胆道系は膵管とつながっており、肝臓の地下水的な位置にある。採血検査によって正常と断定できるものではなく、精密な画像検査で確認する。漫然と数だけ見ている医者は、かなり遅い時期で見落としている。

 検診で施行する胆道系検査はせいぜい腹部超音波までで、実際は肝臓内の胆管拡張という所見をきっかけに、次の精密検査を勧められる。しかし、この時点でかなり進行しているものと予測される。ただでさえ数ミリの管が目立って確認されるまで、気付かれることはほとんどない。症状がないからだ。症状がないから、検査の必然性が発生しない。かかりつけの患者が黄疸になって初めて主治医が気づくようでは、その医師は責任を感じなくてはいけない。

 有機溶剤との関連はより詳しい調査が待たれるが、好発の中年女性、いや中年以上は特に超音波検査下での<肝内胆管の拡張所見>をより意識したい。腫瘍マーカーの測定も、常に異常がなくても追っかける価値がある。


呼ばれない医者

2012年5月14日 連載

 どんな病院で勤務しても夜間・休日に呼ばれないはずがない。いや、そんなところもないわけではないが・・・。

 そこそこ忙しい病院に勤めてきたが、それでも1回も呼ばれてない医者もいた。ナースに聞くと、「不機嫌だから」という理由だ。だがこれは理由にならないようで、理由になりうる。こういう答えが返ってくるらしい。

「すべて当直の先生に、指示を仰いでよ!」
「患者診てないから、よくわからん」
「あなたの報告が、よくわからん」
「何が言いたいわけ?」
「で、僕にどうしろと?」
「きみ、だれ?」

 せっかくと報告したつもりのナースらは傷つき、その防衛本能から同じ行動を避けに出る。もしこれが男性社会なら、堂々と次の日あたり「分かり合いたいんです!」とお近づくはずだ。

 リーダー格には、こういった相談が毎日のようにくる。これをそのまま当事者の医者にダイレクトにぶつけるわけにはいかない。彼らも言い分を用意するだろう。その後の関係にもヒビく。ナースの報告も脚色もあり、総師長らの手助けも借りる。

 ナースは女性主体、医師は男性主体。女性医師が増えたとはいえ、大部分が第一線から早期に引退するのが現実だ。リーダーシップ取ってる者も少ない(内科・外科系・救急)。実際は、男女の性格的な駆け引きが行われている、ようなところがあって興味深い。言い方が多少エロく聞こえたのなら、すまんせん。





ジャンプと青春

2012年5月14日 連載

http://bookstore.yahoo.co.jp/promo/special/201205_01.html

 いや、自分が読みたい・手に取りたいのは当時の<週刊少年ジャンプ>そのものなのだ。

 田舎に住んでた頃はちょっと離れた都会に赴けば、1日早い発売日に買うことができた。これで一躍<1日ヒーロー>が可能だった。

 ジャンプは田舎でも必需品で、お好み焼き店・散髪屋ではなぜか<月刊>が中心に置いてあった。

 予備校生活でもジャンプ生活は続いた。寮の予備校生らで回し読み。生活が不規則で縛りがなく、夜中に入荷したジャンプを持って歩く、上機嫌な予備校生。

「えーっ、もうジャンプ出たんやあ?」

 大学になると人気はやや低迷。自分の世界もマンガ→ビデオ、合コン、走り屋(自称)、アルバイト・・・へと変わっていく。続き物のワクワク感が遠ざかる。

 久しぶりに、当直用に1冊買ってみようか・・・。

僕の形相

2012年5月13日 連載

 病院の職員トイレ。

「ふうふう。間に合った。ふうふう。もう何が起こってもよし」

 職員トイレの大は、通常なかなか空いてない。喫煙したり携帯目的とかもいるため。

「っしゃ。ズボンを・・・ここにかける、と。このハンガー、グッジョブ!」

 そういやと、ノブに手を伸ばし鍵を回そうと・・・

 そのとき、彼方から高速度でバン!タタン!キー!

「おわっ?一瞬芸!」

 はるかに強い勢いで、ドアが引っ張られ晒し者に。

「とたっ!」どうしようもなく、下向きかがむ。反射でドア閉。

 はて・・・?

 どんな形相だったかも、覚えてない。

 これは、なかったことにできるのか・・・?

 いやいやいやいや。

ワイフの形相

2012年5月13日 連載
 実は興味ないドラマを、一緒に見る。しかしワイフの顔は輝きテンションが高い。ときどき、感情移入しているのがわかる。ドラマの人格が、そのアイドルの人格にまで高められる。

「うわ?うそ?おわりぃ?」

 で、こっちを見る。

「どうする~?」

 し、知らん・・・。お、もうすぐ自分の<番>だ。ディスクを持ってきてセット。トレイに入れる。やがて自然と再生に切り替わったが・・・。

「ちょっと!まだよこくがあるから!」

 あの子供らの形相が浮かんだ一瞬だった。

子供の形相

2012年5月13日 連載
 小児を診察する機会が増えているが、最近驚くことが絶えない。待合室から診察室に入ってくるとき、なんとDSを操作しながら入ってくる子が時々いるのだ。というより、親がそれを良しとしているのだ。

 カチカチカチ・・・うつむいたまま。母親に促すが、彼女の催促も物理的でない。ゲーム中毒にはそれでは足りない。

 無理やりゲーム機を取り外すようにつかむと、倍の力で引っ張られた。

「せーぶするから!まって!」

 待つこと数十秒。パタンとたたむと、一瞬でグダッと病人の顔。さっきの形相からは予測できない。

 この<セーブ作業>は、種の保存的な本能を満たすものなのか・・・?


 正確にはちょっとズれるが、自分はミスチルの歌とともに歩んできたようなものだ。病院がどんなに忙しくとも、彼らの歌は周囲に流れていた。1年目のとき「イノセントワールド」が頭の中を繰り返し流れ、2年目のバリバリ期にハイテンションな「シーソーゲーム」、忙しくて切ない中「Everything」、疲れ目5年目「終わりなき旅」、軌道に乗り始めたころミスチルの歌も完全に<無条件安定化>しての「名もなき詩」、その上での皮肉「NOT FOUND」「優しい歌」、疑問符「HERO」「未来」を終えて平和主義者「HANABI」「GIFT」。彼らの歌は孤独でなくなり、女いやいや万人に好かれるところとなった。まるで医師の成長だ。正しいものかどうかは別として。

スーパー研修医

2012年5月12日 連載

 草なぎのドラマはまだまだ甘い。しかしよくできている。患者側の視点を意識するのはテレビの宿命。

 いまは研修医が完全に労基に守られている印象だが、それにもかまわず頑張っている修行僧がいることは確かだ。自ら過酷な研修先を選び(有名病院でなくもっと特殊なところ)、そこでの生活を人生とする者たちだ。

 彼らの生活はこうだ。朝5時起床。または寝ない。6時に患者が起きる前にカンファレンス。6時に回診、採血など。他の医師のカルテチェックおい!7時に先輩医師出勤(はや!)、にわかカンファというより質問攻め。夕方はカンファがいくつも続き、夜間は・・・夜間は、ライバルがどこまで居残るかの睨めっこ。ついには力尽き、床で寝る。帰っていたと思っていたライバルが実は救急診療つきっきりでウツ状態。

 そう思えば!自分の早出起きなんてへっちゃらのはずな・の・に・・・!
(また寝る)

 さきほどの<欠点>が人生の<X>ならば、寅さんは<Y>にあたる。寅さんはトラブルメーカーとして周囲からどことなく見下されているが、しかしその副作用でもってして人の心に奇跡さえ起こしてしまうことがある。

 寅さんキャラをそのまま医師像に投影することはできないが、純粋な思いやりの原点として参考にすべきところがある。その反面、あのムキになる子供みたいなところはこれまた医師像の裏面をリアルに演じてるようだ。

「な、なんだとお?今、なんて言ったんだ!お前が病気を治しただあ?とんでもねえ、病気を治したのは患者さんの免疫だろが!それをおめえが治したつもりで威張りやがって!インターロイキンだかインキンだか知らねえが!くれてやらあ!」

 ちょっと兄さん!あんまりじゃないですか!




 いままさに、そのような事故や事件が多発している。雰囲気悪くするが、やはりどうしても病院でもどうかと考えてしまう。

 実は真面目に診療していても、トラブルには必ず巻き込まれることになる。いや言い方が悪かったが、たとえば1つの訴訟相当の事例があったとすると、その症例に関わったすべてのスタッフに聴取が入る。聴取された側にはなんの落ち度もなくとも、何とも言えない巻き込まれたような気分になる。

 しかし、日常の診療は続く。まさかそんな悩み、家庭に持ち込めない。そうすると、日ごろしたためる文書や態度、時間の管理などふつうにやっておけば、実は特殊な技能がなくとも、内心どっしり構えることができる。過去や未来への<よぎり>もない。

 トラブルの中、この「ふつうにやっとけば・・・」という言葉が陰で呟かれる。この言葉の重みがわかるだろうか。

惜しい欠点

2012年5月12日 連載

 それは、自分にもあるとは思う。この惜しい欠点というのを自分が定義するなら、まさにその欠点のために継続することができないものをいう。

 たとえば、怒りっぽかったり執拗だったり。病院では忙しい人ほど多数の症例に出くわし、やがて想像もしない対処不可能な事例にぶちあたる。それも孤立無援で。そんなとき冷静さを出すはずが、よりによってそこで踏み外す。ちょっと気を抜いた、油断した、たまたま思い出せなかった。

 受験勉強でも経験があるはずだ。なにかこう調子に乗ったつもりになって、その1つを見逃した。

 その欠点を嘆いているのではない。むしろその欠点が混じっていることに、スタッフ各人が気付いているかどうかだ。まるで解かれることのない、いや実は解けない方程式のようだ。いや、Xというよりi(虚数)のようなものか。なので、それは解かなくても(表現しなくとも)いいと思う。欠点を言葉にすると、たいてい当たってない。



 http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0429/

 いろんな解釈が可能だが、病名というよりも現代病の1つだ。今は「暇でボーっとしている」人は少ないと思う。ネットがあればとりあえず何かに没入できるし、ゲームでも何でもとにかく何かに逃げることができる。

 しかも、そのコンテンツがすべて優しい。なので居心地がよく、仕事面とのギャップが著しい。なので日常→仕事への不快感は大きく、仕事→日常への解放感の格差が大きくなる。

 日常が思うようになるのに仕事でストレスがたまると、単にそれが嫌になる。ただただ時間が重くなり、過ぎ去るのを待てばいいことになる。そうなると、本来の仕事と遊びの立場が入れ替わる。つまり遊びの合間に、仕事があるわけだ。

 しかしどんな概念を作ろうと、仕事がつまらないのでは治療の話どころではない。仕事はどんなにつまらなくても、年々(以前よりは)やりやすいようになるはずだ。最初は地獄だと構えれば、それ以上はあっても以下はないはず。

 たとえば新入りができてきて、教えるやりがいなど何か見つけられるのではないか。ひょっとして、やりがいを感じる前に何かを諦めているのではないか・・・?

 みんなが逃げ込むネットやゲームの世界の中に、そんな向き合うカウンセリング的なコミュニティがあればいいと思う。悪口の言い合いでは、決してなくて。






MI4

2012年5月2日 映画
 やはり独自のプロダクションで作った作品は、手がかなり込んでいて妥協が見られない。おそらく納得いくまで脚本が練りに練られ、1つ1つのシーンに完璧さを求めたのだろう。結果的に破綻のない内容になっていて、満足度が高い作品となっている。

 ここにもし誰かが<製作総指揮>として入ってしまうと、上映時間を削られ年齢制限への過剰な配慮、続編への無責任な暗示が入る。

 病院にも<製作総指揮>みたいなのが入ると、知らない間に部署の配置換えや移動が行われ、作りかけられた調和が乱れる。師長の作り出すシフト表にも、それが個人的シフト(偏見)として現れる。

 僕らもそのような<製作総指揮>によって6例の検査を10例もやり、30人枠の外来を60人分こなす。ミッション・インポッシブル4になぞるなら、ミッション・リスポンシブル フォーペイシャンツ。<患者への責任>あるいは<4人の患者><4つの忍耐=4K?>などとも解釈可能。

 バン!バン!バンバン! 仮眠、グスン・・・・。


過酷勤務の中

2012年5月2日 連載

 居眠り運転が議論されている。長時間労働が明らかに影響しているものと思われる。

 病院では長時間労働はザラだが、ヘルプを要請すれば経営側は休養を考えてくれる、はずだが。無理な労働の強要のために労働者が労基へ駆け込むことを、経営者は何より恐れている。

 しかし働く医師が欲に溺れて自ら無理なシフトを組めば、そのうち思わぬ形で責められることになる。ふつう医師は常勤先があって、1週間の過半数をそこで働く。給与は決まっており、場合によっては仕事の出来不出来がそれほど反映されない(よほどは別)。

 それでも週に2日くらい暇ができるから、せめて1日は非常勤として別病院に勤める。これも固定で1回あたりの給与は決まっている。あとが余暇となることが多いのだが、それでもと空き時間を当直、非常勤と振り分けている者もいる。

 そうやって全て埋めてしまう場合、どこかが<休憩時間>にあてられる。楽な病院を選び、そこでついでに休憩しようという発想だ。もちろんそんな保証はないわけで、多忙を極めたまま常勤先での業務へと突入することもある。

 そんなとき、睡魔やケアレスミスの罠がある。常勤先のほうが時間が豊富で(忙しくとも)単調になりがちなので、つい気を取られることがある。そもそも常勤先はいい意味で緊張感が乏しい。そこがマイナスに作用するわけだ。

 自分はいったいどこで人間らしさを取り戻しているか。そういうゆったりした時間を、週1回は確実に持ちたい。常勤先へのベクトルというか、反動を保つため。













GWの風景

2012年4月29日 連載
 GW前は退院が多く、それに入ってからは入院が増える。しかし検査技師は呼び出し制になる病院が多く、祭日中は病院の機能が平常通りとはいかない。と思っていたほうがいい。

 当直医師もオールマイティではなく、Gwだと毎日違う当直医なのが常だ。主治医が決まらないまま治療を続けざるを得ない。

 こういった背景があるのがGWだが、病棟には決まって<見たこともない家族>が現れて、主治医はどないやねんという問い合わせが来る。

 ところがその主治医がたまたま医局に忘れ物を取りに来ていて、バッタリ捕まってしまったりする。ついでに詰所の難題も一気に解決。

 草なぎ君なら、こう言うんだろう。

「患者さんらに休みはないんですから、僕らも休まないのが当然です」。

 じゃ、スタッフの人員も増やしてくれ。




愛の無知

2012年4月29日 映画

 自分の目指している人格は、俳優でいうところの堺雅人にあたる。チームバチスタでなく、穏やかなほうのキャラのほうだ。

 目が涼しげで、大げさに動じない。心は押し殺すがしたたかでもある。怒るときは淡々と。だがやるときはやる。以前は健さんがそうか。

 いや、確かにこの映画では子供を殴りつけた。以前は仕事場で似たようなムチを与えたこともある。しかしその上で伝授したし結果も出た。愛あってのものだ。

 やっぱりモンスター母親が出てきてからか、そのモンスターらが以前受けた仕打ちに恨みがあるのか。確かに女性は何でも昨日のことのように覚えていて、その感情まで生き続く。途中で解釈はされない。

 男もそうなってきたのか。いや、男が女に話し始めた。女が男を調べれるようになった。表社会でも、今や女が男よりよくしゃべる。

 我慢して女どもには弱いところは見せたらいけない・・そんな男のプライドよりも、「僕の弱さも受け止めて」みたいな雰囲気がそうさせたのか。<優しい>歌やドラマ、そして大人たちが、そうさせたんだろうか。




 



 

医療兄弟

2012年4月22日 読書
 医療版で、リメイクするなら・・・
 
 平田弘明でお願いします。

 弟が医者。大学病院で名医。一方の俺(兄)は、最近とある3流企業をリストラ。弟はいつも学校でトップ。それに引きかえ俺は・・・。

 0からのスタートとして、まずは病院事務員。偉そうな医者に命令されつつも、患者の心を掴む。営業魂を評価され、事務当直へ。異例のスピード・・出世か?

 専門学校に通い、レセコンをこなしこれも前職のPC経験が役に立った。総務課へ配属、事務次長へ。そんなとき、事務長がお縄。俺が舵を取ることになったわけさ。照れるね。

 各病院を回り医師をスカウト。プライドを削るくらい、それは自分の真骨頂。あとは管理開設者。これはどうしても医師でないといけない。医師の上にも、いや下にも何年だ。

 弟は美人局に引っかかっていた。相手は組の女だという。確かにキレイだ。だが俺たちはすでに兄弟だ。

 金を払って別れさせ、その恩返しに院長に就任してもらった。組の奴らがまーだ金を要求してくる。入院して長居はするわ、スタッフとしてまでやってくるわで。あーそこ。ガラが悪くなってないかい?

 弟は優秀だ。誰にも文句は言わせない。理想の診療を追い求めてほしい。保険診療外だろうが、かまうもんか。赤字なら、この兄が組にけしかけて、ほーら魔法のカバンだ。

 大阪で、よくある構図。

 



 


 



 今回は、大学院生が収集され研究成果を発表。

 夜9時。コの字型の長机。お誕生席の教授はまだ。

「教授今日いた?」「車なかったな」「うそ?てことは?」「カンファ来週?」「来週祭日」「っしゃ!2週間あったら・・」

 なんのこともなく、普通に教授が登場。

『さ!レディゴ!』

 シーンとなり、1人ずつ発表。上級医より。したがって、後になるほどプレッシャー。

「この前のシアトルの学会のそうです。サーキュレーションの」
『ああ、あれね?これがそう?ふふ』
「いえぁ」

 この時点でほとんどのメンバーが理解できず、別次元を感じる。

「次。いいですか。ビトロ(試験管)で有意差・・でました。バラつきが多少」
『うん。まあいんじゃないの?』
「次はじゃあ、ビボ(生体)でやってよろしいですか?」

 首を縦に振られ、自分だけ喜ぶ医師。

「ビトロで繰り返しましたが・・・」
別の医師、グラフは滅茶苦茶。

『これはなんだ?』

「あはははは」上級医師らのみ笑い。
『このグラフはあれだね。ヒューストンのほら』
「ジョンソンですね。あれは参りましたね!」
 
 と、これまた上級医師と別次元会話。

『よし!君を日本のミスタージョンソンと名づけよう!』
「あっはははは!」と上級医師ら。

 顔面紅潮し、次のいよいよ下級生へ。

「4つの群に分けてみました!」
『うん君さ。いきなりそう言ってもだよ。どの医師もみなアンノウンだよ。ignorant of。無知とか、無学という意味もあるのね。そこ、窓閉めて』

 みな、下級生を見下ろす。

「ビトロでは!」
『タイガース勝った?うっそぉ?ほほほ、ええ?』
「ビトロでは!」
『うんもうビトロは分かったからさ。これでもうビトロ何度目よ?』

「えっ?まだ1回目です」
『こうしてるうちにタイムはフライしてるのね。で、結論は?ホワッツザポイント?』

「けっきょく、有意差は、みられませんでした」
『結局ってあなた言うけどね。差がなくってもそれはあくまで実験結果であってね。トラッシュデータじゃないのね』
「はい!」
『その実験のためにさ。高い薬剤を東大の先生から頂いてきたんだよね。それを結局ってさ。マルチブルに検討してさ。そしたらどっかで有意差でるかもしれないじゃない?単にグラフの比較じゃさ』

 みな、首を縦に振る。しかし教授は不機嫌。

『もうちょっと、みな頑張らんとな。自分の実験ばかりせずに!わが医局はあくまでオールエイジ、オールマイティ!今度のカンファは・・・』

 カレンダー。来週は祭日。

『祭日か・・・学会はたしかチャイナで・・・ん?チェン氏は・・・んん?』

 みな、注目。

『あ、それは来月か。じゃ、次のカンファは祭日の23時からみっちり!オーケイ!』

 上級生、あきらめ顔で起立。

 真夏の暑い夜。





つづき

2012年4月21日 連載

○ 既婚者の場合

「先生。ご結婚は・・・」
『結婚・・ですか?ああ、してます』
「おお~!」またそれかよ。

「お子さんは?」
『小さなガキが2人』
「まだお小さいので?」
『8歳と4歳』
「小学校ですね・・・やはり私立?」
『まぁ一応』

「おお~!」

「じゃあ、お子さんもお医者さんに?」と女医。
『・・・・・・』
「いきなりそんな質問かい。先生、固まってしまったやないか!」と別の男性医師。

『どうですかね。昔はねぇ。医者の子は医者目指してましたけど。今はそうでもないですよね』

「ああ・・おおお!はいはいはい!」と一同。

『好きな道、進ませてやったらいいと思うんですよね。無理に私立の高い医学部行かせて、ひねくれた人生歩ませたくないし』

「・・・・・・・」みな、なぜか気まずい。

『そちらの先生は。お子さん、大きいってたしか』と高齢医師へ。
「え。あ。わたし。の、息子は・・医学部です」
『あっ!』
「私立のえー。はい、高い学費の放蕩息子です」
『いやいや!これは!』

「あははははは!あ~・・・」

女医が僕に肘を突く。
「てっ?なんやぁ?」
「ちょっと!なんか面白いことやってよ!」
「俺にふるなっての!」

高齢医師が、淡々と語る。一部は寝かかる。

「・・・でしてね。その松の木が樹齢何年か・・ああ、これこれ」
『へぇ~100年とかですか?曲がってますね?珍しい』
 新人医師、無理に気を遣い見たくもない画像を見せられる。

「町民が無理やり植えた、その価値観で育った・・実に屈折した松の木でございまする」
『あっ!す、すんません・・』

 じわじわと皮肉を言う高齢医師からそらすため、女医が助け舟。
「ねぇ先生先生!その<あっ>ていうの、クセですか?」

『はい?あっ、て言う癖?いいえ。別に。偶発的なものです。気になりますか?』
「あっ」

 オメーも言うてんじゃねえよ!そこ出来上がった僕が立つ。

「あっ?おっ?あ、ジン、ジン、ジンギスカン~。俺たち医局じゃ上下も関係、ねぇ、ねぇ、仁義好かん~」

「おお~ああっはははは!」
『ジンギですね?ああ、な~るほどね~!はいはいはい!』

 あぁなんとかサルベージできた・・・。僕の役はこうして果たせた。




 こういった会話になる。

○ 独身の場合

「先生。独身ですか?」『え・あ、はい。いちおう』
「おお~!ええなぁ~!」と一同。

「彼女は?」『え・ま、いちおう』
「おお~!」とまた一同。

「ここにもいますよ。独身が。最近なったのよな?」「おいおい!」
『は・・はは』
「おい!先生、困っとるやないけ!」

「うんうん。結婚ね・・・まだまだせんほうが、ええよ」
『・・ですかね』
「結婚したら、もう地獄よあとは」
『・・ですかね』
「いやぁ。それはお前だけだろ。この先生は一途や。だよね?」

『は・・はい』

「おおおおお~!みてみい。みな一同、礼やぞ?あ、ハイスクール奇面組知ってる?」

『ハイスクール・・・いや、ちょっと・・・ハイスクール・・・』
「いや、アイフォーンで調べんてええって?はは、おもろい先生やなぁ!」

『お・・お好きですか?』
「え?なにが」

『そのハイスクール・・・』

「ララバイ?」
「おいユウ!知らんやろ若い世代は!」
「百パーセント片思い!(パン)デブハダーレゾーメタメタボンビー!チュルチュルチュルチュルジュジュジュ!」
「やめてよちょっとー!」
「くだらん!やめ!きょうは!今日はおい!聞け!みんな黙るんだ!あ、お前が黙れってか。はい黙ります。えーと今日は。新入医局員の歓迎会です。あなたたちの飲み会では、あーりません!」
「あーりません!」
「ごめん。変な医局やと思わんといてよ?な、思わんといてよ!」

『あ、いや・・・』
「な、でもちょっとは思ったやろ?な?ちょっとは・・・」
『い・・』
「ちょっぽしくらいは?なぁおもったやろ?」

『はい。あ、でも!』

「うわーーーい!」(ちゃぶ台やや返す)

 そう、こうやって敬語から馴れ言葉へと変化させていくのだ。

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