これは、大学病院が出発点での話。

 たとえば、自分の講座にいる准教授・講師の先生がいる。その先生が一生懸命やってるテーマがある。

・ ほぼ同じテーマの実験を積極的にする。その先生の提唱する仮説に基づく(論文の孫引として頻用)。論文で連名の常連(順番も!)となる。

・ その先生の授業・出張のサポートを行う。そうするうち、自ずと周囲が寄りつけなくなる雰囲気ができる。出勤もより早く、朝の挨拶もかかさず。夜は必ず報告し送りの挨拶。

 そうしてるうち、お互い不思議と対等に話せるようになる(マニアックでディープな内容)。2人は話し方まで似てくるのである!

 この段階までは皆やるが、ここからが分かれ道。

 分岐点はその上の先生が賭けにでたとき、あるいは転勤になったときだ。

 賭けとはつまり教授戦。敗れると自然に退去することになるが、そのとき自分もついていく(ようになる)。講師が夢破れても、中核病院などで上層部のポスト(診療部長など)が待ってるもの。その直属におかれる期待もある。

 ただ、上司が教授に嫌われて冷遇された場合(僻地に飛ばされたり)は、検討を要する。

 僕の知ってる連中で出世した者は、(ついていきたい)上司が大学から出れば即あるいは少ししてすぐに大学を引き払い、潔く同じ病院に収まったケースが多い(つまり別の人間に鞍替えしない)。その後数年して上司がナンバー1、自分がナンバー2か3くらいにという風になってる。

 一番いいのは上司が教授になってくれることだろうが、イスが1つのため確率はごく小さいものと覚悟しておかないといけない。

 ここでいう<出世>とは、積み重ねたことの報いが出た、つまり本望という意味。そう考えると、<出世しなかった>つまり望みを打ち砕かれた人間も多い。打ち砕かれた場合は再出発。別路線で名を上げることもあり、なかなかそれも面白い。




 つまり大学を離れ、個人契約で働く者ども。

 ドクターバンクの場合、業者の都合で全国を転々とする覚悟がいる。ので自然と勤務先に愛情がわきにくい。

 とは別に、ふつうに個人⇔病院で契約している者は・・・初回の契約がモノをいうことはこれまで強調してきた。15周年者は内科の手技にしても外科系のオペにしてもすでに確立されており、その(暴言だが)商品価値が問われる。月に何例できてとかそういうこと。その実績・スタンスをずっと維持しなくてはいけない。その能力をその病院でずっと発揮し続けていくことが重要。

 心配なのは、病気になった場合。大学のようにカバーはしてくれない。あと院長・理事と揉めれば先がない。院長職を選ぶことが可能な病院もあるが、問題ありの病院だとテレビで謝罪するリスクも負う。

 僕の周囲の15周年者は・・・いまだ若い頃の延長の者が多く、生活様式がフリーな者が多い(独身が多いような)。契約制で勤務がある意味割り切りなのと高給なのが関係している。ただ前述のように体調不良・問題児ともなれば、それなりの立場・コストに引き下げられる可能性あり。

 自分のセールスポイントを良く知ってる人は、生き抜いている。







 これはつまり大学からの人事で働く者たち。

 ほとんどが医長・部長クラス。しかし正直、病院では院長以外の肩書は実効力はない(システムを変えるほどの権力はない)。人の上に人を作る・・ものと思っていい。なので病院によっては部長が3人いたり、医長が5人もいたりする。

 15年目で関連病院にいる者は、たいていそこに長年落ち着いている者が多い。なのでそろそろ結婚したりマイホームを建てたりして、それを<人質>に医局長にアピールする。「もうここを動けんよ」と。

 そこで長い付き合いのスタッフ・患者に触れ合い、その中での権力を行使していく。多忙なのもあり(学ぶ)新しい機会を作らないようになり、<オレ様帝国>を築いていく。しかし院長とはまだ格差が大きく、スタッフの代表としてしのぎを削りつつ毎日を過ごしている。人が多い。

 スタッフをまとめる→理想のシステムを提案→院長・理事へ直訴→かなえられず→口論→スタッフの反乱平定→自分による埋め合わせ→平和な時期→関係修復→スタッフをまとめる・・の繰り返し。葛藤の日々を生き残れる者(または鈍感な者)が、そこに残る。

 

 あくまで内科系の講座で、しかも僕の周囲の話だから聞き流す程度に。

 同僚の大学在籍者はほとんどが助手クラス。そのうち一部が椅子取りゲーム的に講師を勝ち取っている。人気のない講座では(失礼!)出世?がしやすい。

 彼らは大学でのカリキュラムに振り回されている。学生や外国留学生の世話、下っ端が入らないとその穴埋め。一方では実験・論文に追われ、対・教授のカンファレンスに体内時計を合わせる日々。教授と同伴出張も多く、原稿の代理もあれば講演会の座長も。

 こういう経験が多いためか、講演会や会話での<言い逃れ>が誠に巧妙になった印象を受けた。

 病棟では病棟医長あるいは各グループ長であったり、責任をダイレクトに追及される立場。他科との激突のときに、特に能力を問われる。正直すぎてウツ傾向になった人もいる。少々、卑怯者の要素もいる。

 しかし、実験がうまくいったとき(有意差が出たとき)や教授に褒められたときの彼らの気分はすこぶる良い。仕事量はスケールがでかいが、達成した時の満足感も大きい。実験データが出せる人間は長続きできそう。
 
 

同級生の現状

2009年3月26日 連載
 医者15年目だが、ここで同僚の現在を(同窓会名簿などで)振り返ってみた。

 大まかな計算だが、大学の同級が100人いたとして・・・臨床医が9割、1割が基礎系。

 基礎系のうち病理学・解剖学・生理学などに進んだ彼らは着実にキャリアを重ね出世している。基礎系は若手で教授になりやすいところもあり、ほとんどが講師以上。臨床もアルバイトでやってるが、コネがある人間は寝当直でうまく稼いでいる。

 臨床系。ほとんどが認定医を持っており専門医が半数。ただし資格を山ほど持つ者と持たざる者との格差が明瞭。持ってる人間は指導医・解剖医なども多数取得。必ずしも能力を表すものではないが。

 臨床系の2割ほどを占める大学病院では、人手不足の医局だが准教授が若干名、講師(非常勤講師含む)が10名前後。残りの大多数は助手でタナボタ待ち。ほぼ全員が院生過程を終え、学位もほぼ全員が取得。うち数名が留学中。

 臨床の残り8割のうち6割が大学の関連病院で、そのほとんどが大学への復帰を希望せず。さらにその6割の2割ほどが中核病院で腕を上げているが疲弊状態(医長・部長)。8割が数年ごとのローテーションで医長・部長の肩書あり。この年だとせめて診療科部長でないと、とプライドを持つ人間が多い。

 で、臨床の残り2割がアウトローと呼ばれる医師たち。形成外科医が十名余り→数名に生き残り開業。残りは内科・外科系の病院を各コネ、能力で凱旋中で副院長・院長クラス。数名がドクターバンクで日本全国を渡る。

 臨床全体の1割が開業、半数以上が親からの引き継ぎ。あと1割分が近々の開業をもくろむ。

 これはオマケだが、この100人のうち最も高給取りは形成外科医・開業医で3000-5000万クラス、アウトロー医が2500-3000万、その他大半が1500-1800万台(医師会などが公表する年収はアルバイト代などが入っておらず低めとなっている。もちろん意図的なものだ)。




内科学会総会

2009年3月26日 連載

http://www.naika.or.jp/meeting/nenji/nenji_top.html

 今年も単位取得のため、はるばる東京まで。

 驚いたのは、宿泊施設先の外資系ホテルの格安さ。ホテルパシフィックが潰れたばかりだが、自分が宿泊するところも心配ではある。しかしサービスも充実しており(夕方・夜間とラウンジ飲み放題)、せっかくの東京だからいい所に泊まりたい。

 自分にとってのメインは2日目(4/10 金曜日)の朝9時からの循環器EBM、昼過ぎの間質性肺炎の臨床~不整脈治療。1日目、3日目はあまり目を引くものがない。今回は、耐性菌、腫瘍や分子生物学的なテーマが驚くほど少ない。

 なので1日目の夜間に(大阪→羽田)到着し、2日目の会に出席し夕方退席。その日の夕方に羽田を離陸ということになりそうだ。


ここにも鬼。

2009年3月8日 連載
 以前、聞いた話を脚色。

 人手不足で崩壊寸前の、自治体病院。その医局会の雰囲気を味わってほしい。



 院長がしぶしぶ、喋る。

「え~。医局会の議題は・・・あ。自治体のほうからの要請です。夜間の救急は一件も断らないでくれと。断る医師がいて市民からクレームがあったと」

 他の数人医師、視線をあちこち逸らす。

 その中に、寡黙な中年医師(副院長)が1人。彼は愚痴一つこぼさないと有名な医者だった。「給料を貰えるだけでも有難い」というのが口癖だった。

「・・・・・」

 院長は続ける。

「皆さん、医者が2人、大学に引き上げられたばっかりで。かなり多忙な病院ではあるけど。残ったこの4人でこれ以上のパワーを出して。よりいっそう診療を充実させて欲しいと」

「・・・そのように、誰がおっしゃったんですか」

 寡黙な医師の眼鏡が光った。

「うん?」
「誰がおっしゃったんですか。自治体の方ですか?」
「うん・・・そりゃまあ」
「まあじゃなくて。先生」

沈黙。

「うん・・・町長と話してね。聞いたことです。残った4人がこれまでの6人分のパワーを出せば、乗り切れるはずだとね」
「はぁ・・で。院長先生はどのようにお答えになったんですか?」

 沈黙。南極の氷が少しずつ、しかしダイナミックに崩壊していく。

「僕?僕・・・・はい、まあできるだけ頑張ります、と。はは・・・」

 若手医師が呆れる。

「院長先生。この地域の医療を引き受けてヒーヒー言ってる現状なのに、人が・・・人手が減ったんですよ。人員の補充とか具体的な動きがないと、僕らもうこれ以上がんばれって言われても」
 
 失礼だとは思いながらも、言葉があふれかえってまとまらない若手。

「うん。うん。わかるよ・・・」

 院長、相槌。

「じゃ、医局会。このへんで・・・」

「ちょっと待ってください」

 鬼、いや、さきほどの寡黙な医師!

「みなさん、もう1回着席してくださいますか?」

 みな、改めて着席。寡黙な医師、何かふっきれたように言葉が出てくる。

「院長先生。今の、僕らの現状をご存じですか?まあご存じでしょうけど」

 いちおう、院長も彼らと同様に当直もし、外来・病棟もこなしていた。

「院長先生がですね。町長さんと話されて簡単に<はい分かりました>と簡単に答えているようですけど。院長先生は今後、どのようなビジョンを持ってしてそのようなことをおっしゃられたのですか?」

 みな、首を縦に振る(内容にはピンとこず)。

「ビジョン?」
「みな過労で疲れているのに、それにさらに鞭を打たんとする。ま、そういう仕事ですからね僕らの仕事は。弱音を吐いてるんじゃないですよ。でも今後ね、さらに厳しい状況になろうとしているのに、なんですかその自治体は。夜間患者を断るな?6人分やれ?」
「そ、そんな言い方では~・・」
「いえ。そういう風に僕は受け止めました。だって、現に僕がそう思ったわけですよ。それとも僕がおかしいのですか?過労の症状なんですかねぇ?」

周囲、苦笑いしながらもビビる。院長は困り果てる。

「だいたいね。そういう物の言い方しかできん奴らが自治体やってんですよ。そんな奴らのことハイハイ言ってるから。これ院長先生に言ってますからハイ。「うちがやります」とかハイハイ頭下げてるから、現場を知らない人間がのさばってですね。あれこれ指図してくるんですよ」
「ハイハイって、いやその、そこまでは」
「言ってます」
「いやいや」
「いいや。言ってる。院長。中国の王朝がどうやって滅んできたか知ってますか?ここはそれといっしょですよ!」

寡黙だった医師は、もう止まらない。

「院長だったらね。ま、患者を第一に考えると表では言うけども。それでいいんだけども。言いかえれば病院という企業の社長ですよ。その社長がね、社員つまり僕らですね。社員を守る発言しないでどうするんですか」

 近くで泣きだす女医。院長、顔が真っ赤。なんとか反撃。

「で、でもね。ここは自治体の病院だし。そこの経営の方針・・」
「どんな方針なんですか。理不尽な勤務組んで、現場も知らずに自分らだけ5時に帰って、そんな奴らにどんな方針があるんですか?そうだ。みんな。彼ら、ここに呼びましょうよ!町長、呼びましょうよ!」

 近くの若手医師、どこやらに電話。

「今すぐ来て!はやく!」

 寡黙だった医師は止まってない。

「ですので。院長先生。代わりの医師を早くよこしてください。それなら今回の発言はなかったことにします」
「いないんだよねぇ・・」指遊びする医師。
「私の知り合いにも、病院代わりたがってる医師は大勢いますよ。でもダメです。私への信用が落ちますから。おあいにく!」

 コンコン、と末端事務員。

「お呼びでしょうか・・・」

「入って。そこにかけて!」若手医師が椅子をすすめる。

鬼と化した医師、向かい合う。

「僕らにどうして欲しいんですか?」
「は・・?」
「は、じゃないですよ。院長から聞きましたけど。あなたたち、陰で何いろいろ指図しとるんですか?」
「あの、私は全然・・・」
「あなたでは話になりませんね。町長、呼んでください。いますぐ、ここに!」
「それはちょっと・・・」
「そうですね。0時までにここに来ないと、総辞職すると申してたと」

院長、焦って立ち上がる。
「あの、ちょっとあっちの部屋で。1対1で」
「はい?いいですよ!」

みな、そこに居残る。2時間が経過。

2人が戻ってきた。なんと、和気あいあいの笑顔。鬼だった副院長が笑っている。

「まあ、いろいろありますからね~!みなさん。すみませ~ん!ちょっと今日は僕もイライラしてて。中国の歴史の話で盛り上がっっちゃって。ま、お互い学ぶべきことがありましたね。今日は・・」
「ははは」院長もうなずく。

もちろんその雰囲気に納得できない、他のスタッフら。

 副院長が妙にしめくくる。

「ま、がんばりましょうか。頑張るしかないですからね!」

 この繰り返しにさらに人事が加わり、不満は闇から闇へ。

 しかしこういった会議で取り残された若手らは、着々と心の準備を始める。

「ほ~お。そうかい。よおく分かったよ・・・!」

 僕の周囲もこういうことが重なって、用心深く生きている。

 たしかに今の院長職の立場は、つらいと思う。(現場の)今後の現状をありのまま話してしまったら、ますます医者は去る。

 今の政治が、その流れを追いかけている。

 そういや潰れる前のある病院が、辞め際スタッフに最後のあがきで<歩合による臨時追加給与>みたいな話を出したとこもあったな。

 今でいう、<給付金>じゃないか?


 














 どこのカンファレンスにも、<鬼>がいる。

 研修医が症例発表。

「患者さんは、狭心症の疑いで」
「どうして狭心症と疑ったの?」
「胸痛が1週間前からあって・・」
「それで狭心症と疑った?」
「はい」
「胸痛をきたす疾患は山ほどありますが」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「黙ってても、何も起こりませんけど」
「はい」
「床見てますけど。なにかありますか?」
「いえ」
「答、さっきから待ってるんだけど」
「はい」

あちこちで、冷笑。鬼は凝視したまま。

「さっきから<はい>と<いいえ>しかないんですけど」
「はい」
「ほうら!」

あちこちで高笑い。鬼は凝視したまま。

「胸痛をきたす疾患を聞いてるんですけど」
「狭心症、心筋梗塞、胸膜炎」
「テキスト見ずにお願いします」
「あ、はい。気胸・・・」

緊張しすぎ、何も言えなくなる。鬼は凝視したまま。

「ふーん。では先生は、それしか胸痛をきたすものがないと?」
「いえ」
「じゃあ何があるんですか?」
「・・・」
「もう時間がないや。これじゃ夕方の講演会も間に合わない。それはいいですから、もう。で、どの検査でどういう所見があって、そのどこが根拠でどういう基準を満たしたから先生は狭心症を疑ったわけですか?」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「僕の言ってることが分かりませんか?」
「わかります。心電図で虚血性の変化がみられて・・」
「これね。この軽度の所見では狭心症だけじゃないでしょう何も。これで狭心症だったら、僕の診てる患者さんのほとんどが狭心症ですよ?」
「・・・・・」
「他に何の検査をしたんですか?」
「よその病院の検査でして」
「じゃあ先生は、そのよその先生のストーリーを自分に置き換えて話されているわけですね?」

沈黙。鬼は凝視したまま。

「先生。よその先生が狭心症疑って、そのまま同じ疑いでいいんですか?そう思いませんか?あ、いまカンファ中ですから」

 入ろうとした他科の先生、締め出される。

「じゃあ言いましょうか?その<よその先生>は実は僕です。たまたま友人の持ってたニトロペンを使用したら効いたという話を親戚の方から聞いたんです!紹介状に書いてないでしょう?あえて書きませんでした」

 近くで聞く僕、コナン風にあきれる。
「オイオイ・・・」

 鬼が去った後の研修医の安堵の表情が、これまたいい(コカコーラのCMのよう)。




田舎回線

2009年3月5日 連載

 スピリッツの「上京アフロ」で似たようなネタがあるのだが・・・。

 3年目のへき地勤務(プライベート・ナイやん参照)で、毎日過ごす休日のような日々。その中、職員食堂は無難な会話で溢れていた。

 田舎は景色もいいし人当たりもよさそうだが、それはあくまでうわべだけの話。彼らは個人情報を探り出し、ワインのように寝かせるプロである(患者・スタッフ限らず)。

 食堂で食べていると、入ってくる高齢ナース。

「先生こんにちは」
「あ、どうも」
「あらあら。ごはん、少ないなあ」
「いいんですよ。これで」
「いやいや。ええことない!」

 無理やり、ご飯を追加。

「お医者さんが倒れたら大変や!」
「で、ではいただきます・・・」
「漬物!ソースに!これも!」
「あああ、いいですから」

沈黙。

「今日は雨が降って寒いねー」
「大雨ですね」
「でも向こうのほうはちょっと晴れとるねー」
「ええ・・」
「ほんとねー。雨降ったら晴れるしねー」
「・・・・」
「冬が過ぎたら春やしねー。どんどんトシ重ねるわ」
「・・・・」

沈黙。別の高齢ナースがニヤリとなる。

「あ、今、先生、笑ったで」
「え?笑ってないない」
「いいや、見た!」
「そっかなー」
「失礼やわ先生。レディに!」
「レ・・」
「あかんあかん。先生、困らせてまうで」

沈黙。

「先生。今日は帰ったら何されるんですか?」
「今日?今日はレンタル屋でも・・」
「彼女とデート?」
「い、いませんよ」
「あらら。そりゃいかん!」
「いいですよ。気楽ですし・・」
「親、何してるの?やっぱりお医者さん?」
「いえ。サラリーマンです」

沈黙。

「兄弟は?」
「あの・・・」
「趣味は?」
「・・・」
「お給料はどのくらい?」
「それはちょっと・・・」
「院長どれくらい?」
「ですからそれは」
「院長いつ辞めるんかな?」
「あの・・・」

根掘り葉掘り、聞かれていく。僕も反撃に転じようとする。

「ところで、そちらはどこにお住まいで?」
「なーいしょ!ごっそさーん!」
「(どある・・!)」

(数日後)

売店のおばさんが、帰り際に呼びとめる。

「あー、先生」
「はいはい」
「この子、どうねん?」

写真。1人たたずむが、ぼやけている。

「これ誰?」
「だから。どう思うねん?」
「ま・・・いいんじゃないですか(恐れ多くもそうではないが)?」
「ええんやね?」
「は、はあ」
「ええんやね?そうやね?よーし」
「はあ・・・?」

まるで<あなたのためだから>のように押し切られる。

「嫁さん、もらう気ないかいね?家はまんじゅう屋だけど」
「よめさん?」
「よう尽くしてくれるで~。成績も小学校ではトップやったって。そろばんはコンピューター並みやったって」
「そろばん、なぁ・・・!」
「容姿は最初だけ。あんたらだって、その日の効果よりその後の寿命のこと気にするやろ?」

当時、心はその地になかった。非常勤先の女医だけ気がかりだった。

「うーん・・」
「知っとる知っとる。非常勤先の女医さんやろ。べっぴんさんの。でもな、ああいう女は男を食うっていうで」
「く、くう?」
「ああほうや。ケツの穴まで抜かれてそれこそあんた、あっちの用が済んだらポイやで」
「どっち・・・?」
「やめときやめとき。この子がええって。あたしが会わしてやる!」

我に返る。

「ん~。い、いいですわ」
「なな!なんでぇ~!」
「こういうのはちょっと」
「どうしたらええの?もうあっちには話ついとるのに!」
「ごめん!だめ!」

走り去るところを、数人のスタッフが見ていた。

<翌日>

医局に入ると、パソコンを叩くガラスごしのドクター。

「君ぃ~。やるね~」
「何をです?」
「隅におけないな~」
「ちがいますって!」
「よりによって、売店のおばちゃんととはな~。熟女趣味か!ケッケッケ!」
「・・・・・」

 田舎で錯綜する情報網。話はどんどん錬金術化し、黒も白、白も黒に塗りかえられていく。こうして僻地のドクターたちは、その口を永久に閉じていく・・・のか。




謎の送別会

2009年3月2日 連載
 とはいっても、大学の高齢OB。開業医祝いだという。僕は普通に参加した。薄給(当時1年目で、当時は手取り月8万)で、食事にも困っていた。

 出席すると、見たこともない大勢のOBたち。体育会系のノリで、彼らだけの会話で会が進行していく。僕ら研修医のテーブルは静かなものだった。

「なんか、ここだけお通夜みたいだなー・・・」

 あちこちで円陣が組まれ、軍歌みたいなのが始まった。こちらは胃袋も満たし、帰るのを待つだけ。

 司会者がステージへ。

「はいはいはい!ではですね!ここで大先生の開業の門出を祝いつつ!1本締め!いーよっ!」

(パン!)

「どーもありがとうございましたー!では1人ずつ壇上へ!挨拶して激励の言葉を!」

 うちのテーブルはみな困った。

「激励の言葉?ノナキーお前考えたか?」隣の同僚に聞く。
「僕は考えてきたよ。君には教えないけど」
「<さようなら>ちがうな。<憧れてました>これもちゃうな。<いつか先生のように>寒。<僕も頑張ります>ん~?」

 焦っているうち、自分の順番がきた。

 頭がテカってる高齢医師。高級官僚のよう。こちらに向かって愛想笑い。みなまだ観客席で注目。

 僕は、とっさに声をかけた。

「先生!頑張ってください!」

 一瞬、会場が凍りついた。なぜ?というくらいに。

 OBは、気まずそうに近づいた。

「お、おお・・・お前も頑張れよ~!」

 なんか、泣きそうな表情だった。

(帰り)

「あっはっはっは!」上級医が笑っている。
「どうしたんですか?」
「いんや~ユウキ!お前、大したもん!」
「そうですか?ちょっとまずかったですか?」
「そりゃそうだろ!ガハハ!お前、新聞とってんのか?だったら1年前の記事見てみな!」

 新聞はとってなかったので。図書館で。

「あった!載ってる!」

 そのOBの顔が1センチ平方で載ってた。

<○○医師、大病院にて医療メーカーと共謀 詐欺の疑い>

 これで送別会するなんて。医者の世界の懐は深すぎる・・・!

 さらに横の行。

<反省している>

 そうなのか?そうであることとする。以下余白。




家庭教師

2009年3月2日 連載

 医学部5年目まで、家庭教師をしていた。高校男子3年の家で、週2回で、各2時間。しかしまっすぐ帰れることはなかった。母親がいろいろ仕掛けてくる。

「先生。夕食をごいっしょに」「すみません・・・」
「先生。お風呂。着替えは主人のステテコ」「すみません・・・」
「先生。今日はもう遅いから。泊っていって」「すみません・・・」

 ベッド。枕が2つある。

「これは・・・」
「じゃ。先生おやすみ」学生はふとんにもぐった。
「しゃあないな~。じゃ」

電話を消した。

間もなく、彼が話かけてきた。

「なあ先生。うちの母親。すごく機嫌悪いねん」
「なんで?」
「いやね。そこの机の引出しのエロ本が見つかって」
「勝手に開けられたのか?」
「というか、開けたらもうなかった」
「・・・・・」
「先生。AV見ても当たり前な年ごろなのに(そうか?)、エロ本もいかんってどういうこと?だから俺、もう地元の大学には行きたくない」
「ん~。隠し場所な~・・・」
「先生。エロ本読むのはな。正常な行為だろ?女は理解できへんみたいやねん」
「されても嫌だがな~」
「ああ!早く僕も下宿して!堂々とエロ本読んでたい!」

そうくるか・・・。

彼はまだ寝なかった。

「あ。そうだ!ちょっと電気つけるよ先生!」
まぶしく明かりがついた。

「よし。よし・・・!」
本棚の最上段。薄いファイルが無数にある。

「エロ本を薄く分冊にして、これらのファイルの間で紛らわせたらいいんだ!」
「そごいな。その発想!」
「人間って、追い詰められたらなんでもできますよね!先生!」

彼の目は輝いていた。

約1週間後。とある駅。

「先生。こんにちは」
「ま、来年があるよ。今は予備校の方が楽しいっていうし(当時はバブル崩壊直後)」
「うん・・・も、地元の簡単なとこでいいわ。先生」
「いいのか?おい、それで。隠したものは大丈夫だったか?」
「あ。あれ・・・」

彼のテンションが急に下がった。

「なくなっとった・・・」

僕は声もかけれず、彼の背中を見送った。

しかし、今でも彼の言葉は生きている。

(医者7年目。カテーテル指導中)

後輩「入らない、入らない・・・先生。もう変わってください。しんどいです」
僕「落ち着いてゆっくり回せ。指先に集中」
後輩「よし!あっ、入った!やれました!」
僕「やれやれ・・・」

(着替え中)

後輩「いや~もう諦めようかと思いましたが。火事場の馬鹿力というか!」
僕「人間ってな。追い詰められたらなんでもできるもんだよ」
後輩「それ!先生の言葉じゃないですよね!」
僕「もっとも・・・!」







友人

2009年3月2日 連載 コメント (1)

 1年目のとき(大学病院)。

 大学時代の頃の仲間がみな散らばって→夏→秋→冬ともなると、どこか慣れてどこか寂しくな・・るのか、もと同級生から探りの電話がかかってくることが多かった。ただし携帯電話がなかったので、(多忙でもあり)自宅の電話で出るということ自体が珍しかった。

「もしもし?」
「オッス!」この彼は、救急病院へいきなり自ら配属した人間だ。
「おうおう!」寝ていたが、飛び起きた。
「そっちは忙しい?」
「あ~そりゃもう・・・」
「カテーテルとか、バンバンやってる?」
「まだまだ。何もさせてもらってない」
「オレさ。胃カメラとかもうバリバリだぜ?」
「ほ~・・・」

受験の頃のプレッシャーのようなものを、かけてくる友人。

「うまく、いくもの?」
「それがさ。オレの胃カメラ上手らしいんだよね。指導医がさ、もうお前1人でやれるなって」
「・・・・救急の方は?」
「ああもう。何でも来る来る。もうさ、一般病院とかの症例なんか退屈でチンケでさ。オレって救急に向いてんだよな」
「ほ~・・・」
「ほ~って?」

彼は、何か言いたいことがあって、電話をかけてきたはずだ。そう直感。

「そっか。じゃあ、遊ぶ暇ないな。お互い」
「ナースにはモテモテでさ。ちょっと火遊びしたりしてさ。へへ。おいおい。誰にも言うなよ!」
「ほ~・・・」
「なんかユウキはさ。あまり面白くないんじゃねえの?そんなノリだと」
「いやいや。ちょっと疲れてて」
「何言ってんだよ。俺なんか1週間寝なくても平気だよ。おかげで症例もたまったし、論文も書いてるしさ」
「あ、論文ね。俺も・・・」

全く興味はなかった。妙なプライドだけが働いた。

「ところでさ」

きた・・・。

「あのさ。うちの救急病院、けっこう何人かまとめて退職するんだ」
「それって。問題でもあったのか?」
「い、いやいや。栄転だよ栄転!そこでな。うちの院長が、人探してんだ。優遇してくれるって!」
「う~ん・・・」
「考えといてよ!今度また電話するからバイビー!」
「あっちょっ!」

(切)

 次の日だったか、僕は同僚の女医に打ち明けた(古い言葉でいえば、意中の)。同僚4人が黙々と夏のカンファレンスルームで物書き中。

「・・・ということがあった」
「ふーん。そうですか」
「親の仕送り、いつまでも受けたくないしなあ・・・」
「でもその先生。寂しいのかもしれないよ」
「?そうか?」
「忙しくても仲間がいれば、夜中に電話なんかしないでしょう」
「そっか」
「たぶん、寂しくなったんでしょうね。けっこうベラベラ喋ってたでしょう?」
「そういやそうだな・・・」

女のカンは、本当に鋭い。

「あたしは無理には止めないけど」女医はふたたび紙面に目をやった。
「いや。やっぱやめよう」
「ちょっと、寂しいかなー・・えへへ」
「・・・・・」

1時間後、僕は真っ暗な窓を開けた。小さな夜景だけ広がる。

「あたしちょっと、さびいかな~か。ふっふ・・・!ふ!」

カンファ室から、電話で0発信。

「オッス!もう心変わりしたか?院長がぜひユウキに会いたいって!」
「断る!」
「おいおい?」
「すまん!許せ!」
「うちの院長がさ。日本一の救急医にしてくれるんだよ?もったいないよこんな話!2人で病院造ろうよ!な!な!」
「もう決めたんだ!教授とも相談した(←もちろん嘘)!そしたら行くなって!」
「バカヤロ!なんでそんなこと、すんだよ!もういいよ!」

(切)

「ふ~。なんか少し傷ついたが・・・あたしちょっと、うれしいな~!か!」

 ドテッ(寝込む)。

次の日。

研修医、待機中のカンファ室にいきなり医局長が。

「おい!夜中に長距離電話した奴!」
「はい!」反射的に挙手。
「事務側からの指摘だ!この前、留学生が国際電話を使って注意があったはずだ!」
「実は!関東の病院からの勧誘でありまして!」
「なにっ!お前、転属を考えていたのか!」
「違います!自分はここの医局が一番で!一生ここで身を捧げるものと考え!速攻でその話を断りました!(←言うてない言うてない)」
「うっ。そうか・・・」

 その医者はひるんだ。

「ま、がんばれよ・・・」

 ドアが閉まった。

 何かよく分からないが、久しぶりに味わう達成感だった。おそらく多忙の中、それこそ必要とされる仕事でもあったにかかわらず・・・実はそれを実感もできなかった毎日だった。女医に必要とされたわけではないだろうが、でもちょっとでもその可能性を見出すことで、次なる飛躍に向かうことができた。と強引に解釈した。
 
 
 







短編を開始

2009年3月2日 連載
 体調も戻ったところで、日常的な短編を載せることにした。時期的にはこれまでの話の<未公開部分>にあたるような内容だが、本質はかなり身近なものになる。大作公開まで、これでいく。

 ニュースとかネット見ても、ネガティブな内容が増えていることに起因する。
http://www.m3.com/ady2/index.html?pc=ady2&kw=%u4E73%u304C%u3093%u5065%u8A3A

 17万人が登録している医療系サイト、m3.com。ネット上の医療情報を効率良くまとめた便利なホームページだ。ここを立ち上げているのは総勢80名(20-40代)ほどのベンチャー企業。若手らしい作りで、医療側のニーズもよく理解しているように思える。求人情報(ひとつひとつ売りの宣伝あり!)などもあり、作りにソツがない。

 実は自分も登録したが、講習会・学会の情報などつい見逃しそうな情報が冒頭にフツーに掲載されているのがいい。よく考えると特殊能力の不要にも思えるが、そこはベンチャーらしい企画力で他サイトを圧倒している。今後はお見合いパーティー企画とかやるんじゃないか?

 ただ下手すると、医者をビジネスの食い物にしようとする業者が集まりかねない。登録する人は注意されたい。

 ブログ登録をしようと思ったが、より詳しい個人情報が必要のようで、やめにした。

 

最近の邦画

2009年2月21日 連載
 <日本映画専門チャンネル>を契約して以来、邦画の鑑賞に恵まれている。最近の邦画は何やら絶賛されている作品が多いようだが、登場人物がありえないくらい<無害>。恰好はそうでなくても、まるでヒッピーを正当化するような描写。ベトナム戦争後に、アメリカの若者が求めたものと共通している気がするんだが。つまり「みんな、争うのはもうやめよう」ということ。

 しかし日本のほうがタチが悪く、それには続きがあって「だから、みんなで消費して税金を納めて文句言わず働こう」という国の思惑に合致しているように思う。

 なお、ゆとり教育脳のまま医療の世界に出るのは危険行為だ(ま、ゆとり病院みたいなとこも無くはないが)。

 そういやうちの病院の若手にも(医者ではないが)ゆとり世代ライクな者が増えてきた。注意してもそのレセプターが見つからず、レスポンスもプアー。観客がいたらウケる場面だとは思うが。ほんと、今どきの邦画のキャラなのに驚く。

 だが、どうやったら近づけるか。そういう意味で、<日本映画専門チャンネル>は非常に役に立つ<反面チャンネル>だ。

http://www.nihon-eiga.com/

 

 
 
 中川氏に限らず、酒好きは医者にも多い。忙しいとこほど、飲み会がないとやっていけない(という意見もある)。飲み会も2次会あたりを過ぎるとヒートアップし、本音が出てくる。3次会までは当たり前のことが多い(うちらだけ?)。

(以下は典型例)

○ 一次会(夕方~21時頃)

 食事+酒。医師数名+ナース軍団+事務軍団。あいさつ回り、注ぎ回り。仕事の潤滑剤となる。一部の人間が派手に酔っぱらい、医師のとこに挑戦状をたたきつける場面も。しかしたいていは、そのときだけの話。

○ 二次会(21事頃~0時頃)

 カラオケ付き飲み屋。医師は据え置き+ナース軍団少数+事務軍団少数。お決まりのスタッフが残る。勝手に外出、退出する者が数名。ここらで医師が夢を語ってテンションが上がり、MRや他院の同僚が呼ばれる。

○ 三次会(0時頃~2時頃)

 ジャズバーなどの玄人向け飲み屋。ときにホステス付。暗い雰囲気で、会話はマンツーマンの多数組み合わせ。来てない(あるいは帰った者)の陰口合戦になり、ためいき混じりの雰囲気に。

○ 四次会(2時頃~4時以降)

 深夜でも空いてるラーメンあるいはうどん屋。引率の医師以外数人は、みなダルいムード。正気に戻り、建設的な話に。残ってるナースらはたいていそのまま休日。

 タクシーで帰宅。チュンチュン、と鳴く声が聞こえる前に寝れるかどうか!




 とにかく、よくかかってくる。ほとんど相手にはしていない。断るが、また別の人間がかけてくる。ジェロ、いやジャロに訴えたい気持ちだ。頻度の順位でいうと・・・

① 銀行
 ノルマに必死な、何の権限もない<末端>が電話。内容はもちろん定期預金と運用。郵便受けの手紙もわざとらしい。いまは企業から期待できない分、(今さら)個人を狙うようになったもよう。自分はバブル期の銀行の態度・雰囲気をよく覚えており、加担すること自体NG(でも預けてるが?)。

② 不動産
 知り合いのマンション探しについていったとき、ついつい書いたアンケート(4年前)をたどって。最近では生き残りをかけており、末端たちにかなりの焦りが見られる。残念ながら、心理が手に取るように分かった時点でボツ。物件を断った時点で即、資産運用の話になるのが常。

③ クレジット会社
 たとえば賃貸の手続上、仕方なく契約している会社。生命保険などをおいしそうに話してくる。日曜日の夕方とか、常に狙ってかけてくる。

④ 親戚
 いや、これは僕に金を貸してほしいのではなく・・・どうやらうちの親に<そのときは無心よろしく>という、いかにも同情しそうな暴露話。

⑤ ドクターバンクなど業者
 開業の相談のときにコンサルに電話したはずが、いろんな会社とからんでいて色んな筋からかかってくる。もちろん何の権限もない末端。持ってくるのはとにかくおいしい話(開業か勤務)。「先生だけにお話しします。」ウソ言うな。

⑥ かつての勤務地の医者
 目的は⑤に似る。話の運び方は、元気?→収入は?家族は?今後の出費は?→医療はこれからこうなるらしい(悲観論)→君の病院もさあいつまで続くか→僕のとこはは違う→今なら空きがある!

⑦ かつての女性医療スタッフ
 唐突にメール。1通目は「元気ですか?」の内容。2通目に「そちらはどうですか?」打診がくる。3通目にあちらの現状(雇い主が悪で、自分が悲劇のヒロインになっている)。こちらからの提案がないとしばらく間があり・・・直球勝負の電話がかかってくる!

(実録)

女「せえんせ~!」
僕「ああ。久しぶりやね!」
女「ごめんね~3年ほど前になるかな。あたし突然辞めてビックリしたでしょ?ちがうのよー!先生には理由、言うつもりやったのよー!ちょっと病気になってね」
僕「そっか・・・(キレて辞めたという)噂は変だと思った」
女「そんなこと、するわけないでしょう?先生に対しては、あたし正直よ!」
僕「メール見たけど。大変みたいやね~」
女「そうそう!今の病院マジ最悪。もうお前ら死ねって感じ」
僕「僕の知ってる範囲では、求人はないな。今のところは。どっか探して面接したら?」
女「つめた~い!先生だけが頼りなのよ~!この迷える子羊をお守りくだされ!」
僕「求人の情報は集めてもいいけど、見つかるまではそこで我慢せんと」
女「じゃ~ん。じつは、やめたのでした~!」
僕「は?」
女「彼ピーがホストでね。あたしが仕事に行ったら、おまえ浮気したなっておこんねん」

 これ以上話すと、連載の<だめんずうぉ~か~>みたいになるので、やめとく。




 
 
 そっか。医師国家試験の時期なのを忘れてた。これをクリアすると、あとは認定医や専門医とかの話になるが、それは各人の任意によるもの。ただこの国ではこれら制度はアイテム的に使われている感があり、能力に応じたものとはいえない(試験の内容・基準自体がいい加減)。

 なお医師国試に合格したあとは転勤のたびに<医師免許証・原本>が必要になるので、大事にするように(コピーでいける場合もあるが)。

 他の人のブログでもあったが、自分も医師になって気付いたことが色々ある。大きく3つ挙げるなら、①絶対に乗り越えられない壁、②女連中との付き合い方、③周囲の過剰な損得感情。

 ではどうぞ!多少、偏見に満ちている。

① 絶対に乗り越えられない壁
 学生の時はやる気があればどんどん知識を吸収して、いろんな医学教室に潜りこめたが、病院の場合ヒラは所詮ヒラ。経営側から見れば大半が末端だ。どんな素晴らしい発想があろうと、経営者でない限り<チェンジ>はできない(<チャージ(充電)>はできたりして?)。

② 女連中との付き合い方
 大雑把にこう表現。ナースらや事務員など、ほとんどが女性(のはず)。学生のときと違って、女組織の中にある小組織、またそれら同士の摩擦、嫉妬、情報戦。それらに組み込まれたら大変なことになる(なった)。彼らの生存本能をかけた観察能力・洞察力・表裏に驚く。アメだけでは増長し、ムチだけでは孤立する。

③ 周囲の過剰な損得勘定
 たとえば人事の決まる前だとか、1つの物事を決める前だとか、その水面下ではいろんな欲望や利権が渦巻く。マージンを取る者、幅を効かす者。人が良くて「私がじゃあしましょうか」的な生き方だと、気がつけば雑用係か外様大名。残り者に福はない。そのためか、学生の時とはうって変わって、がめつい人間が増えていく。

 そう考えると、病院自体が1つの文明社会のような気がする。カースト制度?とまではいかんが。教授のための論文作成がピラミッド造りみたいなもの?









 病院経営の話をいろいろ聞くと、ここでも<一族経営>的な発想に頭を悩ませている現状が多い(トヨタやソニーなど大企業でも問題になっているように)。いま本当に問題を打開しないといけない時期に、それでも守りにこだわり続けるのは日本人の性なのだろう。

 病院経営者はたいてい家族にすでに医療関係者がいるものだが、優秀(単に実績という意味ではない)なのがいるという話はあまり聞かない(少なくとも大阪ではほぼ皆無)。というかその経営者含め、先代の築いたものを食いつぶしている構図が多い。つまり能力的にいま一つなのが組織を引っ張る形になるため、経営に根本的な、現場を考慮した見直しが図られない。

 ではなぜ、経営者はせめて優秀な身内を育てるようで、育てないのか?おそらくそれは・・・日本民族が他民族と比べてひときわ自負している文化→義理人情・思いやり→これがあまりにも増長しすぎて→<過保護>へと化けたためと思う。過保護にされれば、恩恵を受けた側は努力する意義を失う。

 しかも日本は国土が狭く、他人がみな限定的で近いため疑り深い。そのため身内への注ぎっぷりにより拍車がかかる。

 そういうこともあって、日本の経済政策・地域医療は思うように進まないのではないかとつくづく思う。

 オバマが強調した「反面教師」。自分の強調していた言葉でもあり、ちょっとドキッとした。


 


編集

2009年2月9日 連載

 実は自分のしたかった仕事として<編集>が挙げられる。

 病院の仕事でも編集の能力は生かされる。パニックする救急現場。患者の重症度・人数はもちろんだが、職員を手足のように使ってでも現場をまとめる力が必要だ。

 旧態依然としたところでは各部署・各人間がつながりなく仕事しており、複雑な事態に対処できない。これをできる権限はドクターにしかない。現場を<編集>することで無駄を省き、最も効率良い効果をあげる。

 編集の勉強には、映画の予告編が参考になる。長編のものを、いかに切り取ってどうすれば一番効果的か。この考え方は役に立つと思う(マネージメント、という用語が的確か)。

「マスク・オブ・ゾロ」の予告編が秀逸。

 http://www.youtube.com/watch?v=Azfzz2LWuNw

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