とある成りあがり医師のおはなし 絵本風
2010年6月5日 連載僕の周囲で<ユウ先生の例え話が面白い>と評判だった時期(5年前?)があったので、その話を面白おかしく要約しよう。非常にダーティーな話だが、こういった現実的な心理描写は絵本風に描くと効果的。
例えは悪いが、買い手市場(いややっぱちがうな)。
2010年6月5日 連載 病棟は理想的には常に満床であることが望ましいが、稼働率も大事なので数床空けておく必要がある。事務+ケースワーカー・連携室がうまいことやらないと、病院の経営が傾く。今のドクターらは「僕らは医療をやればいい」という意識が強く、また(ベッドのやりくりの)責任を負わされることは少ない。
6月は比較的満床にしにくい(新規入院少ない)時期であり、転入の要請が出てくる。転出が優先されるのはやはり管理が難しく、また問題ありのケースが多い。病院によっては事務側が巧妙な手で入院させてくる。主治医はスルー状態のことも。事務側にとっては<いかに自分の手柄にするか>にかかっているので。
一方の医師側は受け入れ(するかどうか)に際しても情報収集を欠かさず、それと最初の家族説明を入念にしておくこと。トラブルでの「ああ言ったこう言った」の焦点は、常に最初の説明時の内容が影響する。
「僕らは医療をやればいい」という意識だと、つまらんケース由来のつまらんストレス(勤務医にはよく分る)を抱えることになる。
6月は比較的満床にしにくい(新規入院少ない)時期であり、転入の要請が出てくる。転出が優先されるのはやはり管理が難しく、また問題ありのケースが多い。病院によっては事務側が巧妙な手で入院させてくる。主治医はスルー状態のことも。事務側にとっては<いかに自分の手柄にするか>にかかっているので。
一方の医師側は受け入れ(するかどうか)に際しても情報収集を欠かさず、それと最初の家族説明を入念にしておくこと。トラブルでの「ああ言ったこう言った」の焦点は、常に最初の説明時の内容が影響する。
「僕らは医療をやればいい」という意識だと、つまらんケース由来のつまらんストレス(勤務医にはよく分る)を抱えることになる。
本当に読みたいマンガ
2010年6月4日 読書 コメント (2)40を過ぎると、以前の趣味を見直し立ち返ることもある。自分は特に記憶から薄れつつあるメディアの再鑑賞だ。映画の再鑑賞で特に思うのだが、作品によっては自分の置かれる年齢によって感情移入の人物が異なる(例:ゴッドファーザー、フィールド・オブ・ドリームス)。
なるほど映画や音楽は比較的手に入りやすい。マンガもそうだ・・が!昔、読み切りで感動した作品がどうにも・・・肝心のタイトルも忘れてか、おそらく今後絶対入手できないものが多い。
特に昔のジャンプで各マンガ家が定期的に発表していた読み切り作品。たしか1作品40ページほどの大作が多く、中身も濃い。
mixiとか行けば、そういった世界もあるんだろうな・・・。
だからどうするのか、という市からの明確な方針がないままだから、どうしようもない。以前のケースも教訓にしておらずホットラインもできてなかった。ニュースの書き方自体にも、医師側に対する無頓着さが見え隠れする。
それより驚いたのは、この診療所の常勤がいつの間にか村上医師1人だけになっていたことだ。体力的にも精神的にもかなり大変なはずだ。
市は破綻して間もない、その上に自殺者も増えて孤独死も増えてきて、半ば放置死のようなケースも増えてくると思われる。こういったものが増える背景がどこにあるか、そう考えれば行政そのものの責任はもっと深いところにあると思われる。
医療を学ぶ人も、原因→診断→治療で満足する人が多いがもっと広い視点で見て、その原因には医療とかけ離れた<背景>があるかもしれないという疑いも、もって欲しい。
それより驚いたのは、この診療所の常勤がいつの間にか村上医師1人だけになっていたことだ。体力的にも精神的にもかなり大変なはずだ。
市は破綻して間もない、その上に自殺者も増えて孤独死も増えてきて、半ば放置死のようなケースも増えてくると思われる。こういったものが増える背景がどこにあるか、そう考えれば行政そのものの責任はもっと深いところにあると思われる。
医療を学ぶ人も、原因→診断→治療で満足する人が多いがもっと広い視点で見て、その原因には医療とかけ離れた<背景>があるかもしれないという疑いも、もって欲しい。
誰にでも出世欲はあるしそれ自体良いことではあるのだが、その分責任は大きくなる。しかしやはり権力に魅せられる者がほとんどだ。末端がそもそも上に登りたがるのはそういった不純な動機による。背景としては、末端と上との格差を見せつけられたこともあると思う。
大阪は非常に分かりやすい街で、上にいくほどあちこち牛耳れる仕組みになっている。この街の性格上ライバルが少なく、争いが少ないことも関係する(詳しく言うと、数々の利権団体が幅を利かせている)。
すると、とんでもない輩は次の手を考える。脱税はリスクがあるため、下の企業・人間からマージンを頂く。<もらえないとしてあげない>という利権があるために、黙ってても下から流れるようになっている。自ずと接待・女→商品→金という形になってくる。
医者でもこのダークサイドにはまってる人は多い。医者に限らずこういった人たちは何らかの借金を抱えている。負債の肩代わりが頼めても、すでにハンコを押している。楽するためにハンコを押すことは、悪魔に魂を売ることに等しい。
22(終). 心、ここにあらずですか?
2010年5月20日 連載夕暮れ。バカ井は、塾の教壇でひとり立ち尽くしていた。
生徒は1人もおらず、みな辞めた。と聞かされたのはつい先ほどのこと。
バブル時代でもあり、そこまでの苦情もなかった。
「この2年間・・・」
バカ井が黙ったので言うが、この2年間つまり教養学部が今、風のように過ぎ去ろうとしている。
アルバイトに明け暮れ、役にも立たない授業にほとんど出ず、ボランティアに精を出した。
そうだ。先日のあの1件は忘れられない。
バカ井は内線で友人に電話した。
「バカ井です。適当先輩ですか?」
「ただ今留守に・・・すまんすまん、冗談だ。お互い、無事専門課程に上がれたな」
「ええ。おめでとうございます!」
「留年して同い年になったんだから、もう先輩っていうのはやめろよな?」
「はい先輩!」
「(ガチャ)」
「あれっ?」
実はデリケートな先輩を、またもや傷つけた。
自家用車に乗るべく外に出たバカ井を待ち構えていたのは・・・
「よぉ先生」
「コナン坊!塾にどうして来てくれないんだ?」
「だってよぉ」私服で雰囲気が遊び風。
「?」
「高校卒業、しちゃったんだぜ。しかも飛び級で」
「え?」
「おたくの医学部さ。へっへ」
「それは・・・?おめでとう!」
しかしコナン坊は実は不満があった。
「まぁよ。本当は帝大に行きたかったんだけど。安全パイの地元を選んだわけさ。医学部でも3流・4流があるからね」
「うう、うるさいな!」
バカ井はこれからというときもあって、プライドが人一倍傷ついた。
「でも、あんたの姿を見てうらやましくなってさ」
「僕の・・・姿?」いろんなポーズを取るが、分からない。
「大人になっても、依然として大人に抵抗し続ける、その無邪気ささ」
「む、無邪気ってその何かいやだな。子供みたいで嫌だな」
「そうでもないぜぇ」
「でも大人って何なのかな。エロ本読んでいい許可証だけなのかな」
それを言われるとコナン坊はうろたえた。
「でもよ先生。いや先輩。いつかあんたが就職したら、こっちもお世話になるかもしれないからねぇ」
「て、適当先輩みたいに留年して、同級にならないようにしないとな。しないとな」
「そのうち、そこでも飛び級してやるぜぇ」
そんなの、ないない。
専門課程は、(当時)まず最初の1年の解剖から始まって、生理学・生化学、細菌学なども加わって生物らしくなってくる。
やがて臨床実習となり病院側からのスカウト作戦が始まる。
バカ井は疑問を感じていた。
「道徳の時間って、ないんだな。ないんだな」
「だからよぉ。気付かなかったのかよ。教養学部は、道徳の時間だったんだよ」
「そうか・・・それなのに僕は塾で生徒に講釈たれまくって。家に帰ったらエロ本で」
「でもよぉ・・・」
コナン坊は、街の雑踏を指差した。
「バブルってこの周囲が浮かれてる時代によ。バカ井さん、けっこういい経験したんだと思うぜ」
「け、結局損したんじゃないかな。損したのちがうかな」
「損なんかしてないよ。きっと将来、いいお医者さんになれるよ」
自信ないまま、バカ井は家路へと向かった。
最終回ということもあり、家ではみな集まっている。
シンゴが既に酔っていた。
「あのよ!みな進級できたお祝いによ!ここでもう集まったってわけよ!」
「・・・・・」
「俺たちのおかげで、じいさんが1人助かったんだよ?喜べよ!ま、それだけかなこの2年でよかったことって!あっはは!」
適当先輩もサトミも酔っている。適当先輩もさっきのことは水に流していた。
「バカ井。俺たちはこうして2年進級できた。それを祝ってこそ残りの4年が生きるんだ」
「に、2階級特進で・・・」
「ん?」
「2階級特進だけで。それだけ。あわわ。それだけなのかな?」
「何言ってんだ?」
「こ。このまま僕らは、大人と同じになってくのかな?けっきょくは」
兄がテーブルを拭き掃除しながら答える。
「なら。子供でいればいいんだ」
「えっ?」
「何も大人にならなくていいじゃないか。子供でいるほうが、初心を忘れずにすむだろう?」
「そうか・・・」
バカ井は、トントンと階段を昇っていった。
シンゴはさきほど書店で買ってきた本の束をテーブルに並べた。
「すげえだろ!解剖学!これ1冊3万ほどすんのよ?オールカラーだよ?」
適当は本を読んでいる。
「プラティスマ、プラティスマ。ラテン語で考えろっつーの!」
「ファイヤーフォックスかよ!それにしても自分だけ予習とはな!」
焦ったサトミもノートを読んでいる。
「骨学、もうまとめたわよ!」
「げっ!もう終わったのかよ?」シンゴは慌てた。
「触らせて!」彼女はいきなりシンゴの顔をつかんだ。
「おっとラッキー!キスミープリーズ!」
しかし・・・
「これが下顎神経で、これが・・・!」
「オイオイオレを標本にすんじゃねえよ!」
「ここがソケイ靭帯で」
「いひひ!彼氏じゃないのにいいのかよ?いひひ!」
適当はさらに内科の本をドサッと乗せた。
「オレな。今日でハリソン1冊ガブ読みしてやる!」
バカ井が、いっこうに降りてこない。
兄は少し翳った。
「あいつ・・・ひょっとして今のオレの言葉を気にして」
「うそ!」サトミが悲しんだ。
「子供でいろって・・・大人になるなって」
「それちょっとまずいじゃないの!首でも・・・」
適当は本から目を離した。
「首!やっぱりプラティスマ!だ!みんなどうした?」
みな見合わせ、一斉に階段を駆け上がった。
ダンダンダン!と家が揺れそうになるくらいに。
ふすまがガラッと開けられた。
「(皆)うわああっ!」
そこで寝ていたのは、ベイビーおくるみのカッコしたバカ井だった。
「バブ。バブ。バブ」
「(皆)・・・・・・」
「バブ。バブ。バブ」
彼の心は、遥か向こうの世界へ。
それはもう、2階級特進どころではなかった・・・。
21. もたせ(られ)たこと、ありますか?
2010年5月14日 連載病院では、昼間の院長による総回診。
転倒して血腫を見逃された、じいさんの主治医が淡々と説明。
「まーこの人は。もうええかって感じです」
「転倒して、血腫ができて・・・今日のCTでもいっそう拡大しとりまんな」
「ま。なんもせんですけどね。もう年ですから。ま、撮るもんは取っておきますけど!も!」
院長の体がかすかに揺れた。
「うっ・・・?」
うなだれ、壁にもたれこんだ。
みな、覗き込んだ。タオルをもった総婦長が肩を叩く。
「院長?ひょっとして・・・いや困った。次の院長引継ぎ、どうひまひょ」
「ならん!」院長ライクなダミ声。
「わっ!生きてる!」
みな散らばった。
うつむいたままの院長は、なにやら喋りだした。
「知ってるぞお前ら。匿名で聞いたが、じいさんを家に帰らせたこともな」
「ひっ!なぜそこまで?」主治医がビビッた。
「わしが週に1回しか回診して、そのあとパッパラパーなのは認める。だがな、そこを逆手に利用して都合の悪いことを打ち明けないのは許さん!」
「わわ・・・!でもあれは、がが、学生らが無理矢理連れて帰るって、それで」
「大うそつきが!もうバレとるわ!」
主治医は土下座した。
「すみません!この件はどうか!」
「もう来んでいい。あるいは・・・」
「ああ!あるいは何でございましょうか!」
少し、間。
近くのコーナーで、蝶ネクタイを引っ張るコナン坊。
「一ヶ月の給料カットを命じる。今月振り込まれた金額を、以下の口座に・・・番号は・・・」
「ちょ、ちょっとそれはやりすぎなんじゃ、ないのかい?」
コナン坊は振り返った。
「どうするよ。あんたの口座だぜ」
「ええっ?それって、ど、どうなのかな。平和に使うならいいのかな」
「おいおい・・・」
院長はウトったまま。
「このじいさんは、まだ助かる!」
「ですが、家族は救命を希望しては」
「人類、みな兄弟!その中のわしが救えといっている!」
「ひっ・・・わわ、わかりました!」
主治医は早速、脳外科医をつれて来た。
「・・・てなわけで」
「ふんふん。では、しましょう!」
話が進み、ベッドはオペ室へと運ばれていった。
コナン坊はネクタイで最後の指令。
「つかれた。スタッフはわしを抱きかかえて、眠らせてくれ」
スイッチを切ったところ・・・
バカ井が勘違いして、コナン坊を持ち上げようとした。
「わあっ!何をするんだ!ヘンタイ!」
「えっ!だって!」
さすがに、見つかった。総婦長が笛を吹く。
「ピー!そこで何をしている!」
絶望していた主治医が、コナン坊・バカ井の視線を追った。何かを悟った。
「あっお前ら・・・!ひょっとして今のは!」
「分かるところが、マンガだよなー」コナン坊が牙をむいた。
「やっぱり作り話だ!医師の指示により、奴らをひっとらえろ!」
コナン坊はサッカーボールを足元においた。
「歯!くいしばれ!」
ドカーン!と蹴られたそのボールは一直線、主治医の急所にぶち当たった。
「ぐあああ!」
コナン坊は何か思いついた。
「モッコリ中心、いやモロッコ中心のマラケッシュ。てかぁ」
バカ井が手を叩いて喜んだ。
「やったやったあ!正義は勝つんだ!あはは!」
「何言ってんの、お兄ちゃん?」
「えっ?」
コナン坊は、つぶらな瞳に戻っていた。
「君がやっつけたじゃないか!」
「知らないよ。僕。何のことだか」
瞬く間、守衛らに取り囲まれた。のはもちろんバカ井のほうだ。
バカ井の将来がいきなり灰がかった。
「この・・・!」
しかし、コナン坊は遠くを指差した。
「おまわりさん。犯人はあっちへ逃げてったよ」
守衛らは、みなあっち方向へ走った。
バカ井は肩を落とした。
「はぁ。死ぬかと思ったよ」
「恩返しだよ。エロ本の罪かぶって・・やべっ!」
「えっ?なんだって?」
コナン坊はあちこち隠れようとした。
「まさか!とにかく!ついに!」
「おい待て!君は何者なんだ!」
コナン坊は観念した。
「じゃ、紹介といくか。我輩はコナン坊。名前はまだない」
「あるじゃないか!」
「どこで生まれたか、とんと見当がつかねぇ。ただ、美人のおねえさんに連れられて、ホテルに行ったことは覚えている」
「何かと、ごちゃまぜになってないかい?」
「動揺したオレは目がくらみ、薬を飲まされてしまった」
「で、気がつくと・・・今の君が?ってわけ?」
コナン坊が、いきなり震えだした。
「くっ・・・!」
「あれ?」
「つつ・・・」
「つつ・・・つつがむし?」
コナン坊は、大口を聞けて、叫んだ。
「つつもたせ(美人局)に、あってしまったんだー!」
「ノオーーーーウーーーーーー!」(スロー、劇画調)
⑳ トゥルーロマンスですか?
2010年5月12日 連載写真に写っていたのは、その長男と腕組みする若い女性だった。温泉ホテルの部屋であることは、その浴衣から明らかだ。
「胸が、見えかけている・・・」バカ井の視点は違った。
「バカおい、かせ」適当先輩が奪った。
「この日付。じいさんが倒れてた日だ」
「若すぎるだろこの女・・・・長男さん、これ愛人だろ?」
パタッ・・と落ちたおみやげTシャツ。分散した頃には、怒った長男がステッキを振り上げていた。
「うわぁーっ!」
「ひっ!」適当先輩は反射的にかがむとともに、靴を脱いでかまえた。お互いの動きが止まった。
「なにするんだ先輩!」同時に、バカ井が輪ゴムでハエを射つ構え。サトミもつられて、カバンのハサミを取り出し投げる構えをバカ井めがける。
「彼氏に何するんの!」
シンゴだけが、なぜかヨーヨー。
「あまんら、ゆるさんぜよってかハッハー!」
みな、固まった。各々が、各々を狙う。手を引くにも引けない。適当先輩を制止するつもりのバカ井も、長男への怒りは強かった。
「適当先輩。ここで手を出したら、留年どころか」
「バカ野郎。お前も似たり寄ったりじゃねえかよ!」
「僕は許せない。じいさんをほったらかして、愛人と旅行だなんて・・・!」
シンゴはヨーヨーで、いろんなところを見定めた。
「な。なんだよ。愛人と写真撮っただけじゃねぇのかよ。そうするってぇと・・・」
シンゴはいろいろ想像した。
「やべぇよ。やべぇ。今日はパンパンのジーンズはいてきたんだよ」
「?」バカ井は疑問符だった。
「反応しちゃうとよ。アレの行き場がなくなるんだよ。いてぇんだよ!」
「きついジーンズはいて。想像するお前が悪いんだろうが!」
みな、依然として標的を狙っている。長男は汗が1筋ずつ。
「わ、わしだって・・・・わしだって」
「?」適当先輩は手をゆるめそうに。
「つらかったんだ。逃げたかったんだ」
いきなりドアが開いた。若い女性だ。
「やっほー!遊びにきたよー!マリコだよー!」
「おい入るな!」住人である適当は構えたまま叫んだ。
「今日は婦警スタイルできたよー!」
遊び女が、たまたまやってきた。
「あたしも、まぜてー!」
「バカ野郎!帰れ!」
「クリスマス近いから赤いパンツだよ。ほら」
何かが見えたのか、シンゴはもろに反応した。
「うぎゃあ!」
ヨーヨーが、勢いよく飛んできた。それは遊び女の頭を一度ぶつかり、続いて長男のステッキに当たり・・・適当先輩へとヒットした。
「うわぁ!」
先輩の靴がむやみに振り下ろされ、サトミの手に当たったそのハサミが・・・バカ井の尻に刺さった。
「ぎゃあ!」
一斉に、全員が倒れた。だがバカ井は意識を保った。
「はぁ、はぁ。僕はやっぱり納得できません。長男さん・・・僕はあの人を、助けたい」
バカ井は、尻に手をやりハサミを引っ張った。
「ぐわぁああ!」
立ち上がったバカ井に、救いの小さな手。
「あぁ・・コナン坊!」
「その言葉を待ってたぜ」
「たた・・・病院へ行くんだ。ジャマしないでくれ」
「いつかの恩返し。させてもらうぜ」
またスケボーが置かれた。
「つかまって!」
「うわーコナン坊!ここは!」
スケボーはアパートの廊下から外へ舞い上がり、空中分解した。
「えーーーーーっ!」
そこはまだ、アパートの5階だった。
⑲ どさくさ紛れ、してませんか?
2010年5月12日 連載帰宅が遅くなったバカ井は、今日も暖かく兄に迎えられた。
「ああ腹へった。自宅が一番いいや」食事が勢いづく。
「その頭。包帯なんかしてどうした?」
「これは・・・」
「ケンカか?」
「う、うん。電柱で打ってね」
兄はしかし、すでに調べずみだった。
「今日、女の子が来てな。塾の教え子だった子」
「なんだよ。聞いたのかよ?」
「洗いざらい、こっちは聞いたさ。もうお前は」
バカ井は立ち上がる。
「もう分かってる!兄さんは、他人への余計なおせっかいは、もうやめろって。そう言いたいだけなんだろう?」
「病院のドクターらは、いずれはお前の上司となるお方だ!」
兄の本音が出た。
「それにだ!」
「韓国語?」
「俺たちだって、いつ病気でお世話になるか分からない。そんな偉い人たちに迷惑かけて恥かかせて、お前は一体何がしたいんだ!」
「だっておかしいんだよ兄さん!間違って処置されて、誰も責任とろうとしないんだ!」
「間違いだってなぜ分かる?いまだ素人のお前らに、立ち向かえるわけないだろう!」
兄は怒って、外へ。
バカ井は居場所をなくし、適当のアパートへ。
「おかえり!あっ?」出てきたのは、薄着のサトミだった。
「なんだ。バカ井くんか・・」
「なんだとは何だよ。こっちは落ち込んでいるっていうのに」
など言いながら、彼は部屋に入った。遅れて、適当先輩が入る。ビール缶をいくつか下げている。
「おっ!バカ井・・・いやいや。これはな。これからお前ら呼んで、宴会でもしようって」
「また嘘を・・・先輩。だいいち、なんで宴会なんですか?」
「それはその。オレの留年確定記念とか」
「人が死にそうなのに、なんで宴会なんですか!」
雰囲気が暗くなった。みな、それぞれヤケを抱えていたにすぎない。頭に血腫ができて脳が圧迫されてるじいさんは、集中治療室で1人のまま。長男の希望で<何もしない>ことに。
正義感の強いバカ医は、何かを何とかしたい気分で一杯だった。
「病院の過失のくせに、家族が何もしないって。やっぱりおかしいよ。道理に反するよ」
「もう、よせって」適当先輩がビールを開けた。
「・・・・・」
「家族だったら、悔やまない?生きててって望まない?」
「またそれか。あぁ始まった」
「コナン坊の言うとおりかな・・・金なのかな。いやだなそれって」
シンゴが遅れて登場。
「いや~!それがよ!長男さんといっしょに飲んじゃってよ!」
後ろから、じいさんの長男。
「やあ!お世話になった~!ン!」
「意気投合しちまってよ!そりゃ仕方ねぇだろこうなったら!人類皆兄弟だしな!」
「そうだそうだ!皆に、礼を言いたくてな!」
バカ井は表情を変えなかった。
「お父さんの病状は、見てこられたんですか?」
「ああそれな。もう時間の問題って聞いてな。だが、悔やんでも時間がたつだけだ」
「・・・・・」
「今までのことは水に流して、君らとの絆を取り戻そうと思ってな」
しかし、適当は立ち上がった。
「なんですかそれ。帰ってください」
「え?」
「なんですか人の家に。おいシンゴ。お前とも絶好だ」
シンゴは酔いが回ったまま。
「おっかしな奴だなあ。長男さんがせっかくよぉ。おみやげまで持ってきてくれたのによ!」
長男はおみやげらしきTシャツを袋から差し出した。その袋から1枚の写真が。
バカ井は驚いて、拾い上げた。いや、拾い上げて驚いた。どうでもいいが。
「えーーーーーっ?」
⑱ 大人のやり方、してますか?
2010年5月1日 連載病院の個室では、じいさんが寝ている。若い女が横でリンゴをむく。
「はい、あんして」
向かいで口を開けたのは適当先輩だった。さきほどまで同級のサトミが無神経に差し出す。
「バカ井くんの言ったとおりなのかな・・・」
「何が?」
「きのう病院に運ばれたときほら、バカ井くんがドクターにチラシ見せて、指摘してたじゃない」
「ステキ?あいつが素敵なのか。もういいよ!」
「バカ!」
「冗談だよ。冗談」
サトミは適当先輩に、ナイフを突きつける振りをした。
バカ井が指摘していたのは・・・転倒のしばらく後に発生しうる、重度の合併症だった。頭を打撲して帰宅、翌日に意識不明というケースがありうる。今でもどこかでこういう事態が起こっている。
到着したのは・・・シンゴだった。
「はあ!はあ!なんだよじいさん!生きてるじゃんかよ!オレのほうが先に死んじゃうんじゃないかって!適当先輩!ああもう先輩じゃないんだった!留年したからな」
「ふざけんな。おいふざけんな」
血の気の多い適当は立ち上がった。
「俺たちがじいさんの急変を知って、それからお前が来るまでどんだけ待ったと・・・」
「はは!はは!そうっすよね!あれバカ井が来てねぇじゃねえかよ!あいつ未だにバイトばっか行きやがって!くそまだケータイがねぇ時代だからよぉ!早くケータイの時代来てくれねぇかよぉ!」
バカ井が大汗で現れた。
「うわ!入院してる!」シンゴが後ろからたたいた。
「だから病棟へ来たんだろうがこのオタンコナスビ!」
「ほら!やっぱり僕の言った通りじゃないか!適当先輩。どこから連絡が?」
「いや、それがさ。オレとサトミ・・あ、いや実はつい最近できちゃったんだけど」
「ええっ?子供が?」
「バカヤロ。ヤボなこと言うんじゃねえよ!」
「びっくりしたぁ」
「2人で見舞いに行ってベル鳴らしたら不在でさ。ドア突き破ったら、じいさん真っ青なんだよ」
「そりゃ驚くでしょう」
「違うんだよ!体がピクピクしてたんだよ!それで救急車呼んで・・・」
病室は賑やかになってきた。途中で入るナースも睨みを利かす。
「もうすぐ回診ですので。ご退室を」
「(林檎ら)はーい!」
ドクターらが6人ほど。年寄り院長が若い主治医へつぶやく。若い主治医は、きのうテンパッテた医師。入院をあえて勧めなかった。
「えー。昨日転倒していたところを発見され、当院へ搬送。そのときのCTは異常なし。付添い人の希望により自宅へ戻りました。意識障害で搬送入院・・・これがさきほどのCT」
「みごとに血腫がたまってますなぁ」
シンゴは廊下から顔を出していた。まもなく廊下側へ。
「野郎!何が<転倒していた>だ!何が<付添い人の希望>だ!都合のいいことばっかり言いやがって!」
バカ井は、適当先輩へ感謝した。
「気になって、行ってあげたんですね・・・」
「いやさ。お前のあのチラシの話が妙に印象に残っててさ(嘘)。ひょっとしてひょっとすると、ひょっとするかもってさ」
実は、置き忘れた傘を取りに戻るのが目的だった。
主治医はさらに説明。
「えーただ今連絡のあった長男の希望により。処置は一切なしで」
「ええっ?」
みな振り向いた。叫んだのはバカ井だ。
「君・・・」院長が不思議がった。
「だって。だって。血がたまってるんでしょ。ふつう・・・抜かないですか?ドレナージってほら。頭にこうして」
みな呆然とした。サトミがさきほど持っていたナイフをつい(?)、バカ井は自分の頭に浅くとも刺したのだ。反射的に手を持っていく。
「あっ?危ない危ない。タッチ!♪手をのば~して。ん?」
バカ井の周囲、みな呆然と立ち尽くす。廊下から入ったシンゴがやっと、口を開いた。
「エーーーーーーーッ?」
(フォローなし)
「はい、あんして」
向かいで口を開けたのは適当先輩だった。さきほどまで同級のサトミが無神経に差し出す。
「バカ井くんの言ったとおりなのかな・・・」
「何が?」
「きのう病院に運ばれたときほら、バカ井くんがドクターにチラシ見せて、指摘してたじゃない」
「ステキ?あいつが素敵なのか。もういいよ!」
「バカ!」
「冗談だよ。冗談」
サトミは適当先輩に、ナイフを突きつける振りをした。
バカ井が指摘していたのは・・・転倒のしばらく後に発生しうる、重度の合併症だった。頭を打撲して帰宅、翌日に意識不明というケースがありうる。今でもどこかでこういう事態が起こっている。
到着したのは・・・シンゴだった。
「はあ!はあ!なんだよじいさん!生きてるじゃんかよ!オレのほうが先に死んじゃうんじゃないかって!適当先輩!ああもう先輩じゃないんだった!留年したからな」
「ふざけんな。おいふざけんな」
血の気の多い適当は立ち上がった。
「俺たちがじいさんの急変を知って、それからお前が来るまでどんだけ待ったと・・・」
「はは!はは!そうっすよね!あれバカ井が来てねぇじゃねえかよ!あいつ未だにバイトばっか行きやがって!くそまだケータイがねぇ時代だからよぉ!早くケータイの時代来てくれねぇかよぉ!」
バカ井が大汗で現れた。
「うわ!入院してる!」シンゴが後ろからたたいた。
「だから病棟へ来たんだろうがこのオタンコナスビ!」
「ほら!やっぱり僕の言った通りじゃないか!適当先輩。どこから連絡が?」
「いや、それがさ。オレとサトミ・・あ、いや実はつい最近できちゃったんだけど」
「ええっ?子供が?」
「バカヤロ。ヤボなこと言うんじゃねえよ!」
「びっくりしたぁ」
「2人で見舞いに行ってベル鳴らしたら不在でさ。ドア突き破ったら、じいさん真っ青なんだよ」
「そりゃ驚くでしょう」
「違うんだよ!体がピクピクしてたんだよ!それで救急車呼んで・・・」
病室は賑やかになってきた。途中で入るナースも睨みを利かす。
「もうすぐ回診ですので。ご退室を」
「(林檎ら)はーい!」
ドクターらが6人ほど。年寄り院長が若い主治医へつぶやく。若い主治医は、きのうテンパッテた医師。入院をあえて勧めなかった。
「えー。昨日転倒していたところを発見され、当院へ搬送。そのときのCTは異常なし。付添い人の希望により自宅へ戻りました。意識障害で搬送入院・・・これがさきほどのCT」
「みごとに血腫がたまってますなぁ」
シンゴは廊下から顔を出していた。まもなく廊下側へ。
「野郎!何が<転倒していた>だ!何が<付添い人の希望>だ!都合のいいことばっかり言いやがって!」
バカ井は、適当先輩へ感謝した。
「気になって、行ってあげたんですね・・・」
「いやさ。お前のあのチラシの話が妙に印象に残っててさ(嘘)。ひょっとしてひょっとすると、ひょっとするかもってさ」
実は、置き忘れた傘を取りに戻るのが目的だった。
主治医はさらに説明。
「えーただ今連絡のあった長男の希望により。処置は一切なしで」
「ええっ?」
みな振り向いた。叫んだのはバカ井だ。
「君・・・」院長が不思議がった。
「だって。だって。血がたまってるんでしょ。ふつう・・・抜かないですか?ドレナージってほら。頭にこうして」
みな呆然とした。サトミがさきほど持っていたナイフをつい(?)、バカ井は自分の頭に浅くとも刺したのだ。反射的に手を持っていく。
「あっ?危ない危ない。タッチ!♪手をのば~して。ん?」
バカ井の周囲、みな呆然と立ち尽くす。廊下から入ったシンゴがやっと、口を開いた。
「エーーーーーーーッ?」
(フォローなし)
⑰ アドリブ、できますか?
2010年4月30日 連載中産階級っぽいが高級新築の2階建て。勉強部屋をいつもより下から見上げているコナン坊。いや、視界には勉強机でなく、高齢者といってお世辞ないオバサンが睨みを利かしていた。
「僕まで・・・?はぁ」
バカ井は納得いかぬまま、教え子とともに正座させられていた。オバサンはたんたんと説教する。
「そんなの。社会人になってから読むもんじゃ。ったくこんな本読みくさって・・・」
パラパラ、と過激な描写がのぞく。
「おーいやおーいや!なんでもう男は・・・」
コナン坊、一生の不覚であった。いつもは親が帰る前に塾から戻っていた。塾での放課後に、つい夢中になりすぎた。
「・・・・・?」コナン坊が気付くと、バカ井は居眠りしている。
「兄ちゃんよ。塾で何を教えとんねや」オバサンは八つ当たりする。
「グー・・・」
「寝とんかい?」
顎を持ちかけたところ・・・
「寝てません!失礼な!」とドラ声。
「ぐわっ!」おばさんは飛びのいた。
ドラ声はバカ井の童顔からかけはなれたものだった。
「お母さん。エロ本エロ本と世間は言いまずが」
「はい?」
「実は我々の大学での教材として!あ利用するごどもあるのでず」
「はぁ?ところでおたく、学部どこでんの?」
「失礼な!これでも医学部のフン!はしくれです!ときた!」
もちろん、コナン坊の変声器によるものだ。
オバサンの表情が反転180度した。
「はれまあ!いつもお世話になりますへぇへぇ!」
コナン坊は、そんな母が悲しかった。
「オイオイ・・・なんだよその態度の変わりようは」
「これ!何ニヤニヤしとる!」
「げっ」
「そんな表情で、女の裸見てんのか!」
「(へへ・・・ついでにヨダレ垂らせってか)」
「お母さん!で、続きですが」ドラ声。コナン坊、多忙。
「はいはい」
「わたくし、将来産婦人科を目指しておりまして。ただ今は教養学部という、医学の勉強にこれから携わる身」
「ほうほう」
「息子さんの学力は完璧です。彼が医学部を目指しているのをお聞きして感嘆し、私の勉強教材の一部をお貸しした次第であります」
オバサン、しげしげと本をめくる。
「そー考えたらほんま、よーできた体やわい」
「そうなのです。病気を学ぶためには、どうしても健康な体から学ばんといけません。そのためにはどうしても、若い娘の体が必要なのです」
「なるほど・・・」
「だからといって、本物に手を出すのはそれこそ犯罪」
「塾女やったら、寂しいんが1人ここにおんのに」
「(やめろってんだよ・・・!)」
バカ井はずっと眠っている。
「なら、モデルの質も良く症例も豊富な本が手っ取り早く、また入手がしやすいのです」
「そうか。そう言えばいいものを」
「それを息子さんは、今日お伝えする予定だったのです」
「わしがヒト先前に見つけたもんで、もめてしまったわげか」
オバサン、あんたはどこの方言だ。
バカ井は目覚めだした。
「う、う~ん・・・」
「先生。ねぇ先生」コナン坊が揺り起こす。
「うう・・」
「持ってきた本は、持ってかえってくれなきゃ先生」
「え?」
コナン坊は、バカ井の抱えた袋にエロ本を次々と詰めていった。
「じゃあ先生。もう帰りなよ」
「え?ああ」
オバサンはずっかりバカ井を気に入り、玄関まで見送った。
「先生。これからも息子をよろしくおねげぇします」
「じゃあねー!バタン!」
玄関の電気がフッと消えた。
「・・・・・・そっか。説教。終わったんだな」
くるっと振り返ると街灯のみ。近くの電柱の横に少女が立っている。
「・・・先生」
「君!カイバラ君!塾やめて以来だね!」
「情報あげる。先生が介護してたおじいさんがね」
「あぁ」
「実は・・・」
ヒソヒソ、と視聴者には聞こえず。
バカ井は青ざめ、カバンごとのけぞった。
「エエエーーーーーッ?」
ドサドサドサドサ・・・・・・・(エロ本が次々落ちる音)
⑯ 悩み、話せますか
2010年4月28日 連載 コメント (2) 林檎らは事実上、介護のアルバイトを解雇された。バカ井はいつもの収入源である塾のバイトに精を出す。
生徒はみるみる減っていき、3人に。
「じゃあ、できたら手を挙げるように」
「わけないぜ」コナン坊は優秀だった。
「君。塾になんて来なくていいんじゃないか?」
「先生。何かあったんだろう?」
「あ?ああ。そこはまあ。大人の事情というか」
バカ井は咳払いをし、肩を落とした。
「じゃ、もう終わろうか・・・」
コナン坊が残って立っている。
「悩み、聞こうか?」
「子供に、大人の気持ちなんか」
「意外と、答え出せるかもよ」
「実は・・・介護のアルバイトをしたんだ。お金持ちの家の。リハビリで転倒してね。これは急だと思い病院へ運んだら大したことなくて。いい迷惑だって。大げさだって言われて」
コナン坊はしばらく考えた。
「ふーん。たぶんさぁ、家族の人、そのじいさんの遺産をあてにしてるんじゃないかな?」
「ゆ、裕福な家だぞ?」
「でもさあ、それは先生がそう思っただけで、そう思ってたってことは、ミエ張った生活を見せてるだけかもしれないじゃん」
バカ井は汗が流れた。
「じゃ、じゃあじいさんが金持ちで何だその・・・息子が借金してるとでも?」
「きっとそうだよ。短気そうだしギャンブルしてスってるよ」
「早く死んで欲しいとでも、思ってるのかな」
「病院にかつぎこまれても、家族の負担でしょ多分。たぶん、本当にほっとかれるよ」
バカ井は妙に感心したが、最後の言葉の意味を逃した。
「子供とは思えないな・・・」
「ねぇねぇ。僕の悩み聞いてくれる?」
「ああ」
コナン坊は変わった道具で、周囲に人がいないのを確かめた。
「・・・じゃあね。言うよ。実はうち、親が厳しいんだ」
「親は厳しいほうがいいよ」
「毎日遅くにね。仕事から帰ると部屋をチェックするんだ」
「君の部屋?そこに何が?」
「やだなぁおじさん。エロ本に決まってるだろ」
バカ井は何だそれかと思った。思わず万歳するところだった。
「どこに隠してるの?」
「おじさんはいいね。1人暮らしで」
「ば、ばか。1人暮らししたらな、彼女がいて当たり前なんだよ。エロ本なんて、高校で卒業だ!」
コナン坊は続ける。
「本が増えすぎて、机の上にまとめて置いてるんだ。もらってくれない?」
「い、いいけど」
「じゃあ、家まで来てよ。僕が運び出すと怪しまれるだろ?」
バカ井は時計を見上げた。
「ご両親は、まだ帰ってないの?」
「ちょうど塾が終わった頃に・・・まさか!やはり!」
「は?」
「きっと!なに!ついに!」
コナン坊は固まった。
「すなわち!しかし!もしも!」
時計は、終業をとっくに過ぎていた。夢中で話したからだ。
コナン坊は玄関の外へダッシュした。
「見つかる!見つかる!」
「なんでまた、机の上に置いたままで!」
「塾の時間になったから仕方なく来たんだよ!」
「そこまで僕の授業を?」
「だって!だって僕、先生みたいな医者になりたいもん!」
バカ井は単純に鳥肌立った。
「君は何者?」
「エロ川・・そんな場合じゃない!」
「なら急いで行こう!でも両親に見つかったらな、そのときゃ先生が助けてやる!ええっとタクシーはと」
コナン坊はスケボーを立て、地面に突き当てた。
「乗って!」
「エーーーーーーーーッ?」
ギュウウゥゥゥーーーーー!(噴射音)
生徒はみるみる減っていき、3人に。
「じゃあ、できたら手を挙げるように」
「わけないぜ」コナン坊は優秀だった。
「君。塾になんて来なくていいんじゃないか?」
「先生。何かあったんだろう?」
「あ?ああ。そこはまあ。大人の事情というか」
バカ井は咳払いをし、肩を落とした。
「じゃ、もう終わろうか・・・」
コナン坊が残って立っている。
「悩み、聞こうか?」
「子供に、大人の気持ちなんか」
「意外と、答え出せるかもよ」
「実は・・・介護のアルバイトをしたんだ。お金持ちの家の。リハビリで転倒してね。これは急だと思い病院へ運んだら大したことなくて。いい迷惑だって。大げさだって言われて」
コナン坊はしばらく考えた。
「ふーん。たぶんさぁ、家族の人、そのじいさんの遺産をあてにしてるんじゃないかな?」
「ゆ、裕福な家だぞ?」
「でもさあ、それは先生がそう思っただけで、そう思ってたってことは、ミエ張った生活を見せてるだけかもしれないじゃん」
バカ井は汗が流れた。
「じゃ、じゃあじいさんが金持ちで何だその・・・息子が借金してるとでも?」
「きっとそうだよ。短気そうだしギャンブルしてスってるよ」
「早く死んで欲しいとでも、思ってるのかな」
「病院にかつぎこまれても、家族の負担でしょ多分。たぶん、本当にほっとかれるよ」
バカ井は妙に感心したが、最後の言葉の意味を逃した。
「子供とは思えないな・・・」
「ねぇねぇ。僕の悩み聞いてくれる?」
「ああ」
コナン坊は変わった道具で、周囲に人がいないのを確かめた。
「・・・じゃあね。言うよ。実はうち、親が厳しいんだ」
「親は厳しいほうがいいよ」
「毎日遅くにね。仕事から帰ると部屋をチェックするんだ」
「君の部屋?そこに何が?」
「やだなぁおじさん。エロ本に決まってるだろ」
バカ井は何だそれかと思った。思わず万歳するところだった。
「どこに隠してるの?」
「おじさんはいいね。1人暮らしで」
「ば、ばか。1人暮らししたらな、彼女がいて当たり前なんだよ。エロ本なんて、高校で卒業だ!」
コナン坊は続ける。
「本が増えすぎて、机の上にまとめて置いてるんだ。もらってくれない?」
「い、いいけど」
「じゃあ、家まで来てよ。僕が運び出すと怪しまれるだろ?」
バカ井は時計を見上げた。
「ご両親は、まだ帰ってないの?」
「ちょうど塾が終わった頃に・・・まさか!やはり!」
「は?」
「きっと!なに!ついに!」
コナン坊は固まった。
「すなわち!しかし!もしも!」
時計は、終業をとっくに過ぎていた。夢中で話したからだ。
コナン坊は玄関の外へダッシュした。
「見つかる!見つかる!」
「なんでまた、机の上に置いたままで!」
「塾の時間になったから仕方なく来たんだよ!」
「そこまで僕の授業を?」
「だって!だって僕、先生みたいな医者になりたいもん!」
バカ井は単純に鳥肌立った。
「君は何者?」
「エロ川・・そんな場合じゃない!」
「なら急いで行こう!でも両親に見つかったらな、そのときゃ先生が助けてやる!ええっとタクシーはと」
コナン坊はスケボーを立て、地面に突き当てた。
「乗って!」
「エーーーーーーーーッ?」
ギュウウゥゥゥーーーーー!(噴射音)
⑮ あんたら、何様ですか
2010年4月28日 連載じいさんは長男の家に戻り、林檎らも応接室に招かれた。
怒りのいったんおさまった長男がしばらく沈黙している。誰も口を出そうとしない。瞑想にふける林檎ら。するとシンゴが・・
「あー」
ダイバダッタ、いやアクビだった。
「ま。このまま時間がすぎてもしようがない」と長男。
「・・・・・申し訳ありません」バカ井も皆も、頭を下げ続けた。
「だがな。うちの父親が軽症だったとはいえ、独断で暴走した君らの責任も大きいぞ」
「はい!」
「しかも、お世話になっている施設のドクターの手まで潰しおって」
シンゴは上半身を起こした。
「で、ですが!」
「なんだ?」
「分かってください!こちらも・・・じいさ、いやあの方のことを心配してとった行為なんです。ふつうじゃなかったし」
「なにが?」
「いや何がって・・・あの先生の対応とか。軽いっていうか。それでいいのかお前っていうか」
「そんなことないだろう!君らより遥かに経験の多い先生だ!口を慎まないか口を!」
バカ井も我慢を越えた。
「それにですね。後ろでちょっと落ち込んでます、適当先輩なんですが」
「ふん?」
「実は試験があったんです。ところが今回のことで間に合わなくて」
「私の父親の責任というのか!」
「じゃなくて!どうして丸くする方向にいかないのかなあもう!」
大人って、それそのものが嫌がらせな存在だ・・・!バカ井はそう思った。
帯を締め直し、長男は見下げた。
「それで試験に落ちただと?単にお粗末な、自分の責任じゃないか」
適当は起き上がろうとしたが、皆が押さえ込んだ。
みな、話の核から外れていた。
「はなせ!はなせったら!」振りほどく。
「負け犬はな。負けを認めんから負け続けるんだ!」と長男。
「オレが負け犬ですか」
「・・・・」
「認めたら、勝てるとでもいうんですか」
「・・・・」
「惨めなだけだ。そんな人生」
ダッ!と駆け出す適当。もう夜中の2時。
「・・・君らも、もう帰りたまえ。そして2度と来なくていい」と長男諦め顔。
みな、1人ずつ帰っていく。バカ井は自営業の家に戻った。
長男がやはり起きて待っていた。
「何してたんだ!」
「・・・・・」
「母ちゃんに、わけ説明しろ!わけを!」
「兄さんはいいよな。ここで同じことの繰り返しで」
「なに?自営業だから仕方ないだろが」
「僕らはね。契約や取引きの世界じゃない。人間を治すために、幸せにするために手助けするんだ」
「ああそうですか。お医者さん」テンション低めに。
「その気持ちをね兄さん。踏み潰す人間もいるんだよ」
「何があったなあ。何があったんだ!女か?女なんだな!」
「話しても分からないよ!」
「おい行くな!」
「行くよ!勝手だろ!」
「上には!」
ドンドン・・と2階へ駆け上がっていく。
「うわあああ!」
ふとんにそのままダイビングすると
ガツン。と星が散らばった。
「あいたたた・・・」
母親が頭を抱えて起きてきた。
「か、かあさんじゃないか!」
後ろで呆然とする兄。
「遅かったか・・・」
母親は頭をさすった。
「おうおう!息子に殺される殺される!」
「かあさん・・・」
人の痛みが今ひとつわかってないバカ井であった。
エーーーーーッ!リイイイィーーーーーッ!
⑭ お腹、空いてますか?
2010年4月26日 連載 バカ井らは、出産を待つような気持ちで夜間の待合で待っていた。
「写真の撮影のあと、ほったらかしのままだなー・・・」
じいさんは別室で横になっている。
「あれから3時間だよー・・・」
バン!とガサツにドアが開いた。
「よう!」
OB医師。
「大丈夫ですか?」バカ井が聞いた。
「お前ら。とんでもないことをしてくれたな!」
「じ、じいさんの身に何か?」
「アホウ!じいさんはただの打撲だ!いやそのうちにすら入らん!」
OB医師は横に施設の医師を従えた。
「それよりも!施設の医師の手をどうしてくれる!全治2ヶ月。いやもっとかかる!」
こういうとき、施設の医師はきっと林檎たちを庇ってくれると・・・林檎たちは期待した。だが。
「痛いよぉ。うう痛いよぉ」女々しい一面。
「そうか・・・動かすな」OB医師はどうやら親友らしい。
「明日からの仕事が。仕事がぁ」
シンゴが立ち上がった。
「でもよぉ、施設の先生って基本的に仕事ないでしょ?」
「シンゴ!あたってるけど言いすぎだぞ!」バカ井。
「それに、それはあの先生が無理矢理飛びついてそうなったんだ!俺たちのせいじゃねぇ!そうだよなサトミ先輩!」
サトミはしかし・・・
「えっ。いやあたしは・・見てないし」
「ちょっと!どうみてもそうだったろ!」
「答えようが・・・」
「あーそうかよそうかよ。カッコいい奴の肩は持つのかよ!」
バカ井は、そこらから用紙を1枚持ってきた。
「あの・・・こうありますよね。打撲などの場合最初に異常がなくても、1日過ぎたら異常出ることあるって」
「ああその紙か」OBは不満そうに答えた。
「じゃあ、まだ大丈夫なんて言えないじゃないですか!」
「いちいち入院できんのだよ!」
「入院させてください!」
「その必要などない!」現れたのは、じいさんの長男だった。
「先生。どうもすんません」何度もペコペコ。
「いやぁ。しつこい学生さんたちだね」OBはふんぞり返った。
長男は林檎らを、見下した目つきで見る。
「・・・・・大げさな連中だ。まったく。こいつらには一度、説教せんとな」
シンゴ以外、長男にトボトボついてくる。車椅子も続く。
そのシンゴがトイレから戻ってきた。
「一段落ついたんなら、帰ろうぜ!長男さんも来たんだしよ!そういや晩飯食ってないよな!近くのラーメン屋でも行こうぜ代行頼んで!長男さんのおごりってことで!」
長男は赤くなった。
「オゴリやなくって、オコリじゃあ!」
「えーーーーっ?」
グウゥゥゥゥ・・・・(腹の音)
「写真の撮影のあと、ほったらかしのままだなー・・・」
じいさんは別室で横になっている。
「あれから3時間だよー・・・」
バン!とガサツにドアが開いた。
「よう!」
OB医師。
「大丈夫ですか?」バカ井が聞いた。
「お前ら。とんでもないことをしてくれたな!」
「じ、じいさんの身に何か?」
「アホウ!じいさんはただの打撲だ!いやそのうちにすら入らん!」
OB医師は横に施設の医師を従えた。
「それよりも!施設の医師の手をどうしてくれる!全治2ヶ月。いやもっとかかる!」
こういうとき、施設の医師はきっと林檎たちを庇ってくれると・・・林檎たちは期待した。だが。
「痛いよぉ。うう痛いよぉ」女々しい一面。
「そうか・・・動かすな」OB医師はどうやら親友らしい。
「明日からの仕事が。仕事がぁ」
シンゴが立ち上がった。
「でもよぉ、施設の先生って基本的に仕事ないでしょ?」
「シンゴ!あたってるけど言いすぎだぞ!」バカ井。
「それに、それはあの先生が無理矢理飛びついてそうなったんだ!俺たちのせいじゃねぇ!そうだよなサトミ先輩!」
サトミはしかし・・・
「えっ。いやあたしは・・見てないし」
「ちょっと!どうみてもそうだったろ!」
「答えようが・・・」
「あーそうかよそうかよ。カッコいい奴の肩は持つのかよ!」
バカ井は、そこらから用紙を1枚持ってきた。
「あの・・・こうありますよね。打撲などの場合最初に異常がなくても、1日過ぎたら異常出ることあるって」
「ああその紙か」OBは不満そうに答えた。
「じゃあ、まだ大丈夫なんて言えないじゃないですか!」
「いちいち入院できんのだよ!」
「入院させてください!」
「その必要などない!」現れたのは、じいさんの長男だった。
「先生。どうもすんません」何度もペコペコ。
「いやぁ。しつこい学生さんたちだね」OBはふんぞり返った。
長男は林檎らを、見下した目つきで見る。
「・・・・・大げさな連中だ。まったく。こいつらには一度、説教せんとな」
シンゴ以外、長男にトボトボついてくる。車椅子も続く。
そのシンゴがトイレから戻ってきた。
「一段落ついたんなら、帰ろうぜ!長男さんも来たんだしよ!そういや晩飯食ってないよな!近くのラーメン屋でも行こうぜ代行頼んで!長男さんのおごりってことで!」
長男は赤くなった。
「オゴリやなくって、オコリじゃあ!」
「えーーーーっ?」
グウゥゥゥゥ・・・・(腹の音)
⑬ 勘違い、してますか?
2010年4月26日 連載バカ井が息切れしながら車に乗り込んだ。
「はぁはぁ。降りろ!じゃなかった。このじいさんは、大学病院のOBの先生が、診てくれます」
「OB・・・君の部活動の?」と医師。痛い手首を押さえる。
「ええ。OB会で知り合った先生です。今しがた電話したところです」
「診てくれるのか?」
「怒ってますよ。どんな医者なんだって。親の顔が見たいってね!」
「フン」
「それは嘘ですけど・・・手、大丈夫ですか?」
「取ってつけたように。そんな医療を、君は今後するのだろう。外科的な方面には進まないほうがいい」
ブウ~と、車はカーブを曲がる。
総合病院の救急受付に、太目の医師が1人立っている。
「・・・・きたな!そうとう重症と聞いた!レスピレーターはいいか?」
「はい!」背後に医師が5人。
「バカ井くんという学生の話では、転倒して反応が全くないそうだ」
失語のことを伝えるつもりが、そう伝わっていた。
いきなり車椅子が登場してきた。
「うっ?なにっ?」
ガラガラ・・・と、その医師の横を通り過ぎた。サトミが救急室のど真ん中に止めた。
「お医者さんでしょ?さっさと診なさいよ!仕事でしょ!」
「してない奴が何を?」迎えた医師がつぶやいた。
「お願いしますよ!」バカ井も走ってきた。
「お、ああ・・・」
「みなさん、しっかりしてくださいよ!気合、入れましょうよ!」
OB医師は、やっと我に戻った。
「あれ?お前」
「やあ!」応えたのは施設のイケメン医師だった。
「どしたんだその手は?」
「彼らに・・・」
「なぬ。こっちのほうが重症だ!」
じいさんの頭部CTを撮影中。技師らの間に混じっている林檎たち。
バカ井はのめりこむ。
「うわー!すごい!これで何でも分かるんですか?」
「スペースが広いな。慢硬(慢性硬膜下血腫)術後の既往があるのか。君、知ってる?」と技師。
「えっ?なんですって」
「慢硬だよ!マンコウ!」
「知ってても。経験がないから。知ってないようなもんだし」
適当先輩はその頃、別の棟を目指していた。留年がかかった試験に間に合うためだ。
「間に合え!はっ!はっ!間に合え!」
しかし、時間は無常にも予定を過ぎようとしていた。
⑫ 我を、忘れてますか?
2010年4月26日 連載倒れて仰向けのじいさんの横、イケメン医師が脈をとっている。
「なんだ。君たちか」
「はぁ、はぁ」バカ井が息切れしている。
「教養学部の枠から、さっそく抜け出したのかな?」
「はぁ、これははぁ。どういうごどなんですが?」
医師、聴診器をはずす。
「どういうこと?とは?」
「だってそこ!倒れてる!」
「倒れてる・・・そうだよ。でも倒れるとは一瞬の動作だ。今は正確には<横たわっている>ととるべきだ」
「はぁはぁ。大丈夫なんでしょうねはぁ」
「大丈夫?医師の辞書に大丈夫なんて単語はない」
じいさんはゆっくり起こされていく。が、車椅子でも体が傾く。
「キャッ!」
サトミが思わず叫んだ。
「大丈夫だ。血圧は問題ない」イケメン医師はイラっぽくうつむいた。
「血圧がよければ、問題ないんですか」とバカ井。
「私の判断だ私のこの施設でこの私が言ってる。それを覆そうとする君は何なんだ?」
「だって・・・来た時とちがう」
「人間年をとるし、変化はあるさ!起こることは起こる!君は止められるのかそれが?」
適当先輩が傾いたじいさんをまっすぐに。
「検査とかしないんですか。こんなとき」
「うちはご覧のとおり、施設だ。検査はない」
「そういう意味じゃない!あ、失礼しました。そういう意味ではないんです。どこか紹介するとか」
「紹介!紹介が聞いてあきれる!」
さすがの適当もたじろいだ。
「リハビリ中の転倒だ!いいかリハビリに来てる老人はごまんといる。危険を聞覚悟での練習だ。転倒したりしても不思議じゃない。それを家族の同意のもとでやってるんだ」
「でも!もし何か体で起こったらそれこそ家族、悲しみます!」
「そうかな。そうかね」
「だから先生!病院連れていきましょう!」
シンゴも怒っている。
「そっか。先生は、自分の名誉が傷つくのがイヤなんだな。診断どうこうより、そういうことがあったっていう事実を知られるのが」
「君らは学生だ黙ってろ!」
「黙らないのが学生なんだよへっ!口だけ達者なんだよへっ!」
サトミは適当先輩に近寄った。
「近くに病院、ある?」
「うちの大学病院へ運べばいいだろうが!じいさん、しっかり!」
「病院に着いたら、試験に行って!」
「ああ!」
バカ井はシンゴと一緒に車椅子をウイリーさせた。
「おっとシンゴ!持ち上げすぎだよ!」
「お前こそ!こんなとこ、人間のいるところじゃねえ!」
イケメン医師が飛びついた。
「うちの患者を!ぎゃあ!」
どうやら手を車輪に巻き込まれた。手が真っ赤に腫れる。
林檎たちと医師はそのままワゴンに乗っかった。バカ井はどっか行った。
適当先輩は時計を見る。
「10分で着くかな!」
助手席にシンゴが乗った。
「オレがサイレンやってあげますよ!ウォンウォンウォン!」
「バカ!どうせなら救急車っぽくやれ!」
「はいよ!パープーパープー!」
医師は固まっていた。
「これが連邦の・・いや、こんな世代が明日の医療を背負うのか・・・!」
⑪ 心配、してますか?
2010年4月23日 連載いつものように、家から出発。
「じゃ、行ってきまーす!」シンゴが手を振った。運転は適当先輩。
「ぶつぶつ・・・」適当は試験勉強での暗唱を繰り返す。
「先輩。ちゃんと前見て運転してくださいよ」シンゴが後ろから。
「ハンドル使うな。フォースを使え」
「ちょっと!」
ブーン、と車はスムーズに施設へと向かった。
バカ井は一瞬、何か気付いた。
「あれ・・・」
「何?」助手席のサトミが振り向いた。
「じいさん、頬にアザ?」
「ちょっと赤いね」
「なんとなくだけど・・・あ、ここにも」
「体中?」
「でも発疹かもしれないよ?」
「服、脱いでもらう?」
「ここで?」
キキッ、と車は停車した。
「じゃ、降ろそう」適当は勢い良く運転席を外れた。
施設の外でタバコを吸っているイケメン医師。
「やあ。今日は臨時で?」
「ええ」と適当先輩。「家族の方が急に用事ができたって。それで」
「またか」
「またとは?」
「だから、またはまたなんだよ」
「忙しい事情でもあるんでしょう?」
「さあ・・・医療はサービスだから。提供している以上、僕らはその範囲でしてあげなければ」
じいさんは施設の中へ。いつものように、林檎たちは外で待ち続けた。
「見学とか、したかったな・・・」バカ井が残念そうに。
「でもよ。断られたんだよな」シンゴは諦め顔。
「いいじゃないか。将来のために、現場を見ることくらい」
「いろいろやらせるんだよ最近は。実習実習っていいながら。学生の分際なのに雑用やらされたりさ。だからいーんだよ。ここで夢でも語ろうぜ」
適当先輩はノートを拡げていた。
「ワンツーワンツー・・・オレな。無事進級できたら、専門課程に入るんだ。さっそく本買い込むぞ」
「先輩。医学書高いんですよね。どうします?」シンゴがからかった。
「そりゃこの前の3万と。あとバイトの給料と。今日もなんかもらえるかもしれんだろ」
「それが全部医学書に?もったいネー!」
「今までの勉強はな。全部仕事には直結しないものばかりだ。心理学など、何の役に立った?ドイツ語を誰が話す?」
「・・・・・・」
「今度からは、知識そのものが仕事だ。飯を食うための手段そのものだ」
「あー!オレも早く本当の勉強がしてぇ!」
サトミが歩いてきた。
「ねえ。なんかいつもより長くない?」
「そうだね」バカ井も時計を見た。
「昼になっても、音沙汰ないわよ」
「うーん・・・ちょっと行ってくるわ」
バカ井は受付へ。
「あの。送迎担当の学生なんですが」
「部外者は、入室禁止ですので。お約束は?」
「お約束・・・?」
向こうのほう、騒がしい声が聞こえる。
「じいちゃん!」バカ井はダッシュした。
「お客様ちょっと!」
「大丈夫かア!」
林檎たちも、次々と現れた。ダダダーッ!とリハビリ室へ。
ずささーっと横に時差でスライディング。
「(林檎)えーーーーーっ?」
リイイイイィーーーーーッ!
「じゃ、行ってきまーす!」シンゴが手を振った。運転は適当先輩。
「ぶつぶつ・・・」適当は試験勉強での暗唱を繰り返す。
「先輩。ちゃんと前見て運転してくださいよ」シンゴが後ろから。
「ハンドル使うな。フォースを使え」
「ちょっと!」
ブーン、と車はスムーズに施設へと向かった。
バカ井は一瞬、何か気付いた。
「あれ・・・」
「何?」助手席のサトミが振り向いた。
「じいさん、頬にアザ?」
「ちょっと赤いね」
「なんとなくだけど・・・あ、ここにも」
「体中?」
「でも発疹かもしれないよ?」
「服、脱いでもらう?」
「ここで?」
キキッ、と車は停車した。
「じゃ、降ろそう」適当は勢い良く運転席を外れた。
施設の外でタバコを吸っているイケメン医師。
「やあ。今日は臨時で?」
「ええ」と適当先輩。「家族の方が急に用事ができたって。それで」
「またか」
「またとは?」
「だから、またはまたなんだよ」
「忙しい事情でもあるんでしょう?」
「さあ・・・医療はサービスだから。提供している以上、僕らはその範囲でしてあげなければ」
じいさんは施設の中へ。いつものように、林檎たちは外で待ち続けた。
「見学とか、したかったな・・・」バカ井が残念そうに。
「でもよ。断られたんだよな」シンゴは諦め顔。
「いいじゃないか。将来のために、現場を見ることくらい」
「いろいろやらせるんだよ最近は。実習実習っていいながら。学生の分際なのに雑用やらされたりさ。だからいーんだよ。ここで夢でも語ろうぜ」
適当先輩はノートを拡げていた。
「ワンツーワンツー・・・オレな。無事進級できたら、専門課程に入るんだ。さっそく本買い込むぞ」
「先輩。医学書高いんですよね。どうします?」シンゴがからかった。
「そりゃこの前の3万と。あとバイトの給料と。今日もなんかもらえるかもしれんだろ」
「それが全部医学書に?もったいネー!」
「今までの勉強はな。全部仕事には直結しないものばかりだ。心理学など、何の役に立った?ドイツ語を誰が話す?」
「・・・・・・」
「今度からは、知識そのものが仕事だ。飯を食うための手段そのものだ」
「あー!オレも早く本当の勉強がしてぇ!」
サトミが歩いてきた。
「ねえ。なんかいつもより長くない?」
「そうだね」バカ井も時計を見た。
「昼になっても、音沙汰ないわよ」
「うーん・・・ちょっと行ってくるわ」
バカ井は受付へ。
「あの。送迎担当の学生なんですが」
「部外者は、入室禁止ですので。お約束は?」
「お約束・・・?」
向こうのほう、騒がしい声が聞こえる。
「じいちゃん!」バカ井はダッシュした。
「お客様ちょっと!」
「大丈夫かア!」
林檎たちも、次々と現れた。ダダダーッ!とリハビリ室へ。
ずささーっと横に時差でスライディング。
「(林檎)えーーーーーっ?」
リイイイイィーーーーーッ!
⑩ 本当の保護って、何ですか?
2010年4月22日 連載適当三郎の部屋。電話が鳴る。
「もしもし・・・・ああ。本田さんですか!」ガバッと飛び起きる。
『実は明日、頼みたいんだが』
「送迎ですね。ですが明日は・・・」
カレンダーを見る。明日は<追試>。留年がかかっている。
「確かに運転は僕しかできないですが、明日はちょっと・・・」
『なんだと?』
「いえあの。できます。なんとかします」
『家族が急用なんだ!なんとかしろ!ガチャ』
受話器を見つめる適当。
「そんな。おこんなくったって・・・」
「誰?」
横で寝ていたマリコが裸で起き上がる。
「ねぇだ~れ?オンナ?」
「違うよ。男だよ」
「男が趣味なの~?」
「なわけないだろ。お前さ。もう帰ってくれないかな」
下着を投げられる。
「あたしがパーな私立の女子大ってことで、馬鹿にしてない?」
「してないさ」
「抱いたら用済み?」
「成り行きだよしょうがねえだろ?」
裸のまま、カーテンをぐるぐる巻きに隠れる。
「何よ介護介護って。正義感ぶって陰で女たらしこんで」
「介護と女は別だ」
「あたしだって、いたわって欲しいわ?」
「お前はまだ若いだろ?介護する側じゃねえかよ」
「んもう。女だって介護されたいの!」
「だから。昨日たっぷり奉仕させていただきました!これでいいだろ?」
適当はカーテンを巻き解き、抱きついた。
「何するの!」
「その3万はなあ!」
「あたし、とってないよ!」
「とったって!見せろ!」
やはりマリコは3万を握り締めていた。
「アブねえ。オレの血と汗の結晶が」
「いいじゃん。これから死ぬほど稼ぐんでしょ」
「稼いで死んだらどうするよ。そんな将来だったらな、なおさら欲しいんだよ」
「同じ服、毎日着る生活なんてイヤ」
「だったらな。国に保護してもらえ」
マリコは何を思いついたか、微笑んだ。
「あそっだ~」
「なんだ?オレはこれから出かけるんだよ。友達に相談するんだ。明日のこと」
「(聞いてない)そうそう。三郎君に主治医になってもらって、うその診断書書いてもらおっと!」
「あほ」
「ねぇねぇ。お金ちょうだい、お金。でないと誰かに介護してもらうからぁ~」
「お前は介護される資格ないね」
「なんでぇ?じゃあ何?」
スタスタ、と歩き出口へ。
「要<支援>って感じだな」
エーーーーーッ?リィーーーーー!
⑨ しょせんは、口先ですか?
2010年4月22日 連載じいさんを迎えた後、自宅へ戻るワゴン車。後部座席より車椅子を運ぶ。適当先輩は、玄関の前で報告。
「ただいま、戻ってまいりました!」
「ああ。ご苦労」金持ちそうな中年の長男。
みな、応接室でお茶を出される。
長男、やけに気に入った様子。
「いやあ。みな実に頼もしい」
「そんなことないです。当然の義務を果たしただけです」と適当。
「高齢者が増えている。しかしそれを支える家族も要る。君たち医療従事者の役割は、これからも益々大きくなるわけだな」
シンゴが照れた。
「いんやあ。まだ学生で何も学んじゃいません。ただ教養学部ってのが妙に暇で、だったらお先に医療に片足突っ込んどこうって。へへへ」
「こいつ不安なんですよ」適当がからかう。
「いいじゃないの別に!」
「あまりに暇すぎて、ひょっとしてこのまま医者になれないんじゃないかって」
「い、医者じゃなかったらなんだっていうんですか?」
「浮浪者!」
バカ井が眉をしかめた。
「やめてください!人の家で!」
長男は寛大だった。
「あっはは・・・!まあいいまあいい。これからも、君らにこの仕事を託したいんだが」バカ井がとっさに喜ぶ。
「送り迎えをこれからも・・・よろしいですか?」ダダン、とみんな土下座。
「(一同)よろしくおねがいいたします!」
家を出て、みなポケットから一斉にお年玉袋のようなものを開ける。
サトミが立ち止まった。
「やだ・・・どうする?」
札が3枚。各自。シンゴは思わず落とし、必死で拾った。
「やべえよ。千円札ならともかくとして」
「万札・・・」適当が豪邸を振り返った。
「ま!裕福そうな家だし。もらっといてやろうか!うん!」
バカ井は、兄の説教話を思い出した。
「心が満たされないって人は・・・」
「はぁ?」適当が反応。
「いえ。金で満たされてる人って先輩。心は意外と」
「金で人生満たされりゃあ。心だって満たされるだろうよ」
「なんかあの家。僕はあまり幸福っていう雰囲気を感じないんです」
「なんでだよ。じいさんがあれだけ優遇されてんだ。うまくいってるに違いないだろうが。ひがむな」
サトミも札を戻しつつ冷笑した。
「医者が疑っていいのは、病気のことだけじゃないの?」
バカ井だけ立ち止まり、数歩後ろに。適当が振り向く。
「おい。お前だけ置いてくぞ」
「そ、そうなのかな。幸せって、そういうものなのかな」
「なに?」
「金があって。施設があって。家族は人任せで。一見うまくいってるけど。じいさん、ほんとは家族のもとにいたいんじゃないかな」
「家族にも事情があんだろうが」
「でも。でも。家で面倒見れる方法ってあると思うけど。僕はやだな。幸せって便利なことじゃないと思うんだけど」
シンゴは札をふりかざした。
「まあいいことよ!金持ちの気持ちに甘えさせていただき、貧しい医学生は本日豪遊させていただくっていうことよ!」
バカ井は両手を振り上げた。
「お金で人生を左右されるのかよ!ああっ!」
勢いで、札が飛んだ。
どこまでも追いかけていくバカ井を見送る林檎たち。シンゴはため息。
「まったくよお。左右どころか縦横無尽だよな」
エエエーーーーッ!リイイイィイーーーー!
⑧ 確かな言葉ってなんですか?
2010年4月21日 連載「玄関前はオッケー!」
シンゴが道路左右に親指サイン。
中庭の奥、玄関から車椅子が登場。脳梗塞の後遺症で失語のじいさんを、美しい医学生サトミが押してきた。
「はーい!しゅっぱーつ!」
外に、介護の事務から借りたワゴン車。バカ井、適当が車の後ろから車椅子を運び込む。バカ井は車輪を床に固定。
「よいしょっと!こっちはOK!」
運転手は適当が担当。助手席にサトミ。
「では、参りましょうか。お嬢さん」
「でもいつかはお婆さんよ」
ブルル・・・と走り出す車。バカ井が車椅子の右から喋りかける。
「おじいさん・・って言っちゃいけないんだっけ?」
「そーだよバカ。個人名で」左側のシンゴ。
「別にいいじゃないか。じいさんでも」
「そこらのじいさんみたいで、失礼だろうが」
「心がこもってりゃ、いいと思うんだけどな」
サトミが振り向いた。
「ダメなのよ。心で思うだけじゃ」
「そうかな?」適当がハンドルきる。
「そうよ。言葉が態度を表すの」
「じゃあ僕らの関係も・・・?」
「僕らって何よ?」
「とぼけんなよ。言葉なくして進展なしってか?」
「知らない」
「オレのオーラ、感じてくれよ」
「女はね。確かなものでないと理解できない生き物なの。その最たるものが言葉よ」
「あーそうかい。じゃ口が達者ならいいんだな」
「その前に追試合格して。留年とりやめて」
「きっつー!」
シンゴは呆れた。
「先輩たち。夫婦喧嘩はよそでやってくださいよ!」
「そうですよ。患者さんの前でする会話じゃないでしょ」
じいさんは、どことなく固まってる。
適当は急にハンドルきった。
「おっと!」
「何をするの?」サトミが怒った。
「仕方ないだろ自転車が飛び出してきたんだからさ!」
「おじいさんにもしものことがあったら・・・!」
「何だよ。オレはどうなってもいいのかよ?」
「なぁにー?免停?」
「オレの身の上の安全だよ!」
施設に到着。車椅子を降ろす。玄関前に水色白衣スタッフらが迎える。
送ったあと、シンゴは皆を振り返る。
「3時間。何する?じいさんはレクレーション、昼食介護のあと風呂。いいサービスだよなあ~えっ?」
バカ井が指差すのを見ると・・白衣のイケメン医師。30代。
「医学生なんだってね。聞いたよ」
「専属のお医者さん・・・」バカ医が頭を下げる。
「いいんだよ。僕はここの専属だ。こういう施設でも、医者がなくてはならない」
「することは?」
「ない。こうしているだけ。白衣が綺麗だろ?介護のスタッフらと対照的だがね」
適当は前に歩み出た。
「先生まだ若いのに。その・・技術とか磨かなくていいんですか?」
「技術ね。そりゃ学んだよ。役にも立った。独立もした。実は開業してね。5年ほど頑張ったけど。自由がない。そこでこっちを選んだ。訴訟や事故を気にせずに、自由に生きるほうがいいってね」
バカ井は疑問に思った。
「それが・・・自由なんですか?」
「そ、そりゃそうだろよ!」シンゴが食いかかる。
「そうって?」
「若いうち頑張ったらさ!そそ、その分楽させてもらうのが筋ってもんだろ!」
「楽するために苦労するってのか?」
「そこまで言ってねぇよ!たださ、苦労した人間には楽する権利があるって言ってんだよ!」
パン、パンとゆっくり拍手するイケメン医師。
「あっははは!面白いね君たち。教養学部なら、自分を見つめなおすといい。他人のために行き続けるだけの人生がいいことなのかどうか。おっと君」
視線が将来の女医のほうへ。
「君は美しい。女医にするのはもったいない。美しい花は花といえどもいや花だからこそ散るのも早い。女として苦しむ時間ははるかに長い。だから君も・・・」
「あたしは。あたしは一生、この仕事を続けたい」
「花は、そうして枯れたときのことを考えない」
「僕の言葉はいいかい。ここで聞いて捨てるものではない。人の言葉はとっておくものだ」
みな黙る。
「言葉を感情で流しちゃいけない。今は批判的に見えても、いつか心の友いや拠り所にさえなる可能性がある。あ、僕はじゃあこれで」
ヒュウウ・・と風が吹く。
エエーーーーーッ!リイイイーーーーッ!