⑱ 大人のやり方、してますか?
2010年5月1日 連載病院の個室では、じいさんが寝ている。若い女が横でリンゴをむく。
「はい、あんして」
向かいで口を開けたのは適当先輩だった。さきほどまで同級のサトミが無神経に差し出す。
「バカ井くんの言ったとおりなのかな・・・」
「何が?」
「きのう病院に運ばれたときほら、バカ井くんがドクターにチラシ見せて、指摘してたじゃない」
「ステキ?あいつが素敵なのか。もういいよ!」
「バカ!」
「冗談だよ。冗談」
サトミは適当先輩に、ナイフを突きつける振りをした。
バカ井が指摘していたのは・・・転倒のしばらく後に発生しうる、重度の合併症だった。頭を打撲して帰宅、翌日に意識不明というケースがありうる。今でもどこかでこういう事態が起こっている。
到着したのは・・・シンゴだった。
「はあ!はあ!なんだよじいさん!生きてるじゃんかよ!オレのほうが先に死んじゃうんじゃないかって!適当先輩!ああもう先輩じゃないんだった!留年したからな」
「ふざけんな。おいふざけんな」
血の気の多い適当は立ち上がった。
「俺たちがじいさんの急変を知って、それからお前が来るまでどんだけ待ったと・・・」
「はは!はは!そうっすよね!あれバカ井が来てねぇじゃねえかよ!あいつ未だにバイトばっか行きやがって!くそまだケータイがねぇ時代だからよぉ!早くケータイの時代来てくれねぇかよぉ!」
バカ井が大汗で現れた。
「うわ!入院してる!」シンゴが後ろからたたいた。
「だから病棟へ来たんだろうがこのオタンコナスビ!」
「ほら!やっぱり僕の言った通りじゃないか!適当先輩。どこから連絡が?」
「いや、それがさ。オレとサトミ・・あ、いや実はつい最近できちゃったんだけど」
「ええっ?子供が?」
「バカヤロ。ヤボなこと言うんじゃねえよ!」
「びっくりしたぁ」
「2人で見舞いに行ってベル鳴らしたら不在でさ。ドア突き破ったら、じいさん真っ青なんだよ」
「そりゃ驚くでしょう」
「違うんだよ!体がピクピクしてたんだよ!それで救急車呼んで・・・」
病室は賑やかになってきた。途中で入るナースも睨みを利かす。
「もうすぐ回診ですので。ご退室を」
「(林檎ら)はーい!」
ドクターらが6人ほど。年寄り院長が若い主治医へつぶやく。若い主治医は、きのうテンパッテた医師。入院をあえて勧めなかった。
「えー。昨日転倒していたところを発見され、当院へ搬送。そのときのCTは異常なし。付添い人の希望により自宅へ戻りました。意識障害で搬送入院・・・これがさきほどのCT」
「みごとに血腫がたまってますなぁ」
シンゴは廊下から顔を出していた。まもなく廊下側へ。
「野郎!何が<転倒していた>だ!何が<付添い人の希望>だ!都合のいいことばっかり言いやがって!」
バカ井は、適当先輩へ感謝した。
「気になって、行ってあげたんですね・・・」
「いやさ。お前のあのチラシの話が妙に印象に残っててさ(嘘)。ひょっとしてひょっとすると、ひょっとするかもってさ」
実は、置き忘れた傘を取りに戻るのが目的だった。
主治医はさらに説明。
「えーただ今連絡のあった長男の希望により。処置は一切なしで」
「ええっ?」
みな振り向いた。叫んだのはバカ井だ。
「君・・・」院長が不思議がった。
「だって。だって。血がたまってるんでしょ。ふつう・・・抜かないですか?ドレナージってほら。頭にこうして」
みな呆然とした。サトミがさきほど持っていたナイフをつい(?)、バカ井は自分の頭に浅くとも刺したのだ。反射的に手を持っていく。
「あっ?危ない危ない。タッチ!♪手をのば~して。ん?」
バカ井の周囲、みな呆然と立ち尽くす。廊下から入ったシンゴがやっと、口を開いた。
「エーーーーーーーッ?」
(フォローなし)
「はい、あんして」
向かいで口を開けたのは適当先輩だった。さきほどまで同級のサトミが無神経に差し出す。
「バカ井くんの言ったとおりなのかな・・・」
「何が?」
「きのう病院に運ばれたときほら、バカ井くんがドクターにチラシ見せて、指摘してたじゃない」
「ステキ?あいつが素敵なのか。もういいよ!」
「バカ!」
「冗談だよ。冗談」
サトミは適当先輩に、ナイフを突きつける振りをした。
バカ井が指摘していたのは・・・転倒のしばらく後に発生しうる、重度の合併症だった。頭を打撲して帰宅、翌日に意識不明というケースがありうる。今でもどこかでこういう事態が起こっている。
到着したのは・・・シンゴだった。
「はあ!はあ!なんだよじいさん!生きてるじゃんかよ!オレのほうが先に死んじゃうんじゃないかって!適当先輩!ああもう先輩じゃないんだった!留年したからな」
「ふざけんな。おいふざけんな」
血の気の多い適当は立ち上がった。
「俺たちがじいさんの急変を知って、それからお前が来るまでどんだけ待ったと・・・」
「はは!はは!そうっすよね!あれバカ井が来てねぇじゃねえかよ!あいつ未だにバイトばっか行きやがって!くそまだケータイがねぇ時代だからよぉ!早くケータイの時代来てくれねぇかよぉ!」
バカ井が大汗で現れた。
「うわ!入院してる!」シンゴが後ろからたたいた。
「だから病棟へ来たんだろうがこのオタンコナスビ!」
「ほら!やっぱり僕の言った通りじゃないか!適当先輩。どこから連絡が?」
「いや、それがさ。オレとサトミ・・あ、いや実はつい最近できちゃったんだけど」
「ええっ?子供が?」
「バカヤロ。ヤボなこと言うんじゃねえよ!」
「びっくりしたぁ」
「2人で見舞いに行ってベル鳴らしたら不在でさ。ドア突き破ったら、じいさん真っ青なんだよ」
「そりゃ驚くでしょう」
「違うんだよ!体がピクピクしてたんだよ!それで救急車呼んで・・・」
病室は賑やかになってきた。途中で入るナースも睨みを利かす。
「もうすぐ回診ですので。ご退室を」
「(林檎ら)はーい!」
ドクターらが6人ほど。年寄り院長が若い主治医へつぶやく。若い主治医は、きのうテンパッテた医師。入院をあえて勧めなかった。
「えー。昨日転倒していたところを発見され、当院へ搬送。そのときのCTは異常なし。付添い人の希望により自宅へ戻りました。意識障害で搬送入院・・・これがさきほどのCT」
「みごとに血腫がたまってますなぁ」
シンゴは廊下から顔を出していた。まもなく廊下側へ。
「野郎!何が<転倒していた>だ!何が<付添い人の希望>だ!都合のいいことばっかり言いやがって!」
バカ井は、適当先輩へ感謝した。
「気になって、行ってあげたんですね・・・」
「いやさ。お前のあのチラシの話が妙に印象に残っててさ(嘘)。ひょっとしてひょっとすると、ひょっとするかもってさ」
実は、置き忘れた傘を取りに戻るのが目的だった。
主治医はさらに説明。
「えーただ今連絡のあった長男の希望により。処置は一切なしで」
「ええっ?」
みな振り向いた。叫んだのはバカ井だ。
「君・・・」院長が不思議がった。
「だって。だって。血がたまってるんでしょ。ふつう・・・抜かないですか?ドレナージってほら。頭にこうして」
みな呆然とした。サトミがさきほど持っていたナイフをつい(?)、バカ井は自分の頭に浅くとも刺したのだ。反射的に手を持っていく。
「あっ?危ない危ない。タッチ!♪手をのば~して。ん?」
バカ井の周囲、みな呆然と立ち尽くす。廊下から入ったシンゴがやっと、口を開いた。
「エーーーーーーーッ?」
(フォローなし)
⑰ アドリブ、できますか?
2010年4月30日 連載中産階級っぽいが高級新築の2階建て。勉強部屋をいつもより下から見上げているコナン坊。いや、視界には勉強机でなく、高齢者といってお世辞ないオバサンが睨みを利かしていた。
「僕まで・・・?はぁ」
バカ井は納得いかぬまま、教え子とともに正座させられていた。オバサンはたんたんと説教する。
「そんなの。社会人になってから読むもんじゃ。ったくこんな本読みくさって・・・」
パラパラ、と過激な描写がのぞく。
「おーいやおーいや!なんでもう男は・・・」
コナン坊、一生の不覚であった。いつもは親が帰る前に塾から戻っていた。塾での放課後に、つい夢中になりすぎた。
「・・・・・?」コナン坊が気付くと、バカ井は居眠りしている。
「兄ちゃんよ。塾で何を教えとんねや」オバサンは八つ当たりする。
「グー・・・」
「寝とんかい?」
顎を持ちかけたところ・・・
「寝てません!失礼な!」とドラ声。
「ぐわっ!」おばさんは飛びのいた。
ドラ声はバカ井の童顔からかけはなれたものだった。
「お母さん。エロ本エロ本と世間は言いまずが」
「はい?」
「実は我々の大学での教材として!あ利用するごどもあるのでず」
「はぁ?ところでおたく、学部どこでんの?」
「失礼な!これでも医学部のフン!はしくれです!ときた!」
もちろん、コナン坊の変声器によるものだ。
オバサンの表情が反転180度した。
「はれまあ!いつもお世話になりますへぇへぇ!」
コナン坊は、そんな母が悲しかった。
「オイオイ・・・なんだよその態度の変わりようは」
「これ!何ニヤニヤしとる!」
「げっ」
「そんな表情で、女の裸見てんのか!」
「(へへ・・・ついでにヨダレ垂らせってか)」
「お母さん!で、続きですが」ドラ声。コナン坊、多忙。
「はいはい」
「わたくし、将来産婦人科を目指しておりまして。ただ今は教養学部という、医学の勉強にこれから携わる身」
「ほうほう」
「息子さんの学力は完璧です。彼が医学部を目指しているのをお聞きして感嘆し、私の勉強教材の一部をお貸しした次第であります」
オバサン、しげしげと本をめくる。
「そー考えたらほんま、よーできた体やわい」
「そうなのです。病気を学ぶためには、どうしても健康な体から学ばんといけません。そのためにはどうしても、若い娘の体が必要なのです」
「なるほど・・・」
「だからといって、本物に手を出すのはそれこそ犯罪」
「塾女やったら、寂しいんが1人ここにおんのに」
「(やめろってんだよ・・・!)」
バカ井はずっと眠っている。
「なら、モデルの質も良く症例も豊富な本が手っ取り早く、また入手がしやすいのです」
「そうか。そう言えばいいものを」
「それを息子さんは、今日お伝えする予定だったのです」
「わしがヒト先前に見つけたもんで、もめてしまったわげか」
オバサン、あんたはどこの方言だ。
バカ井は目覚めだした。
「う、う~ん・・・」
「先生。ねぇ先生」コナン坊が揺り起こす。
「うう・・」
「持ってきた本は、持ってかえってくれなきゃ先生」
「え?」
コナン坊は、バカ井の抱えた袋にエロ本を次々と詰めていった。
「じゃあ先生。もう帰りなよ」
「え?ああ」
オバサンはずっかりバカ井を気に入り、玄関まで見送った。
「先生。これからも息子をよろしくおねげぇします」
「じゃあねー!バタン!」
玄関の電気がフッと消えた。
「・・・・・・そっか。説教。終わったんだな」
くるっと振り返ると街灯のみ。近くの電柱の横に少女が立っている。
「・・・先生」
「君!カイバラ君!塾やめて以来だね!」
「情報あげる。先生が介護してたおじいさんがね」
「あぁ」
「実は・・・」
ヒソヒソ、と視聴者には聞こえず。
バカ井は青ざめ、カバンごとのけぞった。
「エエエーーーーーッ?」
ドサドサドサドサ・・・・・・・(エロ本が次々落ちる音)
⑯ 悩み、話せますか
2010年4月28日 連載 コメント (2) 林檎らは事実上、介護のアルバイトを解雇された。バカ井はいつもの収入源である塾のバイトに精を出す。
生徒はみるみる減っていき、3人に。
「じゃあ、できたら手を挙げるように」
「わけないぜ」コナン坊は優秀だった。
「君。塾になんて来なくていいんじゃないか?」
「先生。何かあったんだろう?」
「あ?ああ。そこはまあ。大人の事情というか」
バカ井は咳払いをし、肩を落とした。
「じゃ、もう終わろうか・・・」
コナン坊が残って立っている。
「悩み、聞こうか?」
「子供に、大人の気持ちなんか」
「意外と、答え出せるかもよ」
「実は・・・介護のアルバイトをしたんだ。お金持ちの家の。リハビリで転倒してね。これは急だと思い病院へ運んだら大したことなくて。いい迷惑だって。大げさだって言われて」
コナン坊はしばらく考えた。
「ふーん。たぶんさぁ、家族の人、そのじいさんの遺産をあてにしてるんじゃないかな?」
「ゆ、裕福な家だぞ?」
「でもさあ、それは先生がそう思っただけで、そう思ってたってことは、ミエ張った生活を見せてるだけかもしれないじゃん」
バカ井は汗が流れた。
「じゃ、じゃあじいさんが金持ちで何だその・・・息子が借金してるとでも?」
「きっとそうだよ。短気そうだしギャンブルしてスってるよ」
「早く死んで欲しいとでも、思ってるのかな」
「病院にかつぎこまれても、家族の負担でしょ多分。たぶん、本当にほっとかれるよ」
バカ井は妙に感心したが、最後の言葉の意味を逃した。
「子供とは思えないな・・・」
「ねぇねぇ。僕の悩み聞いてくれる?」
「ああ」
コナン坊は変わった道具で、周囲に人がいないのを確かめた。
「・・・じゃあね。言うよ。実はうち、親が厳しいんだ」
「親は厳しいほうがいいよ」
「毎日遅くにね。仕事から帰ると部屋をチェックするんだ」
「君の部屋?そこに何が?」
「やだなぁおじさん。エロ本に決まってるだろ」
バカ井は何だそれかと思った。思わず万歳するところだった。
「どこに隠してるの?」
「おじさんはいいね。1人暮らしで」
「ば、ばか。1人暮らししたらな、彼女がいて当たり前なんだよ。エロ本なんて、高校で卒業だ!」
コナン坊は続ける。
「本が増えすぎて、机の上にまとめて置いてるんだ。もらってくれない?」
「い、いいけど」
「じゃあ、家まで来てよ。僕が運び出すと怪しまれるだろ?」
バカ井は時計を見上げた。
「ご両親は、まだ帰ってないの?」
「ちょうど塾が終わった頃に・・・まさか!やはり!」
「は?」
「きっと!なに!ついに!」
コナン坊は固まった。
「すなわち!しかし!もしも!」
時計は、終業をとっくに過ぎていた。夢中で話したからだ。
コナン坊は玄関の外へダッシュした。
「見つかる!見つかる!」
「なんでまた、机の上に置いたままで!」
「塾の時間になったから仕方なく来たんだよ!」
「そこまで僕の授業を?」
「だって!だって僕、先生みたいな医者になりたいもん!」
バカ井は単純に鳥肌立った。
「君は何者?」
「エロ川・・そんな場合じゃない!」
「なら急いで行こう!でも両親に見つかったらな、そのときゃ先生が助けてやる!ええっとタクシーはと」
コナン坊はスケボーを立て、地面に突き当てた。
「乗って!」
「エーーーーーーーーッ?」
ギュウウゥゥゥーーーーー!(噴射音)
生徒はみるみる減っていき、3人に。
「じゃあ、できたら手を挙げるように」
「わけないぜ」コナン坊は優秀だった。
「君。塾になんて来なくていいんじゃないか?」
「先生。何かあったんだろう?」
「あ?ああ。そこはまあ。大人の事情というか」
バカ井は咳払いをし、肩を落とした。
「じゃ、もう終わろうか・・・」
コナン坊が残って立っている。
「悩み、聞こうか?」
「子供に、大人の気持ちなんか」
「意外と、答え出せるかもよ」
「実は・・・介護のアルバイトをしたんだ。お金持ちの家の。リハビリで転倒してね。これは急だと思い病院へ運んだら大したことなくて。いい迷惑だって。大げさだって言われて」
コナン坊はしばらく考えた。
「ふーん。たぶんさぁ、家族の人、そのじいさんの遺産をあてにしてるんじゃないかな?」
「ゆ、裕福な家だぞ?」
「でもさあ、それは先生がそう思っただけで、そう思ってたってことは、ミエ張った生活を見せてるだけかもしれないじゃん」
バカ井は汗が流れた。
「じゃ、じゃあじいさんが金持ちで何だその・・・息子が借金してるとでも?」
「きっとそうだよ。短気そうだしギャンブルしてスってるよ」
「早く死んで欲しいとでも、思ってるのかな」
「病院にかつぎこまれても、家族の負担でしょ多分。たぶん、本当にほっとかれるよ」
バカ井は妙に感心したが、最後の言葉の意味を逃した。
「子供とは思えないな・・・」
「ねぇねぇ。僕の悩み聞いてくれる?」
「ああ」
コナン坊は変わった道具で、周囲に人がいないのを確かめた。
「・・・じゃあね。言うよ。実はうち、親が厳しいんだ」
「親は厳しいほうがいいよ」
「毎日遅くにね。仕事から帰ると部屋をチェックするんだ」
「君の部屋?そこに何が?」
「やだなぁおじさん。エロ本に決まってるだろ」
バカ井は何だそれかと思った。思わず万歳するところだった。
「どこに隠してるの?」
「おじさんはいいね。1人暮らしで」
「ば、ばか。1人暮らししたらな、彼女がいて当たり前なんだよ。エロ本なんて、高校で卒業だ!」
コナン坊は続ける。
「本が増えすぎて、机の上にまとめて置いてるんだ。もらってくれない?」
「い、いいけど」
「じゃあ、家まで来てよ。僕が運び出すと怪しまれるだろ?」
バカ井は時計を見上げた。
「ご両親は、まだ帰ってないの?」
「ちょうど塾が終わった頃に・・・まさか!やはり!」
「は?」
「きっと!なに!ついに!」
コナン坊は固まった。
「すなわち!しかし!もしも!」
時計は、終業をとっくに過ぎていた。夢中で話したからだ。
コナン坊は玄関の外へダッシュした。
「見つかる!見つかる!」
「なんでまた、机の上に置いたままで!」
「塾の時間になったから仕方なく来たんだよ!」
「そこまで僕の授業を?」
「だって!だって僕、先生みたいな医者になりたいもん!」
バカ井は単純に鳥肌立った。
「君は何者?」
「エロ川・・そんな場合じゃない!」
「なら急いで行こう!でも両親に見つかったらな、そのときゃ先生が助けてやる!ええっとタクシーはと」
コナン坊はスケボーを立て、地面に突き当てた。
「乗って!」
「エーーーーーーーーッ?」
ギュウウゥゥゥーーーーー!(噴射音)
⑮ あんたら、何様ですか
2010年4月28日 連載じいさんは長男の家に戻り、林檎らも応接室に招かれた。
怒りのいったんおさまった長男がしばらく沈黙している。誰も口を出そうとしない。瞑想にふける林檎ら。するとシンゴが・・
「あー」
ダイバダッタ、いやアクビだった。
「ま。このまま時間がすぎてもしようがない」と長男。
「・・・・・申し訳ありません」バカ井も皆も、頭を下げ続けた。
「だがな。うちの父親が軽症だったとはいえ、独断で暴走した君らの責任も大きいぞ」
「はい!」
「しかも、お世話になっている施設のドクターの手まで潰しおって」
シンゴは上半身を起こした。
「で、ですが!」
「なんだ?」
「分かってください!こちらも・・・じいさ、いやあの方のことを心配してとった行為なんです。ふつうじゃなかったし」
「なにが?」
「いや何がって・・・あの先生の対応とか。軽いっていうか。それでいいのかお前っていうか」
「そんなことないだろう!君らより遥かに経験の多い先生だ!口を慎まないか口を!」
バカ井も我慢を越えた。
「それにですね。後ろでちょっと落ち込んでます、適当先輩なんですが」
「ふん?」
「実は試験があったんです。ところが今回のことで間に合わなくて」
「私の父親の責任というのか!」
「じゃなくて!どうして丸くする方向にいかないのかなあもう!」
大人って、それそのものが嫌がらせな存在だ・・・!バカ井はそう思った。
帯を締め直し、長男は見下げた。
「それで試験に落ちただと?単にお粗末な、自分の責任じゃないか」
適当は起き上がろうとしたが、皆が押さえ込んだ。
みな、話の核から外れていた。
「はなせ!はなせったら!」振りほどく。
「負け犬はな。負けを認めんから負け続けるんだ!」と長男。
「オレが負け犬ですか」
「・・・・」
「認めたら、勝てるとでもいうんですか」
「・・・・」
「惨めなだけだ。そんな人生」
ダッ!と駆け出す適当。もう夜中の2時。
「・・・君らも、もう帰りたまえ。そして2度と来なくていい」と長男諦め顔。
みな、1人ずつ帰っていく。バカ井は自営業の家に戻った。
長男がやはり起きて待っていた。
「何してたんだ!」
「・・・・・」
「母ちゃんに、わけ説明しろ!わけを!」
「兄さんはいいよな。ここで同じことの繰り返しで」
「なに?自営業だから仕方ないだろが」
「僕らはね。契約や取引きの世界じゃない。人間を治すために、幸せにするために手助けするんだ」
「ああそうですか。お医者さん」テンション低めに。
「その気持ちをね兄さん。踏み潰す人間もいるんだよ」
「何があったなあ。何があったんだ!女か?女なんだな!」
「話しても分からないよ!」
「おい行くな!」
「行くよ!勝手だろ!」
「上には!」
ドンドン・・と2階へ駆け上がっていく。
「うわあああ!」
ふとんにそのままダイビングすると
ガツン。と星が散らばった。
「あいたたた・・・」
母親が頭を抱えて起きてきた。
「か、かあさんじゃないか!」
後ろで呆然とする兄。
「遅かったか・・・」
母親は頭をさすった。
「おうおう!息子に殺される殺される!」
「かあさん・・・」
人の痛みが今ひとつわかってないバカ井であった。
エーーーーーッ!リイイイィーーーーーッ!
⑭ お腹、空いてますか?
2010年4月26日 連載 バカ井らは、出産を待つような気持ちで夜間の待合で待っていた。
「写真の撮影のあと、ほったらかしのままだなー・・・」
じいさんは別室で横になっている。
「あれから3時間だよー・・・」
バン!とガサツにドアが開いた。
「よう!」
OB医師。
「大丈夫ですか?」バカ井が聞いた。
「お前ら。とんでもないことをしてくれたな!」
「じ、じいさんの身に何か?」
「アホウ!じいさんはただの打撲だ!いやそのうちにすら入らん!」
OB医師は横に施設の医師を従えた。
「それよりも!施設の医師の手をどうしてくれる!全治2ヶ月。いやもっとかかる!」
こういうとき、施設の医師はきっと林檎たちを庇ってくれると・・・林檎たちは期待した。だが。
「痛いよぉ。うう痛いよぉ」女々しい一面。
「そうか・・・動かすな」OB医師はどうやら親友らしい。
「明日からの仕事が。仕事がぁ」
シンゴが立ち上がった。
「でもよぉ、施設の先生って基本的に仕事ないでしょ?」
「シンゴ!あたってるけど言いすぎだぞ!」バカ井。
「それに、それはあの先生が無理矢理飛びついてそうなったんだ!俺たちのせいじゃねぇ!そうだよなサトミ先輩!」
サトミはしかし・・・
「えっ。いやあたしは・・見てないし」
「ちょっと!どうみてもそうだったろ!」
「答えようが・・・」
「あーそうかよそうかよ。カッコいい奴の肩は持つのかよ!」
バカ井は、そこらから用紙を1枚持ってきた。
「あの・・・こうありますよね。打撲などの場合最初に異常がなくても、1日過ぎたら異常出ることあるって」
「ああその紙か」OBは不満そうに答えた。
「じゃあ、まだ大丈夫なんて言えないじゃないですか!」
「いちいち入院できんのだよ!」
「入院させてください!」
「その必要などない!」現れたのは、じいさんの長男だった。
「先生。どうもすんません」何度もペコペコ。
「いやぁ。しつこい学生さんたちだね」OBはふんぞり返った。
長男は林檎らを、見下した目つきで見る。
「・・・・・大げさな連中だ。まったく。こいつらには一度、説教せんとな」
シンゴ以外、長男にトボトボついてくる。車椅子も続く。
そのシンゴがトイレから戻ってきた。
「一段落ついたんなら、帰ろうぜ!長男さんも来たんだしよ!そういや晩飯食ってないよな!近くのラーメン屋でも行こうぜ代行頼んで!長男さんのおごりってことで!」
長男は赤くなった。
「オゴリやなくって、オコリじゃあ!」
「えーーーーっ?」
グウゥゥゥゥ・・・・(腹の音)
「写真の撮影のあと、ほったらかしのままだなー・・・」
じいさんは別室で横になっている。
「あれから3時間だよー・・・」
バン!とガサツにドアが開いた。
「よう!」
OB医師。
「大丈夫ですか?」バカ井が聞いた。
「お前ら。とんでもないことをしてくれたな!」
「じ、じいさんの身に何か?」
「アホウ!じいさんはただの打撲だ!いやそのうちにすら入らん!」
OB医師は横に施設の医師を従えた。
「それよりも!施設の医師の手をどうしてくれる!全治2ヶ月。いやもっとかかる!」
こういうとき、施設の医師はきっと林檎たちを庇ってくれると・・・林檎たちは期待した。だが。
「痛いよぉ。うう痛いよぉ」女々しい一面。
「そうか・・・動かすな」OB医師はどうやら親友らしい。
「明日からの仕事が。仕事がぁ」
シンゴが立ち上がった。
「でもよぉ、施設の先生って基本的に仕事ないでしょ?」
「シンゴ!あたってるけど言いすぎだぞ!」バカ井。
「それに、それはあの先生が無理矢理飛びついてそうなったんだ!俺たちのせいじゃねぇ!そうだよなサトミ先輩!」
サトミはしかし・・・
「えっ。いやあたしは・・見てないし」
「ちょっと!どうみてもそうだったろ!」
「答えようが・・・」
「あーそうかよそうかよ。カッコいい奴の肩は持つのかよ!」
バカ井は、そこらから用紙を1枚持ってきた。
「あの・・・こうありますよね。打撲などの場合最初に異常がなくても、1日過ぎたら異常出ることあるって」
「ああその紙か」OBは不満そうに答えた。
「じゃあ、まだ大丈夫なんて言えないじゃないですか!」
「いちいち入院できんのだよ!」
「入院させてください!」
「その必要などない!」現れたのは、じいさんの長男だった。
「先生。どうもすんません」何度もペコペコ。
「いやぁ。しつこい学生さんたちだね」OBはふんぞり返った。
長男は林檎らを、見下した目つきで見る。
「・・・・・大げさな連中だ。まったく。こいつらには一度、説教せんとな」
シンゴ以外、長男にトボトボついてくる。車椅子も続く。
そのシンゴがトイレから戻ってきた。
「一段落ついたんなら、帰ろうぜ!長男さんも来たんだしよ!そういや晩飯食ってないよな!近くのラーメン屋でも行こうぜ代行頼んで!長男さんのおごりってことで!」
長男は赤くなった。
「オゴリやなくって、オコリじゃあ!」
「えーーーーっ?」
グウゥゥゥゥ・・・・(腹の音)
⑬ 勘違い、してますか?
2010年4月26日 連載バカ井が息切れしながら車に乗り込んだ。
「はぁはぁ。降りろ!じゃなかった。このじいさんは、大学病院のOBの先生が、診てくれます」
「OB・・・君の部活動の?」と医師。痛い手首を押さえる。
「ええ。OB会で知り合った先生です。今しがた電話したところです」
「診てくれるのか?」
「怒ってますよ。どんな医者なんだって。親の顔が見たいってね!」
「フン」
「それは嘘ですけど・・・手、大丈夫ですか?」
「取ってつけたように。そんな医療を、君は今後するのだろう。外科的な方面には進まないほうがいい」
ブウ~と、車はカーブを曲がる。
総合病院の救急受付に、太目の医師が1人立っている。
「・・・・きたな!そうとう重症と聞いた!レスピレーターはいいか?」
「はい!」背後に医師が5人。
「バカ井くんという学生の話では、転倒して反応が全くないそうだ」
失語のことを伝えるつもりが、そう伝わっていた。
いきなり車椅子が登場してきた。
「うっ?なにっ?」
ガラガラ・・・と、その医師の横を通り過ぎた。サトミが救急室のど真ん中に止めた。
「お医者さんでしょ?さっさと診なさいよ!仕事でしょ!」
「してない奴が何を?」迎えた医師がつぶやいた。
「お願いしますよ!」バカ井も走ってきた。
「お、ああ・・・」
「みなさん、しっかりしてくださいよ!気合、入れましょうよ!」
OB医師は、やっと我に戻った。
「あれ?お前」
「やあ!」応えたのは施設のイケメン医師だった。
「どしたんだその手は?」
「彼らに・・・」
「なぬ。こっちのほうが重症だ!」
じいさんの頭部CTを撮影中。技師らの間に混じっている林檎たち。
バカ井はのめりこむ。
「うわー!すごい!これで何でも分かるんですか?」
「スペースが広いな。慢硬(慢性硬膜下血腫)術後の既往があるのか。君、知ってる?」と技師。
「えっ?なんですって」
「慢硬だよ!マンコウ!」
「知ってても。経験がないから。知ってないようなもんだし」
適当先輩はその頃、別の棟を目指していた。留年がかかった試験に間に合うためだ。
「間に合え!はっ!はっ!間に合え!」
しかし、時間は無常にも予定を過ぎようとしていた。
⑫ 我を、忘れてますか?
2010年4月26日 連載倒れて仰向けのじいさんの横、イケメン医師が脈をとっている。
「なんだ。君たちか」
「はぁ、はぁ」バカ井が息切れしている。
「教養学部の枠から、さっそく抜け出したのかな?」
「はぁ、これははぁ。どういうごどなんですが?」
医師、聴診器をはずす。
「どういうこと?とは?」
「だってそこ!倒れてる!」
「倒れてる・・・そうだよ。でも倒れるとは一瞬の動作だ。今は正確には<横たわっている>ととるべきだ」
「はぁはぁ。大丈夫なんでしょうねはぁ」
「大丈夫?医師の辞書に大丈夫なんて単語はない」
じいさんはゆっくり起こされていく。が、車椅子でも体が傾く。
「キャッ!」
サトミが思わず叫んだ。
「大丈夫だ。血圧は問題ない」イケメン医師はイラっぽくうつむいた。
「血圧がよければ、問題ないんですか」とバカ井。
「私の判断だ私のこの施設でこの私が言ってる。それを覆そうとする君は何なんだ?」
「だって・・・来た時とちがう」
「人間年をとるし、変化はあるさ!起こることは起こる!君は止められるのかそれが?」
適当先輩が傾いたじいさんをまっすぐに。
「検査とかしないんですか。こんなとき」
「うちはご覧のとおり、施設だ。検査はない」
「そういう意味じゃない!あ、失礼しました。そういう意味ではないんです。どこか紹介するとか」
「紹介!紹介が聞いてあきれる!」
さすがの適当もたじろいだ。
「リハビリ中の転倒だ!いいかリハビリに来てる老人はごまんといる。危険を聞覚悟での練習だ。転倒したりしても不思議じゃない。それを家族の同意のもとでやってるんだ」
「でも!もし何か体で起こったらそれこそ家族、悲しみます!」
「そうかな。そうかね」
「だから先生!病院連れていきましょう!」
シンゴも怒っている。
「そっか。先生は、自分の名誉が傷つくのがイヤなんだな。診断どうこうより、そういうことがあったっていう事実を知られるのが」
「君らは学生だ黙ってろ!」
「黙らないのが学生なんだよへっ!口だけ達者なんだよへっ!」
サトミは適当先輩に近寄った。
「近くに病院、ある?」
「うちの大学病院へ運べばいいだろうが!じいさん、しっかり!」
「病院に着いたら、試験に行って!」
「ああ!」
バカ井はシンゴと一緒に車椅子をウイリーさせた。
「おっとシンゴ!持ち上げすぎだよ!」
「お前こそ!こんなとこ、人間のいるところじゃねえ!」
イケメン医師が飛びついた。
「うちの患者を!ぎゃあ!」
どうやら手を車輪に巻き込まれた。手が真っ赤に腫れる。
林檎たちと医師はそのままワゴンに乗っかった。バカ井はどっか行った。
適当先輩は時計を見る。
「10分で着くかな!」
助手席にシンゴが乗った。
「オレがサイレンやってあげますよ!ウォンウォンウォン!」
「バカ!どうせなら救急車っぽくやれ!」
「はいよ!パープーパープー!」
医師は固まっていた。
「これが連邦の・・いや、こんな世代が明日の医療を背負うのか・・・!」
⑪ 心配、してますか?
2010年4月23日 連載いつものように、家から出発。
「じゃ、行ってきまーす!」シンゴが手を振った。運転は適当先輩。
「ぶつぶつ・・・」適当は試験勉強での暗唱を繰り返す。
「先輩。ちゃんと前見て運転してくださいよ」シンゴが後ろから。
「ハンドル使うな。フォースを使え」
「ちょっと!」
ブーン、と車はスムーズに施設へと向かった。
バカ井は一瞬、何か気付いた。
「あれ・・・」
「何?」助手席のサトミが振り向いた。
「じいさん、頬にアザ?」
「ちょっと赤いね」
「なんとなくだけど・・・あ、ここにも」
「体中?」
「でも発疹かもしれないよ?」
「服、脱いでもらう?」
「ここで?」
キキッ、と車は停車した。
「じゃ、降ろそう」適当は勢い良く運転席を外れた。
施設の外でタバコを吸っているイケメン医師。
「やあ。今日は臨時で?」
「ええ」と適当先輩。「家族の方が急に用事ができたって。それで」
「またか」
「またとは?」
「だから、またはまたなんだよ」
「忙しい事情でもあるんでしょう?」
「さあ・・・医療はサービスだから。提供している以上、僕らはその範囲でしてあげなければ」
じいさんは施設の中へ。いつものように、林檎たちは外で待ち続けた。
「見学とか、したかったな・・・」バカ井が残念そうに。
「でもよ。断られたんだよな」シンゴは諦め顔。
「いいじゃないか。将来のために、現場を見ることくらい」
「いろいろやらせるんだよ最近は。実習実習っていいながら。学生の分際なのに雑用やらされたりさ。だからいーんだよ。ここで夢でも語ろうぜ」
適当先輩はノートを拡げていた。
「ワンツーワンツー・・・オレな。無事進級できたら、専門課程に入るんだ。さっそく本買い込むぞ」
「先輩。医学書高いんですよね。どうします?」シンゴがからかった。
「そりゃこの前の3万と。あとバイトの給料と。今日もなんかもらえるかもしれんだろ」
「それが全部医学書に?もったいネー!」
「今までの勉強はな。全部仕事には直結しないものばかりだ。心理学など、何の役に立った?ドイツ語を誰が話す?」
「・・・・・・」
「今度からは、知識そのものが仕事だ。飯を食うための手段そのものだ」
「あー!オレも早く本当の勉強がしてぇ!」
サトミが歩いてきた。
「ねえ。なんかいつもより長くない?」
「そうだね」バカ井も時計を見た。
「昼になっても、音沙汰ないわよ」
「うーん・・・ちょっと行ってくるわ」
バカ井は受付へ。
「あの。送迎担当の学生なんですが」
「部外者は、入室禁止ですので。お約束は?」
「お約束・・・?」
向こうのほう、騒がしい声が聞こえる。
「じいちゃん!」バカ井はダッシュした。
「お客様ちょっと!」
「大丈夫かア!」
林檎たちも、次々と現れた。ダダダーッ!とリハビリ室へ。
ずささーっと横に時差でスライディング。
「(林檎)えーーーーーっ?」
リイイイイィーーーーーッ!
「じゃ、行ってきまーす!」シンゴが手を振った。運転は適当先輩。
「ぶつぶつ・・・」適当は試験勉強での暗唱を繰り返す。
「先輩。ちゃんと前見て運転してくださいよ」シンゴが後ろから。
「ハンドル使うな。フォースを使え」
「ちょっと!」
ブーン、と車はスムーズに施設へと向かった。
バカ井は一瞬、何か気付いた。
「あれ・・・」
「何?」助手席のサトミが振り向いた。
「じいさん、頬にアザ?」
「ちょっと赤いね」
「なんとなくだけど・・・あ、ここにも」
「体中?」
「でも発疹かもしれないよ?」
「服、脱いでもらう?」
「ここで?」
キキッ、と車は停車した。
「じゃ、降ろそう」適当は勢い良く運転席を外れた。
施設の外でタバコを吸っているイケメン医師。
「やあ。今日は臨時で?」
「ええ」と適当先輩。「家族の方が急に用事ができたって。それで」
「またか」
「またとは?」
「だから、またはまたなんだよ」
「忙しい事情でもあるんでしょう?」
「さあ・・・医療はサービスだから。提供している以上、僕らはその範囲でしてあげなければ」
じいさんは施設の中へ。いつものように、林檎たちは外で待ち続けた。
「見学とか、したかったな・・・」バカ井が残念そうに。
「でもよ。断られたんだよな」シンゴは諦め顔。
「いいじゃないか。将来のために、現場を見ることくらい」
「いろいろやらせるんだよ最近は。実習実習っていいながら。学生の分際なのに雑用やらされたりさ。だからいーんだよ。ここで夢でも語ろうぜ」
適当先輩はノートを拡げていた。
「ワンツーワンツー・・・オレな。無事進級できたら、専門課程に入るんだ。さっそく本買い込むぞ」
「先輩。医学書高いんですよね。どうします?」シンゴがからかった。
「そりゃこの前の3万と。あとバイトの給料と。今日もなんかもらえるかもしれんだろ」
「それが全部医学書に?もったいネー!」
「今までの勉強はな。全部仕事には直結しないものばかりだ。心理学など、何の役に立った?ドイツ語を誰が話す?」
「・・・・・・」
「今度からは、知識そのものが仕事だ。飯を食うための手段そのものだ」
「あー!オレも早く本当の勉強がしてぇ!」
サトミが歩いてきた。
「ねえ。なんかいつもより長くない?」
「そうだね」バカ井も時計を見た。
「昼になっても、音沙汰ないわよ」
「うーん・・・ちょっと行ってくるわ」
バカ井は受付へ。
「あの。送迎担当の学生なんですが」
「部外者は、入室禁止ですので。お約束は?」
「お約束・・・?」
向こうのほう、騒がしい声が聞こえる。
「じいちゃん!」バカ井はダッシュした。
「お客様ちょっと!」
「大丈夫かア!」
林檎たちも、次々と現れた。ダダダーッ!とリハビリ室へ。
ずささーっと横に時差でスライディング。
「(林檎)えーーーーーっ?」
リイイイイィーーーーーッ!
⑩ 本当の保護って、何ですか?
2010年4月22日 連載適当三郎の部屋。電話が鳴る。
「もしもし・・・・ああ。本田さんですか!」ガバッと飛び起きる。
『実は明日、頼みたいんだが』
「送迎ですね。ですが明日は・・・」
カレンダーを見る。明日は<追試>。留年がかかっている。
「確かに運転は僕しかできないですが、明日はちょっと・・・」
『なんだと?』
「いえあの。できます。なんとかします」
『家族が急用なんだ!なんとかしろ!ガチャ』
受話器を見つめる適当。
「そんな。おこんなくったって・・・」
「誰?」
横で寝ていたマリコが裸で起き上がる。
「ねぇだ~れ?オンナ?」
「違うよ。男だよ」
「男が趣味なの~?」
「なわけないだろ。お前さ。もう帰ってくれないかな」
下着を投げられる。
「あたしがパーな私立の女子大ってことで、馬鹿にしてない?」
「してないさ」
「抱いたら用済み?」
「成り行きだよしょうがねえだろ?」
裸のまま、カーテンをぐるぐる巻きに隠れる。
「何よ介護介護って。正義感ぶって陰で女たらしこんで」
「介護と女は別だ」
「あたしだって、いたわって欲しいわ?」
「お前はまだ若いだろ?介護する側じゃねえかよ」
「んもう。女だって介護されたいの!」
「だから。昨日たっぷり奉仕させていただきました!これでいいだろ?」
適当はカーテンを巻き解き、抱きついた。
「何するの!」
「その3万はなあ!」
「あたし、とってないよ!」
「とったって!見せろ!」
やはりマリコは3万を握り締めていた。
「アブねえ。オレの血と汗の結晶が」
「いいじゃん。これから死ぬほど稼ぐんでしょ」
「稼いで死んだらどうするよ。そんな将来だったらな、なおさら欲しいんだよ」
「同じ服、毎日着る生活なんてイヤ」
「だったらな。国に保護してもらえ」
マリコは何を思いついたか、微笑んだ。
「あそっだ~」
「なんだ?オレはこれから出かけるんだよ。友達に相談するんだ。明日のこと」
「(聞いてない)そうそう。三郎君に主治医になってもらって、うその診断書書いてもらおっと!」
「あほ」
「ねぇねぇ。お金ちょうだい、お金。でないと誰かに介護してもらうからぁ~」
「お前は介護される資格ないね」
「なんでぇ?じゃあ何?」
スタスタ、と歩き出口へ。
「要<支援>って感じだな」
エーーーーーッ?リィーーーーー!
⑨ しょせんは、口先ですか?
2010年4月22日 連載じいさんを迎えた後、自宅へ戻るワゴン車。後部座席より車椅子を運ぶ。適当先輩は、玄関の前で報告。
「ただいま、戻ってまいりました!」
「ああ。ご苦労」金持ちそうな中年の長男。
みな、応接室でお茶を出される。
長男、やけに気に入った様子。
「いやあ。みな実に頼もしい」
「そんなことないです。当然の義務を果たしただけです」と適当。
「高齢者が増えている。しかしそれを支える家族も要る。君たち医療従事者の役割は、これからも益々大きくなるわけだな」
シンゴが照れた。
「いんやあ。まだ学生で何も学んじゃいません。ただ教養学部ってのが妙に暇で、だったらお先に医療に片足突っ込んどこうって。へへへ」
「こいつ不安なんですよ」適当がからかう。
「いいじゃないの別に!」
「あまりに暇すぎて、ひょっとしてこのまま医者になれないんじゃないかって」
「い、医者じゃなかったらなんだっていうんですか?」
「浮浪者!」
バカ井が眉をしかめた。
「やめてください!人の家で!」
長男は寛大だった。
「あっはは・・・!まあいいまあいい。これからも、君らにこの仕事を託したいんだが」バカ井がとっさに喜ぶ。
「送り迎えをこれからも・・・よろしいですか?」ダダン、とみんな土下座。
「(一同)よろしくおねがいいたします!」
家を出て、みなポケットから一斉にお年玉袋のようなものを開ける。
サトミが立ち止まった。
「やだ・・・どうする?」
札が3枚。各自。シンゴは思わず落とし、必死で拾った。
「やべえよ。千円札ならともかくとして」
「万札・・・」適当が豪邸を振り返った。
「ま!裕福そうな家だし。もらっといてやろうか!うん!」
バカ井は、兄の説教話を思い出した。
「心が満たされないって人は・・・」
「はぁ?」適当が反応。
「いえ。金で満たされてる人って先輩。心は意外と」
「金で人生満たされりゃあ。心だって満たされるだろうよ」
「なんかあの家。僕はあまり幸福っていう雰囲気を感じないんです」
「なんでだよ。じいさんがあれだけ優遇されてんだ。うまくいってるに違いないだろうが。ひがむな」
サトミも札を戻しつつ冷笑した。
「医者が疑っていいのは、病気のことだけじゃないの?」
バカ井だけ立ち止まり、数歩後ろに。適当が振り向く。
「おい。お前だけ置いてくぞ」
「そ、そうなのかな。幸せって、そういうものなのかな」
「なに?」
「金があって。施設があって。家族は人任せで。一見うまくいってるけど。じいさん、ほんとは家族のもとにいたいんじゃないかな」
「家族にも事情があんだろうが」
「でも。でも。家で面倒見れる方法ってあると思うけど。僕はやだな。幸せって便利なことじゃないと思うんだけど」
シンゴは札をふりかざした。
「まあいいことよ!金持ちの気持ちに甘えさせていただき、貧しい医学生は本日豪遊させていただくっていうことよ!」
バカ井は両手を振り上げた。
「お金で人生を左右されるのかよ!ああっ!」
勢いで、札が飛んだ。
どこまでも追いかけていくバカ井を見送る林檎たち。シンゴはため息。
「まったくよお。左右どころか縦横無尽だよな」
エエエーーーーッ!リイイイィイーーーー!
⑧ 確かな言葉ってなんですか?
2010年4月21日 連載「玄関前はオッケー!」
シンゴが道路左右に親指サイン。
中庭の奥、玄関から車椅子が登場。脳梗塞の後遺症で失語のじいさんを、美しい医学生サトミが押してきた。
「はーい!しゅっぱーつ!」
外に、介護の事務から借りたワゴン車。バカ井、適当が車の後ろから車椅子を運び込む。バカ井は車輪を床に固定。
「よいしょっと!こっちはOK!」
運転手は適当が担当。助手席にサトミ。
「では、参りましょうか。お嬢さん」
「でもいつかはお婆さんよ」
ブルル・・・と走り出す車。バカ井が車椅子の右から喋りかける。
「おじいさん・・って言っちゃいけないんだっけ?」
「そーだよバカ。個人名で」左側のシンゴ。
「別にいいじゃないか。じいさんでも」
「そこらのじいさんみたいで、失礼だろうが」
「心がこもってりゃ、いいと思うんだけどな」
サトミが振り向いた。
「ダメなのよ。心で思うだけじゃ」
「そうかな?」適当がハンドルきる。
「そうよ。言葉が態度を表すの」
「じゃあ僕らの関係も・・・?」
「僕らって何よ?」
「とぼけんなよ。言葉なくして進展なしってか?」
「知らない」
「オレのオーラ、感じてくれよ」
「女はね。確かなものでないと理解できない生き物なの。その最たるものが言葉よ」
「あーそうかい。じゃ口が達者ならいいんだな」
「その前に追試合格して。留年とりやめて」
「きっつー!」
シンゴは呆れた。
「先輩たち。夫婦喧嘩はよそでやってくださいよ!」
「そうですよ。患者さんの前でする会話じゃないでしょ」
じいさんは、どことなく固まってる。
適当は急にハンドルきった。
「おっと!」
「何をするの?」サトミが怒った。
「仕方ないだろ自転車が飛び出してきたんだからさ!」
「おじいさんにもしものことがあったら・・・!」
「何だよ。オレはどうなってもいいのかよ?」
「なぁにー?免停?」
「オレの身の上の安全だよ!」
施設に到着。車椅子を降ろす。玄関前に水色白衣スタッフらが迎える。
送ったあと、シンゴは皆を振り返る。
「3時間。何する?じいさんはレクレーション、昼食介護のあと風呂。いいサービスだよなあ~えっ?」
バカ井が指差すのを見ると・・白衣のイケメン医師。30代。
「医学生なんだってね。聞いたよ」
「専属のお医者さん・・・」バカ医が頭を下げる。
「いいんだよ。僕はここの専属だ。こういう施設でも、医者がなくてはならない」
「することは?」
「ない。こうしているだけ。白衣が綺麗だろ?介護のスタッフらと対照的だがね」
適当は前に歩み出た。
「先生まだ若いのに。その・・技術とか磨かなくていいんですか?」
「技術ね。そりゃ学んだよ。役にも立った。独立もした。実は開業してね。5年ほど頑張ったけど。自由がない。そこでこっちを選んだ。訴訟や事故を気にせずに、自由に生きるほうがいいってね」
バカ井は疑問に思った。
「それが・・・自由なんですか?」
「そ、そりゃそうだろよ!」シンゴが食いかかる。
「そうって?」
「若いうち頑張ったらさ!そそ、その分楽させてもらうのが筋ってもんだろ!」
「楽するために苦労するってのか?」
「そこまで言ってねぇよ!たださ、苦労した人間には楽する権利があるって言ってんだよ!」
パン、パンとゆっくり拍手するイケメン医師。
「あっははは!面白いね君たち。教養学部なら、自分を見つめなおすといい。他人のために行き続けるだけの人生がいいことなのかどうか。おっと君」
視線が将来の女医のほうへ。
「君は美しい。女医にするのはもったいない。美しい花は花といえどもいや花だからこそ散るのも早い。女として苦しむ時間ははるかに長い。だから君も・・・」
「あたしは。あたしは一生、この仕事を続けたい」
「花は、そうして枯れたときのことを考えない」
「僕の言葉はいいかい。ここで聞いて捨てるものではない。人の言葉はとっておくものだ」
みな黙る。
「言葉を感情で流しちゃいけない。今は批判的に見えても、いつか心の友いや拠り所にさえなる可能性がある。あ、僕はじゃあこれで」
ヒュウウ・・と風が吹く。
エエーーーーーッ!リイイイーーーーッ!
⑦ 話、聞いてもらってますか
2010年4月21日 連載 バカ井は、自営業の家に戻ってきた。兄が彼を客と間違えそうになった。
「へいいらっしゃ・・なんだお前か」
「なんだお前かはないだろうが兄さん!」
「世の中は好景気だってのに、うちだけ不景気だ」
「ジャッキー映画の字幕みたいに喋らなくていいだろ!」
バカ井、食卓へ。嫉妬深そうな母親。
「お医者になると思ったら、ノコノコ帰ってくるし」
「学生なんだから仕方ないだろう?」
「教養学部って。教養も何もあったもんじゃない」
「そりゃそうだけど」
「兄さんを見なよ。うちのビジネスが成功すりゃね、お医者なんかメじゃないんだよ!そのうち土地転がして・・・」
赤井はドンとテーブルを叩いた。
「僕はね母さん。金が欲しくて医者になるんじゃないんだ!」
「だけどねあんた。こうして医学校に入るまでどんだけ金つぎこんだと思ってんだい!」
「だから金じゃないって!」
兄も参加。
「母さんの言うことももっともだ。電子工学科に入れば将来花形っていうのに。医者なんておい。人の死ばかり見て」
「生かせることだってあるさ」
「お前が?はっはは」
「笑うなよ!」
「いいか。純粋に人助けしていいのは、真の金持ちだけなんだよ。道楽だ。金持ちに限ってボランティアばっかしてるだろ?」
「ああ。あれは偉いと思うよ」
「ちがうさ。金持ちの奴らは・・・金で満たされない部分があってな。それをそうすることで埋め合わせてるんだ。そうやって世界のバランスが保たれてる」
バカ井は、むっつりと黙る。
「だからな。身内が第一潤ってないのに、やれ人助けがどうとか正義がどうとか言うな」
「介護のアルバイトをやろうと思って」
「やめとけ。オレが許可しない」
「だって人助けがしたいんだ!」
「医者の人助けは技術でもってしろ。オムツや介助は、その担当にやらせりゃいいんだ」
「もういいよ!」
その頃、適当は開業医の親父に頭を下げていた。
「どうか!許可を!」
「駄目だ。留年がほぼ決まってるというのに」
「だからそれは!追試験には通ってみせる!」
「そんな男が人を助けたいか?やれやれ・・・その前に自分を助けろって言うんだ!」
適当は床を睨んだ。
「こんな親に、誰が相談するか・・・!」
シンゴだけが独断で夢を見ていた。
「意外とよお。介護する家のばあさんが金持ちでよぉ。学生さん少ないけどこれ!え?こんなに!いやいや、よければうちの孫。美人のお嬢さんだけどもらってくれないかって。分かりました。おばあちゃんのために、僕この家で一生暮らします!なんちゃってなえへへ。いて!」
道路。後ろから頭をどつかれる。バカ井と適当。
「(2人)おい。行くぞ」
「へへへ・・・いい夢見てたよ」
エーーーーーッ!リイイィーーーーーー!
「へいいらっしゃ・・なんだお前か」
「なんだお前かはないだろうが兄さん!」
「世の中は好景気だってのに、うちだけ不景気だ」
「ジャッキー映画の字幕みたいに喋らなくていいだろ!」
バカ井、食卓へ。嫉妬深そうな母親。
「お医者になると思ったら、ノコノコ帰ってくるし」
「学生なんだから仕方ないだろう?」
「教養学部って。教養も何もあったもんじゃない」
「そりゃそうだけど」
「兄さんを見なよ。うちのビジネスが成功すりゃね、お医者なんかメじゃないんだよ!そのうち土地転がして・・・」
赤井はドンとテーブルを叩いた。
「僕はね母さん。金が欲しくて医者になるんじゃないんだ!」
「だけどねあんた。こうして医学校に入るまでどんだけ金つぎこんだと思ってんだい!」
「だから金じゃないって!」
兄も参加。
「母さんの言うことももっともだ。電子工学科に入れば将来花形っていうのに。医者なんておい。人の死ばかり見て」
「生かせることだってあるさ」
「お前が?はっはは」
「笑うなよ!」
「いいか。純粋に人助けしていいのは、真の金持ちだけなんだよ。道楽だ。金持ちに限ってボランティアばっかしてるだろ?」
「ああ。あれは偉いと思うよ」
「ちがうさ。金持ちの奴らは・・・金で満たされない部分があってな。それをそうすることで埋め合わせてるんだ。そうやって世界のバランスが保たれてる」
バカ井は、むっつりと黙る。
「だからな。身内が第一潤ってないのに、やれ人助けがどうとか正義がどうとか言うな」
「介護のアルバイトをやろうと思って」
「やめとけ。オレが許可しない」
「だって人助けがしたいんだ!」
「医者の人助けは技術でもってしろ。オムツや介助は、その担当にやらせりゃいいんだ」
「もういいよ!」
その頃、適当は開業医の親父に頭を下げていた。
「どうか!許可を!」
「駄目だ。留年がほぼ決まってるというのに」
「だからそれは!追試験には通ってみせる!」
「そんな男が人を助けたいか?やれやれ・・・その前に自分を助けろって言うんだ!」
適当は床を睨んだ。
「こんな親に、誰が相談するか・・・!」
シンゴだけが独断で夢を見ていた。
「意外とよお。介護する家のばあさんが金持ちでよぉ。学生さん少ないけどこれ!え?こんなに!いやいや、よければうちの孫。美人のお嬢さんだけどもらってくれないかって。分かりました。おばあちゃんのために、僕この家で一生暮らします!なんちゃってなえへへ。いて!」
道路。後ろから頭をどつかれる。バカ井と適当。
「(2人)おい。行くぞ」
「へへへ・・・いい夢見てたよ」
エーーーーーッ!リイイィーーーーーー!
⑥ しょせん、金ですか
2010年4月21日 連載 バカ井が勤める塾。塾長室に呼ばれる。
「参りました!」
「そこ、すわんなさい」
水槽や無駄な家具が並ぶ。脂の乗り切った経営者はパンフを出した。
「介護施設のパンフだ。我々は塾だけでなく、他の事業にも手を出している。不動産のビジネスの一環として、介護施設も立ち上げるつもりだ」
「ええ、そこでのサポートをして欲しいっていう話ですよね。それで来たわけですが・・・」
適当はのめりこんだ。
「それがこの塾より、バイトの条件がいいわけですか」
塾長はタバコにむせつつ頷いた。
「うん・・・そうだ。だが君らに頼みたいのは。我々のフレンド会社が経営する介護施設の・・・職員としてでない。顧客の送り迎えだ」
適当は胸をなでおろした。
「なぁんだ。そんなことでしたら、僕らいつでもオッケーですよ」
バカ井は気にかけた。
「適当先輩。留年に待ったかけて追試験の要望出してきたとこじゃないっすか」
「追試験?」塾長は眉をしかめた。
「あ。この先輩。いったん留年は決まったんすけど。どうしてもそれがイヤってことで。近々試験があるんです。その勉強で」
適当は遮った。
「いや・・やります。僕ら教養学部で、医師の卵として扱われてないんです。医師の素質としての教養をみがきたいんです」
話が終わり、3人は出た。バカ井は背伸びした。
「ようやく、僕らもこれで医師に近づけるな~!さっそく明日から、授業も代返にして頑張るぞ!」
廊下、コナン坊が立っている。
「さっきの話。全部聞いたよ先生」
「あっ。皆、行っといて。もうすぐ授業だろ。教室に戻りなさい!」
「やだね。さっき先生のカバンが開いてて覗いたら、介護に関係する本があった。それと分厚い冊子」
「それが何だ?本を読んで悪いか?」
コナン坊は窓の外を見た。
「つまりこういうことさ。先生は介護に関するビジネスに関わるため勉強を始めようとしている。貧乏な医学生が割高なハードカバー本を買うくらいだ。アルバイトのためだろう」
「うっ・・・」
「図星だね。君はその本を読むためにこの授業時間を利用したい。生徒も減ってるしここへの未練はない。ならば抜き打ちテスト。その冊子がそうだ。ポッケのチャリチャリ音はコンビニのコピーで余ったコピー代」
「そんなお前に・・関係ないだろ」
「おかしいと思わないかい?」
バカ井は赤くなった。
「おいしい話にとびついて、何が悪い!介護の仕事をもらえたんだ!医者になる上で重要なんだ!」
「へーそうかな。ま、その意味はこれから分かると思うぜ」
コナン坊を押し付けるように、バカ井は教室に入った。
「えーみなさん!これから抜き打ちテストをします!」
「(一同)ええええ~っ?」
「先生は読書してるから!」
コナン坊は手を挙げた。
「ねぇ先生。試験監督が下向いてたら、それはカンニング認めたことになるようなもんだよ。ねえカイバラさん」
近くの冷淡な女生徒が、また釘を刺す。
「あたし今日でやめるから。どうでもいいけど」
エエーーーーーーッ!リイイイーーーッ!
※ 女生徒がやめるのは男子生徒の倍つらい。あっさり笑顔でやってのけるだけに。
「参りました!」
「そこ、すわんなさい」
水槽や無駄な家具が並ぶ。脂の乗り切った経営者はパンフを出した。
「介護施設のパンフだ。我々は塾だけでなく、他の事業にも手を出している。不動産のビジネスの一環として、介護施設も立ち上げるつもりだ」
「ええ、そこでのサポートをして欲しいっていう話ですよね。それで来たわけですが・・・」
適当はのめりこんだ。
「それがこの塾より、バイトの条件がいいわけですか」
塾長はタバコにむせつつ頷いた。
「うん・・・そうだ。だが君らに頼みたいのは。我々のフレンド会社が経営する介護施設の・・・職員としてでない。顧客の送り迎えだ」
適当は胸をなでおろした。
「なぁんだ。そんなことでしたら、僕らいつでもオッケーですよ」
バカ井は気にかけた。
「適当先輩。留年に待ったかけて追試験の要望出してきたとこじゃないっすか」
「追試験?」塾長は眉をしかめた。
「あ。この先輩。いったん留年は決まったんすけど。どうしてもそれがイヤってことで。近々試験があるんです。その勉強で」
適当は遮った。
「いや・・やります。僕ら教養学部で、医師の卵として扱われてないんです。医師の素質としての教養をみがきたいんです」
話が終わり、3人は出た。バカ井は背伸びした。
「ようやく、僕らもこれで医師に近づけるな~!さっそく明日から、授業も代返にして頑張るぞ!」
廊下、コナン坊が立っている。
「さっきの話。全部聞いたよ先生」
「あっ。皆、行っといて。もうすぐ授業だろ。教室に戻りなさい!」
「やだね。さっき先生のカバンが開いてて覗いたら、介護に関係する本があった。それと分厚い冊子」
「それが何だ?本を読んで悪いか?」
コナン坊は窓の外を見た。
「つまりこういうことさ。先生は介護に関するビジネスに関わるため勉強を始めようとしている。貧乏な医学生が割高なハードカバー本を買うくらいだ。アルバイトのためだろう」
「うっ・・・」
「図星だね。君はその本を読むためにこの授業時間を利用したい。生徒も減ってるしここへの未練はない。ならば抜き打ちテスト。その冊子がそうだ。ポッケのチャリチャリ音はコンビニのコピーで余ったコピー代」
「そんなお前に・・関係ないだろ」
「おかしいと思わないかい?」
バカ井は赤くなった。
「おいしい話にとびついて、何が悪い!介護の仕事をもらえたんだ!医者になる上で重要なんだ!」
「へーそうかな。ま、その意味はこれから分かると思うぜ」
コナン坊を押し付けるように、バカ井は教室に入った。
「えーみなさん!これから抜き打ちテストをします!」
「(一同)ええええ~っ?」
「先生は読書してるから!」
コナン坊は手を挙げた。
「ねぇ先生。試験監督が下向いてたら、それはカンニング認めたことになるようなもんだよ。ねえカイバラさん」
近くの冷淡な女生徒が、また釘を刺す。
「あたし今日でやめるから。どうでもいいけど」
エエーーーーーーッ!リイイイーーーッ!
※ 女生徒がやめるのは男子生徒の倍つらい。あっさり笑顔でやってのけるだけに。
⑤ 進級、してますか
2010年4月20日 連載 大学の授業。キャンパスで、しゃべりのシンゴに会う。
「よお!勉強してるか!ゲーセン行こうよ!」
「バイトがあって。その」
「お前がなぜバイトばっかりしてんのか、オレ知ってるよ。再受験するつもりだろ。よくいるんだよ。とりあえずこの4流大学に入学して、1流狙うやつがな」
「人聞きの悪いこと、言うなよ!」
そこへ、憧れのサトミ(2年)が通りかかる。
「あっ!あっ!こんにちは先輩!」
「誰が1流だって?」
「あっそれはもう!サトミ先輩のこ・・あたっ!」
シンゴが銃弾のように喋る。
「こーいつさ。再受験ですよ再受験!バイトしながら受験勉強するってタチの悪さ!こんな4流大学のやつらとは口きかないって。お前さバカ井!どの口開けて言えるんだ!」
サトミ先輩はシンゴを見据える。
「入りたい、いい医局があるから、いい大学を選ぶの?」
「そーですよ。えへへ!」
「だったら。4流大学出てから1流の医局を選んではいけないの?」
「えーそんなのアリ?」
「そーよ。アリなのよ」
感心するバカ井。
「そうだよ。そしたらもう4流なんて関係ないんだからさあ。アッタマ悪いんだから!」
開き直るシンゴ。
「そっかー!じゃあ俺たちは、このままこのエレベータに乗っかって医者になるのを待てばいいんだな!やったろうじゃねえか!」
向こうで立っている、2年の適当先輩。
バカ井は何かを感じる。
「どうしたんですか神妙な顔して」
「・・・」
「やだなあ。まだ失恋引きずってんですか。大したことじゃないですよこの大宇宙に比べたら。僕らね。話してたんですよ。もう医学生になったんだから、もう大学はどうこう言わずそのまま前に進むだけだって!」
シンゴも近寄る。
「そーだよなー。こーして受験戦争をくぐりぬけて。払った代償は大きいんだからさ。楽しくやろうぜ大学生!」
サトミも近寄る。
「そうよ!あたしたちを遮るものなんて、何もない!」
適当、やっと口を開く。
「・・・・たった今。学務で・・・留年言われた」
エーーーーーッ!リイイイィーーーーー!
オオオゥベイベエエッ!
「よお!勉強してるか!ゲーセン行こうよ!」
「バイトがあって。その」
「お前がなぜバイトばっかりしてんのか、オレ知ってるよ。再受験するつもりだろ。よくいるんだよ。とりあえずこの4流大学に入学して、1流狙うやつがな」
「人聞きの悪いこと、言うなよ!」
そこへ、憧れのサトミ(2年)が通りかかる。
「あっ!あっ!こんにちは先輩!」
「誰が1流だって?」
「あっそれはもう!サトミ先輩のこ・・あたっ!」
シンゴが銃弾のように喋る。
「こーいつさ。再受験ですよ再受験!バイトしながら受験勉強するってタチの悪さ!こんな4流大学のやつらとは口きかないって。お前さバカ井!どの口開けて言えるんだ!」
サトミ先輩はシンゴを見据える。
「入りたい、いい医局があるから、いい大学を選ぶの?」
「そーですよ。えへへ!」
「だったら。4流大学出てから1流の医局を選んではいけないの?」
「えーそんなのアリ?」
「そーよ。アリなのよ」
感心するバカ井。
「そうだよ。そしたらもう4流なんて関係ないんだからさあ。アッタマ悪いんだから!」
開き直るシンゴ。
「そっかー!じゃあ俺たちは、このままこのエレベータに乗っかって医者になるのを待てばいいんだな!やったろうじゃねえか!」
向こうで立っている、2年の適当先輩。
バカ井は何かを感じる。
「どうしたんですか神妙な顔して」
「・・・」
「やだなあ。まだ失恋引きずってんですか。大したことじゃないですよこの大宇宙に比べたら。僕らね。話してたんですよ。もう医学生になったんだから、もう大学はどうこう言わずそのまま前に進むだけだって!」
シンゴも近寄る。
「そーだよなー。こーして受験戦争をくぐりぬけて。払った代償は大きいんだからさ。楽しくやろうぜ大学生!」
サトミも近寄る。
「そうよ!あたしたちを遮るものなんて、何もない!」
適当、やっと口を開く。
「・・・・たった今。学務で・・・留年言われた」
エーーーーーッ!リイイイィーーーーー!
オオオゥベイベエエッ!
④ 打ちのめされたことがありますか?
2010年4月20日 連載「(見つかった・・・!)」
しかし、3段目の引き出しには書類が上積みしているだけ。
「あれ?おいおい。目当てはないぜ?」
適当先輩はガッカリ。
そうか。どうやら、本は今の乱暴な引き出す動作で奥に落ちてしまったらしい。学習机、万歳!
「ふーん。つまんねぇの」
適当先輩は、再びベッドに寝そべった。
「なぁ・・・電話しようや」
「電話?どこへです?」
「オ・ン・ナ。大学言うたら、スリーエスでしょうが」
バカ井はろくに読めない医学書を手にした。
「聞いたことがあります。洞不全症候ぐ・・あたっ!いたぁ」
「ボアカ。スリーエスといったらあんた。スポーツ、スタディ・セッ●スでしょうが!」
「それ筑●大学でしょう?」
適当先輩は手帳を取り出した。サークルの名簿だ。
「ほらおい。オレの同級。お前も知ってるだろ。憧れのサトミに電話しろ」
「ぼっ?僕が?なんで?」
「オレのことどう思うか、彼女に聞け」
「そんな・・・」
言われるままに、電話する。
「こんな夜中に。知りませんよ。あっ・・・」
「!」受話器に近づく、適当先輩。
『はい?』
「あ!あ!あのですね!」
『バカ井くん?どうしたの?』
「あの!この夜中になんていうか!その悩みを聞いていただきたくて!」
適当先輩、落ち着かずスーパーマリオを始める。
『いいわよ』
「あの!先輩は!適当さんのことをどう思われますか!その!とってもいい人だと思うし!」
『そうね・・・あたしもそう思う』
マリオ、クッパを踏み潰しつつ進む。
「(おっしゃ!)」適当先輩、ボタンが弾む。
「でですね!そのいい人って言われてもですね!その色々あるじゃないですか!」
『?』
「男だとその、複雑なんですよね!今ファジーの時代というかそういうの、もううっとうしくて!」
『あたしが曖昧ってこと?ねぇそうなの?』
適当、次々とクリアしていく。
「そうですよ!思ってる人のこと、よく考えてあげないと!」
『あたしを思ってる人が?』
「そうですよ!近くにいるんですよ!なぜ気付かないんですか!」
『うん・・・その通りね。さすがバカ井くん』
「えっ。そんな困るなあ!はは・・・」
適当、敵なしで突き進む。
「もう一押し、頑張れ!」
『そう。近くにいたの。じ・つ・は!』
「はい?」
『声、聞かせるね』
「はい?」
(間)
適当、コントローラー持ちつつ受話器に耳。
「何やってんだよ?」
「オウ。オレのオンナに何さらしとんねんお前」男の声。
マリオは空いてる穴に、ヒュルルルと堕ちていった。
エーーーーーッ!リイイィーーーーーー!
(2回目)
エーーーーーッ!リイイィーーーーーー!
③ ●本、隠してますか
2010年4月19日 連載 肩を落として寮に戻ると、いつもの適当先輩が待っている。
「おっ。遅くまでご苦労さん」
「こんばんはー」
「塾か」
「はい」
階段をついてくる。この人につかまったらどこまでも・・・。
「先輩。もう夜の10時ですよ」
「うん。今、起きたから」
「部屋、あまり広くないですけど」
カチャ、と開ける。適当先輩はベッドに転がる。
「あー。あー。なぁ。なんかないか」
「なんか・・ですか?」
「なんかだよー。なんか。エニィシング。あ、それはなんでもか」
適当先輩、そこらの引き出しという引き出しを開けていく。
「先輩。ちょっとせ・・」
「何だよ。やましいものでもあるのか?」
「じゃないですけど・・」
先輩の手が止まる。カセットテープを見つけた。
「あなたが私にくれたもの~フフフフフフフフフフフンフ~」
「それ、借り物なんで」
「大好きだったけど~フフフが~いた~なんて~」
「・・・・・」
先輩はカセットを放り、講義ノートをペラペラめくる。
「なんだよおい。授業聞いてないじゃねえかよ!」
「そのときは疲れてて・・」
適当先輩の目がギョロつく。
「何?またバイトでか?」
「え?ええ。よく分か・・」
「分かるよ。分かるんだよ。だってお前いつもバイトだろ?」
「は、はい」
拳を無意味にテーブルに叩きつける。
「はいじゃないよ!お前将来医者なんだろ・オレだってそうだ。専門課程(3年~)に入ったら、自由はないらしんだ。オレには最後のあがきだ。青春グッバイ、いやグッバイ青春なんだよ」
「はい」
「♪ジグゾーパズルのようさ・・・ようさ・・ようさ」
先輩、早く帰ってくれ・・・
すると今度は、先輩の手が机の引き出しに伸びた。
「あっ!」思い出した。そこには・・・
「ああっ?おっ!」ニヤついた適当の手首を思わずつかむ。
そこには確か、●本が・・・。いや、誰だって、誰だって買うだろう。だからといって宣言して買うものか!
「先輩!そこはちょっ!」
「エロ本。めしとったり~」
「ああっ!」
適当先輩の力は強かった。
「ふん1段目!・・・・おいおい。電気代払えよ~!」
請求書の山だった。
「先輩。そこは何もないんです。ないんです」
「はだしのゲンかよお前。中岡家には何もないって言い草だな」
「?」
2段目を開けられた。
「高校のアルバムやないか~!おお~!この娘かわいいメッチャ!どこ行った?」
「こ、神戸女子・・・」
「彼氏おったんか?え?」
「た、たぶん・・・」
「やっとったんやろなぁ~ブイブイ!」
「そんなはずは!」
一瞬止まる、適当先輩。
「いやいや~。やっとるってぇ~えへへ!」
「(帰ってシゴいてろ・・・!)」
「パンパカパーン!残るは運命の3段目!」
大声で、横の薄いドアがドカン!と蹴られる。さすがの適当先輩もひっそり声。しかし表情は懲りてない。
「(小声)今週の、メインイベント!」
「(小声)お願いです!お願いです!」
「おいおい。本気で怒んなよ~」
「どうか・・・」
適当先輩は、力をゆるめた。
「ま、これくらいにしといたろか・・・」
天の声を感じた。
「先輩。ホントにすみません」
「このままやったら俺ら、24時間、♪たたか・・えまっすか!」
「あっ!」
禁断の3段目がバッと手前に開けられた。適当先輩の瞳孔が見開いた。
「♪ビジネスマ-ン!ビジネスマ-ン!」
エーーーーーッ!リィイイイイーーーーオオウベイベェ!
(つづく)
「おっ。遅くまでご苦労さん」
「こんばんはー」
「塾か」
「はい」
階段をついてくる。この人につかまったらどこまでも・・・。
「先輩。もう夜の10時ですよ」
「うん。今、起きたから」
「部屋、あまり広くないですけど」
カチャ、と開ける。適当先輩はベッドに転がる。
「あー。あー。なぁ。なんかないか」
「なんか・・ですか?」
「なんかだよー。なんか。エニィシング。あ、それはなんでもか」
適当先輩、そこらの引き出しという引き出しを開けていく。
「先輩。ちょっとせ・・」
「何だよ。やましいものでもあるのか?」
「じゃないですけど・・」
先輩の手が止まる。カセットテープを見つけた。
「あなたが私にくれたもの~フフフフフフフフフフフンフ~」
「それ、借り物なんで」
「大好きだったけど~フフフが~いた~なんて~」
「・・・・・」
先輩はカセットを放り、講義ノートをペラペラめくる。
「なんだよおい。授業聞いてないじゃねえかよ!」
「そのときは疲れてて・・」
適当先輩の目がギョロつく。
「何?またバイトでか?」
「え?ええ。よく分か・・」
「分かるよ。分かるんだよ。だってお前いつもバイトだろ?」
「は、はい」
拳を無意味にテーブルに叩きつける。
「はいじゃないよ!お前将来医者なんだろ・オレだってそうだ。専門課程(3年~)に入ったら、自由はないらしんだ。オレには最後のあがきだ。青春グッバイ、いやグッバイ青春なんだよ」
「はい」
「♪ジグゾーパズルのようさ・・・ようさ・・ようさ」
先輩、早く帰ってくれ・・・
すると今度は、先輩の手が机の引き出しに伸びた。
「あっ!」思い出した。そこには・・・
「ああっ?おっ!」ニヤついた適当の手首を思わずつかむ。
そこには確か、●本が・・・。いや、誰だって、誰だって買うだろう。だからといって宣言して買うものか!
「先輩!そこはちょっ!」
「エロ本。めしとったり~」
「ああっ!」
適当先輩の力は強かった。
「ふん1段目!・・・・おいおい。電気代払えよ~!」
請求書の山だった。
「先輩。そこは何もないんです。ないんです」
「はだしのゲンかよお前。中岡家には何もないって言い草だな」
「?」
2段目を開けられた。
「高校のアルバムやないか~!おお~!この娘かわいいメッチャ!どこ行った?」
「こ、神戸女子・・・」
「彼氏おったんか?え?」
「た、たぶん・・・」
「やっとったんやろなぁ~ブイブイ!」
「そんなはずは!」
一瞬止まる、適当先輩。
「いやいや~。やっとるってぇ~えへへ!」
「(帰ってシゴいてろ・・・!)」
「パンパカパーン!残るは運命の3段目!」
大声で、横の薄いドアがドカン!と蹴られる。さすがの適当先輩もひっそり声。しかし表情は懲りてない。
「(小声)今週の、メインイベント!」
「(小声)お願いです!お願いです!」
「おいおい。本気で怒んなよ~」
「どうか・・・」
適当先輩は、力をゆるめた。
「ま、これくらいにしといたろか・・・」
天の声を感じた。
「先輩。ホントにすみません」
「このままやったら俺ら、24時間、♪たたか・・えまっすか!」
「あっ!」
禁断の3段目がバッと手前に開けられた。適当先輩の瞳孔が見開いた。
「♪ビジネスマ-ン!ビジネスマ-ン!」
エーーーーーッ!リィイイイイーーーーオオウベイベェ!
(つづく)
② 問題、解けますか
2010年4月19日 連載♪ なぁかぁしぃたこぉともあある・・・(以下略)
ビルの一角。有名予備校ではない小規模な塾。しかし入塾者が溢れている。高校3年生の定員は6人と聞いてたが・・・30人もいる。
だがどの生徒も落ち着きが無い。いや、わずかは大人しい。
「あーでは、始めます。みんな3年の勉強に入る前に、おさらいしよーなー。2年生までのー。チャート式出してー」
生徒のコナンっぽい1人が落ち着き払って見ている。どうやらリーダー格だ。
「わかった」
「んー?なんだー?」
「先生。ここアルバイトで来てんだろう?」
「あ、うう」
「アルバイトはいいよね。正職員じゃないんだよね」
こ、こいつ・・・。
「ねぇねぇ。医学生の人がなんで学校の先生の真似するの?」
「そ、それは・・・」
「となりのクラスはね。選抜クラスで教えてる先生は隣町の先生やってた人なんだ」
「で、では1ページ」
「だから無理して教えなくていいよ。僕たちバカだからさ。ホッとしたでしょ」
無視して授業するが、緊張が走る。英語を朗読。またコナンがせき止める。
「ねぇねぇ。さっき先生、theのところザって発音したでしょ。elementだからズィでしょ?」
「うっあっ」
「あはは。あはは。僕が正しかったあはは」
次は物理だ。物理はまだ記憶が新しい!コナンが挑戦状。
「ねぇこれZ会の問題なんだ。解ける?」
「そ、そりゃな!」
Z会は入ってたんだ!こんな問題!
「えーと。mgに、遠心力・・・」
「あっそうか。医学生だもんね解けるよね」
「プレッシャーか・・・いやいや計算には入れん!よし!言うぞ!ここに書くぞ!」
5つ答えを書く。
「5ghだろ!ルートgの2乗にkr3乗にpの2乗にqrs!」
コナンはすかさず答えた。
「間違いだね。答えはゼロ」
「なに?そんなはずは!」
「だってどの答えも重量忘れてる」
「ああそうだった!エム足さなエム!」書き足す。
「もう遅いよ。これが本番なら零点だよ」
うぐぐ・・・。
近くの暗そうな女子が答える。
「医学生も、たいしたことないのね」
コナンが後ろに傾く。
「先生。教養学部で脳細胞ふっとんじゃったね。解答は!つねにひとつ!」(そこでなぜお前が決める?)
エーーーーーッ!リイイイィーーーーーー!
ビルの一角。有名予備校ではない小規模な塾。しかし入塾者が溢れている。高校3年生の定員は6人と聞いてたが・・・30人もいる。
だがどの生徒も落ち着きが無い。いや、わずかは大人しい。
「あーでは、始めます。みんな3年の勉強に入る前に、おさらいしよーなー。2年生までのー。チャート式出してー」
生徒のコナンっぽい1人が落ち着き払って見ている。どうやらリーダー格だ。
「わかった」
「んー?なんだー?」
「先生。ここアルバイトで来てんだろう?」
「あ、うう」
「アルバイトはいいよね。正職員じゃないんだよね」
こ、こいつ・・・。
「ねぇねぇ。医学生の人がなんで学校の先生の真似するの?」
「そ、それは・・・」
「となりのクラスはね。選抜クラスで教えてる先生は隣町の先生やってた人なんだ」
「で、では1ページ」
「だから無理して教えなくていいよ。僕たちバカだからさ。ホッとしたでしょ」
無視して授業するが、緊張が走る。英語を朗読。またコナンがせき止める。
「ねぇねぇ。さっき先生、theのところザって発音したでしょ。elementだからズィでしょ?」
「うっあっ」
「あはは。あはは。僕が正しかったあはは」
次は物理だ。物理はまだ記憶が新しい!コナンが挑戦状。
「ねぇこれZ会の問題なんだ。解ける?」
「そ、そりゃな!」
Z会は入ってたんだ!こんな問題!
「えーと。mgに、遠心力・・・」
「あっそうか。医学生だもんね解けるよね」
「プレッシャーか・・・いやいや計算には入れん!よし!言うぞ!ここに書くぞ!」
5つ答えを書く。
「5ghだろ!ルートgの2乗にkr3乗にpの2乗にqrs!」
コナンはすかさず答えた。
「間違いだね。答えはゼロ」
「なに?そんなはずは!」
「だってどの答えも重量忘れてる」
「ああそうだった!エム足さなエム!」書き足す。
「もう遅いよ。これが本番なら零点だよ」
うぐぐ・・・。
近くの暗そうな女子が答える。
「医学生も、たいしたことないのね」
コナンが後ろに傾く。
「先生。教養学部で脳細胞ふっとんじゃったね。解答は!つねにひとつ!」(そこでなぜお前が決める?)
エーーーーーッ!リイイイィーーーーーー!
① ●本、読んでますか
2010年4月19日 連載♪ なぁかぁしぃたこぉともあある・・・(以下略)
バカ井(主役)は、夜中自転車をこぎ続けた。パチンコの帰りだが、やはり今日も負けていた。
「あああ、バイト遅れるよ!バイト!」
段差をウィリーで飛び乗ったが後輪がぶち当たり、たぶんパンクした。そのまま2階建ての寮に入る。1月1万円。トイレは共同。
後ろ、スープラが停まっている。緑の光るナンバー。CD10連奏。先輩の2年生のだ。
「プップー!おい。今からディスコ行こうと思うんやけど」
「先輩すみません。今から僕、バイトなんです」
「チッ・・・私立の女子大の子ら来てんのによ!まあ俺は間に合ってんだけどよ!」
「ごめんなさい!」
スープラは<ゴッドファーザー>を鳴らし、急発進で行ってしまう。
バカ井は部屋に入り、せっせと支度。参考書の詰め込み。留守電を聞く。
『こちら大阪ガスです。明日までに振り込まなければ、ガスは止まりまピーガチャ!』
隣の薄い壁の向こうは米米クラブが聞こえ、数人が合唱。夏だが冷房も、扇風機すらない。テレビは14インチだが台が移動しすぎて車が1個なく傾いている。
『あーオレ。先輩だけど。大至急、電話するように。いったいどこ行ってんねやこいつピー!』
再び自転車に飛び乗る。今も共同トイレは使用中。急な坂を駆け上り、塾へと向かう。時給2千円。大学を通じてやっと見つけたアルバイトだった。
たち漕ぎにつかれ、横の自動販売機にもたれかかった。
「はーもうだめ!タイム!」
次々と滴り落ちる汗。授業の始業は近い。
すると、横にメタリックのRX7がブロロン!と停まる。きっとヤンキーだ。窓が開いており、何か野次を飛ばされそうだ。
「お、お金は持ってませんから!」
しかし、向こうの冷やかしはある意味軽いものだった。
「エロ本買うなよー!あっはははは!」
ブゥー!と走り去り、ストップランプが滲む。
「エロ本って何だよ!エロ本て!」
ふと、販売機を見ると・・・確かにエロ本が10冊ほど売っている。
「エーーーーーーーッ?リィイーーーーーーーー!」
(つづく)
第8回:カリスマ性は不要 必要なのはリーダーシップ・・・?
2010年4月19日 連載 『リーダーシップそれ自体はよいものでも望ましいものでもない。それは手段である。いっぽうカリスマ性はリーダーたらんとする者を破滅させる』
病院で言うなら、カリスマは経営者で、リーダーシップは院長・・であるべき。2つ兼ねることは現実にはほぼ不可能だが、そう望む者もいる。
しかしこれはやはり・・・別々のほうがいい。組織には絶対的な存在と、嫌われ役が必要だ。嫌われ者が出るくらいの仕事ぶりなら、よほどたるんだ証拠。さてこの絶対的、というのはスタッフの心の中の安定という意味だ。正しいかどうかということでなく、スタッフの心の健康のために重要だ。
なので病院の場合カリスマは陰にあるものでなくてはならず、あくまでリーダーに権限があるべきだ。カリスマがリーダーみたいに口を出すと、スタッフの士気は一気に下がる。病院の会議でもそこを間違えると、スタッフはみな不安になり病院そのものを信じなくなる。そして病院のために頑張らない。そのツケはリーダーに来て、結局経営者に来る。
病院で言うなら、カリスマは経営者で、リーダーシップは院長・・であるべき。2つ兼ねることは現実にはほぼ不可能だが、そう望む者もいる。
しかしこれはやはり・・・別々のほうがいい。組織には絶対的な存在と、嫌われ役が必要だ。嫌われ者が出るくらいの仕事ぶりなら、よほどたるんだ証拠。さてこの絶対的、というのはスタッフの心の中の安定という意味だ。正しいかどうかということでなく、スタッフの心の健康のために重要だ。
なので病院の場合カリスマは陰にあるものでなくてはならず、あくまでリーダーに権限があるべきだ。カリスマがリーダーみたいに口を出すと、スタッフの士気は一気に下がる。病院の会議でもそこを間違えると、スタッフはみな不安になり病院そのものを信じなくなる。そして病院のために頑張らない。そのツケはリーダーに来て、結局経営者に来る。
第7回:イノベーションは理論的分析と知覚的な認識 ・・・?
2010年4月19日 連載『イノベーションとは理論的な分析であるとともに知覚的な認識である。イノベーションを行うにあたっては、外に出、見、問い、聞かなければならない。イノベーションに成功する者は、数字を見るとともに人を見る。』
患者との対話・診察を極力避けて、カルテ・データとばかり対峙する先生もよくみかける。データだけで治療の方針が決まる場合もあろうが、データで表しようが無いものも潜んでいる。
特に視覚的なもの(褥創、発赤、骨折)が見落とされればデータに反映されるのはかなり後もしくは反映すらされない。データばかり見ていて『まだ良くならない。なんでだろう』と次の検査指示を出す前に、視覚的なSOS信号が出てないか見に行くことも必要。患者の顔、手、足などふだんから見ていれば、その変化に気付きやすくなる。
『データはいい。なのに見た目がしっくりこない』
→違った角度から検査。
『データが悪い。なのに状態は良くなってそうだ』
→再検査、見直し。