立ち読み

2012年5月31日 連載

 今に始まったことではないが、ブックオフなど中古買取店での立ち読みをよく見かける。むかし田舎に住んでいたとき、立ち読みは学生らの日常のひとつであった。直立不動で、静かに読む。

 まんが喫茶でマンガを読もうとしたことはあったが、なぜか落ち着かない。それが目的の場所に行くと、その目的そのものに縛られてしまう。不思議だがなぜか窮屈だ。

 買取店での立ち読みで店員が注意している光景も、あまり見ない。以前田舎で見た光景と同様、みな<礼儀正しく>読んでいるからと思われる。そんなマンガの魅力にも、改めて脱帽する。

 若者が次のことに興味を持って、視野を向けている。決して皮肉ではない言葉のつもりだ。

もう6月

2012年5月31日 連載

 さあ、またボーナスの時期が近付いてきた。経営側からすると、ほんと嫌な時期だ。特に病院は4月の業績が悪いと、2か月後に入ってくる診療報酬で大打撃、支払いの時期にまんまと泣きを見る。

 この前の7:1の話ではないが、ナースは今おそらく史上最強の強気の中にある。なんなら辞めたるで?そんな声が聞こえてきそうだ。

 ナースや事務員のボーナスは、査定によって個人個人<微妙な>差をつけるようになっている。あんまり大きくつけると差別になって逆効果、しかし差がないとこれまた反乱を生む。要は「なんでアイツがあれでアタシはこうやねん」というクレームが出ないように、調整していく。

 大阪は特に、こういう考え方がセコい。
 
 ・・・たしかに、2通り存在する。本当に必要な人々と、それを利用する人々。僕らの手元には、毎月それら受給に関する用紙が届く。その中に労働を許可するかどうかという内容がある。ここが受給の判定にとっての全てと言っていい。

 この欄がもし<軽い労働なら可>となれば、その地域の相談員は即刻本人に職探しを強要、打ち切りにかかろうとする。医師の判断によってはその判定が全く変わることがある。

 本当に保護が必要な人は既に労働が許可できない状態なのだが・・・悪用している人々はときに見透かされひそかに<労働可>と記載されることになる。しかし困ったことに・・・職探しを促されたとたん、彼らは病院をピョンと鮮やかに鞍替えしてしまうのだ。開業医は患者を集客しようとするから妙に利害が一致して、その手の患者が集まってくるわけだ。

 誤解を招きそうな言い方だが、業界用語で<生保病院>と呼ばれている病院がたくさん存在する。信じられないかもしれないが、出口で医師らが<出迎える>ところもある。

 国は自ら生活保護者に直接負担は強いらないはずだ。だって支持を失うから。するとどこかに押し付けるはずだ。やはり病院側と思われる。最近のレセプトチェックでもその片鱗を見る。つまり病院が、生活保護者に手厚い医療を施させないようにする・・・シナリオがあると思われる。本当に必要な人まで巻き添えを食わせる可能性は?・・・いまの国を見ていたら明らかだ。

 それにしても吉本が遠回しにこれだけ叩かれるのは、上場廃止による利権の廃退によるものか?





 ちょっと頭を工夫すれば、相手の出方はわかりやすい。しかしそれに対して受け入れがたい頭があるため、予測できずにいる。これは大変損なことだ。

 今後会社でも病院でも、経営側は切り離して考えるべき存在。以前の経営者はモノづくり的・・つまり趣味と実益を兼ねることができたが、それはあくまで独占市場だった時代の話。いまのグローバルでは油断したら赤の他人業者に先を越されるか奪われる。

 なので経営者はむしろ(従業員を無視した)理性をもたざるを得ず、従業員もそれをいつまでも愚痴ってもしようがない。愚痴り終わったら、平均よりも先の予測だけはしておく。絶対に信用できる仲間集めが不可欠だ。

 病院での今後の存在を考えるなら、自分の資格とその立ち位置(ポスト)、評判を冷静客観的に見れるかどうか・・・。「ああ、なるほど。だから自分はこういう境遇・コストなのか」と。

 それに納得できたら、「どうやったら上にコントロールされず自分の意見が優先的に通せて、そこで長生きできるか」と考える。医師の場合ここは特に勘違いをするのが多く、ついついオールマイティを主張してしまう。

 全能の主張は経営者にとっては感動でもなんでもなく、「あ、じゃあこれは全部させて、あの医者を切ろう」とかそんな発想に行く。<あの医者>は切られ、あるいは楽になり引き受けた<全能>がさらにすべてを背負う。いつかミスが起きたり変な患者に当たる。

 なので自己主張ではなく、前にも主張したように<面倒なところにあえて入る>。皆が嫌がる日の当直であったり、土曜日の外来・居残りなど。例外がない限りコンスタントにこなす。やがてそれはやがて経営側にとって替えがありえない地位となる。そんな人間の意見は無視されない。

 懐に入る相手というのは、必ずしも敵ではないと思われる。






施設基準

2012年5月27日 連載
 一般病棟の入院患者数:看護師数=7:1を目指すべく、あちこちの市中病院が悪戦苦闘中。診療報酬の改定で恩恵を受けるのは産婦人科・小児科くらいで、あとは不利。むしろそれ以外、特に内科長期患者の行き場がなくなってきている。これに伴い経営側が悩んでいるのは、つまり本音は

・ どんなのでもいいからナース数を確保したい
・ そのため今後ナースの意見は最優先で取り入れざるを得ない
・ それに伴うドクター対ナースの対立が不安
・ 病棟ナースへの厚遇に重点を置く一方で、その分外来はパートで安くすます
・ これまで置いてきた長期患者をどうするかが最大の悩み
・ 一番いいのはドクターが勝手に入院入れて、1か月程度で治療してあとは外来治療か往診に素早く切り替えてくれること
・ 提携施設もそこは理解してもらってなるべくそこで「適宜もたせる」こと
・ 短期の入院がこれまで以上に必要(平均在院日数を減らす)、このため内視鏡検査入院(特にCF)を増加
・ ナースの確保は最初は業者に頼るが、そのうち外していく構え(手数料の関係)

 基準を満たした後は、人件費との戦いになる。長期患者に関しては提携施設へ一時的にふってまた戻す、などと工夫もあるが提携が乏しい病院は今後厳しくなるものと思われる。

 ただし、現時点ではすでに<できるナース>はすでに大型病院が独占しており(というか自ら向かってそこで勝ち残った)、中小病院はおこぼれ待ちという現状が続いている。



痛み止め

2012年5月22日 連載

 ここ20年近く思うのだが、(関節痛・神経痛などの)痛み止めの優れたものがなかなか登場しない。外来で処方するとして、いまだロキソニン系統を超えるものがない。ぶつぶつ。リリカで食欲落とす人が山ほどいる。これには正直、やられた。ぶつぶつ。

 まあしかし、相当の痛みは座薬で何とか落ち着く。座薬といえば小児でも解熱剤として処方しているが、最近は母親が座薬をよくいやがる。めんどうで、しかも実際に入れることができない、という幼稚なもの。ある小児科医が言っていた。今は・・・「子供が、子供を産む」。

呼ばれない医者

2012年5月14日 連載

 どんな病院で勤務しても夜間・休日に呼ばれないはずがない。いや、そんなところもないわけではないが・・・。

 そこそこ忙しい病院に勤めてきたが、それでも1回も呼ばれてない医者もいた。ナースに聞くと、「不機嫌だから」という理由だ。だがこれは理由にならないようで、理由になりうる。こういう答えが返ってくるらしい。

「すべて当直の先生に、指示を仰いでよ!」
「患者診てないから、よくわからん」
「あなたの報告が、よくわからん」
「何が言いたいわけ?」
「で、僕にどうしろと?」
「きみ、だれ?」

 せっかくと報告したつもりのナースらは傷つき、その防衛本能から同じ行動を避けに出る。もしこれが男性社会なら、堂々と次の日あたり「分かり合いたいんです!」とお近づくはずだ。

 リーダー格には、こういった相談が毎日のようにくる。これをそのまま当事者の医者にダイレクトにぶつけるわけにはいかない。彼らも言い分を用意するだろう。その後の関係にもヒビく。ナースの報告も脚色もあり、総師長らの手助けも借りる。

 ナースは女性主体、医師は男性主体。女性医師が増えたとはいえ、大部分が第一線から早期に引退するのが現実だ。リーダーシップ取ってる者も少ない(内科・外科系・救急)。実際は、男女の性格的な駆け引きが行われている、ようなところがあって興味深い。言い方が多少エロく聞こえたのなら、すまんせん。





ジャンプと青春

2012年5月14日 連載

http://bookstore.yahoo.co.jp/promo/special/201205_01.html

 いや、自分が読みたい・手に取りたいのは当時の<週刊少年ジャンプ>そのものなのだ。

 田舎に住んでた頃はちょっと離れた都会に赴けば、1日早い発売日に買うことができた。これで一躍<1日ヒーロー>が可能だった。

 ジャンプは田舎でも必需品で、お好み焼き店・散髪屋ではなぜか<月刊>が中心に置いてあった。

 予備校生活でもジャンプ生活は続いた。寮の予備校生らで回し読み。生活が不規則で縛りがなく、夜中に入荷したジャンプを持って歩く、上機嫌な予備校生。

「えーっ、もうジャンプ出たんやあ?」

 大学になると人気はやや低迷。自分の世界もマンガ→ビデオ、合コン、走り屋(自称)、アルバイト・・・へと変わっていく。続き物のワクワク感が遠ざかる。

 久しぶりに、当直用に1冊買ってみようか・・・。

僕の形相

2012年5月13日 連載

 病院の職員トイレ。

「ふうふう。間に合った。ふうふう。もう何が起こってもよし」

 職員トイレの大は、通常なかなか空いてない。喫煙したり携帯目的とかもいるため。

「っしゃ。ズボンを・・・ここにかける、と。このハンガー、グッジョブ!」

 そういやと、ノブに手を伸ばし鍵を回そうと・・・

 そのとき、彼方から高速度でバン!タタン!キー!

「おわっ?一瞬芸!」

 はるかに強い勢いで、ドアが引っ張られ晒し者に。

「とたっ!」どうしようもなく、下向きかがむ。反射でドア閉。

 はて・・・?

 どんな形相だったかも、覚えてない。

 これは、なかったことにできるのか・・・?

 いやいやいやいや。

ワイフの形相

2012年5月13日 連載
 実は興味ないドラマを、一緒に見る。しかしワイフの顔は輝きテンションが高い。ときどき、感情移入しているのがわかる。ドラマの人格が、そのアイドルの人格にまで高められる。

「うわ?うそ?おわりぃ?」

 で、こっちを見る。

「どうする~?」

 し、知らん・・・。お、もうすぐ自分の<番>だ。ディスクを持ってきてセット。トレイに入れる。やがて自然と再生に切り替わったが・・・。

「ちょっと!まだよこくがあるから!」

 あの子供らの形相が浮かんだ一瞬だった。

子供の形相

2012年5月13日 連載
 小児を診察する機会が増えているが、最近驚くことが絶えない。待合室から診察室に入ってくるとき、なんとDSを操作しながら入ってくる子が時々いるのだ。というより、親がそれを良しとしているのだ。

 カチカチカチ・・・うつむいたまま。母親に促すが、彼女の催促も物理的でない。ゲーム中毒にはそれでは足りない。

 無理やりゲーム機を取り外すようにつかむと、倍の力で引っ張られた。

「せーぶするから!まって!」

 待つこと数十秒。パタンとたたむと、一瞬でグダッと病人の顔。さっきの形相からは予測できない。

 この<セーブ作業>は、種の保存的な本能を満たすものなのか・・・?


スーパー研修医

2012年5月12日 連載

 草なぎのドラマはまだまだ甘い。しかしよくできている。患者側の視点を意識するのはテレビの宿命。

 いまは研修医が完全に労基に守られている印象だが、それにもかまわず頑張っている修行僧がいることは確かだ。自ら過酷な研修先を選び(有名病院でなくもっと特殊なところ)、そこでの生活を人生とする者たちだ。

 彼らの生活はこうだ。朝5時起床。または寝ない。6時に患者が起きる前にカンファレンス。6時に回診、採血など。他の医師のカルテチェックおい!7時に先輩医師出勤(はや!)、にわかカンファというより質問攻め。夕方はカンファがいくつも続き、夜間は・・・夜間は、ライバルがどこまで居残るかの睨めっこ。ついには力尽き、床で寝る。帰っていたと思っていたライバルが実は救急診療つきっきりでウツ状態。

 そう思えば!自分の早出起きなんてへっちゃらのはずな・の・に・・・!
(また寝る)

 いままさに、そのような事故や事件が多発している。雰囲気悪くするが、やはりどうしても病院でもどうかと考えてしまう。

 実は真面目に診療していても、トラブルには必ず巻き込まれることになる。いや言い方が悪かったが、たとえば1つの訴訟相当の事例があったとすると、その症例に関わったすべてのスタッフに聴取が入る。聴取された側にはなんの落ち度もなくとも、何とも言えない巻き込まれたような気分になる。

 しかし、日常の診療は続く。まさかそんな悩み、家庭に持ち込めない。そうすると、日ごろしたためる文書や態度、時間の管理などふつうにやっておけば、実は特殊な技能がなくとも、内心どっしり構えることができる。過去や未来への<よぎり>もない。

 トラブルの中、この「ふつうにやっとけば・・・」という言葉が陰で呟かれる。この言葉の重みがわかるだろうか。

惜しい欠点

2012年5月12日 連載

 それは、自分にもあるとは思う。この惜しい欠点というのを自分が定義するなら、まさにその欠点のために継続することができないものをいう。

 たとえば、怒りっぽかったり執拗だったり。病院では忙しい人ほど多数の症例に出くわし、やがて想像もしない対処不可能な事例にぶちあたる。それも孤立無援で。そんなとき冷静さを出すはずが、よりによってそこで踏み外す。ちょっと気を抜いた、油断した、たまたま思い出せなかった。

 受験勉強でも経験があるはずだ。なにかこう調子に乗ったつもりになって、その1つを見逃した。

 その欠点を嘆いているのではない。むしろその欠点が混じっていることに、スタッフ各人が気付いているかどうかだ。まるで解かれることのない、いや実は解けない方程式のようだ。いや、Xというよりi(虚数)のようなものか。なので、それは解かなくても(表現しなくとも)いいと思う。欠点を言葉にすると、たいてい当たってない。



 http://www.nhk.or.jp/special/detail/2012/0429/

 いろんな解釈が可能だが、病名というよりも現代病の1つだ。今は「暇でボーっとしている」人は少ないと思う。ネットがあればとりあえず何かに没入できるし、ゲームでも何でもとにかく何かに逃げることができる。

 しかも、そのコンテンツがすべて優しい。なので居心地がよく、仕事面とのギャップが著しい。なので日常→仕事への不快感は大きく、仕事→日常への解放感の格差が大きくなる。

 日常が思うようになるのに仕事でストレスがたまると、単にそれが嫌になる。ただただ時間が重くなり、過ぎ去るのを待てばいいことになる。そうなると、本来の仕事と遊びの立場が入れ替わる。つまり遊びの合間に、仕事があるわけだ。

 しかしどんな概念を作ろうと、仕事がつまらないのでは治療の話どころではない。仕事はどんなにつまらなくても、年々(以前よりは)やりやすいようになるはずだ。最初は地獄だと構えれば、それ以上はあっても以下はないはず。

 たとえば新入りができてきて、教えるやりがいなど何か見つけられるのではないか。ひょっとして、やりがいを感じる前に何かを諦めているのではないか・・・?

 みんなが逃げ込むネットやゲームの世界の中に、そんな向き合うカウンセリング的なコミュニティがあればいいと思う。悪口の言い合いでは、決してなくて。






過酷勤務の中

2012年5月2日 連載

 居眠り運転が議論されている。長時間労働が明らかに影響しているものと思われる。

 病院では長時間労働はザラだが、ヘルプを要請すれば経営側は休養を考えてくれる、はずだが。無理な労働の強要のために労働者が労基へ駆け込むことを、経営者は何より恐れている。

 しかし働く医師が欲に溺れて自ら無理なシフトを組めば、そのうち思わぬ形で責められることになる。ふつう医師は常勤先があって、1週間の過半数をそこで働く。給与は決まっており、場合によっては仕事の出来不出来がそれほど反映されない(よほどは別)。

 それでも週に2日くらい暇ができるから、せめて1日は非常勤として別病院に勤める。これも固定で1回あたりの給与は決まっている。あとが余暇となることが多いのだが、それでもと空き時間を当直、非常勤と振り分けている者もいる。

 そうやって全て埋めてしまう場合、どこかが<休憩時間>にあてられる。楽な病院を選び、そこでついでに休憩しようという発想だ。もちろんそんな保証はないわけで、多忙を極めたまま常勤先での業務へと突入することもある。

 そんなとき、睡魔やケアレスミスの罠がある。常勤先のほうが時間が豊富で(忙しくとも)単調になりがちなので、つい気を取られることがある。そもそも常勤先はいい意味で緊張感が乏しい。そこがマイナスに作用するわけだ。

 自分はいったいどこで人間らしさを取り戻しているか。そういうゆったりした時間を、週1回は確実に持ちたい。常勤先へのベクトルというか、反動を保つため。













GWの風景

2012年4月29日 連載
 GW前は退院が多く、それに入ってからは入院が増える。しかし検査技師は呼び出し制になる病院が多く、祭日中は病院の機能が平常通りとはいかない。と思っていたほうがいい。

 当直医師もオールマイティではなく、Gwだと毎日違う当直医なのが常だ。主治医が決まらないまま治療を続けざるを得ない。

 こういった背景があるのがGWだが、病棟には決まって<見たこともない家族>が現れて、主治医はどないやねんという問い合わせが来る。

 ところがその主治医がたまたま医局に忘れ物を取りに来ていて、バッタリ捕まってしまったりする。ついでに詰所の難題も一気に解決。

 草なぎ君なら、こう言うんだろう。

「患者さんらに休みはないんですから、僕らも休まないのが当然です」。

 じゃ、スタッフの人員も増やしてくれ。





 今回は、大学院生が収集され研究成果を発表。

 夜9時。コの字型の長机。お誕生席の教授はまだ。

「教授今日いた?」「車なかったな」「うそ?てことは?」「カンファ来週?」「来週祭日」「っしゃ!2週間あったら・・」

 なんのこともなく、普通に教授が登場。

『さ!レディゴ!』

 シーンとなり、1人ずつ発表。上級医より。したがって、後になるほどプレッシャー。

「この前のシアトルの学会のそうです。サーキュレーションの」
『ああ、あれね?これがそう?ふふ』
「いえぁ」

 この時点でほとんどのメンバーが理解できず、別次元を感じる。

「次。いいですか。ビトロ(試験管)で有意差・・でました。バラつきが多少」
『うん。まあいんじゃないの?』
「次はじゃあ、ビボ(生体)でやってよろしいですか?」

 首を縦に振られ、自分だけ喜ぶ医師。

「ビトロで繰り返しましたが・・・」
別の医師、グラフは滅茶苦茶。

『これはなんだ?』

「あはははは」上級医師らのみ笑い。
『このグラフはあれだね。ヒューストンのほら』
「ジョンソンですね。あれは参りましたね!」
 
 と、これまた上級医師と別次元会話。

『よし!君を日本のミスタージョンソンと名づけよう!』
「あっはははは!」と上級医師ら。

 顔面紅潮し、次のいよいよ下級生へ。

「4つの群に分けてみました!」
『うん君さ。いきなりそう言ってもだよ。どの医師もみなアンノウンだよ。ignorant of。無知とか、無学という意味もあるのね。そこ、窓閉めて』

 みな、下級生を見下ろす。

「ビトロでは!」
『タイガース勝った?うっそぉ?ほほほ、ええ?』
「ビトロでは!」
『うんもうビトロは分かったからさ。これでもうビトロ何度目よ?』

「えっ?まだ1回目です」
『こうしてるうちにタイムはフライしてるのね。で、結論は?ホワッツザポイント?』

「けっきょく、有意差は、みられませんでした」
『結局ってあなた言うけどね。差がなくってもそれはあくまで実験結果であってね。トラッシュデータじゃないのね』
「はい!」
『その実験のためにさ。高い薬剤を東大の先生から頂いてきたんだよね。それを結局ってさ。マルチブルに検討してさ。そしたらどっかで有意差でるかもしれないじゃない?単にグラフの比較じゃさ』

 みな、首を縦に振る。しかし教授は不機嫌。

『もうちょっと、みな頑張らんとな。自分の実験ばかりせずに!わが医局はあくまでオールエイジ、オールマイティ!今度のカンファは・・・』

 カレンダー。来週は祭日。

『祭日か・・・学会はたしかチャイナで・・・ん?チェン氏は・・・んん?』

 みな、注目。

『あ、それは来月か。じゃ、次のカンファは祭日の23時からみっちり!オーケイ!』

 上級生、あきらめ顔で起立。

 真夏の暑い夜。





つづき

2012年4月21日 連載

○ 既婚者の場合

「先生。ご結婚は・・・」
『結婚・・ですか?ああ、してます』
「おお~!」またそれかよ。

「お子さんは?」
『小さなガキが2人』
「まだお小さいので?」
『8歳と4歳』
「小学校ですね・・・やはり私立?」
『まぁ一応』

「おお~!」

「じゃあ、お子さんもお医者さんに?」と女医。
『・・・・・・』
「いきなりそんな質問かい。先生、固まってしまったやないか!」と別の男性医師。

『どうですかね。昔はねぇ。医者の子は医者目指してましたけど。今はそうでもないですよね』

「ああ・・おおお!はいはいはい!」と一同。

『好きな道、進ませてやったらいいと思うんですよね。無理に私立の高い医学部行かせて、ひねくれた人生歩ませたくないし』

「・・・・・・・」みな、なぜか気まずい。

『そちらの先生は。お子さん、大きいってたしか』と高齢医師へ。
「え。あ。わたし。の、息子は・・医学部です」
『あっ!』
「私立のえー。はい、高い学費の放蕩息子です」
『いやいや!これは!』

「あははははは!あ~・・・」

女医が僕に肘を突く。
「てっ?なんやぁ?」
「ちょっと!なんか面白いことやってよ!」
「俺にふるなっての!」

高齢医師が、淡々と語る。一部は寝かかる。

「・・・でしてね。その松の木が樹齢何年か・・ああ、これこれ」
『へぇ~100年とかですか?曲がってますね?珍しい』
 新人医師、無理に気を遣い見たくもない画像を見せられる。

「町民が無理やり植えた、その価値観で育った・・実に屈折した松の木でございまする」
『あっ!す、すんません・・』

 じわじわと皮肉を言う高齢医師からそらすため、女医が助け舟。
「ねぇ先生先生!その<あっ>ていうの、クセですか?」

『はい?あっ、て言う癖?いいえ。別に。偶発的なものです。気になりますか?』
「あっ」

 オメーも言うてんじゃねえよ!そこ出来上がった僕が立つ。

「あっ?おっ?あ、ジン、ジン、ジンギスカン~。俺たち医局じゃ上下も関係、ねぇ、ねぇ、仁義好かん~」

「おお~ああっはははは!」
『ジンギですね?ああ、な~るほどね~!はいはいはい!』

 あぁなんとかサルベージできた・・・。僕の役はこうして果たせた。




 こういった会話になる。

○ 独身の場合

「先生。独身ですか?」『え・あ、はい。いちおう』
「おお~!ええなぁ~!」と一同。

「彼女は?」『え・ま、いちおう』
「おお~!」とまた一同。

「ここにもいますよ。独身が。最近なったのよな?」「おいおい!」
『は・・はは』
「おい!先生、困っとるやないけ!」

「うんうん。結婚ね・・・まだまだせんほうが、ええよ」
『・・ですかね』
「結婚したら、もう地獄よあとは」
『・・ですかね』
「いやぁ。それはお前だけだろ。この先生は一途や。だよね?」

『は・・はい』

「おおおおお~!みてみい。みな一同、礼やぞ?あ、ハイスクール奇面組知ってる?」

『ハイスクール・・・いや、ちょっと・・・ハイスクール・・・』
「いや、アイフォーンで調べんてええって?はは、おもろい先生やなぁ!」

『お・・お好きですか?』
「え?なにが」

『そのハイスクール・・・』

「ララバイ?」
「おいユウ!知らんやろ若い世代は!」
「百パーセント片思い!(パン)デブハダーレゾーメタメタボンビー!チュルチュルチュルチュルジュジュジュ!」
「やめてよちょっとー!」
「くだらん!やめ!きょうは!今日はおい!聞け!みんな黙るんだ!あ、お前が黙れってか。はい黙ります。えーと今日は。新入医局員の歓迎会です。あなたたちの飲み会では、あーりません!」
「あーりません!」
「ごめん。変な医局やと思わんといてよ?な、思わんといてよ!」

『あ、いや・・・』
「な、でもちょっとは思ったやろ?な?ちょっとは・・・」
『い・・』
「ちょっぽしくらいは?なぁおもったやろ?」

『はい。あ、でも!』

「うわーーーい!」(ちゃぶ台やや返す)

 そう、こうやって敬語から馴れ言葉へと変化させていくのだ。

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