽くピクつき、なんとか腕を曲げてついた。

「あたっ。くそ」なんで?という表情で彼は起き上がろうとした。
「あの。心電図によるとあなたの病名は」
名乗り出ようとしたが、彼はさっそくと4人に手足をつかまれた。

「わっははは!おい!」それでも余裕?の彼は、手足を持たれたまま、4人にタタタ、と連れて行かれた。
「はっはー!おいおい?」

「あ!ちょっと!」
 僕は追いつけず、さきほどの家へ。実はオバサンはそこから見ていたようだ。

「おばさん!いやお母さん!警察と、うちの病院電話してください!ここ、携帯がつながらなくて!」
「あんた医者なんやろ!なんとか出来んのか!たよりない!」
「暴力までは、できません!」

 暗がりの中、足音に耳を傾け走った。走るまでもなく、<弟>は地べたで仰向けに寝かされていた。すでにボコボコにされている。

 胸をつねると、手がそこへ飛んできた。幸い当たらず。レベル100といったところ。

 さらに診察したが、打撲程度と思われる。神経学的所見も問題ないが、後遺症が出ることはありますよ、とムンテラする暇などない。

 かかっている液体はたぶん小便だ。DCも取られたのか、どこにあるのか・・絶望的と思われる。

 ガッ・・・ガガガガ・・・とエンジンの音だ。さっきの三輪トラックか。

「起きて!起きて!あ、そうか」

 バイタルはせめてと確認。脈は・・・今のとこ、強い。それしか分らない。最近は超音波やカテーテルなど一見>百聞の検査ばかりしてて、盲目的な所見取りに慣れてなかった。

でも、時々触知できないときがあるな・・・!

 ルート(点滴)をとりたいが、今度はルート(道路)にトラックが躍り出そうだ。救急車までそう遠くないが、仕方なく朦朧の彼の片腕を背負った。

「起きてくれ!起きてください!」
「・・・」とりあえず目が開いた。レベル10だ。

「とりあえず、家に入りましょう!」 二人三脚のようなぎこちなさで、僕らは彼らの1軒屋に入り込んだ。

「はあ。はあ。ここがどこか、わかりますか?」
と呼びかけたところ、彼はくわっと眼を見開いた。

「アホが!自分の家くらい分かるわボケナス!」

 レベルは0(クリア=意識清明)・・としたいところだが、ここは減点して1(見当識は保たれるが清明とまではいえず)とした。

 鍵をかけてもらい、ここで待機することにした。
 患者である<弟>は近くのソファで横でウトウト。ポータブル超音波付属の電極で、モニター画面はなんとか出ていた。

 つまり不整脈の監視はできていた。 

きたないエプロンをした母親が、家に入ってきた。
「ちょっと外を見たけどな。アカン。取られとったで」
「そうですか。あれ、電気ショックの機械なんですが・・」
「いくらするん?」
「さあ・・・僕のじゃないですから」

とは言ったものの、かなり焦っていた。

しかも妙な間があった。

「この子はな。昔はよくできる子やったんや」
「・・・・・トラックの人たちは、仲間ですか?」
「この子のパシリや。パシリ。朝鮮の方からいろいろ輸入しとる。こっちは自転車とかやけどな。これ以上は言われへん」

 何の商売なんだ?だがそれ以上、立ち寄らないことにした。母親はを思い出したか、深刻な表情に。

「5年前な。やっぱりあれがあったからイカン。あのあとな、どの職場にお願いしても、雇ってはくれんかった」
「病気のせいでってことですか」
「あんたらや。あんたの病院受診したら、あんたらが冷たくあしらって、まともに検査せんかったからやないか」

 しかしその5年前、僕はそこでまだ勤務していない。

「ホントに原因が不明だったんだと思います、当時では・・・。このブルガダ症候群っていうのは、最近になって報告されたものなんです」
「ブル?ブタ?」
「以前<ぽっくり病>と言われてたものです。突然、心臓が止まる。家族性があって」
「かぞく?この子は、正確にはわしらの家族やない」
「そうなんですか・・・」
「でもな。住み込みで働いてくれたんねん。最初はもうヒドイもんやったが・・・今は一人前の運び屋やおっとと」

 母親は、つい職業名を口にした。いろんな生き方はあるが。

 ピンポーン、と呼び鈴が鳴った。母親は外を確認し、ゆっくり開けた。
 頼もしく赤いサイレンが無音で反射、回っている。

連絡でやっと駆け付けた警察官が、ゆっくり玄関に入ってきた。
「隣の4人がなになに?まってくださいよ〜」
相手をなめきったような警察が、几帳面にメモを取り出す。僕が説明する必要があった。

「と。な。り。の・・・はいはい。で?」
「暴力を振るって、彼を路面に残してトラックで去ったんです」
「あの顔の傷な。はいはい。おーい!寝てるんか?あとで、病院行けよ!わしらは関われんからな〜」
 警察官は中腰で問診していた。

「あ。ところであんた医者やってな?わはは。ここにはは!おるがな!ツイてるな。なら大丈夫や!」
「CTもこのあと・・」
「ん!ん!真田病院さん御一行が、もう来るんやろ?ここに」
「ええ」
「でもな。先生。先生は、彼が路面に横たわっているのを見ただけで。直接そこでボコボコにしたのを見たのではないんやな?」
「え?それは、はい」
「朝の新聞のな。ひき逃げのトラックと同じかとアンタに言われても、それもなあ。信憑性がない」
「いや。いっしょですって!」
「ははは。3輪トラックなんか。どこにでもおるよ」
「・・・・・」
「難しいことが分かるお医者さんも、割と単純なことが分らんもんやな。勉強のしすぎで」
「くっ・・」

実に、迷惑と言わんばかりの取り調べだった。

「じゃ、取られたもんは、電気ショック・・いくらくらいする?」
「また値段?」
「いやいや。盗難届を出すときな。時価相当の値段がどうか、記入せないかんのや!とりあえず言うてえな!こっちも書類の仕事があるきに!」
「じゃ・・・3千万かな。知らんけど」
「ははぁ!わし1年かかっても無理やわ!」

 頼りない警察は周囲だけ散策して、そのまま帰ってしまった。ドクターカーも、近くに止まってなかったという。

 田中君、どこ行ったんだ・・・?

 僕は2階で、フロアで寝ている<弟>の超音波のモニターをずっと見ていた。

「横の部屋。準備できたで」母親がゆっくり歩いてきた。
「ふとんを?すみません・・」
のぞくと・・・

ベッドの上、ふとんの上に2つの枕が並べてある。

「これは、なぜ?」
「いやいや。いかんか?」
「じ、自分はいいですって!」

 男との添い寝はもう、たくさんだ。
 <弟>を寝かせ、モニター越しに僕は外の夜景を見た。といっても明るさは全くない。

 うちの病院は、一体何をしているのか。家の電話を拝借したが、病院は当直じいさんだけで、事務長や他の医師にもつながらない。

「うっ?」
モニターで時々、連発の不整脈が出る。点滴ルートだけは確保し、もしもに備えた。
「あれは・・・」

 真っ暗な市街地、回りながら反射している赤い光。巡回のパトカーの可能性もあるが。
「来たか!」
 モニターをキョロキョロ振り向きながら、窓をいっぱいに開けて下の道路を覗き込んだ。
「こっち来いよこっち来いよ・・よし!」
 やはりドクターカーだった。天井が無残にへこんでおり、両サイドのランプだけが張り切って光っている。

「田中!お〜い田中!」
「あ!はい!」開けっぱなしの窓から、彼が叫んだ。家の前で停車。

「るさいぞボケ!」などと近所からいくつか聞こえたが、どうでもよかった。

「どこ行ってた!まいいや。急いで運ぼう!」
「みんな来てますよ先生!あっちに!」
「?ここまで来てくれないのか?」
「い、いや。僕が先生と患者さんを乗せてからと思って」
「今さら手柄なんか・・・!上がってくれ!」

 僕と事務員はタンカをかかえ、眠ってる息子をゆっくりと乗せた。
 母親は部屋の中の道を開けるため、部屋の荷物を片寄せた。

「あんた。ネクタイしとるな。事務員か!そうやな!」
「え?あはい。そうですが」
「覚えとるか5年前!冷たくわしらをゴミのようにあしらって!」
「5年前・・・?いや、そのときは私はまだ」
「いいや!確か、あんたや!ネクタイしとった!」
「ネクタイ事務員は、他にも何人かいますし・・・!」

 おそろおそる、ゆっくり階段を降りる。足で頼りなく段をさぐる。

 冷やかな空気の中、やっとこさストレッチャーに乗せれた。
僕は真横につき、事務員は運転席に座った。
 母親は、まだ乗ろうとしない。

「ふむ。じゃ、毛布とか用意せんとな!」
「そんなヒマ、ないです!」僕はモニターなどセットしながら叫んだ。

背後にまぶしい光を感じ、振り向いた。
「あ?」
ドルルルル・・・と獰猛なエンジン音が、気合い一杯かかった。
「しまった!まだいた!田中!出せ!」

 言うまでもなく、彼はギギギ!とギアを切り替えて急発進した。

 背後から殺気がよぎった。
 田中君は手当たりしだいで、角という角を曲がり始めた。

「揺れますよ!患者さんの脈は!」
「速めだが・・・これ以上速くならなけり・・!」
揺れたとたん、大きな道具木箱が患者の胸の上に直撃した。

「たあっ!」
「うわっおい!ごめん!」思わず謝った。
彼は手で払いのけたが、かなりの激痛だったはずだ。

モニターの脈が増えだす。期外収縮が増えてきた。
「いかん。いったん止めてくれ田中くん!注射を追加せんと!」
「やられますよ!朝のスタッフらみたいに!」
「殺しはせんだろう?」

 狭い四つ角を右折、案の定右の放置自転車が車と電柱の間でドカンと大破した。近くの棒立ち住人が散らばった。

 思わず腹で、ベッドを壁に押し付ける。
「マジで止まれ!」
「もうすぐ、まっすぐになりますから!」

 何度かハンドルを切りかえると、左折後に直線の一車線道路に出た。
「さあ先生!今のうちに処置してください!」
「止まるのは危ないか・・しゃあないな!」
2つのシリンジポンプの片方、静注用のボタンを押し、注射液を早送り。不整脈は減ったが速脈は同様。

「DCがないなくそっ・・!体外ペーシングは?」
独りごとのように、荒れた車内をくまなく探す。
「なんで、先にみんなを呼んでこなかった!」
「えっ?なんですか!」
「もういい!急いで行け!」

近くで待機する仲間に辿り着くべく、事務員はアクセルをめいっぱい踏んだ。
だが後ろは再びまぶしい。大声が聞こえる。
「降りーやー!降りーやー!」
振り向く勇気はなかった。

大きな石のようなものが背後にぶつかり、いくつかは割れたガラス通して入ってくる。
缶の転がる音。いろいろ投げ込んでるようだ。火炎ビンまで飛んできそうで怖かった。

「・・・ん?おいあれ、高架じゃないのか?」
薄暗く、高架が左右に延びているのが見える。
「おいあれ!天井ぶつけたとこだろ!いいのか!」

いきなりVTが走った。グーで前胸部をたたきつける。
「ぐっ!」患者は思わず飛び起きまた沈む。
「戻った!だが頻脈だまた起こる!」
「先生!天井へこんだ後は、きちんと通れましたから大丈夫!」事務員が焦る。
「パンクしてたんだろ!あれそのままか!」
「ハア!ハア!」
「どある!また過換気か!」
「ハア!ハア!」

高架の直前まで来た。ブレーキでも間に合わない。

またVTが走った。拳をまた振り上げた。
「進めよ!」
「しもた空気圧、入れたんだった!車高が上が・・!」
「だる!おい!」

叩きつけるも、脈が戻らない。
「くそ!戻れ!」
もう一度振り下ろした拳が、また胸の真上にまで来た。

事務員はハンドルから手を放し、うずくまった。
「うわーっ!もう終わったーやー!ふせろ!」
「まてまてまてぎゃあ!」

天井に、再び強烈な激震が走った。天井の大地震。拳は打ちつけられずスカッと外れ、僕らもろとも床にたたきつけられた。ストレッチャーは横倒しされ、患者の抜けた血管から血がパシッ、と僕の胸に散った。

「うわわ!おおっと!」思わず刺入部を押さえる。
ジグザグに走行しながら、車はなんとかバランスを保って徐々に停車していった。
モニターは外れており、反射的に脈をとった。

「・・・脈。ある!ある!大丈夫だ!いけた!」
倒れて顔をしかめている患者の真横で、僕は両手を伸ばしていた。
「こ、このしょ・・衝撃そのもので助かったのか・・そうとしか」
全身の痛みで立ち上がれずじっとしたところ、左側のドアがバタン、と後ろにスライドした。

いくつかの靴が割り込み、みな患者へととりかかった。
無言で抱えられ、持ち運びのモニター画面、体外ペーシングが取り付けられた。

「なにしてるんですか。先輩!」トシキのツンとした鼻が、頭上に見えた。
「レート遅めですね。ペーシングかけたまま、搬出します」シローが新たに点滴確保し、バックのドアを開放した。

 出て行く時、足をトシキに踏まれた。ついでのイヤミだろうが、あの男はたまにする。

 やっと起き上がると、眺めが壮観だった。ドクターカーの前にその2号。その周囲にパトカーが5,6台。機動隊のような輩までいる。ついてきた野次馬ドクターの車も数台。近くでうんこ座りしている大勢のジャージ姿<期待族>。現代だったら確実に<写メール>ものだ。

 目をこらすと、両手を腰に当てているダークスーツのイケメンが1人。サングラスしている。

「やあ先生!」声から事務長とわかった。
「う、おお・・・!」
「よくもまあ、派手にやってくれましたね!先生の好きな<ロボコン、0点>ですよ!」

 なんとか着地し、運ばれていくドクターカー2号の患者を見送った。総統を呼び出し、ICDの植え込みとなりそうだ。

「事務長。ちゃんと現地まで、来てくれよ・・・」
「すみませんね。夜間で、あの住所では分らなかったんです」
「ウソつけ。気まずかったんだろ?知ってるぞオレ」

僕と事務長はヘタッ、と近くの地べたに座り込んだ。

「ててて・・・知らなかったぞ。患者は5年前、当院であしらわれて」
「でも、私らスタッフが入れ替えされる前の話で」
「だが。このタイミングは何なんだ?」
「タイミング・・とは?」
「5年たって診療録は破棄。でも患者は病院間のブラックリストに登録されてるまま」
「母親が言ってましたか・・」気まずそうに事務長はうつむいた。
「んで、5年たったらいきなりハイ診させていただきますって・・・お前、どういう神経してんだ?」
「わ、私じゃないですよ!その判断は!」
「朝、お前が電話受けたんだろ・・」
「いえ。詳しくは経営者の・・」
「またそれか!いい加減にしろ!自分を持てよ!」

僕はゆっくり起き上った。
「運転してた田中君は大丈夫かな・・」
「無傷です。彼は、もう帰りました」
「なに?あいつ・・・!」
「予定外の残業だったからって」
「理由にならんならん!」
「ま、話は先生がじっくりされるって聞きましたんで・・・!」
「言うてない言うてない!まるでナースの勝手なムンテラのセッティングかいや?」

警官が1人、走ってきた。
「先生。夜間に診療、お疲れ様です」
「皮肉で言ってんのか?」
「いえいえ。ものすごい戦術ですな!はは!」
「せんじゅつ?医は仁術・・錬金術。えっ?うっ?」

警官の人差し指を追って振り向くと、背後の高架・・・
3輪トラックの運転・助手席がモロにめりこんでいる。あの高さで越えれるはずがない。

「な!な!すごいよすごいよね!」いい年した警官が無邪気に笑う。
「し、死んだんですか・・・?」
「いや。死んではないんよなあこれがまた!」

聞くまでなかった。うなだれた青二才ら4人は、トラックの横からスゴスゴと連行されつつあった。

警官はコーヒーカップ片手に、白い息で何度も頷いている。
「ははは。先生。ひとつ、質問を」
「なに?」
「わし、頭のMRIっていうのをしたんですわ。ドックで」
「ええ」
「診断がな。<らくななんちゃら>やって。それっていいもんか?」
「らくな・・ラクナ梗塞?」
「あ!それそれ。良性ですか?悪性ですか?」

パトカー、救急車のランプに繰り返し反射され、体に色がつきそうだった。

事務長のリンカーンの助手席に半分身をうつし・・・

「ラクなわけ、ないでしょうが・・・!事務長。出してけれ!ゲバゲバ!」

それしか浮かばず、ひきつった警官を睨んだままドアを閉めた。

事務長はパトカー間を徐行しつつ、うすら笑った。
「さて。ドクタカーの修理ですが、10年ローンの天引きとさせていただきます」
「冗談きついだる・・・」

事務長は僕の肩をバシン、と叩いた。
「大丈夫。しっかり働いてはいただきますが、手荒に扱いませんよ。なんせ先生らはだい・・」
「大事・・な商品なんだもんな」

彼は勝ち誇ったように笑いかけ、都会ひしめく交差点の中へと・・ゆっくり出た。

 寒空の彼方から、雪が降ってきている。

いや、もうすでに降っていたんだ。




♪ チャララララララ〜

オ〜ザウェザアウサイッズフライトゥ〜バッザファ〜イズソ〜ディライフゥ〜
アンドゥスィンスウィビノゥプレストゥゴ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜

イッダンッショサイ〜ゾスタッピン〜アンアィブロ〜サコ〜フォパピン〜
ザライツァタ〜アウェイダンロ〜
レッリスノ〜レッリスノ〜レリッスノ〜

ウエンウィファイナリィセイグッナ〜イ、ハ〜イルヘイゴ〜イオウインザスト〜ン
バッヒュリアリ〜ホ〜ミタ〜イ、オーザウェイホ〜アルビウォ〜〜〜〜〜〜〜
〜〜〜ザファイィズスロ〜リダァイ〜ン、アンマディ〜ウィスティ〜グバイ〜ン、
バッズロンアジュラッビソ〜

レッリスノ〜〜〜〜レリッスノ〜〜〜〜レリッスノ〜

チャッチャチャ〜ラララチャッチャチャッチャ〜!
チャチャチャチャッチャラ〜〜〜〜!

http://www.the-north-pole.com/carols/letitsnow.html
 特に大阪は、モノ盗りが多い。東大阪〜八尾はひったくりが多いと聞く。ここ数年そういった被害は増えている。

 今回<だるいやつら>にあたる話の後日談でも、DCなど無くなった医療器具は戻ってきていない。

 身近なところでは、ゴルフの打ちっぱなしに行ってる間に車を盗難された例。マンション1階分空き巣にあった被害(鍵をしてたのにバールでこじ開け)。

 自転車の盗難はキリがない。噂では一部の自転車はその日のうちに船に乗せられ、見つかる保証は絶望的とも言われる。特に海が近い地域。

 病院内でも盗難の被害を聞くこともあった。貴重品は事務に預けろといっても、何がしか持ち込んでいるものだ。しかし案の定というか、被害にあう人が出てくる。

 このように、最近特に。治安がかなり脅かされている。

 まず、カード類・現金類はとにかく安易に家に(特にいかにも、という所に)置かないことだ。パソコンもパスワード設定が不可欠。

 自分は昨年だったか、<日本テレコム>に勝手に回線を変えられて請求書が来るなどの被害があった。これもある意味、空き巣のようなものだ。

 
 縁起の悪い話で申し訳ないが、これからは<最後は自宅で迎える>ために向けての医療が進められてくる。リベラルな思想から、というものではない。もちろん背景には、(長期)入院したくてもできない状況が、今後やってくることが理由にある。

 療養病棟が廃止されて一般病棟になるので(2011年)、急性期発症であくまでも短期間の入院以外の採算は、もう取れなくなる。すると現在のように療養病棟で多数の長期管理している(されている?)患者は、ともすると行き場を失う。

 国はこの現実を見据え、早速往診診療の点数を上げてきた。特に診療報酬減でブーイングだった開業医は、いかにして外来→往診診療にメインをシフトすべきか、選択を迫られている(国は分かってやってます)。これから開業する医者は、これを念頭に置くこと。

 だからといって良いアドバイスができるわけではないが、マスコミと同じタイミングで情報を仕入れるよりはマシだろう(辛口)。

※ 病院によっては往診に、ポータブルの心電図・レントゲン・超音波など持ち込み可能なところもある。
 「サーガ」でもかなりの影響を受けている、と思われる「ダイハード」シリーズの4作目が、もうじき公開だ!

 20世紀フォックスだけでなく洋画界全体が医者不足、でない作品不足に悩まされている。9.11の影響で、ロケ・描写そのものに制限が出てきているのが根底にあるためと思われる。国家スケール的な話は影をひそめ、現実逃避的な話(ロードオブ・・やナルニア)やリメイクものもネタが尽きた。

 となると、自動的に<続編もの>が呼び起こされる。人気が安定しているので、それこそ安定した利益は見込まれる。

 「先生。民間病院からそろそろ大学へ戻って、再びあの頃のように、もうひと暴れしないかね。教授もそれをお望みだ」(医局長)

 「イエス。ただしギャラは、<前作>を超える前提で頼む!」

 マクレーンに同情する、あの一言。

 「なんで、俺ばかり・・・!」
 ♪ チャッチャッチャチャッチャッチャ!トコトントコトン、トコトントコトン、プア〜ン・・・チャッチャッチャチャッチャッチャ!

 疲れた。確かに画質はアップしたものの、場面ごとの格差が激しすぎる。かなりクリアな画面になったと思うといきなり突き落とされたようなボケ画質になったりするのだ。「さあ、どうする?」ってコラ、なんとかしてくれよ!

 夕方の眠たい社会科の授業みたいだ。「・・であるからして。ほらそこ!で、次は・・ぶつぶつ」てな具合だ。5千円近くも出したのに、損した。

 今度発売の「ディパーテッド」も海外盤と国内盤では仕様に相当の違いがあり、やはり日本でのオーサリング技術にはどこか事情がありそうだ。

※ 昔、小学校の頃だったか教育用の月刊誌。同じようなストーリーのものがあった。バスが停車すると爆発する(同じやないか!)。最後は、なんと大きな段差に乗り上げさせ、車輪をそのまま回している間に逃げ込む、というものだった(できるかそれ?)。
 医療にこだわらず、医師になってこれまで日常で学んできた教訓。1冊のボロボロの手帳からピックアップします。

要は、これまで自分に言い聞かせてきたことなど。現実に即しているので、明るいのもあれば暗いのもあります。

 みなさんの生活に少しでも役にたてば幸いです。
 中年になると体のどこかがギクシャクしてくる。医師やナースは酒飲みが多く検診でよくひっかかるわりに自分たちの異常は気にしない。しかし患者には懸命に説明している。

 これは一種のモラルの低下(偽善者)と思われる。確かに人の病気を見つけてそれを治しているという、使命感・満足感のせいで、自分への配慮がかえって減退するのだろう。

 しかしそれは、逃避であり傲慢に他ならない。そんな人間(自分を何とかしようとしない人間)に、他人を指導する資格など無い。家庭をほったらかして仕事に生きがいを見つけてる人種と変わらない。

 自分は5年目あたりで少し太ったことがあり(ストーリー参照)、いろいろ暗示を書いて毎日言い聞かせて効果があった。

<一部抜粋>・・今思えば強迫的な部分もあったが、暗示はこれくらいがちょうどいい。

・ 脂肪・コレステロールが高いなら、夜食をやめろ。早食いやめろ。尿酸高ければ肉・酒やめろ。マックも食うな。まず家に置くな。それでもいいなら、一生薬。
・ 今日は魚・野菜は食べたか?
・ タバコは吸うな。国がもうけて周りが迷惑。
・ 背筋をはって歩け。迷わず階段使え。

 もちろん尿検査やレントゲンなど、要精査のものもあるが、たいてい指摘されるのは<メタボリック>関係である。

 そこで・・・

 <ビリーズブートキャンプ>!

 ちゃう、ちゃう。
 こういう仕事に限らず色々落ち込むこともあるが、いくら反省しようと、自分の(正しい)言い分というのは残ると思う。そのまま心を閉ざしても人間生きてはいけるが、余ったフラストレーションは確実に溜まり、何かの拍子に自分を壊す。

 そうならないためにも・・・

<ビリーズブートキャンプ>!

 ちゃうちゃう。

 メールなどでなく、なるべく印象が新鮮なうちに誰かに聞いてもらうことだ。ありのままでなく、若干は歪曲してもいい。聞いてもらえる人間こそが、一生の友である。その代り、その友人の話も聞くべきである。人に話してみて、あとで気づくこともある。
 
 いろんな啓発本でもいうように、いくら正しいことでも頭ごなしで訴えてはいけない。人は変化に不安を感じる動物だからである。

 具体的には(使い古された例えだが)上司が部下に「あれは実によかったと思う。でも、できればもうちょっと・・」といったような表現。

 もっと現実的には「この前はありがとう。でね、ほんとに悪いけど・・・」など、相手にいったん油を差して相手の表情が軽くなったら本題に入る。さらに譲歩した部下なら、あなたは幸せな上司である。当分。

 まあしかし、帰ってくる反応は相手による。特に医療の現場はプライドが高い人間が多いので応用が難しい。無反応な相手なら、感受性が乏しい人間だと評価するしかない。

 
 それ(怒りで解決)はアクションやサスペンス映画などでの話である。怒りというのはたいてい衝動的で、相手に土足で踏み込む行為だ。それは破壊という行為であって、何も生み出さない。

 その怒りはひょっとしたら抑えれたものだったかもしれない。抑えれなかったということは、今後もその同じ限界線で何度も爆発を繰り返すことになる。怒りだらけの人生になる。それは避けたい。まだ間に合う。

 ならば、ここは1日にまず1つ耐えることを実行して、<私が落ちなかったダークサイドシリーズ>自慢話のタネにすることにしよう。
 財布がどんどん窮屈になる。山のようにあるカードのせいだが、一応どの店も入る縁があって捨てられない。使うかもしれないポイントが若干ある。

 それではすでに、あなたはその店の奴隷のようなものだ。そんなつまらんポイントのためにあなたは引っ張り廻され、新たなフロンティアを築けなくなる。

 ケチケチした考えにならんためにも、必要最小限、シンプルな中身でいこう。
 親が年をくって仕事を辞めたりすると、とたんにあれこれ口を挟んでくる、のはどこも同じ。時間がたくさんできるからだ。

 時間が余ると、「やれあの子は何を食べて、何をしてて・・」とあれこれ妄想をふくらます。テレビを見る機会も多くなり、最近では事件も多いため心配事も増す。君も家族から離れて生活してそれなりに気には留めてるだろうが、彼らの思ってくれてる時間には到底及ばない。

 君にとっての1時間が、時間を持て余す彼らにとっては一ヶ月。それぐらい時差がある。

 じゃ、たまには電話してやるかと何気なく電話するだけでいい。ただし普通の内容でいい。新しい話題・派手な内容は誇大妄想を作り出す危険があるので注意。

 今日は気が向かないだとか、そんな自分本位は後悔する。君がジジババになったとき、その(親子で話すことの)有難さが分かっても遅いのだ。

 ただし相手の話が長すぎる場合、自分は「今、病院から呼ばれた」と逃げるようにはしている。
 そのまま解釈してしまうと<周りが悪い>みたいな表現になってしまうが、そうではなくて。悪いというのではないが最近は利益を出すための手段が選ばれなくなっている。そのため、本来理想であるはずの手本のカタが失われ、予備校専門的な裏ワザばかりに人が群がっている。受験に罪はないが、こういうものの考え方が学生自分からあると、将来歪んでくる。

 医療の現場でもそういったことが起こってきており、患者がそういったマネーゲームの危険に晒される可能性(不必要な過剰診療やそれに伴う隠蔽)もある。

 いい医療を目指すのも大事だが、個人の力で変えられる現実ではない。ならせめて、周囲に渦巻く悪から患者を1人でも助け出そうという正義感を研いでおく必要がある。大げさな表現だが、ここでいう<悪>とは<人命を無視した欲>のこと。

「眠れないとき」

2007年5月9日
 医者も人間なので、気になって眠れないことも多々ある。患者の病状であったり、その日あった嫌なこと、言われたことが頭をよぎる。いろいろ考えていると目が変にさえてしまって眠れない。もし安定剤飲んだら、もしものコールのときに目覚めれない可能性がある。

 自分は、体力的につらかったことを思い出すと(なぜか)徐々に疲れてきて、なんとか眠ってしまう。例えば何百段の階段、連続当直、胃腸炎の脱水状態。

 つまりそのとき(眠れないとき)に置かれた状況より、もっと苦しかった状況を思い出したということ。
 外来に入って患者の顔色をよく見ろとか指導されたが、実際外来に何度か出入りする機会があれば、待合室でその患者の別の表情・事柄に気づくことがある。診察室でみせる表情は<優等生>の表情であることが多く、気を使って無理してる人も多い。

 些細なことだが、「この人はさっきからかなり待たされているな」とか「検査でずっと待たされてるみたいだ」「苦しそうだ」「ちょっと近寄って何か言いたそうだな」とか気づいたら、そこを何とかできないか配慮すべきである。思わぬ情報が入ることがある。患者は短い診察時間より、ここでかなりの待ち時間を強いられることが多いからだ。彼らはその間、いろんな事情を抱えて耐えてくれている。

 ちょっと見渡して状況をみて、必要に応じて融通をきかせるだけの余裕がほしい。

 診察室でしか外来患者をウン十人診ただけで、満足してはいけない。
 長続きする程度に早く出勤したら、思わぬ情報が手に入ることがある。脳卒中や虚血性心疾患の発症は夜間・早朝に出くわすことが多いため、たまたまその状況に遭遇して早期治療にもっていける可能性も。ついでに夜勤の申し送りも聞ける。日勤帯の申し送りに頼ると入院患者の情報収集が遅れたり、情報漏れになる可能性も。

 何よりも後から来た連中に、やや高めのテンションで「おはようございます!」と圧倒できるのが清々しい(笑)。

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